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2023.11.09

怒りを抑えられない人に欠けた「大切な考え方」|実は「怒り」は自分を守る感情である


「怒り」は負の感情で、良くないものだと思われがちですが……(写真:cerisier117/PIXTA)

「怒り」は負の感情で、良くないものだと思われがちですが……(写真:cerisier117/PIXTA)

最近よく耳にするようになった「感情コントロール」。どんなときも冷静にふるまえるようになるための有用な技術です。しかし中には、「どれだけ努力しても感情をコントロールできない」と悩む人も少なくありません。心療内科医・鈴木裕介氏は、その理由を紐解くキーワードは「トラウマ」だと語ります。

※本稿は鈴木裕介氏『がんばることをやめられない コントロールできない感情と「トラウマ」の関係』から一部抜粋・再構成したものです。

『がんばることをやめられない コントロールできない感情と「トラウマ」の関係』 クリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします

怒る他者によって翻弄された記憶

最近は「アンガーマネジメント」という言葉も一般的になってきましたが、怒りは、うまく付き合っていくのが最も難しい感情のひとつでしょう。

怒りや嫉妬といったネガティブな感情は、それが生じただけでも苦しく、「感情をコントロールできない自分」に傷ついてしまう感情の代表格だと思います。

そのため、怒りの感情そのものに対して、ネガティブなイメージを持っている人も少なくありません。そして、制御しがたい怒りに苦しんでいる人は、むしろ普段は温厚で怒りを抑圧しているタイプの方が多いと思います。

怒りという感情を抑え込もうとする背景には、親などの他人の怒りに翻弄され深く傷ついてきた経験や、自分の怒りによって大事な関係を壊してしまった経験などがあります。怒りに限らず、激しい感情そのものがこわいため、自分の感情に深く触れないようにしている、という人もいます。

以前の記事では、受け止めきれないほどのつらい感情を持ったとき、生活を維持するために、本来の「私」が意識できない壁の向こうに感情を封じ込めておくと説明しました。

壁の向こうでは、本来の「私」の代わりに感情を引き受ける別の「わたし」が生まれます。こうして、おぞましい感情は「私」ではなく壁の向こうの「わたし」のものとなり、「私」はつらい感情の影響から免れ、守られるのです。

以前の記事 ※外部サイトに遷移します

「怒り」は自分を守る感情である

壁の向こうの「わたし」は、「トラウマ担当のパーツ」、あるいは単に「パート」や「パーツ」と呼ばれたりします。人が自分を守るために、無意識のうちに生み出した生存戦略ですね。

では、今回テーマとなる怒り狂う「わたし」とうまく付き合っていくにはどうしたらいいのでしょうか。

まずは、「すべての感情には役割がある」と気づくことからはじまるのだと僕は思っています。

怒りは、相手が一定の境界線を踏み越えたことに気づかせてくれる本能的な感情です。不快なズレや危険を感じると怒りという感情が生じ、自分を守るための行動をとることができます。怒りは自分を大切にするためにはある種欠かせない感情ともいえるのです。

僕は、怒りの本質は「押し返す力」だと考えています。怒りのエネルギーがなければ、相手の攻撃や支配から、自分や自分の大切な人たちを守ることがとても難しくなるからです。

「ヘルシー・アグレッション(健全な怒り)」という言葉があります。怒りを健全に働かせることで、他者の不当な要求を突っぱねるエネルギーを得ることができるという意味です。まさに自分と他者との境界線を引く上で「怒り」は主原料ともいうべき感情で、自らの存在を守るガードマンのような存在なのです。

怒りを表現できない普段の「私」は、他人から不当な扱いを受けても反撃できません。あまりにやられっぱなしになって、このままでは自分が守れないと思ったときに、無意識的に怒りパーツである「わたし」が出現し、危害を与えてくる他者を反撃することで本来の「私」を守護するのです。

つまり、怒りの感情そのものは決して敵ではありません。普段怒りを封じ込めている「私」の代わりに怒りの感情をすべて引き受けると同時に、他者が一定のラインを越えたら「私」の代わりに猛反撃する防衛機構なのです。

もしかすると、こうした怒りのパーツの働きがなければ、過去のあなたは危害や支配から逃れて生き延びることは難しかったのかもしれません。

怒りも含め、パーツが関わる感情とうまく付き合うための原則があります。

それは、自分の中から生じた感情がいかにネガティブなものであっても、押し込めたり、なかったことにしようとしたりせずに、まずは自分のものとして大事にするということです。怒りのパーツが発動したら、まずはその感情を大切に認めてほしいと思います。

「マネジメント」できない怒りもある

「アンガーマネジメント」という言葉があります。認知トレーニングにより自分の怒りを客観視し、コントロールしようとする技法のことです。

認知や感情調整の能力が日常生活において重要であることに異論はありません。しかし、自分でコントロールできるレベルの感情は比較的軽度のものだと思います。

実際、「『アンガーマネジメント』という言葉自体が嫌い」という方は少なくありません。

コントロールできる範囲の外にある「怒り」に苦しんでいるのに、それが理解されず、周囲から「アンガーマネジメント」の本を勧められるというケースが後を絶たず、ある方はそれを「アンガーマネジメント・ハラスメント」と呼んでいました。

