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2023.01.18

眼科医が警鐘、スマホ依存者「眼球変形」のリスク|多くの小学生が眼軸長伸びる「軸性近視」を発症


スマホを見すぎることによる目の病気の増加が懸念されている(写真:zon/PIXTA)

スマホを見すぎることによる目の病気の増加が懸念されている(写真:zon/PIXTA)

スマホを見すぎると目が悪くなることはわかっていても、それほど深刻にとらえていない人も多いのでは。ですが、近視が進むと「眼球変形」や「失明」へ至る可能性が指摘されはじめています。WHO(世界保健機関)も懸念する「近視人口の急激な増加」と失明に至るメカニズム、そしてその対策について、眼科専門医の川本晃司氏による『スマホ失明』より一部抜粋・編集のうえ解説します。

『スマホ失明』 ※外部サイトに遷移します

スマホによる目の不調・病気が増えている

近年、スマートフォンなどの小型デジタルデバイスの急速な普及による「目の不調」や「目の病気」が増えていることが指摘されています。そのひとつの例が、若い人、特に10代の間で「急性スマホ内斜視」の患者さんが目立つようになってきたことです。

内斜視とは、左右の眼のどちらか、もしくは両方が内側を向いている状態のこと。私たちの眼は、近くを見るとき、内側を向く「寄り眼」状態になります。このとき、長時間にわたり近くのものを見続けて、寄り眼状態が固定化すると、固定化した視線の先にしかピントが合わなくなります。すると、それ以外の場所を見たときに、モノが二重にダブって見えるようになるわけです。

ちなみに急性内斜視は、もともと近視の人が、長時間、近距離でものを見続けることで、発症しやすい傾向があります。こうした内斜視の中でも、スマホを長時間見続けることで起こる急性症状のことを、私は特別に「急性スマホ内斜視」と呼んでいます。

先日も、私が診療している眼科に、16歳の男子高校生がやってきました。お母さんに付き添われてきた彼の訴えは、「黒板が見えない」「教科書が見えない」というものでした。検査の結果、裸眼視力は右眼が0.03、左眼は0.04。すでに近視がかなり進んだ状態です。

彼はメガネをかけて片眼ずつで見れば、問題なく見えると言います。しかし両眼で見た瞬間に、見えなくなります。遠くの景色が見えない、授業中に黒板を見ようとしても見えない。教科書やマンガはもちろん、愛用しているスマホも見えない……。

彼に普段の生活を聞いたところ、毎日、かなり長い時間スマホを見ていることがわかりました。そのため、眼球が内側に寄った状態で固定化してしまい、片眼だけなら対象物にピントを合わせられても、両眼を使ったときにピントが合わなくなっていたのです。

「お子さんの眼は、スマホの使いすぎが原因で、急性内斜視を起こした可能性が高いですね。メガネで矯正が可能か、先ほど試してみましたが、矯正はできない様子です。詳しくはこの病気の専門の先生に聞いてみる必要がありますが、手術が必要かもしれません」

私がそう言うと、男子高校生とお母さんの様子がたちまち変わりました。
単なる近視だろうと思って受診したのに、まさか手術が必要になるとは思ってもみなかったのでしょう。この段階になって、ようやく2人は、「先生、どうすればいいですか⁉」とあせり始めました。

急性内斜視は「急性」というだけあって、一時的に斜視になった状態なので、しばらく近距離でモノを見ないようにして生活すると、症状が軽減することも多いです。しかし近年は、スマホによる「近業」を長期間続けた結果、内側に寄った眼の状態が固定化してしまい、改善されずに手術となるケースが増えています。

近業とは、眼と対象物との距離が近い状態で行う作業のこと。距離でいうと、30センチ未満で行う作業のことを指します。彼の場合、しばらくスマホをやめても症状は良くならなかったようで、後日、某県の大学病院で手術となりました。

ただ、残念なことに、手術をした後も、見え方は完全に元通りにはならなかったそうです。彼には、常にものがダブって見える「複視」の症状が残ってしまいました。

目の病気は人生の質を著しく下げる

このように「複視」などの症状が残ってしまうと、社会生活を送るうえでさまざまな不都合が生じます。例えば、文字情報を得ることが困難になって新聞や本などが読みづらくなる、街中の交通標識や飲食店の大きな看板さえも判読できない状態となる、といったことも。また、車の運転免許が取得できない可能性もあり、現代社会において、人の社会活動が大きく制限されます。

