2022.12.21
小型犬に多い「犬の歯周病」飼い主に伝えたい基本|年々増える手術件数、皮膚や骨に穴が開くことも
2歳以上の成犬の約8割、1歳未満の小型犬の約9割が「歯周病」を患っているといいます
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もうすぐ丸3年に近づくコロナ下で、ペットを飼い始めた人もいるのではないだろうか。対面でのコミュニケーションが減ったことで物足りなさを感じる、人となかなか会えなくて寂しい、家庭に癒やしが欲しいなど、背景にはさまざまな理由があるだろう。実際にペット(犬猫)の新規飼育数はコロナ以降増えている。
一般社団法人ペットフード協会の「2021年(令和3年)全国犬猫飼育実態調査結果」によると、2020年の新規飼育数(推計)は、犬が前年比18%増の41万6000匹、猫が同16%増の46万匹。2021年も犬猫ともにコロナ前(2019年)を上回った。犬は2020年と比べると減ったものの39万7000匹、猫は同6%増の48万9000匹だった。
ここでは「犬」にフォーカスしていく。2歳以上の成犬の約8割、1歳未満の小型犬の約9割が「歯周病」を患っているというと驚かれるだろうか。
「2021年(令和3年)全国犬猫飼育実態調査結果」 ※外部サイトに遷移します
犬の歯周病が増加傾向にある理由
「開業して34年になりますが、歯周病の手術件数は年々増えています。当時と比べると何倍も多いです」
そう語るのは、埼玉県上尾市にクリニックを構えるフジタ動物病院の藤田桂一院長。日本小動物歯科研究会会長を務める藤田獣医師は、獣医歯科学を専門とし、これまで獣医歯科の専門誌5冊、監訳・翻訳6冊を刊行してきた。獣医歯科における獣医師向け、動物看護師向けの講演を毎年多数行うなど、獣医歯科学の第一人者だ。
<藤田桂一先生プロフィール>
1985年、日本獣医畜産大学(現日本獣医生命科学大学)大学院獣医学研究科修士課程修了。埼玉県上尾市でフジタ動物病院開業後、日本大学大学院獣医学研究科にて獣医学博士号取得。現日本小動物歯科研究会会長。
20数年前頃までは外飼いの中・大型犬が主で、平均寿命は10歳に満たないことが多かったが、近年は室内飼いの小型犬が増え、平均寿命は15歳ほどに長くなった。室内で家族と長い時間を過ごす中、飼い主が愛犬の歯周病を含めた病気に気づきやすくなったことも背景にある。
小型犬ならではの特徴もある。
「小型犬は顎の大きさに対して歯が大きく、歯間が狭くなっていることから、食べかすや汚れが溜まりやすい傾向があります。小型犬と同様、短頭種も歯周病になりやすい犬種です。顎の長さに対して歯の間隔が狭いため、殺菌効果を持つ唾液が歯間に行き渡りづらいのが理由です」(藤田獣医師)
歯周病は口の中を目視しない限り発見しづらい。歯周病の治療は歯垢・歯石の除去と、抜歯などの外科治療に大別されるが、後述するように重篤な症状にまで至ってしまうと、麻酔下での外科治療が必要になることもあり、犬にかかる負担も大きくなる。
歯周病の悪化で重篤な症状に
最初に整理しておくと、そもそも歯周病には「歯肉炎」と「歯周炎」がある。
歯肉だけが炎症を起こした症状を歯肉炎、歯肉のほか、歯根膜・セメント質・歯槽骨で成り立つ歯周組織にまで炎症が及んだ症状を歯周炎という。歯肉炎を放置していると歯周炎へと進行し、状態が悪化する。
歯周病になるメカニズムはシンプルだ。歯に付着した汚れを放置したことでできる歯垢(プラーク)内の細菌や他の炎症性物質などが歯周組織に入り込むことで引き起こされる。
なお、歯垢は唾液中のカルシウムやリンを取り込んで石灰化して歯石になる。人間の場合、歯垢が歯石に変化するのは20日間ほどだが、犬の場合はわずか3〜5日間で歯石に変化する。
歯石の上には歯垢が付着しやすいため、歯石ができるとその上に歯垢が溜まって、さらに歯石が厚くなり、さらにその上に歯垢が付着、症状が進んでいく。
段階としては、歯肉の赤みや腫れがひどくなり、歯と歯肉の間(歯肉溝)の深さが増して「歯肉ポケット」が形成される。さらに状態がひどくなると、歯の周囲の歯根膜や歯槽骨が破壊されて、歯肉ポケットが深くなり「歯周ポケット」と呼ばれる状態に。その歯周ポケット内の炎症が進み、そのうちに膿が溜まり、漏れ出てくるようになると「歯槽膿漏」と診断される。
さらに歯周組織の破壊が進行すると歯が抜け落ちたり、顎の骨に穴が開いて口の粘膜や皮膚まで貫通したりして重篤な状況に陥ってしまう。具体的には目の下など体の外側に穴が開く外歯瘻(がいしろう)、口腔粘膜に穴が開く内歯瘻(ないしろう)、口腔と鼻腔とを隔てる骨と組織に穴が開く口腔鼻腔瘻(こうくうびくうろう)などが挙げられる。
