2023.04.14
感染が原因「胃・肝臓・子宮頸部」のがん徹底予防法|がんとなる手前の段階で食い止めることも可能
人間はなぜがんになるのでしょうか。
がんになる原因には、遺伝や悪しき生活習慣が挙げられます。血のつながった家族が罹患したがんなら、自分自身も発症リスクが上がることが多いですし、喫煙や飲酒などの生活習慣も、さまざまながんの発症リスクを上げます。
しかし、実はがんの原因に「感染症」の割合が非常に多いことは意外に知られていません。なんと、がんになった4人に1人は感染症が原因とされています。
登録者数48万人超の人気YouTube「予防医学ch」を運営する現役医師でもある森勇磨氏。このたび『怖いけど面白い予防医学』を上梓した同氏がみなさんに知っておいてほしい「感染症とがん予防」を本記事でお伝えします。
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「感染症」という言葉を聞くと、みなさんはなんとなく風邪や胃腸炎、はたまた新型コロナのように「急にかかって、短期間で治っていく」タイプのものが頭に浮かびやすいのではないでしょうか。
しかし、がんを引き起こす感染症はそれらとは違い、自身の存在を人間に明確な症状では伝えず、ひっそりと体内の臓器に対して悪さをしていく類のものです。
(イラスト:『怖いけど面白い予防医学』より)
胃がんの原因になるピロリ菌
「がんの原因は感染症」と聞くと非常に恐ろしく聞こえますが、裏を返せばしっかりと対策を取れば、がんを未然に防ぐことができます。つまり、正しい知識を身に着けておくことがわが身を助けることになるのです。
では、一体どのようにすれば諸悪の根源となるウイルスを見つけ出すことができるのでしょうか? 一緒に見ていきましょう。
まず、代表的なものが「ピロリ菌」です。
ピロリ菌は、衛生環境の悪い水を飲んだことなどによって感染します。体内に入れてしまったピロリ菌は、なんとも厄介なことに、食道を通過し胃にたどり着いたあと、強力な胃酸を中和してしまいます。こうして胃酸を無力化することで、そのまま胃の中で快適に生活を始めてしまうのです。
衛生環境が改善された現在は、若者のピロリ菌の罹患率は昔にくらべて格段に低下しましたが、こと明治・大正・昭和当時は衛生環境が十分なものではなく、井戸水や汚染された水からピロリ菌を体内に取り込んでしまうことが珍しくありませんでした。
ピロリ菌は気まぐれに胃の壁に病原性を持ったタンパク質を注入します。そして、このタンパク質がきっかけとなって胃炎を起こし、胃がんを生じさせます。
しかし、ピロリ菌は負の側面ばかりの絶対悪のような存在ではありません。ピロリ菌を除菌することで逆流性食道炎になりやすくなったり、アトピー性皮膚炎が増悪したりするケースもあるからです。もしかすると、彼らは胃という住処を与えられたことへの、恩返しのつもりなのかもしれません。
とはいえ、「胃がんのリスクを上昇させる」というデメリットのほうがメリットにくらべて大きすぎるため、基本的にピロリ菌が存在していたら除菌をおすすめします。
実際、エビデンスとして除菌の有効性が確立されているわけではないものの、たとえばアメリカの退役軍人37万人を対象にした研究では、ピロリ菌除菌によって胃がんのリスク低下が示されています。
なにより、胃がんのリスクを上げるとされている菌が住み着いていると知ったら、自分の胃の中で飼いならしていこうという気分にはならないでしょう。
ピロリ菌の存在の有無は、血液検査や尿検査などで確認することができます。検査で存在が確認された場合は、抗生物質を内服して治療を開始します。
(イラスト:『怖いけど面白い予防医学』より)
余談ですが、うにやいくらなどの魚卵をはじめとした食品には食塩が多く含まれています。塩分の摂りすぎは胃がんのリスクを上げるという、約4万人の日本人を対象にした研究もあります。食塩の摂りすぎにも注意しましょう。
性行為でうつるウイルス
性行為を通じて感染するHPV(ヒトパピローマウイルス)や肝炎ウイルスも、がんを引き起こす代表的な感染症です。
