2023.07.31
「週末にまとめて作って冷凍庫へ」がNGな納得の訳|節電にも、食品の美味しさ保つ「冷凍保存テク」
筆者の冷凍庫の庫内(写真:西川剛史提供)
物価高が続く昨今、食費の節約や時短調理ができる食品として注目を集める、冷凍食品や冷凍保存テクニック。冷凍食品の商品開発などの経験を生かして「冷凍食品専門家」「冷凍生活アドバイザー」として活動し、『いますぐ食べたい!冷凍食品の本』や『冷凍王子の冷凍大全』などの著書のある“冷凍王子”こと西川剛史さんが、冷凍の奥深さについて語る。
今回のテーマは、冷凍食品をおいしく食べるための基本ともいえる「冷凍庫の温度を保つためのテクニック」。電気代が高騰する中で少しでもお財布に優しく、おいしい冷凍生活を楽しんでもらうための、冷凍庫活用テクをお伝えする。
冷凍食品メーカーやスーパー・コンビニなどが切磋琢磨して商品開発を進め、市場が伸長している冷凍食品業界。しかし、企業の長年の工夫や努力でおいしさがアップし、適切な冷凍温度帯で輸送や保管をされていても、家庭の冷凍庫での保存が上手にできないと、台無しになってしまいます。
冷凍食品の味や品質を保つためには、とにかく「冷凍庫の温度を低く保つ」ことが大切です。
ところが、家庭の冷凍庫ではそれが意外とむずかしい。冷凍庫内の温度上昇が頻繁に起きるため、食品の水分が奪われて乾燥や酸化をするので、味や品質が著しく低下します。
庫内の温度を上げないテク
冷凍食品をおいしく長く保管するためには、冷凍庫の温度をできるだけ低く保つことが重要です。そこで、今回は家庭でできる冷凍庫の温度を保つための4つのテクニックを紹介しましょう。
(1)食材の保冷効果を利用する
1つめは、冷凍庫に凍った食材をたくさん入れて、保冷効果で低い温度を維持することです。
冷凍庫内は扉の開け閉めや、デフロスト機能(霜取り機能のこと。この話は後述します)によって、頻繁に温度上昇が起きています。冷蔵庫はたくさん詰め込みすぎていると冷えが悪くなるといわれますが、冷凍庫は逆。凍った食材が保冷剤の役割を果たし、扉の開け閉めのときに温度上昇を抑えるのです。
筆者の冷凍庫の庫内(写真:西川剛史提供)
とはいっても、ギュウギュウに詰まっていると食材の出し入れがスムーズにできず扉を開けている時間が長くなります。ですから、整理しやすいように冷凍庫の中は、7~8割ほど詰まっているのがベスト。隙間がたくさんあったら、保冷剤や、水を入れて凍らせたペットボトルで庫内を冷やすのがおすすめです。
(2)扉の開け閉めを減らす
2つめは、扉を開けている時間や開け閉めの回数を減らし、温度上昇の原因をなるべく作らないようにすることです。
家庭用冷凍庫内の温度は、基本的に「-18℃以下」とされています(国際基準も同じ)が、冷凍庫は扉を開けている時間が長かったり、1日の開け閉めの回数が多かったりすると、庫内の温度が上がってしまいます。
開ける時間は「10秒以内」に
たとえばある実験では、冷凍庫の扉を15秒開けると温度は-13℃まで上がり、-18℃に戻るまで約2分かかりました。30秒では-10℃まで上がり、戻るのに約5分かかりました。
元の温度に戻る時間が長くなると、食品の劣化が進むうえ、温度を下げるためにエネルギーを消費するので電気代もかさみます。
理想は1回の開ける時間を10秒以内にすること。冷凍庫の中を探していると気づかないうちに10秒はすぐに経ちますが、ストップウォッチで10秒測ると意外と長く感じます。時間を意識してもらうためにも一度試してみるといいかもしれません。
冷凍庫の扉を開けている時間を短縮するためには、なにより冷凍庫の整理整頓が重要です。使いかけの冷凍食品や長い間冷凍保存し続けている食材は、早めに消費する「断捨離(すぐ食べる)」がおすすめ。保冷剤も溜まりがちなので必要な分だけ残して、ほかは冷凍庫の外で保存し、必要なときに凍らせて使うのがいいですね。
「見える化」と「定位置化」
そのほかに大切なのは、一目で中身がわかるように食品の「見える化」をしておくことです。
冷凍庫の扉を開けたまま中身を確認すると時間がかかるので、透明な保存袋や保存容器に入れます。使いかけの冷凍食品はパッケージのまま口をクリップで留め、パッケージごと透明な保存袋に入れて冷凍庫に入れると、賞味期限や調理方法も確認することができます。
整理整頓のために「定位置化」も心がけましょう。食材別や目的別に分類して、収納する場所を決めておくと出し入れがスムーズになります。使いかけやこまごましたものを入れる場所も作っておけば、そこから早めに使おうという意識も湧いてきます。
冷凍庫は長期保存ができるため整理整頓をし忘れがちですが、1カ月に1回ほど整理してきれいな状態を保てば、扉の開け閉めの時間を減らせて食品の品質を保つことにつながります。
(3)室温を涼しく保つ
3つめは室温を涼しく保ち、冷凍庫を開けたときの温度上昇を少しでも抑えることです。
夏場は特に室温が高く、冷凍庫を開けるたびに室内の暖かい空気が庫内に入って急上昇します。ですので、冷凍庫を開け閉めする際は、エアコンが効いているタイミングのほうがいいでしょう。
室温をある程度涼しく保っていることは、食品のためにも理想的。一番やってはダメなのは、冷凍庫をベランダなどの屋外に置くことや、屋内でも熱気が溜まりやすい場所に置くことです。庫内の温度が一気に上がって冷凍食品の劣化が進みます。
(4)冷蔵庫の買い換えも検討を!