この複視のほか、緑内障、眼球運動障害、眼瞼けいれんや重症のドライアイなど、目の疾病などによって一時的あるいは部分的に見えないことで、社会的に「見えない人」として扱われる状態を、私は「機能的失明」と呼んでいます。

また、矯正視力(メガネやコンタクトレンズを使用したときの視力)が「0.1」を下回り、社会生活を送る上でさまざまな不都合が生じる状態は、「社会的失明」と分類されています。

まったく見えない全盲状態である「医学的失明」はもちろんのこと、このような「社会的失明」や「機能的失明」でも日常生活や仕事・学業などに大きな支障をきたしてしまうことはお分かりでしょう。

人生100年時代という超長寿時代を生きる彼が、わずか16歳の若さでものがダブって見える病気を発症したことは、残り80年の人生の質を、これほどまで大きく下げるのです。

近視患者の急増はパンデミック

「急性スマホ内斜視」だけでなく、世界的に大きな問題となっているのが、「近視人口の急激な増加」です。新型コロナウイルスの蔓延に伴うステイホーム、「巣ごもり」の影響もあり、ここ数年のスマホによる近業時間の増加で、近視が進行するという傾向が世界的に見られています。

オーストラリアのブライアン・ホールデン視覚研究所は、2010年には約20億人だった近視人口が、2050年にはなんと約50億人になると推計しています。これは世界人口の半分です。しかも、このうちの9億3800万人が、「強度近視」になると予測しています。

WHO(世界保健機関)は近視人口の急激な増え方に対して、「深刻な公衆衛生上の懸念がある」と警告しています。近視患者の急増は、まさにパンデミックと言えます。

「強度近視」というのは、近視が進行して発症する強度の近視です。実はこの「強度近視」は、日本人の「失明原因」の第5位にあたります。さらに言うと、第1位の「緑内障」や、第4位の「黄斑変性症」の発症に関しても、近視との強い関係が指摘されています。

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特に近視問題が深刻な中国の都市部では、失明原因の第1位が「近視」とされていることもあり、かなりの危機感を持って対策がとられているようです。オーストラリアや台湾でも、やはり国を挙げての先進的な近視研究が進められています。

そもそも、近業時間が増えると、なぜ近視になるのでしょうか。そして、なぜ近視が失明につながる可能性があるのでしょうか。

まず、私たちが近業──30センチ未満の“超近距離”でものを見るときは、水晶体の厚さを変える「毛様体筋」という筋肉がグッと緊張して、水晶体が分厚くなります。こうすることで、近くにピントが合うのです。

近業を続けると眼球の形が変化する

しかし、長時間スマホを見続けるなどして近業を続けると、毛様体筋が緊張して凝り固まり、一時的に、水晶体が膨らんだままになります。こうなると、近くにピントが合ったままになりますから、遠くにピントが合いません。つまり、一時的に遠くがボンヤリとしか見えない「近視」になるわけです。ただし、毛様体筋の緊張が解ければ、また遠くにピントを合わせられるようになります。

このように、毛様体筋の緊張から、一時的に近視になることを「仮性近視」と言います。「仮性」ですから、この段階で適切な投薬治療をしたり、長時間近くを見続ける生活習慣を改善したりすれば、視力を回復することが可能です。

問題は、仮性近視の状態を経て、さらに近業を続けると、「眼軸長(かんじくちょう)」がどんどん伸びていくということです。眼軸長とは、「角膜」から「網膜(黄斑部)」までの長さのことです。

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日本人の成人の場合、眼軸長の平均は24ミリ前後です。これより数分の1ミリでも長くなると、網膜より手前でピントが合ってしまい、遠くがボンヤリとしか見えない「近視」になります。このように、眼軸長が伸びてしまった結果として起こる近視を「軸性近視」と言います。

