2023.02.24
「ステルス値上げ」許せる・許せない商品の決定的差|もはやビールジョッキも要注意
とどまるところを知らない物価高騰に、各社はどう対応していくのでしょうか(写真上:編集部撮影、下:セブン&アイHPより)
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価格は変えずに、内容量を減らすーー。物価高騰が続く中、「ステルス値上げ」と呼ばれる手法が日本中に広がっている。
メーカー側は「規格変更」「内容量変更」などと表現するが、同じ価格でも中身が減っているわけだから実質的には値上げだ。
最近大きな話題になったのが、山崎製パンの「薄皮シリーズ」が、1袋5個入りから4個へと数が減ったこと。これには1個当たりでは増量していたというオマケがついたのだが、とはいえ、価格据え置きといいながらも個数が減るのは消費者にとってはなかなか喜べることではない。
春以降もこうしたステルス値上げが予定されているが、身近なところでは不二家やカルビーのお菓子で一部商品の内容量が変更になる。
不二家のロングセラー「ミルキー」は、1箱7粒入りから6粒入りに減るという。3月14日発売分から変更とのことだから、もしホワイトデー用にミルキーを渡したいなら前日までに買っておくほうがいい。
「規格・内容量変更」という名のステルス値上げ
お菓子以外にも、ハム・ソーセージなどで4月以降に「規格・内容量変更」という名のステルス値上げが予定されている。
こうした「規格変更」は本体だけではない。梱包資材も値上がりしており、「昔に比べて、包装用のポリ袋が薄くなった?」と感じることも増えてきた。配送にかかるガソリン代が上がっているため、一度に多くの量が詰めるようパッケージの規格を見直すとの話も聞いた。
なぜ企業はステルス値上げを選択するのか。
そもそも食品は単価が安く、しかも購入頻度が高い。たまに買うものと比べ、10円でも上がれば消費者はすぐに気づく。「前より値段が高くなった」と感じると買い控えを招きかねず、メーカーとしてはなるべく値段を上げたくはない。
特に、人気の鉄板ブランドの値上げは強いマイナスの印象を与えかねない。それが商品離れにつながってはまずいので、価格はできるだけ変えずに内容量で調整したい。その苦肉の策が「ステルス値上げ」なのだが、やっかいなことに消費者の評判はよくない。
リサーチ会社アスマークのアンケート調査によると、通常の値上げとステルス値上げでは、後者のほうが食品・ブランドやメーカーのイメージが「悪い」と答える傾向が高くなる結果が出た。「前より減っていて損をした」「騙された気がする」と感じる人が多いのかもしれない。
注目はビールジョッキ
こうした実質値上げは、外食産業にも及んでいる。日ごろ、さまざまな店に行く中で、餃子が前より小ぶりになった、回転ずしのネタの種類が減った、なんて感じることはざらにある。
わかりやすく減った例もある。筆者がサイゼリヤに行くと必ず注文する「辛味チキン」は、コロナの影響で2021年11月から1皿5本が4本に減った。価格は変わらずのままでだ。そして、2023年になっても4本から戻ってはいない。
1皿4本になっているサイゼリヤの辛味チキン(サイゼリアのグランドメニューより)
昨年12月にはスパゲッティの大盛りも終了した。理由は「品質の安定が困難」というもの。こちらはもともと上乗せ金額を払ってのメニューだったが、ファンの間ではショックも小さくない。
コンビニ弁当の容器が上げ底なのでは?と話題になったことがあるが、筆者が注目しているのは生ビール用のジョッキだ。店でビールを頼むたび、ジョッキの大きさと器の厚さ・形に目を光らせている。
瓶ビールと違い、店おのおののサイズのジョッキに入って出てくる生ビールだと、その量を注文する前にいちいち検証することはできない。パッと見の大きさは普通のジョッキでも、下に行くほど狭くなるじょうご型・砂時計型だったり、妙にガラスが厚ぼったく感じたりするときもある。
中ジョッキとあるが350ml程度しか入っていないのでは?と疑わしいこともしばしばだ。もっとあけすけに「このジョッキ、すいぶん小さいな……ジョッキというよりグラスでは?」と感じることすらある。しかし1杯は1杯、文句は言えない。これも亜流のステルス値上げといえるだろう。
器を工夫するのは、食費節約の王道テクニックだ。少ない量の料理なら大皿より小ぶりの器を使ったほうがたっぷり入っているように感じるものだ。家庭でも、サブおかずの量を多く見せたいなら、底部分が狭くなっているラッパ形の小鉢を使ったり、おちょこサイズの小鉢にちょこちょこ盛り付けて並べるとそれなりに見栄えがする。飲食店でも同じようなテクニックが使われている可能性は大いにある。
ステルス値上げは「貧者の値上げ」?