「ここまで状態が悪化していると、外科手術をしてもほとんどの歯を残せないケースもあります。だからこそ、進行する前に気づくことが重要です。見分け方としては、口臭がある場合は明らかに病気のサインです。年齢を重ねた犬なら口臭があると捉えるのは誤りで、口の臭いは無臭が健康のバロメーターとなります」(藤田獣医師)
さらに、歯周病を引きおこす細菌や炎症性物質などが歯肉粘膜の毛細血管などから全身性の血管に入り込み、心臓、腎臓、肝臓まで移行して、これらの組織を侵してしまうこともあるという。
3タイプの変化で見る「歯周病チェックリスト」
藤田獣医師に犬の歯周病チェックリストを作成してもらった。
チェックリストにある症状が見られる場合、多くは歯周病が疑われるが、歯周病以外の口の病気(腫瘍、口内炎、歯の破折など)やケガ、加齢、皮膚病、鼻炎、結膜炎、角膜炎、ストレスなど、他の全身性の原因が関係している可能性もある。
【身体の変化】
・口臭が気になるようになった
・口の周りの汚れが目立つようになった
・グラグラしている歯が見られるようになったり、歯が抜けたりするようになった
・よだれの量が増えた
・目やにが出たり、目が充血したりするようになった
・くしゃみや膿混じりの黄色い鼻水、鼻血が出るようになった
・頬や顎に腫れが見られるようになった
・皮膚に穴が開いている
【行動の変化】
・口を気にして痛そうにするようになった
・口や顔を触られるのを嫌がるようになった
・痛そうに鳴くようになった
・頭をよく振るようになった
【食事の変化】
・食べるのが遅くなった
・食事を食べなくなった
・口から食事をこぼしたり、口に入れても出したりしてしまうようになった
・片側だけで噛むようになった
・硬いものを食べず、柔らかいものを好むようになった
・今までと違う、どこか違和感のある食べ方をするようになった
ライオン商事の「愛犬のお世話(ケア)に関するスクリーニング調査」(2022年、調査対象:全国の愛犬家1600人)によると「犬の歯磨きができてない」と答えた人は79.3%にものぼる
気になるところがあれば、早めの受診を心がけたい。ただし、病院選びにはコツも要りそうだ。歯周病を全身疾患と密接な関わりを持つ深刻な病気と捉え、専門的な治療や指導を行う動物病院は多くないからだ。
国内では18の大学が獣医学部を持つが、口腔歯科疾患に関する授業や実習はなく、獣医師の多くは動物病院に勤めて初めてペットの歯周病と直面することになるという。また全国には約1万2000軒の動物病院があるが、口腔内疾患の治療に強みを持つ病院は少なく、実績のある病院を調べるのが安心かもしれない。
しかし、一番の理想は「愛犬を歯周病にしない」ことだろう。藤田獣医師は予防に最も有効といえるのは「歯磨き」だと話す。歯周病の疑いで来院した犬が何歳であろうと、歯肉が正常な状態に戻ったタイミングで歯磨きを始めてもらうよう指導するという。
予防に有効なのは歯磨き
とはいえ愛犬の歯磨きをしようにも、「もし噛まれてしまったら」と怖くなったりすることもあるだろう。
それを避けるためにも、できれば歯磨きは愛犬が物事を抵抗なく吸収しやすい生後1〜4カ月から行うのがよいという。乳歯の頃から歯磨きに慣れさせておくと、永久歯になってからは歯磨きを無理なく毎日のルーティンにもできるという。
最初から歯ブラシを使うのではなく、指サック型シートや歯磨きなどで慣らしていく
「歯磨きに慣れていない犬の場合、いきなり歯ブラシを口に持っていくのはNGで、段階を経ていくことが大事です。
3つのステップで説明しますと、ステップ1では頬・口元を優しく触れてみて、ステップ2では口の中に指を入れて犬が好む味の歯磨きペースト(歯磨き粉)を口に入れるなどして、口の中に異物を入れる練習をします。ステップ3ではデンタルシートやガーゼを指に巻いて歯の表面を撫でてみてください」(藤田獣医師)
うまくできたらおやつなどご褒美を与え、少しずつ慣らしていくことで、97〜98%の犬は歯磨きを受け入れるという(2〜3%の犬は反抗して危険なため、無理せず動物病院に連れていくのがいい)。そして最終的には歯ブラシを用いたデンタルケアを都合のいいタイミングで1日1回行う。食べ物を捉える犬歯、噛み切る上顎の大きな前臼歯と下顎の大きな後臼歯に歯石が付きやすいため、これらを重点的に磨き、奥歯や歯の裏側を磨くのを最終目標にするといいという。
なお、唇の端を後ろ側に引っ張ると大部分の歯が露出し、きれいに磨けるという。
愛犬が重篤な症状に陥る前に、一度検討してみて損はないはずだ。
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提供元:小型犬に多い「犬の歯周病」飼い主に伝えたい基本|東洋経済オンライン