繰り返しますが、アンガーマネジメントをはじめとする認知トレーニングは素晴らしい技術です。

しかし、トラウマ性の怒りが出ているとき、「認知」を司る脳の部位の機能は大きく低下します。感情を抑えきれないことによって、強い罪悪感や恥の感覚に苦しむ人はとても多いのです。

ここで、怒りとの付き合い方についてもう少し触れていきます。

怒りという気持ちは、さみしさや恥、悲しみなどの感情の表現として表れてきます。

数字にしてみましょう。パートナーからのLINEがすぐ返ってこなかったとしましょう。そこで感じたさみしさ・悲しさが「3」だったとします。

その「3」のさみしさが、壁の奥のパーツによって増幅され、「100」となって引き出されてしまうことがあります。

怒りの感情は表明しづらいもの

そして、その増幅された感情が「こんな悲しさ・さみしさを感じさせるなんて許せない」とパートナーを対象とした怒りに変化し、「100」の怒りとして返される、ということがあるのです。

さて、ここで「100」を受け取った相手は、どう感じるでしょうか。

たとえば、誤って足を踏んづけてしまった人に、「すいません」と謝ったにもかかわらず、反撃として棒で殴られたとしたら、こちらに非があったとしても「理不尽」と感じるのではないでしょうか。

「増幅された怒り」をぶつけられるというのは、とても傷つくことでもあります。

寛容な人は、何度かは受け止めてくれるかもしれません。しかし、多く受け取った「97」の分は、相手の心の中に「負債」として残り続けます。それが何度も何度も積み重なっているとしたら、「なんでこんなに怒られなければならないのだろう」と、その負債額は相当なものになっていくでしょう。

でも、あなたが「相手が私を怒らせたのだから、このぐらい怒って当然だ」という認識でいる限り、そのギャップに気づくことができません。ここに、とても大きなコミュニケーションリスクが存在するのです。

リスクを回避するためには、自分が本来感じた「3」の感情と、増幅分の「97」をしっかり切り分ける必要があります。自分の体感としては「100」なのだけど、本来感じるべきなのは「3」くらいかな、という推測ができるようになる、ということです。

そして、増幅分の「97」は、何らかの方法で自力で対処して、「3」の分だけの違和感や不満を伝える、ということができるようになると、その関係性は大きく安定につながります。

これは難しいことだと思います。だって体感的には「100」の怒りを感じているのですから。

それでも、もしその人との関係性を対等で安定したものにしたいとしたら、ぜひとも身につけておいたほうがいい技術だと考えます。

もうひとつ大事な点は、「怒りを伝えること自体が悪いのではない」ということです。

とくに深い傷つきがあり、「迎合・服従」のパーツが働いている人は、怒りの気持ちを表現することに抵抗感を持ちます。

しかし、そうした「相手に寄せる」戦略を持っている人が、「怒り」を見せようとする、というのはある種の信頼が生まれている証でもあります。

受け止める側としても、ズレを教えてくれることは、良好な関係を維持する上でとても有益な情報であり、ありがたいと感じるものなのです(これは、相手があなたを支配しようとしているのではなく、対等で安定した関係を築きたいと思っていた場合に限ります)。

怒りや違和感は、大事なズレを教えてくれる重要な感情

個人的な話になりますが、僕自身も相手との間にある「ズレ」になかなか気づけず、気づかぬうちに相手に不快な思いをさせてしまうことがあります。そして、相手が「怒り」を見せてくれたことで、それまでのコミュニケーションが実はうまくいっていなかったことに気づかされ、ショックを受けることもあります。

しかし、関係性が壊れるリスクを背負ってまで「ズレがある」「うまくいっていない」という正直な気持ちをあらわにしてくれたことに対して、感謝の気持ちを持って受け止めたいとも思っています。

記事画像

『がんばることをやめられない コントロールできない感情と「トラウマ」の関係』(KADOKAWA) クリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします

一方で、表現された怒りがあまりに大きすぎると、そのメッセージを受け止めることができず、ショックを受けてしまう人が多いというのも事実です(僕の個人的な感覚としては、こちらの「3」の過失に対して、「3」の表現で返してくれたら一番いいなと思うけど、「10」くらいまでなら何度かは耐えられるかな。でも、「97」だったらたぶん受け止めきれないだろうな、という感じです)。

相手が大切な人であるほど、その人との間にズレがあることを認めることはつらくなりますし、それを指摘することはとても勇気が必要なことです。それでも、そのズレと向き合って、お互いに丁寧に修正していくことが、関係性を深め、より安心なものへと育てていくために大切なことなのではないかとも思います。

怒りや違和感というのは、そういった大事なズレを教えてくれる重要な感情であり、決して無視されるべきものではありません。

それを関係性の向上に生かすには、本来の「私」の怒りと「わたし」によって増幅されている分を見極めた上で、適切な伝え方をすることが望ましいでしょう。

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【あわせて読みたい】※外部サイトに遷移します

心が強い人は「無感情」を習慣にしている

「メンタルが安定しない人」が言いがちな言葉4つ

あなたが「イライラしやすいかわかる」7つの質問

提供元:怒りを抑えられない人に欠けた「大切な考え方」|東洋経済オンライン

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