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2023.10.26

マイナ保険証、今度は「窓口負担誤表示」多発の実態|信頼失墜し利用率が低下、紙の保険証廃止は無理筋


医療機関の窓口に置かれたマイナ保険証のカードリーダー(撮影:筆者)

医療機関の窓口に置かれたマイナ保険証のカードリーダー(撮影:筆者)

マイナンバーカードを健康保険証として用いた場合に、医療機関の窓口で本来の自己負担割合と異なって表示される事例が相次いで見つかっている。

厚生労働省は2023年9月29日の社会保障審議会医療保険部会で、その数が全国で5695件に上ったと発表した。

同省によれば、「(市町村などによって)正しい事務処理手順が踏まれておらず、システムで防止する仕組みがなかった事象」として4017件、「事務処理手順にかかわらず、システムの仕様の問題により発生する事象」として1678件が報告されたという。

患者や医療機関に大きな不安

これとは別に、医療機関の窓口に設置された、医療事務のためのレセプトコンピュータ(レセコン)の仕様が、国がマイナ保険証と一体で導入を推進する「オンライン資格確認システム」にきちんと対応しておらず、本来と異なった負担割合がレセコン画面上に表示されるといった問題も相次いで見つかっている。

厚労省幹部は「実際に医療機関の窓口で間違った金額の請求があった可能性は否定できない」(安中健・保険局高齢者医療課長)という。一方で、「最終的なレセプト審査では正しい負担割合で処理されている」と説明。そのうえで再発防止策を徹底するとしている。

ただ、窓口での誤表示は、患者との間でトラブルを引き起こしかねない。マイナ保険証に他人の情報を誤ってひも付けた「誤登録」の多発に続く新たな問題の表面化は、患者や医療機関に大きな不安を与えている。

3割負担が正しいのに2割と表示

紙の保険証では3割負担となっているのに、オンラインで資格確認をしたところ2割と表示された。いったいどちらが正しいのか――。

千葉市緑区のドクターケンクリニックでは6月下旬、男性患者(72歳)が差し出した紙の保険証と、オンライン資格確認システムで確認した場合とで負担割合が相違する問題が見つかった。

「区役所の担当課に問い合わせたところ、当初はオンライン資格確認のほうが正しいという説明だったが、折り返しの電話があって、紙の保険証のほうが正しいという訂正の連絡が入った」(ドクターケンクリニックの事務担当者)

「患者さんが帰る前に正しい情報が入ったからよかったものの、こんなことは初めて。危うく間違った金額を患者さんに請求しかねなかった」と、中村健一院長は危機感を強める。

ドクターケンクリニックの中村健一院長(撮影:筆者)

ドクターケンクリニックの中村健一院長(撮影:筆者)

厚労省が、自己負担割合の誤表示が相次いでいることを認識したのは7月。千葉市の市長が誤表示の事例が見つかったことを記者会見で認めたことがきっかけだという。

千葉市の国民健康保険ではこれまでに7件の誤表示の事例が判明。市健康保険課の担当者によれば、「所得などの情報を基に本来、3割で登録すべきところを、誤って2割と入力。その後、間違った情報を消去せずにシステムに残してしまっていたことが原因だった」。

こうした事例が全国で相次いでいる。

レセコンの仕様がオンライン資格確認システムに対応しておらず、正確な負担割合が表示されないといった問題も多発している。

千葉県船橋市の船橋二和病院・ふたわ診療所では、マイナ保険証をカードリーダーでかざした際に、高額療養費制度の「限度額情報を提供しますか?」という画面が現われ、「提供しない」をタッチした場合に、負担割合が正確に表示されないといった問題に直面した。70歳以上74歳の高齢者の場合で、本来は収入に応じて3割と2割に負担割合が分かれるはずが、一律3割になっていた。

この問題は、4月にオンライン資格確認システムを導入してから新たに発生した。医療事務の担当者が問題に気付いてレセコン業者に尋ねたところ、「限度額情報が入力されていないと負担割合は一律同じになる」という回答だった。

