2023.12.28
半端ないかゆみ!忍び寄る「トコジラミの恐怖」|インバウンドだけ目の敵にすれば解決する?
トコジラミの被害が拡大している?(写真:hellohello/PIXTA)
トコジラミは、かつて日本でも多く見られたが、殺虫剤の普及によりその数は減少していた。ところが、近年、トコジラミによる被害が拡大している。内科医の私ですら外来でトコジラミに刺された患者(患者さんが虫体を持ってきて確認したので間違いない)に遭遇することがある。
東京都が公表している資料によると、トコジラミに関して保健所などに寄せられる相談件数は平成17〜20年は26〜75件程度であったのに対し、平成21年ころから増加し、令和元年には458件と7倍にも増加した。ねずみ・衛生害虫等相談状況調査結果によると、この10年間ほどは、トコジラミに関する相談件数は年間300〜400件で推移している。日本を訪れる観光客が増加しており、彼らがトコジラミを持ち込む場合もあるだろうが、それ以前にも日本国内に多数存在する害虫であり、インバウンドだけを目の敵にするのは適切ではないだろう。
資料 ※外部サイトに遷移します
ねずみ・衛生害虫等相談状況調査結果 ※外部サイトに遷移します
トコジラミはどこにいる?
トコジラミは、その名前からわかるように、ベッドのマットレスの裏など、日中でも暗い隙間に棲み、卵を産んで増え、集団となって過ごしている。そして、夜など室内が暗くなると這い出てきて、温度や二酸化炭素を感知して、人体や動物に取り付き、 皮膚を刺して吸血する。
マットレスだけでなく、戸棚や畳の裏側など、日中でも暗い隙間に潜んでいるため、そういう場所を探さない限り、目にする事はほとんどない。トコジラミの糞がシーツなどに黒い点状の汚れとして残っている場合があり、その近くを探すと見つかりやすい。
トコジラミは旅行者の服や鞄などにくっついて移動し、旅先のホテルや、ときに家庭にも持ち込まれ、広がってゆく。
東京都の資料によると、東京都では例年6〜10月がトコジラミに関する相談件数が多く、1〜3月の冬期には減少する。トコジラミにとって温暖な気候が好ましいからなのと、夏期なので皮膚の露出が増えることも関係するだろう。
しかし、冬期であってもゼロではないし、温暖な国や地域に海外旅行する場合は話が別だ。そのような地域では通年性でトコジラミが活動しており、油断してはならない。
いつ刺されたのかわからないことも
トコジラミは人が寝ている間に吸血する。皮膚の露出している部分=顔や首、手首や足首周りが刺されやすい。
刺し口の特徴として、蚊に刺されたときのようにポツンと1つの刺し口があるのではなく、いくつもの刺し口が連なるようにして生じる。これは、1匹のトコジラミが1箇所だけでなく、数回刺して吸血するからで、数珠状に刺し口が並ぶのが特徴的だ。また、トコジラミは集団で棲んでいるので、同時に何匹もが吸血すると、一面に多数の刺し口が生じる。
トコジラミは口で皮膚を刺し、血が固まらないようにする働きのある唾液を注入し、吸血する。その唾液に対して遅延型アレルギー反応が起きると、強いかゆみが生じる。皆さん、蚊に刺されたときの皮膚の反応を見たことがあるだろうか?直後にはミミズ腫れのような皮膚の盛り上がりが生じる。これは即時型のアレルギー反応だ。その2〜3日後に刺された部分の腫れ、赤み、かゆみがピークに達し、徐々に治っていく。
この後から起きる強い反応が遅延型アレルギーなのだ。トコジラミでのかゆみもアレルギー反応なので、万人に同様の症状が生じるわけではない。刺されてすぐにかゆみを感じる人もいれば、遅延型アレルギーがもっと遅れて反応を起こすこともある。場合によっては、旅行先で刺されたのに症状を感じるのが帰宅後となることもある。そうなると、一体どこで何に刺されたのか判別は困難だ。
かゆみに対してはかゆみ止めの軟膏がある程度の効果はある。また遅延型アレルギー反応を鎮めるには副腎皮質ステロイド軟膏が有効だ。これはトコジラミに限らず、蚊に刺された場合にも同様だ。症状が強い場合は皮膚科を受診して診断や治療を受けることになる。
皮膚科では、症状の出現時期と、最近の行動歴を問診し、刺し口の分布などを総合的に判断して、トコジラミらしいのか否か、を判断することになる。幸い、トコジラミは吸血によって感染症を媒介することはない。一方、ダニの場合はライム病、日本紅斑熱やダニ媒介脳炎、重症熱性血小板減少症候群などを媒介することがあり、注意が必要だ。
治療はかゆみ止めの軟膏や内服薬、市販されているものより強力な副腎皮質ステロイド軟膏での治療が主となる。かゆみで眠れない、痒くてかき壊してしまうようなケースもある。1〜2週間ほどで刺し口の赤みが次第に褐色に変わり、腫れが引いて治っていく。
虫よけのディートやイカリジンが有効であり、皮膚の露出部に塗って眠ることでトコジラミによる虫刺されを防ぐことができる。私は、ディートはまれに皮膚のかゆみを生じることがあり、子どもにも使いやすいイカリジンを勧めることが多い。スプレータイプよりは、液体を皮膚に塗りつけるタイプのほうが、スプレータイプより皮膚への有効成分の付着が多いことが知られている。日本国内で販売されているイカリジンの最高濃度は15%で、濃度と作用の持続時間が比例するので、一晩しっかり予防したいのであれば、15%の製品を使うといい。
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トコジラミを持ち帰らないために
旅先からトコジラミを持ち帰らないためには、ホテルではカバンや衣服を大きなビニール袋に入れて保管するのがいい。また、ベッド周りに衣服を置いておくと、吸血のために出てきたり戻ったりする際に衣服にトコジラミが付いてしまうので、注意すべきだ。
もし、自宅にトコジラミを持ち帰ってしまったら、部屋の隅々まで探して有効な殺虫剤を噴霧したり、くん煙剤といって、部屋中に殺虫剤の成分を行き渡らせるような薬でトコジラミを殺すしかない。それでも駆除できず、繰り返し刺されるような場合は専門の業者に依頼することになる。とにかく持ち帰らないことが大切だ。
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提供元:半端ないかゆみ!忍び寄る「トコジラミの恐怖」|東洋経済オンライン