2023.05.17
【喉の痛み・声がれ】注意したい咽頭の病気一覧|ウイルスや細菌感染が多いが、がんの可能性も
喉の痛みや声がれで考えられる病気を紹介します(写真:Graphs/PIXTA)
喉の痛みや声がれの原因は、風邪などの日常的な病気によるものから、新型コロナウイルス感染症によるもの、さらには喉頭がんや咽頭がんなど悪性の病気までさまざまだ。喉の痛みや声がれの背景にある病気や、受診のタイミングについて、藤田医科大学岡崎医療センター耳鼻咽喉科医師の櫻井一生さんに聞いた。
「喉」と一口に言っても実は奥が深く、口を開けて見えるところだけにとどまらない。その構造は少々、複雑だ(イラスト参照)。
喉は、鼻の奥から食道に至るまでの、食べ物や空気の通り道である咽頭(いんとう)と、咽頭と気管をつなぐ喉頭(こうとう)がある。咽頭はさらに上から上咽頭、中咽頭、下咽頭に分けられる。
上咽頭は鼻の奥の突き当たりにあり、目では見えない。その下の中咽頭はのどちんこ(口蓋垂:こうがいすい)を含む、私たちが口を開けたときに見える部分、さらにその下に下咽頭がある。喉頭はそれよりもっと下、のどぼとけの付近にあり、左右一対の声帯を持っている。
喉の構造(イラスト:ふわぷか/PIXTA)
喉の痛みで疑われる病気
櫻井さんによれば、「喉の働きは主に『呼吸する』『食べる』『声を出す』の3つ。喉の病気になると、これらの働きに問題が起こってきます。なお、代表的な喉の病気による症状として、『喉の痛み』と『声がれ』があります」とのこと。
喉の痛みと声がれの背景には、どのような病気が考えられるのだろうか。まずは喉の痛みからみていこう。
「一般的には咽頭に風邪などのウイルスや細菌が感染して起こる『咽頭炎』が多いです。主に中咽頭に炎症が起こるもので、医療機関で診てもらったときに『喉が赤いですね』といわれるケースです。なお、中咽頭にある扁桃(へんとう)に感染症が起こることもよくあります。この場合は『扁桃炎』となり、咽頭炎よりも強い症状となりやすい」と櫻井さん。
扁桃は、鼻や口からウイルスや細菌が侵入することを防ぐリンパ組織。のどちんこの両わき、左右の舌の付け根あたりにあるこぶのようなものだ。扁桃炎になると、つばを飲み込むのがつらいほど激しい痛みが起こる。大人でも38度以上の高熱が出ることが多い。
「扁桃炎は細菌による感染がほとんどであり、抗菌薬がよく効きます。ただし、扁桃の周囲に炎症が広がる『扁桃周囲炎』や『扁桃周囲膿瘍(のうよう)』になると、さらに痛みは激しく、腫れもひどくなって口が開かなくなるなどの症状も出てきます。このような場合は薬だけでは対応が難しく、膿(うみ)がたまった部分を切開しなければならないこともあります」(櫻井さん)
同じ扁桃炎でも、若い人が喉の痛みに加え、首のリンパ節の腫れを伴う場合は、「伝染性単核球症」の可能性がある。ヘルペスウイルスの1つであるEBウイルスが原因で起こるもので、10~20代に多い。
「キスを介して唾液により感染するケースがほとんど。多くは軽い症状で自然に治りますが、一部の患者さんでは肝機能障害を発症することがあります」(櫻井さん)
喉や扁桃は赤くなく、炎症は見られないのに、喉に激しい痛みを感じるような場合は、「急性喉頭蓋(こうとうがい)炎」が疑われる。咽頭の下、肉眼では見えない喉頭蓋という部分に細菌感染が起こり、発症する。
喉頭蓋は喉頭のふたともいわれ、呼吸をしているときには開き、食べ物を飲み込むときには閉じて、食べ物が喉頭や気管へ入らないように防ぐ役割をしている。
思った以上に怖い「喉頭蓋炎」
実はこの喉頭蓋炎は思った以上に怖い病気だ。
「喉頭蓋が腫れると呼吸困難や気道の閉塞が起こり、命の危険がおよぶことがある。医師が見逃してはいけない代表的な病気の1つです」と櫻井さん。治療の基本は抗菌薬だが、気道の閉塞が起こった場合は気管切開や気道挿管をしなければならないことがある。
もう1つ怖い病気といえば、やはりがんだろう。なかでも注意が必要なのは、中咽頭がんだ。
「実をいうと、中咽頭がんでは喉の痛みはそれほどでもないのです。ほかの症状として、患部からの出血や口を開けにくい、舌を動かしにくい、などがあります。頸部リンパ節の腫れで気づく人も多いです」(櫻井さん)
中咽頭がんは従来、アルコールや喫煙を原因とするものが大多数を占めていたが、近年はちょっと違う。子宮頸がんの原因の1つの「HPV(ヒトパピローマウイルス)」の感染によって引き起こされるタイプが世界中で増えているというのだ。一般的な中咽頭がんの好発年齢は50~60代だが、HPVの感染が関係するものは、40代の若い患者も珍しくないという。
ただし、「早期発見できれば治りやすいがん」(櫻井さん)なので、違和感があったら早めに診てもらうことが勧められる。
ところで、新型コロナウイルス感染症でも、喉の痛みを訴える人は多いようだ。何か特徴はあるのだろうか?