性行為は人間の粘膜と粘膜を接触させる行為であり、当然、感染リスクは非常に高くなります。「性感染症」と分類される病気には梅毒、クラミジア、淋病などがありますが、がんに関して注意が必要なのは、HPVと肝炎ウイルスです。
(イラスト:『怖いけど面白い予防医学』より)
HPVは性行為によって生殖器に住み着き、子宮頸がんの原因となることで有名なウイルスです。HPVに感染し、20代で転移の進んだ状態の子宮頸がんが見つかる場合もあり、婦人科の現場では非常につらい光景を目の当たりにするという、産婦人科医の話も多く聞きます。
HPV感染予防として最も有効なのが「HPVワクチン」ですが、こちらは副反応による接種差し控えなどもありましたので、10代のときに接種をしていない方も多いと思います。
しかし、現在は科学的な検証を経て、厚生労働省はHPVの積極的勧奨を再開していますし、データでは45歳までは効果があるとされています。自分自身の性的接触の度合いに応じて接種を検討しましょう。
ちなみにHPVは陰茎に感染したり、オーラルセックスによって咽頭に感染したりすることもあるため、海外には男性への接種が推奨されているところもあります。男性のHPVワクチン接種も、ぜひ検討してほしいと思います(現在は男性も接種の対象となっています)。
また子宮頸がんの早期発見には、「子宮頸がん検診」の定期的な受診がおすすめです。
具体的には、子宮頸部の組織をとって、悪い細胞がいないか確認する「子宮頸部細胞診」と呼ばれる検診を3年おきに受けることになります。少し検診と検診の間を空けたい場合は「子宮頸部細胞診」にプラスして、子宮頸がんのリスクとなるHPVを検出する「HPV検診」も一緒に受けるとよいでしょう。
知らないうちに肝臓に入り込む
「肝炎ウイルス」もHPVと同様に性行為によって感染するウイルスです。こちらは肝臓に入り込み、本人に気づかれないよう症状も出さず、肝臓で炎症を起こします。
肝臓で炎症が起きた跡地はまるでかさぶたや焼け跡のようで、こうした炎症が繰り返されるうちに、肝臓としての機能を失っていきます。やがてがんが発生する土壌が形成され、肝硬変と呼ばれる状態になってしまうことがあります。
肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれるだけあって、なかなか症状が出にくく、肝炎ウイルスは10年、20年かけて静かに、肝臓でボヤ騒ぎを起こし続ける非常にタチの悪いものといえます。
肝炎ウイルスの対策として、不特定多数との性的接触を避けることは重要ですが、とはいえ、いつ・誰が感染してもおかしくないウイルスです。100%自分は安心といえる対策はありません。
だからこそ、早期発見の対策として「肝炎ウイルス検診」が推奨されています。この検診は、肝炎ウイルスに感染しているかどうかを見る血液検査で、ほぼ「肝臓がん検診」といってよいでしょう。
(イラスト:『怖いけど面白い予防医学』より)
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肝炎の治療も現在は進歩していて、たとえばC型肝炎であれば飲み薬だけで完結する場合もあります。肝炎ウイルス検診は自治体の補助などで、40歳以降なら無料で受けられる場合もありますので、ぜひ40歳を超えたら受けてほしいです。
多くの場合、がんは遺伝、運動習慣、生活習慣などの原因が複雑に絡み合っており、1対1対応で捉えることは難しいです。
しかし、今回紹介した感染症、そして感染症によって引き起こされるがんに関しては、非常に明瞭で、検査ではっきりと姿形を確認することができます。
防げるがんは防いでほしい――。だからこそ感染症に関わるがんはしっかりと検査をして、がんとなる手前の段階で食い止めてほしい、と心から思います。
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提供元:感染が原因「胃・肝臓・子宮頸部」のがん徹底予防法|東洋経済オンライン