9月14日付のシステム更新でオンライン資格確認システムからの負担割合の情報が直接、レセコン端末に入るようになり、現在はこうした問題は解消したという。

しかし、マイナ保険証をめぐる事務負担が軽減されたわけではない。ふたわ診療所の近藤純医事課事務主任によれば、「マイナ保険証のカードリーダーの操作は高齢者にとってわかりにくい。ボタン一つを押すにしても、それが何を意味するのか理解が難しい。今でこそ利用者が少ないものの、来年秋に紙の保険証が廃止され、マイナ保険証に一本化された場合、窓口で混乱が起きかねない」という。

保団連の調査で全国規模での誤表示が判明

窓口負担割合の誤表示の問題については、開業医らで結成される全国保険医団体連合会(保団連)が7月末から8月末にかけて全国調査を実施。39都道府県374市区町村978医療機関で、券面と異なる窓口負担割合が表示された事例が見つかったと報告された。「1つの医療機関で20~30件もの誤表示が見つかったところが散見されるうえ、50件もの誤表示が確認された事例も2件あった」と保団連は報告書で明らかにしている。

厚労省は誤表示の再発防止策として、同様の問題が発生しないように事務処理マニュアルを改訂して正しい事務処理手順を市町村や健康保険組合などの保険者に通知した。また、保険加入者(被保険者)からの相談に対応し、正しい負担割合を本人や医療機関に伝える仕組みを構築するよう市町村などに求めている。

市町村国保などが保有する情報と、「オンライン資格確認」と呼ばれるシステムで表示される情報を突き合わせ、正しく表示されているかどうかを市町村国保などの保険者がチェックする仕組みも、2024年夏までに導入する。

レセコン表示の問題については、レセコンメーカーへ対応状況に関して回答を求め、すでに対応していると回答したメーカー名と機種をホームページ上で掲載している。

もっとも、これらの対策で十分とは言いがたい。厚労省が確認を求めたのは、健康保険を運営する保険者およびレセコンメーカーで、確認内容も、オンライン資格確認システムの中間サーバーにおける誤表示の修正の件数やレセコンメーカーへの対応策の実施状況などに限られている。一人一人の患者(被保険者)について、正しい請求が行われているかの確認までは求めていない。

そのことをとらえ、保団連の本並省吾事務局次長は「問題は氷山の一角ではないか」と推察し、「全被保険者を対象とした調査を行うべきだ」と指摘する。

患者や医療機関の間では、2024年秋に予定されている保険証の廃止への不安感が高まっている。そのことを物語るのが、厚労省が9月29日の医療保険部会で示したマイナカードの利用状況の不振だ。

トラブル多発を契機に、マイナ保険証の利用は減少に転じた(出所:厚生労働省)

トラブル多発を契機に、マイナ保険証の利用は減少に転じた(出所:厚生労働省)

マイナンバーカードは2023年10月15日時点で9648万枚が配付され、普及率は約76%に達している。その一方で、マイナ保険証の利用件数は5月の853万件をピークに、6、7、8月と月を追うごとに減少している。8月のマイナ保険証の利用率は全体の4.6%にとどまっている。

保険証廃止方針の見直しなど実情踏まえた対応を

その理由について、武見敬三厚労相は9月29日の会見で、「情報のひも付け誤りを受けた国民の不安や、医療現場においてトラブルが指摘されていること」などを挙げている。

だが、厚労省は2024年秋に予定される保険証の廃止方針は撤回せずに維持している。武見氏は「私自身が先頭に立って、国民の皆様が医療現場でマイナ保険証を1度、実際に使っていただけるような取り組みを積極的に進めてまいりたい」と述べている。

こうした厚労省の方針に対して、多くの医療機関が保険証の廃止に危機感を抱いている。前出の保団連のアンケート結果によれば、回答した医療機関7070のうち、「保険証を残す必要がある」と答えた医療機関は6205、全回答数の87%に上った。

「今でこそ、ほとんどの患者さんは紙の保険証を持参している。マイナ保険証でトラブルがあった場合でも、紙の保険証で正確な情報を確認できる。2024年の秋以降、紙の保険証が廃止されてしまうとそれができなくなる。紙の保険証はぜひとも残してほしい」(ふたわ診療所の近藤氏)

厚労省は患者や医療機関の実情を踏まえ、拙速な保険証廃止は避けるべきだ。

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提供元:マイナ保険証、今度は「窓口負担誤表示」多発の実態|東洋経済オンライン

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