櫻井さんに聞くと、「人それぞれで、咽頭痛を訴える人もいれば、喉頭の症状が強い人もいます。症状だけでは診断するのは難しく、PCR検査をしないとコロナかどうかの確定診断がつきません」と言う。症状の重さも、1週間程度でよくなる人から、喉頭の炎症が急速に悪化し、気管切開が必要になるケースまで報告されている。
次に声がれはどうか。
声がれの多くは、声帯のある喉頭にウイルスや細菌などが感染した場合に出やすい。こうした症状は喉頭炎と呼ばれている。
このほか、声がれの起こる原因としてポピュラーなのは、声帯ポリープだろう。声帯の振動に重要な部位にポリープ(良性の腫脹=しゅちょう、炎症に伴う腫れ)ができるため、空気の振動に支障が生じ、声がうまく出せなくなる。
ポリープができないまでも、声を出しすぎて声帯に炎症が起きたり、腫れたりして声がれが起こることもある。「いずれの場合も、カラオケで歌いすぎたり、タバコを吸っていたりすると起こりますし、学校の先生やジムのトレーナーなど、仕事で声を使う人もよく見られます」(櫻井さん)という。
ウイルスや細菌の感染によって起こる声がれは、喉の痛みや発熱も伴うことが多い。ウイルスに対しては炎症を抑える薬、細菌に対しては抗菌薬が処方される。
「耳鼻咽喉科では口からネブライザー(薬液を霧化して、鼻やのど、気管支の粘膜に薬液を直接届ける医療機器)によって、炎症を抑える薬や抗菌薬を吸入する治療があります。患部に直接、薬を届けることができるのがメリットです」(櫻井さん)
一方、声帯ポリープでは声がれ以外に症状はなく、声がれが続くのが特徴だ。声帯を使いすぎて粘膜の出血を繰り返すうちに、ポリープができてくると考えられている。
このため、声帯ポリープがあったらなるべく声を出さないよう、声帯の安静に努めるほか、炎症を抑える薬やステロイド薬の吸入治療を行う。こうした治療でよくならない場合は、ラリンゴマイクロサージェリーと呼ばれる顕微鏡下の手術で、ポリープを切除する。
「声がれ+出血」はがんの疑いも
声がれに加えて、唾液や痰などに血が混ざるときは、喉頭がんや下咽頭がんなどの疑いがある。喉頭がんや下咽頭がんはアルコールや喫煙がリスクとなり、高齢で発症する患者が多い。進行すると手術で声帯を取り除かなければならなくなり、声を失う。おかしいと思ったらできるだけ早く、医療機関で検査を受けたい。
このほか、喉の痛みや声がれは、逆流性食道炎や花粉症を含むアレルギー性の疾患などでも起こる。また、声がまったく出ない場合は、ストレスによる心因性のケースが多い。
詳しい原因を調べるためには、鼻の奥から喉を診る喉頭内視鏡検査や、首の腫れを調べる超音波(エコー)検査が有効だ。どのようなタイミングで医療機関を受診すべきなのか。
櫻井さんは、「風邪のウイルスなどが原因であれば、多くは1~2週間でよくなります。この期間は市販の風邪薬を使ってもいいでしょう。この期間を過ぎてもよくならない場合は、別の病気の可能性が高いので、医療機関にかかってください」と話す。
ここまで喉の痛みと声がれについて見てきたが、まとめるとこうなる。
受診先は耳鼻咽喉科、またはかかりつけ医(内科)がのぞましい。喉頭内視鏡検査や扁桃周囲膿瘍に対する外科的な処置が必要な場合は、かかりつけ医から、耳鼻咽喉科を紹介してもらう方法が勧められる。
(取材・文/狩生聖子)
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藤田医科大学岡崎医療センター耳鼻咽喉科
櫻井一生医師
1979年名古屋保健衛生大学(現・藤田医科大学)医学部卒。同大耳鼻咽喉科入局。藤田学園保健衛生大学(現・藤田医科大学)医学部耳鼻咽喉科講師、助教授、臨床教授、特命教授などを経て2020年4月より、現職。日本耳鼻咽喉科学会耳鼻咽喉科専門医、日本気管食道科学会気管食道科専門医(咽喉系)など。
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提供元:【喉の痛み・声がれ】注意したい咽頭の病気一覧|東洋経済オンライン