2023.08.07
好印象の心理学「魅力的な顔の特徴と撮影時の肝」|「女性らしい、男性らしい顔」がウケるとは限らない
(写真:zak/PIXTA)
転職活動で履歴書に貼る顔写真、婚活やSNSにアップするアピール写真など、自分の顔写真を用意する場面は多々あることでしょう。本稿では、見た人に好印象を与える顔について解説します。
左右対称の顔は性的に魅力
顔の印象は、目で決まるのでしょうか。あるいは、口元、あごのラインで決まるのでしょうか。また、表情はどう影響するのでしょうか。
よく知られる好印象・魅力的な顔の条件は、左右対称性と平均性です。左右対称性というのは、顔の構造が左右対称である顔のことです。平均性というのは、顔の各パーツやサイズ、位置関係が、極端な特徴をしていない平均的な顔のことです。
個々人の顔写真を複数集め、人工的に合成すると、個々人が持つ顔の特徴、しわやしみ、ゆがみが薄くなって消えていき、多くの人が共通して持つ特徴が強調され、左右対称かつ平均的な顔ができます。こうした顔を、私たちは「美しい」と感じるということが多くの実証研究よりわかっています。
なぜこうした顔を「美しい」と感じるのでしょうか。それは、左右対称の顔と平均的な顔は、免疫力・環境変化の適応度・繁殖力の高さのシグナルであり、このシグナルを意識・無意識問わず、感知しているのではないか、と考えられているからです。ですので、単純な好印象というよりも、性的魅力な顔という側面が強いでしょう。
一方で、「凛々しい眉が好き」「切れ目が麗しい」「大きな口がよい」「がっちりしたあごが魅力」など、特徴を持った顔が良いという声も聞こえてきます。自分にとって印象よく感じる、あるいは、好みの顔というものは、究極的には、個人差です。
平均的な顔より個性的な顔が好まれるケース
個人差が起きる原因は色々ありますが、私たちは、自身がよく目にしたり、人間関係においてポジティブな感情を抱いた人の顔を好んだりする傾向にあります。例えば、家族や友人、恋人に似ている顔に好感を抱く場合が多いと思います。
興味深いことに、交際中の方は、交際していない方に比べ、交際相手以外の他者の顔に魅力を感じにくいことがわかっています。さらに、「似たもの夫婦」という言葉を体現しているような現象も確認されています。
夫婦別々に写っている顔写真を一組の夫婦に組み合わせてもらう実験をしたところ、実験参加者たちは、結婚歴10年以下と20年以上の夫婦の組み合わせは適切に組み合わせることができました。一方、結婚歴11年以上から19年以下の夫婦の組み合わせは適切に組み合わせることができなかった、という結果がわかっています。
結婚10年以下の夫婦は、元々似た者同士として魅かれあった夫婦だったのかもしれません。しかし、11年を超えるとすれ違いが生じ、感情は夫婦で共有されるより、差異が目立ち、それが顔に表れる、似ていない顔になる。しかし20年を超えて連れ添うと、さまざまな困難を共に乗り越え、感情を共有し、再びお互いの顔が似てくる。そんな説明ができそうです。
もう少し大まかな差に、性差があります。「男性らしい・女性らしい顔が好き」というものです。「男性らしい顔」は、がっちりとした眉、高い頬骨や鼻、広いあご、暗い肌色等を特徴とします。男性ホルモンの影響を受け、これらの特徴が生じます。女性ホルモンの影響を受ける「女性らしい顔」は、頬や唇の膨らみ、小さなあご、明るい肌色などを特徴とします。
「その性らしい顔」の特徴は、免疫機能が高いことを示すシグナルとなります。ところが、女性は、女性らしい顔ほど男性に魅力的と評価されるのですが、男性は、男性らしい顔ほど女性に魅力的と評価されるとは限らないのです。
なぜでしょうか。ポイントは、子育てです。女性が子どもを産み、男性と共に育てるということを考えるとき、つまり、長期的な視点に立って、男性をみるとき、必ずしも男らしい顔が好まれるわけではなく、中性的な顔が好まれます。
一方、子育てを意識しない短期的な関係を欲している、あるいは、子どもを産むことを意識していても、子どもの生存に高い免疫力が必要な国(感染症のリスクが高い国など)だと、女性は、男性らしい顔を好む傾向にあることがわかっています。
幼い顔は、魅力的なのか?