軸性近視になると、近視を発症する以前の状態にはなりません。なぜなら、一度伸びた眼軸長は、現在の医療では、二度と元に戻せないからです。

もともとはピンポン玉のように丸かった眼球は、軸性近視が進むごとに、どんどん細長くなっていきます。近視は、進行の程度により、「軽度近視」「中等度近視」「強度近視」に分けられますが、最も程度がひどい強度近視になる頃には、ラグビーボールのような形状になってしまいます。
こうなると、引き伸ばされた眼底に負担がかかり、さまざまな病気や病態を生じます。

例えば、眼球後方の一部がポコッと突起状に飛び出す「後部ぶどう腫」。
眼球が伸びすぎて、引っ張られた網膜が裂けてしまう「網膜分離症」。視力の中心である黄斑部に障害が出る「近視性黄斑症」や「黄斑萎縮」。眼から脳へと映像信号を送る視神経が障害される「視神経症」など。このように、軸性近視の進行の結果、さまざまな異常が生じた状態が「病的近視」です。

病的近視の中でも、特に怖いのが、網膜(黄斑部)や眼から脳へと映像信号を送る視神経がダメージを受けることです。ここが障害されると、視力の回復は困難で、最終的には失明に至るからです。

また、近視の進行の結果、「緑内障」を発症しやすくなりますが、こちらも失明に繋がる病気です。近業を長期間続けることで、こうした障害・病気が生じる可能性が高まります。

日本の小学生の多くが「軸性近視」を発症している

先述のように、日本人の眼軸長の平均は、成人では24ミリ前後になるのが正常な発達です。1歳では20ミリ、6歳で22ミリ前後が平均です。ところが、今の子どもたちの多くは、成人するだいぶ前、小中学生の段階で、眼軸長が24ミリを超えている──つまり、「軸性近視」を発症してしまっていることが明らかになりました。

2020年度に文部科学省が行った「児童生徒の近視実態調査」では、なんと小学6年生の眼軸長の平均は、男子が24.2ミリ、女子が23.75ミリ、中学3年生では男子が24.61ミリ、女子が24.1ミリという調査結果が出ています。これは、早い段階で軸性近視を発症している、つまり軸性近視が低年齢化しているということです。

中3で24ミリ超の眼軸長だと、近視の程度としては、おそらく中等度だと考えられますが、成長して大人になる頃には、まず間違いなく強度近視になります。小6で24ミリ超ならば、事態はさらに深刻です。

近視の急増の原因は「スマホによる影響が大きい」という見解は、世界の眼科医の共通認識となってきています。たしかに、近視とスマホの因果関係に疑問を呈する眼科医もいます。しかし彼らが求める「高いレベル」のエビデンスが出揃うのを待っていたら、私たちは後戻りできない大切な時間を無駄にしてしまいかねません。今すぐにでも、対策を講じる必要性は高いと言えます。

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先述したように、眼科医の共通認識にもとづいて、国を挙げて近視対策に取り組んでいるところもあります。例えば、デジタルデバイスのスクリーンタイムを制限するルールを設けたり、スクリーンタイムを管理するアプリを開発したり。最も進んだ対策としては、眼とモノとの距離と近業継続時間を最適化できるデバイスが開発されたりしています。

また、近視予防に効果がある戸外活動を積極的に増やすという取り組みも行われています。これは、波長が360~400ナノメートルの「バイオレットライト」を眼内に取り込むことで、近視抑制に効果があるという研究結果が根拠となっています。

さらに、近視が進んでしまった場合の進行抑制法として「オルソケラトロジー(角膜矯正療法)」や「多焦点ソフトコンタクトレンズ」のほか、従来から効果が指摘されていた「低濃度アトロピン点眼薬」などの研究も、近年進んでいます。

もともと近視の有病率が高い日本では、近視に関する先端的な研究が行われてきました。例えば、さきほどの「オルソケラトロジー」+「低濃度アトロピン点眼薬」の近視抑制効果に関する日本の研究は、世界でもトップクラス。しかし残念なことは、こうした研究結果が教育現場や医療現場での具体的な対策に反映されていないところです。

こうした社会的・医療的な取り組みが大切なのはもちろんですが、私たち一人ひとりの近視進行抑制のための意識改革も重要です。

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提供元:眼科医が警鐘、スマホ依存者「眼球変形」のリスク|東洋経済オンライン

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