2023.09.14
1日たった3回だけ呼吸に集中することの効果|騒がしい内部騒音に対処するシンプルな方法
呼吸に集中することにより、心が過去や未来へとさまようことなく現在にとどまるようになり、くどくどと考えることをやめることができます(写真:buritora/PIXTA)
私たち現代人は、かつてないほど騒音の影響を受けている。ここで言う「騒音」とは街中に響く音だけではない。日々接している大量の情報という騒音や、ネガティブな考えが頭から離れない「頭の中の独り言」という騒音もまた、増加し続けている。
これほど多くの刺激が人々の注意を消費している今、私たちはどうすれば心の平穏や明確な思考を維持できるのだろうか? これら危険な3つの騒音から逃れる方法はあるのだろうか?
今回、日本語版が9月に刊行された『静寂の技法』より、一部抜粋、編集のうえ、お届けする。
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呼気と吸気の間の時間
「自分の静寂をどこで見つけるのでしょう? それは、間(ま)で見つかります――呼吸の中に」と、イスラム神秘主義の導師シャブダ・カーンは言った。
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彼の属するスピリチュアルな系譜によれば、呼吸は人が自分の内部の状態について知る必要のあることのいっさいを教えてくれるという。
「呼吸の神秘主義的な特性を調べれば、人の心を搔き乱す感情――それをそう呼びたければ、ですが――はすべて呼吸のリズムを乱すことがわかります」
彼はさらに説明してくれた。「寂しいときには、呼気に囚われ、腹を立てているときには、吸気に囚われる、といった具合に」
「間(ま)――呼吸の中」について語るとき、導師シャブダは呼気と吸気の間の時間のことを言っている。一方からもう一方への「スイング」のことだ。
「混雑した空港だろうと、その他、混雑したどんな場所だろうと、私はどこにいても、そんなときにさえも、呼吸を通して意識の中に入り、静寂への道を見つけることができます」と言い、「リズミカルな呼吸をする習慣を身につければ、それが長期的には、万能薬になります」とつけ加えた。
呼吸の「スイング」の質は、診断であると同時に、治療薬でもあるのだ。
この呼吸の「スイング」は、数秒ごとに起こる。そして、人はどんな瞬間にもその中に深く入り込めれば、拡張的な静寂に出合うことができる。
導師シャブダは、人は呼吸にせめて少しでも注意を払うべきだと考えている。
1日に3回だけ呼吸に集中する
1999年、スティーヴン・デベリーには静寂のための時間がなかった。呼吸について考える時間さえなかった。「とにかく忙し過ぎて。それに、自分はとても重要な人間だから。CEOみたいな人間なので」と言って、自分を思い切り笑い飛ばした。
人類学の教育を受けたスティーヴンは、父親で、エリート運動選手で、テクノロジーの分野への社会的インパクト投資の先駆者だ。
しばらく前、『エボニー』誌と、『ザ・ルート』誌/『ワシントン・ポスト』紙が選んだアメリカの有力なアフリカ系アメリカ人100傑に選ばれている。スティーヴンは、当時も今と同じで、忙しく、仕事に没頭している重要人物だった。
1999年に厳しいスケジュールをこなしているとき、スティーヴンはヨガ・インストラクターもしている重役補佐と仕事をしたことがあった。彼女がやんわりと忠告してくれたときのことを、こう振り返る。
「彼女はこんな調子でした。『いいわ、お偉いさん。こんな応急措置(ハック)がぴったりね。1日を通して、思い出せたときにはいつも、3回呼吸するだけ。どっちみち、息はしているんだから。でも、注意を払うことが肝心』と、そこを強調しました。『3回だけ。それぐらいの時間はあるでしょう? いくら忙しいあなたでも』と」
彼女は、「ハック」や効率に取り憑かれたシリコンヴァレーの言葉で語っていた。だから、スティーヴンは耳を傾けるしかなかった。
彼女の言葉について考えたスティーヴンは、気づいた。「そのとおりだ、どっちみちやっているんだ。それに注意を払うぐらい、できるだろう、と」と彼は語った。
「そして、それで私は変わりました」。彼にはわかっていた。意識の中のこの変化がなかったら、健康を害さずに猛烈な働き方を維持できていなかっただろう。
以後、スティーヴンはその瞬間その瞬間の呼吸に注意を払うことに取り組み続けており、それが内部の静寂への入口として、しだいに効果を増している。
彼は、3回続けて呼吸をし、注意を払えば、それだけでいい、という忠告を守ってきた。会議のときにも、通勤の途中でも実行する。私たちに話している間にも、そうした。
彼は、日々の生活の慌ただしさのただ中でも、この空間に静寂を見つける。「もう20年以上になるのに、ほとんど同じことをしています」と驚いたように言う。
私たちはスティーヴンの単純な方法がおおいに気に入った。すでにしている呼吸の一部に、ただ今まで以上に注意を払えばいいのだ。
呼気と吸気の動き――と、特に両者の間の空間――をもっと自覚すると、意識の中に静けさが生まれる。何が起こっているかがすんなりわかる。
そして、もし静かな時間を数分見つけられて、もう少しだけ努力してみたくなったら、呼吸にもっと深く入り込み、より深遠な種類の内部の静寂に出合うこともできる。
「アイスマン」の呼吸エクササイズ
風変わりで途方もない人気を誇るオランダのウェルネス(健康維持・増進)の権威ヴィム・ホフ(凍るように冷たい水に何時間も浸かったり、シャツも着ずにエベレストに登ったりするのを好むことから、「アイスマン」という通称でも知られている)は、一種のヨガ風の呼吸エクササイズを普及させた。
そのエクササイズは、深く息を吸い込み、素早く吐き出すことを30回ほど繰り返し、それから肺を空にしたまま、できるだけ長い間休止することを軸としている。
本書の共著者であるジャスティンは、この種の呼吸法の練習――体に目一杯酸素を取り入れ、それから1、2分、すべてを状況に委ねる――をするときには、思いがけないほど豊かな内部の静寂を感じる場所に行き着けることがある。
それはほんの束の間、何であれ――呼吸をすることさえ――しなくてはならないという責任を放棄するようなものだ。喘(あえ)ぐことなく最低でも30秒間、その静かな空間にとどまるためには、ジャスティンはやかましい思考を行うことができない。
心を過去や未来にさまよわせることができない。現在にとどまらざるをえない。そうしないと、脱線してくどくどと考える状態に戻ってしまったことを、横隔膜反射が自動的にフィードバックしてくれる。
静寂を見出すための即時的・直接的な方法
内部の静寂は、このエクササイズをするための前提条件なのだ。静けさのために意識を訓練する、さまざまな強度のヨガの呼吸法の練習は、何十種類もある。
インストラクターの下でプラーナヤーマの伝統的な訓練法を学んでもいいし、「ボックス・ブリージング」や「横隔膜呼吸」のようなエクササイズをただ調べて、体を落ち着かせ、心を静める方法を学んでもいい。そのほとんどが、標準的な職場でのタバコ休憩よりも短い時間しかかからない。
その瞬間その瞬間の呼吸の統合された自覚であろうが、もっと強度の高い呼吸エクササイズの熱心な練習であろうが、人が静寂との最も即時的・直接的ですぐに利用できる出合いを見出せることが多いのは、呼気と吸気を通してだ。
それは、より深い感覚や身体的な自覚、拡張の内的な感覚への単純な道筋となる。私たちはこうした練習を、呼吸という、どのみち常にしていることの延長と考えている。ただ、いつもより深くやるだけだ。
(翻訳:柴田裕之)
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提供元:1日たった3回だけ呼吸に集中することの効果|東洋経済オンライン