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2023.03.14

「大小便で満杯に」災害時トイレ問題をどうするか|被災者が安心して使える「快適トイレ」の普及を


東日本大震災から12年。改めて災害時のトイレ問題について考えます(写真:NPO法人日本トイレ研究所提供)

東日本大震災から12年。改めて災害時のトイレ問題について考えます(写真:NPO法人日本トイレ研究所提供)

広範囲にわたって甚大な被害をもたらした東日本大震災から12年が経ちます。この災害から私たちはたくさんのことを学びました。なかでもトイレは、声に出しにくくデリケートなテーマであるため、これまで見過ごされていた問題でした。

発災から数カ月経った頃、私はトイレの調査で仮設診療所の駐車場にいました。そこに車いすの高齢の女性が付き添いの方と一緒に来られました。

目の前にあるのは段差のある仮設トイレです。土足で利用しているので、地面も床面も汚れています。すると、その女性は車いすから下りて、四つん這いになって段差を上がっていったのです。

おそらく女性や付き添いの方はこのことを誰にも言っておらず、またこのようなことを目にした人はほとんどいなかったのではないでしょうか。結局、問題は無かったことになっていました。こうしたトイレ問題がたくさん起きていたことは想像にかたくありません。

私たちは被災された方々が、安心してトイレを使えているだろうか、困りごとはないだろうか、という視点を持つ必要があります。今回は、災害時のトイレ事情や一人ひとりができるトイレの備えについて紹介します。

3時間以内に約4割がトイレへ

最近は地震だけでなく、大雨や大雪、暴風、寒波などによる自然災害が頻発しています。災害時にもっとも優先すべきことは、命を守ることです。その場で身を守り、安全な場所に素早く避難することが求められます。

では、その次に必要になるものは何でしょうか? 被災者も支援者も頭に思い浮かべるのは、おそらく「水と食料の確保」だと思います。生きていくためには水や食料が欠かせないので、それを確保することはとても重要です。

ですが、過去の災害における調査結果を調べてみると、発災直後は別のニーズが生じていることがわかります。下図は、熊本地震、東日本大震災、阪神・淡路大震災において、発災から何時間後にトイレに行きたくなったか、という調査結果です。

発災後、何時間でトイレに行きたくなったか (調査:阪神淡路大震災・尼崎トイレ探検隊/東日本大震災・日本トイレ研究所/熊本地震・岡山朋子大正大学人間学部人間環境学科)

発災後、何時間でトイレに行きたくなったか (調査:阪神淡路大震災・尼崎トイレ探検隊/東日本大震災・日本トイレ研究所/熊本地震・岡山朋子大正大学人間学部人間環境学科)

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熊本地震を見てみると、発災から3時間以内にトイレに行きたくなった人の割合は38.5%で、6時間以内まで含めると72.9%になります。発災後、3時間以内というのは、ほとんどの人が水や食事を摂っていないと思います。大混乱状態で、そこまで手が回らない状況だと考えられます。

しかし、このような混乱状態だったとしても、約4割の人がトイレに行くのです。

大きく揺れているときは極度の緊張状態で、必死に命を守る行動をとると思うのですが、極度の緊張状態というのは長くは続けられません。命の安全が確保できれば、ほんの少しほっと息をつくはずです。そのとき便意や尿意が起きる可能性があります。

体調を崩し、下痢や嘔吐する人もいると思います。水や食料はある程度我慢できますが、排泄は我慢できるものではありません。

災害時でも排泄は、待ったなし

このように大災害時であっても、排泄は待ったなしです。

ここで私たちが毎日使用している水洗トイレの仕組みについて考えてみたいと思います。

水洗トイレを使用するためには、給水設備と排水設備、電気設備、さらには汚水が流れていく先の下水処理場や浄化槽が適切に機能していることが求められます。もちろん、プライバシーを守れる環境も必要です。便器だけがあってもダメですし、屋外に穴を掘ればよいというものでもありません。

大災害で停電になると、浄水場が機能しなくなる可能性がありますし、仮に水を送ることができても、オフィスビルや集合住宅などの高層建築物はポンプで水を上層階に運ぶため、それができなくなって断水します。

また、給排水の配管が損傷することも考えられます。浄水場や給排水設備に問題がなかったとしても、汚水を処理する施設が被災すれば水洗トイレは使用できません。東日本大震災では津波により沿岸部の下水処理場が被災しましたし、西日本豪雨では河川の近くにあった、し尿処理場が浸水しました。

これらからおわかりいただけると思いますが、水洗トイレはさまざまな要素が機能してこそ成り立つシステムですので、災害には強くありません。

水洗トイレが使えないときの対応策として、外部から仮設トイレなどを調達することが選択肢の1つとして挙げられます。これは重要な対応策ですが、仮設トイレの運搬に関わる道路事情に大きく左右されることを忘れてはいけません。災害時は、建物倒壊、火災発生、地盤沈下、液状化などで、道路がスムーズに通れるとは思えません。

大切なのはその場に備えることです。前述のとおり、3時間以内に約4割の人がトイレに行くことになりますので、水や食料よりも先にトイレを対応することが必要になります。

しかし、これまでの災害では残念ながらトイレの備えができておらず、トイレが大小便で満杯になり、著しく汚染されたトイレパニックとなりました。

震災時のトイレの状態(写真:NPO法人日本トイレ研究所、右下は株式会社総合サービス提供)

震災時のトイレの状態(写真:NPO法人日本トイレ研究所、右下は株式会社総合サービス提供)

水洗トイレが使えなくなり、トイレが不便になったり不衛生になったりすることで、3つの深刻な問題が生じます。

1つめは、不衛生になることで集団感染のリスクが高まります。トイレはすべての人が使用し、取っ手や鍵、便座、ペーパーホルダーなど、同じところに触れるため、不衛生なトイレは接触感染による感染症が起こりやすくなります。

