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2023.11.22

インフルエンザとコロナ「同時流行」起きるワケ|なぜ夏にもインフルエンザの流行が続いたのか


日本ではインフルエンザの異常な流行が続いている(写真:Graphs/PIXTA)

日本ではインフルエンザの異常な流行が続いている(写真:Graphs/PIXTA)

日本では前年の流行期から途切れることなくインフルエンザの流行が続き、今期は例年より早い時期に流行が拡大し、注意報レベルまで患者数が増えている。

このような異常な流行はなぜ起きたのだろうか? また、コロナの流行は再び起きるのだろうか? 臨床現場から予想し、解説する。

なぜ夏にもインフルエンザの流行が続いたのか

インフルエンザウイルスは、地球上を循環している。北半球、南半球とも日本を含む緯度の高い地帯は冬季に、緯度の低い地帯は通年で流行するパターンが一般的だ。夏の間も流行が続いた今年は、もしかすると温暖化によって日本も熱帯地方と同じ通年性の流行パターンになったのだろうか?

私は、2023年の夏の流行は、コロナで数年間インフルエンザ流行が下火となったことが主因と考えている。2009年の新型インフルエンザは5月頃から感染者の増加が始まり、8月に大規模な流行となった。そして、通常であれば感染者が増加するはずの12月には流行が収束した。つまり、免疫のない人がいれば季節に関係なく流行は起き、ウイルスが広く行き渡れば冬を迎えても流行は収束することがわかる。

2020/2021年、2021/2022年の冬期にインフルエンザは流行しなかった。2022/2023年は流行したが、規模は小さかった。つまり、3年間ほどインフルエンザウイルスに触れていない人がたくさんいた、ということだ。そこにウイルスが戻ってきたため、季節外れの流行が続いたのだ。

一方で、夏の間はコロナの流行が続いていたため、ウイルス同士が干渉し、インフルエンザは大きな流行とはならなかった。コロナがいなければ、夏期の流行は、もっと大規模となった可能性がある。そしてコロナの流行が沈静化した秋以降、インフルエンザが本格的に流行し始めた。

現在、日本国内で流行しているインフルエンザは、A香港型が主だ。例年では、インフルエンザの本格的な流行は12月に始まり2月末に終わるので、その期間は3カ月ほどだ。今の流行は10月に拡大しているので、12月末には収束するはずだ。しかしながら、Aソ連型やB型のウイルスに対する免疫もおしなべて低いので、立て続けに次の流行が起きる可能性がある。

A型のインフルエンザには2つある

インフルエンザウイルスについて復習しておくと、A型のインフルエンザにはAソ連型とA香港型がある。Aソ連型のウイルスはウイルスの表面にある2つのタンパク質のヘマグルチニンが1型で、ノイラミニダーゼも1型であり、H1N1と表記される、2009年に新型インフルエンザとして流行したウイルスが、そのまま季節性インフルエンザウイルスとなって流行を繰り返している。比較的症状は軽いことが特徴だ。

一方、A香港型(H3N2)は症状が強くて重症化しやすい。A型は遺伝子の組み換えによって新たなウイルスが生じることがある。最近は哺乳類での感染例が多数報告され、新型インフルエンザとして人への感染が危惧される高病原性鳥インフルエンザはH5N1だ。もう一つ、B型のインフルエンザは、症状は中等度であり、A型のウイルスと異なり遺伝子の組み換えによる新種の出現はない。

インフルエンザワクチンには、Aソ連型と香港型、B型2系統の成分が含まれている。日本で承認され流通しているワクチンは、すべて同じ内容であり、流行しうるウイルスすべてに効果がある。ワクチン接種後2週間ほどで抗体が作られ、3カ月ほどは高い効果が持続するが、5カ月目にはピークの半分ほどに抗体価が低下する。今年はシーズンが長い可能性があり、2月末に入試など重大なイベントが待ち受けている人は、2回目の接種を考えてもよいだろう。

インフルエンザワクチンは効くのか?