日本の家電製品は丈夫なので長く使っている家庭も多いと思いますが、冷蔵庫は10年近く使っていたら、買い替えることをおすすめします。最新の冷蔵庫は、冷凍室の壁の断熱もしっかりしていて、冷凍室の温度を低く保つ技術も進んでいるので、省エネ効果が高くなっています。
電気の使用量ももちろん少なくなり、不必要に電気を使って冷やさなくても温度を保ち、食品の保存状態もよくなります。自治体ごとに異なりますが、通常よりお得に買い替えられる「省エネ家電促進補助金制度」もあるので、制度を確認してみるとよいかもしれません。
買い替えるときは前開きタイプではなく、「引き出し式の冷凍庫」を。冷気は上から下に降りるので、前開きだと冷気が漏れやすく、庫内の温度上昇が起こりやすい。引き出し式なら冷気がとどまりやすいのです。
置き場所に余裕があれば、「セカンド冷凍庫」の購入もアリです。コロナ禍以降、セカンド冷凍庫を持っている人が増えていますが、長期保存用などにセカンド冷凍庫を使うと、庫内の温度を安定化させることもできます。
最近では1つの冷蔵庫に冷凍スペースを2つ備えた機種も登場していますが、理想は「食材を凍らせる冷凍庫の部屋」と、「保存用冷凍庫の部屋」を分けることです。
ホームフリージング(家庭で食材を凍らせること)をした場合、常温やチルドの食品を冷凍庫に入れると、庫内の温度が上がってしまいます。凍らせる用の部屋でいったん凍結させて、凍ったらメインの保存用冷凍庫の部屋に入れるほうが、冷凍の保存環境がよくなります。
週末に料理をまとめて作り置きする家庭もあると思います。ホームフリージングする場合、凍っていない食品を一度に大量に冷凍庫に入れると庫内温度が急上昇するので、おすすめしません。普段の料理の際に多めに作って、ちょこちょこ冷凍していくのが理想です。
また、冒頭で触れたように、冷凍庫には霜を溶かすためのデフロスト機能が付いています。これによって扉を閉めていても、庫内の温度が半日に1回ほど上がり、やはりこれも食品の乾燥や酸化の原因になります。
デフロスト対策をとる冷蔵庫も登場
デフロストはヒーターの熱による暖かい空気が冷凍庫内に流れ込むことで庫内の温度が上昇するもので、これはほとんどの冷凍庫で起きていますが、最近はデフロスト対策をとっている冷蔵庫も出ています。
牛ステーキ肉。おいシールド冷凍4週間(上)と通常冷凍4週間(下)(写真:アクア株式会社・ハイアールアジアR&D株式会社提供)
その1つがAQUA製の冷凍冷蔵庫です。「おいシールド冷凍」という機能で、冷気の出入り口に開閉式のフタが装備され、デフロストのときにフタが閉じることで、庫内への暖かい空気の流入を防いでいるのです。
冷凍庫の一番の目的は冷凍された食品をおいしく長く保管することにあるので、このような庫内温度を低く保つ機能は最も重視すべきと思います。
冷凍食品やホームフリージングが増えてきている現代では、冷凍庫スペースを増やした冷凍冷蔵庫へのニーズは、今後さらに高まってくると思われます。そしてスペースだけではなく「冷凍庫に入れさえすれば、おいしさがキープできる」というイメージから脱却する必要もありそうです。
家庭でできる工夫や心がけによって冷凍庫内の温度がキープできれば、みなさんが思い描くより快適な「冷凍生活」を楽しめるはずです。まずは冷凍庫の整理整頓から始めてみてください。
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提供元:「週末にまとめて作って冷凍庫へ」がNGな納得の訳|東洋経済オンライン