2つめは、トイレがくさい、汚い、暗い、怖いなどの状態になると、できるだけトイレに行かなくて済むように水分摂取を控えてしまいます。ストレスがかかった状態で、水分を摂らずじっとしているというのは、脱水症だけでなくエコノミークラス症候群のリスクを高めます。

水分を摂るためには、安心して使用できるトイレが必要ということを忘れてはいけません。

3つめは、心理的負担による精神不和です。トイレの清潔が保てなくなると、避難所での集団生活がうまくいかなくなるということをよく聞きます。トイレが汚いとイライラしますし、どうでもいいやという気持ちになるのだと思います。このような状態ではルールを守れず秩序が乱れてしまいます。

以上、3つの問題を回避するためにも、トイレ対策を徹底することが必要になります。トイレ対策は命に関わることなのです。

トイレの初動対応は携帯トイレ

トイレ対応は時間経過に応じて行うことが必要です。下図は時間経過とともに複数の災害用トイレを組み合わせて対応することで、切れ目なくトイレニーズに応えることを示したものです。

切れ目のないトイレ環境の確保(出典:「マンホールトイレ整備・運用のためのガイドライン」国土交通省水管理・国土保全局下水道部)

切れ目のないトイレ環境の確保(出典:「マンホールトイレ整備・運用のためのガイドライン」国土交通省水管理・国土保全局下水道部)

携帯トイレと簡易トイレは主に屋内で使用するもので、マンホールトイレと仮設トイレは屋外で使用するものです。屋外のトイレは、整備状況や備蓄内容などによって異なります。

これらの災害用トイレをうまく活用するには、施設ごとに防災トイレ計画を作成することが必要になります。日本トイレ研究所では、この計画を作成する人材育成の場として、毎年5月と12月に災害時トイレ衛生管理講習会を開催しています。

トイレの初動対応は、避難所、オフィス、商業施設、病院、庁舎、そして自宅のいずれにおいても同じです。繰り返しになりますが、トイレが必要になるタイミングは、私たちが思っている以上に早いです。命を守ることが最優先ですが、その次にトイレといっても過言ではないと思います。トイレの対応をしたうえで、安否確認や物資のことなどの手配をすればよいと考えます。

トイレの初動対応として有効なのが、携帯トイレです。携帯トイレは袋式のトイレで、ビニールなどの袋を便器に取りつけ、その中に入っている吸収シートや凝固剤で大小便を固めます。市町村の確認が必要になりますが、おおむね可燃ごみ扱いになります。

ごみの回収もすぐには実施できないので、一定期間はベランダや庭等で保管することが求められます。におい対策として、ふた付きの容器、においが漏れにくい袋、消臭剤なども併せて備えておくと安心です。

トイレに大切なことは「安心」です。この安心は人それぞれ異なりますが、大事なのは日常に近づけることです。そういった意味で、日頃使い慣れた建物内のトイレ空間を有効活用できるのが携帯トイレです。

プライバシーが確保され、鍵もかけられます。夜間に屋外のトイレに行くのは怖いでしょうし、悪天候時も同様です。また、エレベーターは止まっていますので、トイレのたびに階段を下りて屋外に行くのも容易ではありません。足腰が悪ければ無理です。このようなときに役立つのが携帯トイレです。

記事画像

最近は、停電になる機会も少なくありませんので、携帯トイレの備えは必須です。具体的な使用方法を動画で紹介していますので、参考にしてください(携帯トイレの使い方の動画はこちら)。

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仮設トイレから快適トイレへ

仮設トイレは外部から調達する場合が多いため、配備にどのくらいの時間を要するかわからないのは事実ですが、調達するための準備や設置場所を決めておくことは重要です。

従来型の仮設トイレは、和便器で使い勝手が悪いというイメージがあると思いますが、最近は仮設トイレの快適性が大きく改善されつつあります。そのきっかけになったのは、国土交通省が建設現場の職場環境改善の一環として、仮設トイレの標準仕様を決めたことです。

この標準仕様をクリアした仮設トイレを「快適トイレ」といいます。快適トイレは、洋便器で空間的なゆとりがあり、簡易水洗機能などを有しており、照明や鏡、フック、容易に開かない鍵などを備えています。

仮設トイレが主に活用される場所は建築・建設現場ですので、この現場におけるトイレが快適トイレに変わるということは、平時から地域で流通している仮設トイレが変わることを意味します。つまり、地域の建築・建設現場やイベント時の仮設トイレがすべて快適トイレになれば、災害時に快適トイレが届けられるようになる可能性が高くなるということです。平時から地域におけるトイレの防災力を高めることになります。

2020年7月豪雨の際には、熊本県球磨村の渡小学校に快適トイレが寄付され、子どもたちの笑顔につながりました。一刻も早く、日本中のすべての仮設トイレが快適トイレに置き換わることを期待します。

私たちはトイレが不衛生だったり、不便だったりすると、水や食料を摂ることを控えてしまいます。また、不衛生な環境では、医療は成り立ちません。命と尊厳を守るためにも、水・食料とセットでトイレを備えることが必要です。

球磨村立渡小学校(仮設校舎)に株式会社 ビー・エス・ケイより寄付された快適トイレ(写真:日本トイレ研究所提供)

球磨村立渡小学校(仮設校舎)に株式会社 ビー・エス・ケイより寄付された快適トイレ(写真:日本トイレ研究所提供)

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熊本地震「LINE通話を10分無料」は大問題だ

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提供元:「大小便で満杯に」災害時トイレ問題をどうするか|東洋経済オンライン

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