2023.04.28
身近な人が「がん告知」避けてほしい余計なお節介|「これ食べて」「大丈夫だよ」「無理しないで」
がん患者が身近な人にしてもらいたいこととは?(写真:metamorworks/PIXTA)
病理医として多くの患者のがんを見てきた経験を生かし、2008年から「がん哲学外来」を無償で開いて、がんにまつわる人生哲学について5000人以上のがん患者やその家族と対話を続けてきた樋野興夫氏は、「がんになってつらいのは精神的な苦痛を味わうことです。病気への不安だけでなく、人間関係の問題が生じることもあります」と言います。現在、がんは2人に1人はかかる病気ですから、非常に身近なものです。もしも、身近な人ががんになったとき、家族はどうすればいいのでしょうか? がん患者と家族の苦悩を言葉の処方箋で包みながら描いた『もしも突然、がんを告知されたとしたら。』を上梓した樋野医師に、家族が気を付けるべきことについて語ってもらった。
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がん患者にしてみれば、ただ苦痛なだけ
がんの人に、ご家族がついやってしまうのが、余計なお節介です。なかでも多いのが、押しつけがましい態度なんですね。もちろん良かれと思ってのことではあるんですが、がん患者にしてみれば、ただ苦痛なだけということもあるんです。
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例えば、がん患者の奥さんが、こんなことを言うことがあります。
「これ食べて。がんに良いんですって」
多分、ネットでがんのことを検索して見つけた健康食品か何かを勧めているんでしょう。がんになった家族のことが心配でいろいろと調べ、自分に何ができるだろうと考えるうち、食事をどうすればいいかと心配になってくるんです。
それで、「あれ食べて」「これ食べて」「これが効くんですって」と、しょっちゅう勧めるわけですね。夫の身体を気遣ってのことなのはわかります。でも、これはNGなんです。
なぜなら、がん患者の心には余裕がないからです。だって、多くの人は初めてがんを告知されたんです。自分はもうすぐ死ぬんじゃないか、そんな不安と恐怖に、人生で恐らく初めて襲われている真っ最中なんですね。
そんなときに、今まで食べたこともない物を「食べろ、食べろ」としつこく言われたら、迷惑だと感じるのも無理ありません。
食事と同様に、つい押し付けてしまうのが「がんに効く」とうたった健康情報です。これもネットで調べて、「これやると良いのよ」とか「あれはやっちゃダメ」とか、いままでの生活を変えさせる健康情報を押し付けようとするんですね。
これも「これ食べて」と同じこと、完全に余計なお節介です。本人の心を無視して苦しめるだけになってしまいます。
元気づけの言葉は、実は逆効果
もう1つ、ご家族がついやってしまうのが、がん患者の気持ちをわかったような態度をとってしまうことです。
例えば、がん患者の表情を見て、気持ちが暗そうだと思い、「がんばろう」とか「大丈夫だよ」と声をかけることがあります。
これは元気づけようということでしょうが、実は逆効果になりやすいんですよ。がんを告知された人にとって、がんに関することのほとんどは未知ですから、
「がんばってって、何をがんばるんだ?」
と思ってしまいます。それに、「これからどうなるんだろう」と不安なときに、根拠もなく「大丈夫」などと無責任に言われても、かえっていやな気分になるだけなんです。
また、よく「痛いの?」とか「苦しいのね?」とか、がんの人の身体的な苦痛をいたわろうとする言葉を言いがちなんですが、これも逆効果になりやすい。
「何がわかるというんだ」
と反発されてしまうことが多いんです。とくに初期のがんの場合、身体的な痛みや苦しみはほとんどないことが多いからです。
がん患者にとって最もつらいのは、孤独
押しつけがましい態度の言葉や、気持ちをわかったつもりの言葉がNGなのは、それが余計なお節介だからなんですが、その意味で、極めつきに余計なのが、がん患者をことさらに病人扱いする言葉です。
「がんは病気なんだから、病人なのは当たり前でしょう?」
と思われるかもしれませんが、実際は、そう単純に決めつけられないんですよ。
例えば、先ほど触れたように、初期のがんの場合だと痛くも苦しくもないことが珍しくはなく、ごく普通の日常生活が送れます。そんな人がつらそうな顔をしているからといって、「無理しないで」「私がやってあげる」などと病人扱いすると、本人は「そんな必要ないのに」と思って困惑するだけなんです。
また、がんがもう少し進んでいると身体的な苦痛が伴うこともありますが、そんな場合でも、鎮痛剤が処方されて身体的な苦痛はさほどでもないことがあるんです。
確かに、もっと進行したがんや抗がん治療中の場合などでは苦痛がひどいこともあります。しかし、表情を暗くしている本当の理由は身体的な苦痛とは限りません。がん患者がつらそうな顔をしている主な原因は精神的な不安や恐怖であることも多いんですね。そんな人に「どこか痛いのね」などと言えば、
「ああ、自分の心は誰にもわかってもらえないんだ」
と孤独感が強くなるばかりなんですよ。
多くのがん患者にとって最もつらいのは、この孤独なんです。一人ぼっちで命の終わりへと向かっている、そのことが何よりもつらいんですね。孤独だという思いに押しつぶされてしまうと、そのうち心を閉ざし、自分の内にこもってしまいます。
私は、そうなってしまった人こそが、本当の病人だと思うんです。
単にがんになったというだけでは、心まで病んではいません。そんな人はまだ病人ではない。がんの恐怖から孤独感に押しつぶされ、心を病んでしまった人こそ、病人と呼ばれるべきなんですね。
そばにいてあげるだけでいい
たとえがんという病気になっても、心まで病んではいけない。
そうならないように手助けすることが、がんになった人の家族や身近な人のすべきことなんです。
では、余計なお節介にならないように、何をしてあげればいいのか。
それは、簡単なこと、ただ、そばにいてあげるだけでいいんです。
何か言うのでも、するのでもなく、近くにずっといる。
それだけでやがて本人に伝わります。
「あなたは一人じゃないですよ。あなたのことが気になって仕方のない人間が、少なくとも、ここに一人いますよ」
ということが、わかってもらえるんです。
別に頼まれてもいないのにそばにいるんですから、これはやはりお節介です。けれど、決して、余計なお節介ではありません。その人にとって本当に切実な、大切なお節介です。
これを私は、半分冗談を込めて、こう呼んでいます。
「偉大なお節介」
身近な人ががんになったら、どうか、この言葉を思い出してください。
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提供元:身近な人が「がん告知」避けてほしい余計なお節介|東洋経済オンライン