さて、ここまでは、顔のつくり・形の問題でした。元々の自分の顔を簡単に平均的な顔にすることはできないので、それに近づけようとするならば、化粧や整形手術を施すしかありません。
撮影した画像をよりよく見せたいのであれば、補正技術を使う手がありますが、実際に会ったときの乖離がありすぎるのも困ると考える方もいるでしょう。
そのような場合は、少し左か右を向いて角度をつけると印象が良くなります。真正面の顔は、平べったく見え、あまり印象がよくありません。特に女性らしさやかわいらしさを強調したい場合は、上目使いになるように少しあごを引く。すると、顔の下半分が小さく見えます。さらに化粧などで目を大きくする。すると、幼い特徴を持つ顔の完成(幼形化)です。
角度をつけて上目使いの右側のほうが好印象(写真:空気を読むを科学する研究所)
余談ですが、幼形化というと、私が捜査協力したある詐欺事件の容疑者の顔が強烈に思い出されます。容疑者は、化粧と角度と補正技術を駆使して出会い系サイトのプロフィール写真を作成し、実年齢より30歳もサバを読んでいたのです。捜査資料を読みながら、「さすがに無理があるでしょう」と思っていたのですが、それが通用すると思った容疑者の思考に驚きです。
ここまではテクニックの要素ですが、自然に印象をよくする方法もあります。顔の中で自身の意思で変化させられるもの。それは、表情です。どのような表情が、好印象・魅力的なのでしょうか。
魅力的な笑顔の条件
笑顔は、好印象や暖かな印象を与え親近感や信頼感を醸成します。大切なのは、口角、あるいは、口角と頬を左右対称に引き上げることです。左右非対称だと、軽蔑しているように見える。さらに、実年齢より老けて見えるという研究結果があります。
意図的に笑顔を作るとき、練習しないと、どうしても口だけの笑みとなり、目に冷たい印象を残してしまいます。私たち日本人は、アメリカ人に比べ、表情をみるとき、目に意識が向かいます。笑顔を意味する日本の絵文字は「^_^」ですが、アメリカでは「:-)」です。悲しみの場合、日本では「>_<」、アメリカでは「:-(」です。
実際、目は笑っているものの、口は泣いている合成写真を、日本人は笑顔と判断する傾向にあることがわかっています。ですので、口角とともに頬も引き上げられるように練習しましょう。頬を引き上げれば、目じりにしわが寄り、暖かな印象の笑顔になります。
目が笑っていない左側はどこか冷たい印象を与える(写真:空気を読むを科学する研究所)
角度も加味しましょう。顔の右側に比べ、左側のほうが感情が強く表れることから、左の頬を見せるように笑顔で写真撮影に臨むのがよいです。実際、Instagramユーザーの写真を対象にした調査において、調査対象の写真の41%が左頬、31%が右頬、19%が正面を向け撮影され、8%が特定の傾向なし、ということがわかっています。意識・無意識問わず、私たちは、左頬を向けるのがよい、と感じているのかもしれません。
ということで、次回、写真撮影をする機会には、笑顔+左頬を意識してみてください。きっと好印象を与えられる写真が撮れると思います。
「笑顔+左頬」がベストショット(写真:空気を読むを科学する研究所)
参考文献
A・トドロフ/中里京子訳(2019)『第一印象の科学:なぜヒトは顔に惑わされてしまうのか?』みすず書房
河野哲也・山口真美・金沢創・渡邊克巳・田中章浩・床呂郁哉・高橋康介編(2021)『顔身体学ハンドブック』東京大学出版会
三浦佳世・河原純一郎編(2019)『美しさと魅力の心理』ミネルヴァ書房
Griffiths, R. W., & Kunz, P. R. (1973). Assortative mating: A study of physiognomic homogamy. Biodemography and Social Biology, 20(4), 448–453. https://doi.org/10.1080/19485565.1973.9988075
Lindell, A. K. (2017). Consistently showing your best side? Intra-individual consistency in #selfie pose orientation. Frontiers in Psychology, 8, Article 246. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2017.00246
Yuki, M., Maddux, W. W., & Masuda, T. (2007). Are the windows to the soul the same in the East and West? Cultural differences in using the eyes and mouth as cues to recognize emotions in Japan and the United States. Journal of Experimental Social Psychology, 43(2), 303–311. https://doi.org/10.1016/j.jesp.2006.02.004
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提供元:好印象の心理学「魅力的な顔の特徴と撮影時の肝」|東洋経済オンライン