2018年、さまざまな研究報告の結果を総合して解析したところ、健康な成人でのインフルエンザワクチンの発病予防効果は59%程度であり、インフルエンザに罹る人数を人口の2.3%から0.9%に減少させる。65歳以上を対象にした解析では同様に6%から2.4%へと、58%のインフルエンザ予防効果がある。

解析 ※外部サイトに遷移します

65歳以上を対象にした解析 ※外部サイトに遷移します

ウイルスの種類別では、2021年にVaccine誌に報告された研究において、北半球におけるインフルエンザワクチンの効果は、Aソ連型56%、A香港型22%、B型42%と解析されている。

2021年にVaccine誌に報告された研究 ※外部サイトに遷移します

アメリカのCDCでは、過去のインフルエンザシーズン毎のワクチンの有効性を推定して公表しており、流行したウイルスによって効果は異なるが、おおむね40〜50%程度で、特に子どものワクチン有効率は70%程度と高い発症予防効果があることがわかる。

公表 ※外部サイトに遷移します

コロナワクチンが開発されたとき、有効率が95%や93%と高いことに世界が驚いた。そのくらいの効果を期待していると、インフルエンザワクチンを接種する意味はあるのか?と感じるのは無理もない。

新型コロナウイルスの出現と、そのワクチンの効果を検証する状況と、インフルエンザワクチンの効果を検証する状況は大きく異なる。罹ったことがない人を対象に効果を検証するのと、すでに過去に何度もインフルエンザに罹っており、ある程度免疫を有する人を対象にするのとでは、後者はワクチンの有効性が検出されにくいのだ。

また、すでに流行しているウイルスを元にワクチンを作るのと、“流行しそうな”ウイルスを元にしてワクチンを作る点でも、季節性インフルエンザのワクチンは分が悪い。2009年の新型インフルエンザ流行時は、実際に流行しているウイルスを元にインフルエンザワクチンが製造された。その場合のワクチンの有効率は87%であり、ちゃんと作ればちゃんと効くのだ

有効率は87% ※外部サイトに遷移します

では、インフルエンザが流行してからワクチンを作ればいいではないか? その通りだが、現行の日本のインフルエンザワクチン製造には鶏の有精卵を使っているため、生産するスピードに限界がある。また、日本では生産されたインフルエンザワクチンの全ロットを検定しているため、時間がかかる。

海外ではコロナウイルスワクチン同様のmRNA技術(ウイルスのタンパク質をつくるための遺伝情報)を用いたワクチン製造に移行しつつある。それならば迅速にワクチン製造が可能だ。高病原性鳥インフルエンザがヒトに感染するようになり、新型インフルエンザになった際も、迅速にワクチンを製造できるほうがベターだ。日本でも製造方法を検討すべき時期にきている。

「ツインデミック」となる可能性

インフルエンザとコロナの同時流行は起きるのだろうか? 2023年の年初、コロナのピークは1月6日だった。インフルエンザのピークは6週目であり、流行期は重なっていた。ただし、やはりウイルスが干渉するのだろうか、インフルエンザの流行のピークは例年ほど高くなかった。そして、そのことが長びくインフルエンザシーズンの原因となっているのだろう。

コロナの流行は、また冬期に繰り返し、12月から1月にかけてピークを迎えると予想される。インフルエンザは、すでに多くの人が感染しているため、そこまで高いピークにはならないだろうが、流行時期は被り、ツインデミックとなる可能性が高い。

来たるツインデミックでは、さらに懸念事項がある。医療機関を受診しても、薬がもらえないのだ。いまもニュースになっているが、医療機関では咳止めや痰切りといった薬が不足している。あまり報道されていないが、肺炎など気道感染のときによく使う抗生剤も不足しているし、実は小児用のタミフルドライシロップも不足している。

この冬をなるべく安全に過ごすには、今シーズンすでに罹った人もインフルエンザワクチンを接種し、高齢者など重症化リスクの高い人はコロナワクチンを接種し、人混みではマスクをし、家に帰ったら石けんで手洗いして過ごすことに尽きるだろう。

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提供元:インフルエンザとコロナ「同時流行」起きるワケ|東洋経済オンライン

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