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2023.10.18

心臓病の最終段階、じわじわ襲う「心不全」の怖さ|心筋梗塞や狭心症は「治療すれば安心」ではない


命の要、心臓の機能が落ちる「心不全」から身を守る方法とは?(写真:C-geo/PIXTA)

命の要、心臓の機能が落ちる「心不全」から身を守る方法とは?(写真:C-geo/PIXTA)

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日本人の死因の第1位はがん。次いで多いのが心疾患(心臓に起こる病気の総称)だ。2022年の人口動態統計によると、高血圧を除いた心疾患の死亡者数は23万2879人(前年21万4710人)となった。そのうち約4割が心不全で、10万人に迫っている。

将来推計で、わが国は2043年に高齢者人口がピークに達し(国立社会保障・人口問題研究所の推計で3953万人)、それに伴う各種疾患の増加が予想される。その1つが心不全だ。

心不全患者の爆発的広がりが懸念

新型コロナウイルスは感染症のパンデミック(世界的流行)といわれたが、それになぞらえて、高齢者の増加などによる心不全患者の爆発的な広がりは「心不全パンデミック」と呼ばれ、警戒されている。

高齢者の疾患と思われがちな心不全だが、働き世代の30代、40代にも心不全予備軍は潜んでいる。

ただし、この段階では企業や自治体の健康診断などで健康チェックを怠らず、食生活や運動、適切な睡眠といった生活習慣の改善などで予防が可能だ。そして、一見心臓とは関係なさそうな足の健康を維持することも、心不全予防につながるという。

福岡山王病院(福岡市)の病院長で、心臓や血管の病気を治療する循環器内科医の横井宏佳氏に聞いた。

心不全については、日本循環器学会と日本心不全学会が「心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気」と定義している。

心不全は心臓血管病の最終段階

原因はさまざまで、心臓の血管(冠動脈)が詰まったり狭くなったりする心筋梗塞や狭心症、高血圧、心臓の血液が一方向に流れるためにある弁の機能が低下する弁膜症、脈のリズムが一定でなくなる不整脈、心臓の筋肉の機能が低下する心筋症などがきっかけで発症する。

このほか、加齢による心臓の機能低下も要因の1つだ。

(図:メディカル・データ・ビジョン作成)

(図:メディカル・データ・ビジョン作成)

横井氏は、「臨床の現場では間違いなく心不全の患者さんが増えていて、それが心不全パンデミックを想起させている」と指摘する。

その背景にあるのは、皮肉にも心臓病治療の発展にあるという。

心臓をはじめとした循環器医療はこの30年間で急速に進歩し、心血管インターベンション(脚の付け根や腕、手首などの血管から、医療用の細く柔らかいチューブを差し込んで行う治療)も普及。薬の進歩も著しい。そのおかげで、急性期で亡くならずに乗り切った患者は大勢いる。

「ただ、そういう人たちは病気が治ったとしても、心臓の機能は完全には元の状態に戻らない。つまり、こうした心機能が悪い患者さんが出てきていることが、心不全患者の急増につながっている」 (横井氏)

心不全はリスクと進行状態によってステージが分かれている。以下の急性・慢性心不全診療ガイドラインから一部抜粋したグラフは、アメリカ心臓病学会財団(ACCF)とアメリカ心臓協会(AHA)※のステージ分類がベースになっている。
※ACCF/AHA:アメリカ心臓病学会財団/アメリカ心臓協会
(American College of Cardiology Foundation/American Heart Association)

(図:メディカル・データ・ビジョン作成)

(図:メディカル・データ・ビジョン作成)

「肺に水が溜まって息苦しくなり、酸素吸入が必要になると入院治療が必要になる。このようなステージC以上がいわゆる心不全であり、ここまできてしまうと改善するのが難しくなる。本来は、入院になる前のステージB、できればステージAの段階で、治療を開始することが重要」(横井氏)

症状が出てからでは遅い、ということなのだが、一方で、「自覚症状がなくても自分では気が付いていないだけで、すでに症状が出ていることもある」と横井氏。それは心不全が徐々に進行する病気だからだ。

「動いたら体がきついのは歳のせいだとか、最近、運動していないから足がむくんでいるのかもしれないなどと思っていたら、実は心不全の症状だったということはよくあるので、注意してほしい」

さまざまな問題を抱える心不全。その予備軍を見つけられるのが健診の胸部X線写真(レントゲン)だ。

健診の画像検査でわかる予兆

健診で再検査が必要となる異常所見の1つに、心臓のサイズが大きくなる「心拡大」がある。心臓は右心房、右心室、左心房、左心室の4つの部屋に分かれているが、そのいずれかが大きくなり、画像に心臓のシルエットが大きく映ると心拡大が疑われる。

心拡大となるのは、心機能が低下すると、それを補おうとして心臓の内腔が大きくなるからだ。心臓は全身に血液を環流させる役割を担っているので、心不全となり心臓から血液を送り出しにくくなると、心臓は拡大していく。

