2024.01.17
冬に流行「ノロ感染」意外と知らない"予防の正解"|生ガキに「あたる人」「あたらない人」何が違う?
ノロウイルス感染症はなぜ冬に発生しやすいのでしょうか(写真:buritora/PIXTA)
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冬の食中毒といえば、ノロウイルスだろう。年間の食中毒患者の約半数を占めている。例年11月ごろから増え始め、12月から翌年1月ごろにピークとなる(厚生労働省「ノロウイルスによる食中毒発生状況」より)。能登半島地震では避難所でノロウイルスの感染が相次いで報告されている。
ノロウイルスは感染力が強く、1件の食中毒事故から大規模な流行になることもあるのが特徴だ。なぜ冬に発生するのか、効果的な予防方法はあるのか。食品衛生学を専門とする女子栄養大学短期大学部教授の平井昭彦さんに聞いた。
突然の吐き気や嘔吐が特徴のノロウイルス感染症。下痢や腹痛を伴い、37~38℃の熱が出ることもある。
ノロが冬に流行しやすいワケ
ノロウイルス感染症はなぜ冬に発生しやすいのか。平井さんはこう説明する。
「ノロウイルスは気温が低いほうが長期生存しやすく、乾燥にも強い。このため、冬に感染症が流行しやすいと考えられます。また、生ガキなどノロウイルスに汚染された二枚貝を適切に加熱せずに食べることが食中毒の原因の1つになりますが、生ガキは冬に食べることが多いというのも影響しているのでしょう」
大きな集団感染があれば、冬に限らず流行するが、平均的には冬に多くなる(厚生労働省「ノロウイルスを原因物質とする食中毒発生状況」より)
ノロウイルスに汚染された生ガキを食べることによって感染するのは有名な話だが、平井さんによると、その割合は「2割程度」。実はノロウイルスは、ウイルスに汚染された食べ物で発症する「食中毒」だけでなく、人から人にうつる「感染症」という二面性を持つ。
「最も多いと考えられている原因は、調理従事者からの感染です。ノロウイルスに感染した人が調理したことで、食品がウイルスに汚染され、それを食べることで感染するという経路です。もう1つは、感染者のふん便や嘔吐物を処理する際に触れたり、感染者がトイレを使った後に触ったドアノブや照明スイッチに触れたりして感染するケースです」(平井さん)
頻度は多くないが、感染者の嘔吐物が乾燥して空中を漂ったり、トイレで蓋をせずに流したその飛沫が飛び散ったりしたものを吸い込んで、感染するケースもあるそうだ。
100個程度でも人に感染
「ノロウイルスの感染予防は非常に難しい」と話す平井さん。それは感染力の強さもある。「ノロウイルスは100個程度あれば人に感染しますが、感染している人のふん便1gには100万個程度のノロウイルスがいるという報告があります」。
感染者=発症者ではないということも挙げられる。わかりやすく言うと、ノロウイルスに汚染された食品を食べた場合、(1)感染して発症する人、(2)感染しても発症しない人、(3)感染しない人がいる。
「調理の現場では、嘔吐や腹痛といった症状があったら必ず調理から外れ、症状がなくなってからもウイルスを排出している可能性があるので、1週間程度は調理しないのが原則。ところが、(2)の場合は気づかないで調理をし、感染を広げてしまうということがあるのです」(平井さん)
ただし、人(あるいは人が触ったもの)から人へうつるルートは、手洗いで予防することができる。では、どんな手洗いが有効なのか。
手洗いについては新型コロナ対策で定着したが、コロナとノロの両者には性質上、決定的な違いがある。これを知っていないと、感染予防が十分ではなくなってしまう。
「新型コロナウイルスやインフルエンザウイルスは、ウイルスの表面が『エンベロープ』という脂溶性の膜で覆われています。このため、せっけんやハンドソープなどの界面活性剤で膜を壊せば、ウイルスを無毒化できます」(平井さん)
一方、ノロウイルスはどうか。