ステルス値上げの仕組みは100円ショップを例にするとわかりやすい。100円で売るという売価が先に決まっているため、その金額をなるべくはみ出さないようにコスト設計をする。消費者は100円で買えることを一番重視しているからだ。すると使う素材が変わったり、サイズが小さくなったりするのはやむをえない。
実際、以前「100均でついに130円の値札!店頭を調査してみた」でも書いたが、2022年3月までは500グラム入り100円で売られていた小麦粉が、8月には300グラム入りとずいぶんスリムになっていた。この先さらに小麦価格が上がれば、100均の店頭から消える日も遠くない。
「100均でついに130円の値札!店頭を調査してみた」 ※外部サイトに遷移します
こんな手法が増殖しているのは、われわれ消費者が使えるお金が限られているせいだ。賃上げが実現し、毎年所得が増えていけば何の問題もないが、使えるお金が増えない以上、それに合わせて買える量を減らすしかない。
小麦粉でも米でも砂糖でも、本来は値札に書いてある金額を払って買い物をする。しかし、貧しい社会では、「砂糖を1袋ください」ではなく、「このお金で買えるだけの砂糖をください」となる。つまり、ステルス値上げとは「貧者の値上げ」なのだ。
分量を減らすだけならまだいいが、コストを削るため材料の質を下げたり、調理に使う油を変更したり、目に見えない「改悪」がされているケースもあるだろう。価格を維持しようとするあまり、不利益を被るのは消費者側なのだ。しかし、消費者の給料が上がらず貧しい日本が続く限り、「ステルス値上げ」はなくならない。
「よいステルス値上げ」はあるのか?
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相次ぐ値上げへの対抗策として、ナショナルブランド(NB)商品より、プライベートブランド(PB)商品を買う消費者は増えている。
しかし、いくらPBとはいえ、原材料や梱包資材、エネルギー価格高騰の影響を受けないわけではない。タイミングを見つつ、値上げもしくはステルス値上げに本格的に移行する日は来るだろう。
しかし、そうした改定を逆手にとってアピールする企業も。昨年9月にセブン&アイが発表した新しいPBブランド「セブン・ザ・プライス」がそれだ。「セブンプレミアム」の新たなブランドで、イトーヨーカドー、ヨーク、セブン‐イレブンにて発売を開始している。
セブン&アイの新しいPB「セブン・ザ・プライス」
「セブン・ザ・プライス」 ※外部サイトに遷移します
新PBは次のような手法で「安さ」をアピールしている。いわく、
1:デザインの色を削減してコスト削減
2:物流と生産効率をあげて価格に還元
3:納豆のたれやからしを入れていない等のシンプルな商品作りを追求
というもの。このように「安さの理由」を明快にしてもらえると、消費者は「品質は下げていないのね」と納得しやすい。
では、「いいステルス値上げ」はあるのか。先の山崎「薄皮パン」のように、「個数は1つ減らしましたが、1個当たりを増量しています」と言われれば、「では許そう」と支持を得られやすい。
値上げを訴える企業のリリースには、「コストは当社の改善幅、改定幅を超えて上昇」「企業努力によるコスト上昇分の吸収が限界」「自助努力のみでは吸収が極めて困難な状況」と自社の苦境を訴える言葉ばかりが躍るが、それよりいっそ「食べきりサイズで新登場」や「ゴミを減らすシンプルな包装に変更しました」のような前向きなキャッチをつけて規格改定をアピールしたほうが印象もよく、容認されるのではないだろうか。
何にせよ、買い物に使えるお金が増え、「貧者の値上げ」に悩まされないことが一番なのだが。
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提供元:「ステルス値上げ」許せる・許せない商品の決定的差|東洋経済オンライン