横井氏は「胸部X線写真から得られる情報は、心臓の大きさだけで、4つある部屋のどこが大きくなっているかまではわからない。そこで、超音波検査で心臓の状態を見て、4つの部屋のどこが拡大しているかを突き止める。それで原因となる病気が推論されれば、そこからさらに検査を行っていくことになる」と解説する。

では、心不全予備軍の人、あるいは心不全予備軍にならないためにはどうしたらいいか。横井氏がまず心がけてほしいこととして挙げるのが、「血圧コントロール」だ。

血圧が高く、ふつうよりも強い力で押し出さないと全身に血液がめぐらない状態が続くと、心筋が徐々に肥大してくる。その状態が「心肥大」だ(前述した心拡大は心臓が大きくなることで、心筋が大きくなることは心肥大という)。

筋肉が大きくなるのは骨格筋では望ましいことだが、心筋の場合は肥大することで変性し、心臓を収縮させる力が落ちる。その結果、心不全への道を歩むことになる。

年を重ねるにつれ血圧は高くなるので、働く世代からの血圧管理が大事だ。少なくとも健診などで血圧が高い(高め)と指摘されていれば、塩分の制限や、運動や食事による適正体重の維持、適切な睡眠、ストレスマネジメントなどが必要になる。

高血圧に比べると頻度はかなり低いが、心筋炎も心不全の原因になる。心筋炎とはウイルスが心筋に感染して心筋細胞に炎症が起こり、心機能が失われる病気だ。

心筋炎を起こすウイルスは多様で、約3年間の新型コロナウイルス禍では、コロナ感染した後に心不全となって亡くなったケースが見られた。心筋炎にならないためには、日頃から風邪などを引かないよう、帰宅したら手洗いやうがいをするなどの標準的な感染対策を怠らないようにしたい。

そして日本はいま、“心不全を含めた循環器疾患に対する法整備”を進めている。

2018年12月、健康寿命の延伸等を図るための脳卒中、心臓病その他の循環器病に係る対策に関する基本法、いわゆる「脳卒中・循環器病対策基本法」が成立し、翌年12月に施行された。

同法に基づき、循環器病対策推進基本計画(2023年度から2028年度までの6年間が目安)が進行中だ。健康寿命を延ばすことを目標に、疾患啓発や重症化予防のほか、救急搬送体制の構築などといった施策が進められている。

健康寿命とは、健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間をいう。平均寿命と健康寿命の差が大きいと、不健康な状態が長期にわたることになる。そのため、この差を縮小することが喫緊の課題だ。

平均寿命と健康寿命の差は、2010年から2019年までに縮小してはいるものの、依然として男性で8.73年、女性で12.06年ある。つまり、人生のうちに「不健康な期間」が残っているとも言える。

(図:メディカル・データ・ビジョン作成)

(図:メディカル・データ・ビジョン作成)

この健康寿命を延ばすために欠かせないのが足の健康で、心不全とも密接に関わっていると、横井氏。「健康寿命とは結局、人生で最後まで自分の足で歩けること。その点からも、下肢閉塞性動脈硬化症への適切な対応が重要」という。

下肢閉塞性動脈硬化症とは、足の血管が動脈硬化により狭くなったり、詰まったりする病気だ。それによりしびれなどが出て短い距離しか歩けなくなる。

心臓の冠動脈に動脈硬化がある患者の4人に1人に心臓以外の血管にも動脈硬化があり、下肢閉塞性動脈硬化症を放置すると心筋梗塞などの原因になる。結果的に心不全のリスクが高まる。

糖尿病、高血圧、腎不全などの基礎疾患があると、下肢閉塞性動脈硬化症になる可能性は、より高くなるといわれている。

心不全リスクがあったら行いたい対策

生涯にわたって健康に動き続け、平均寿命と健康寿命の差を小さくするためには、足の健康を維持することが不可欠だ。

循環器内科医の横井宏佳氏(写真:Doctorbook提供)

循環器内科医の横井宏佳氏(写真:Doctorbook提供)

バランスのよい食事や適度な運動を心がけ、動脈硬化に対しては早期発見・治療をすると共に、全身の血管を同時にマネジメントしていくことが重要となる。

心不全に関しては、最近は心臓リハビリテーション(心リハ)を採り入れる医療機関も増えていて、医療スタッフの監視の下でストレッチ体操や筋力トレーニング、歩行練習などが推奨されている。

これらを踏まえて横井氏はこう話す。

「心筋梗塞になって心機能が一時的に落ち込んでも、そこから心リハなどで適切な運動をして、適切な食事を続け、質の高い睡眠をとるなどの生活習慣を変えれば、酸素を取り込む量を増やすことができ、健康で長生きできる。心臓は再生しなくても最後まであきらめずに、人生は再生できると信じてほしい」

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提供元:心臓病の最終段階、じわじわ襲う「心不全」の怖さ|東洋経済オンライン

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