「エンベロープで覆われていないため、界面活性剤では無毒化できません。このため、付着したウイルスを水で十分に洗い流すことが重要になります。推奨されているのが“2回洗い”で、せっけんでよく洗い流したら、もう一度繰り返します。ノロウイルスは粒子が非常に細かく、爪の間などにも入り込むので、指先や爪の間までしっかり洗ってください」(平井さん)
せっけんはノロウイルスを無毒化できないが、手の汚れを落とすときにウイルスも一緒に落ちてくれる。なお、コロナの感染対策で普及したアルコール消毒は、ノロウイルスには十分な効果が期待できないという。
アルコールより次亜塩素酸ナトリウム
調理器具や調理台、ドアノブなどに付着したノロウイルスにも、アルコール消毒は効果が期待できない。
「代わりに効果を発揮するのが次亜塩素酸ナトリウム、つまり塩素系の消毒液です。家庭用の塩素系漂白剤には次亜塩素酸ナトリウムが含まれています。漂白剤の表示に従って水で薄めて使用します。金属が腐食するなどの弊害があるので、漂白剤で拭いたあとは、10分ぐらい後に水で拭き取ってください」(平井さん)
感染者のふん便や嘔吐物が付着した床や壁も、次亜塩素酸ナトリウムでしっかり拭き取ることが重要だ。衣類やシーツなどのリネン類は、ビニール袋などに入れて次亜塩素酸ナトリウムに浸したあと、洗い流すとよい。
「そして、もう1つ効果的な消毒法がある」と平井さん。「それは加熱です。ノロウイルスは熱によって無毒化しますので、85~90℃で90秒程度加熱します。食器や調理器具はこの方法で消毒できます」。
カキなどの二枚貝に付着しているノロウイルスも、加熱すれば無毒化できる。要注意なのは、加熱不足や調理器具などへの二次汚染だ。
カキ鍋のように煮込めばいいが、カキフライのような揚げ物の場合、中心部が十分に加熱できていないことがありうる。また、カキを下処理する際に調理従事者の手やまな板などの調理器具にノロウイルスが付着することも考えられる。
カキを加熱調理する際は中心部まで加熱すること、前述した方法でカキに触れた調理器具は消毒し、手はしっかり洗うことが大事だ。約20gのカキを揚げる場合、170℃の油で約3.5分間が目安だという(「加熱調理の科学的情報の解析及び画像の開発報告書」内閣府食品安全委員会)。
生ガキにあたる人とあたらない人の違い
ノロウイルスであたるリスクがあるとわかっていても、食べたくなるのが生ガキ。どのくらいの確率で生ガキにノロウイルスが潜んでいるのか。
「データにばらつきがありますが、480検体のうち35%がノロウイルスを保有していたという報告もあれば、89検体のうち87%が保有していたという報告もあります。いずれにしても、生ガキを食べるときにはノロウイルスのことも頭の片隅において、大事な予定がある前には食べないなどの対策をおすすめします」(平井さん)
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同じ皿の生ガキを食べてもあたる人・あたらない人がいる。この違いはどこからくるのか。平井さんは、「ほかの感染症と同様に免疫系に関わります。同じ人でも体調が悪く免疫力が低下していれば、感染、あるいは発症しやすいと考えられます」と説明する。
一般的に、ノロウイルスの感染から発症までは24~48時間といわれ、1~2日で自然に治ることが多い。しかし、高齢者や乳幼児は症状が長引いたり、重症化したりする危険があるため、平井さんは受診をすすめる。
一方、健康な人は必ずしも受診する必要はないが、急な嘔吐など、ノロウイルスの感染が疑われるような症状があったら、感染を広げないように自分以外の人のために調理をしない、手洗いをしっかりする、触れたものは消毒するなど対策を徹底しよう。
(取材・文/中寺暁子)
女子栄養大学短期大学部 食物栄養学科教授
平井昭彦獣医師
1980年、麻布大学獣医学部卒。東京都衛生局、東京都立衛生研究所(研究開発・技術者)、東京都健康安全研究センター微生物部(研究開発・技術者)、相模女子大学短期大学部食物栄養学科教授、2022年から現職。獣医師、衛生検査技師、博士(学術)。
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提供元:冬に流行「ノロ感染」意外と知らない"予防の正解"|東洋経済オンライン