2022.12.19
「プラントベース食」肉と乳製品減らす人々の利点|環境・倫理面だけでなく栄養面にも目を向けると?
持続可能性と健康を叶える食事法の正体とは?(写真:Fast&Slow/PIXTA)
健康的で環境にもいいとされる植物性食品中心の食生活「プラントベース食」が近年、イギリスで人気が高まっているという。サステナブルな食生活とはどんなもの? ビーガンやベジタリアンとの違いは?
最新の科学的知見から導き出される健康と幸福のための食事法をトピックスごとに分かりやすく解説する、リアノン・ランバート氏の著書『食事と栄養の科学大図鑑』より、食の選択肢が多様な現代におけるプラントベース食の可能性について、一部抜粋、再構成してお届けする。(構成:黒澤彩)
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プラントベースとはどういうもの?
動物性食品を避けて植物性食品を中心にとる食事の仕方は、もちろん以前から知られていて、日本でも身近なものになってきている。
たとえばベジタリアニズム(菜食主義)は何世紀も前からあるもの。ベジタリアンの中でも乳製品と卵は食べてもいいとする「ラクトオボベジタリアン」や、乳製品だけは食べる「ラクトベジタリアン」、卵だけは食べる「オボベジタリアン」などに分かれる。
ビーガニズム(完全菜食主義)は、食の選択肢にとどまらず、衣服などすべての製品で動物由来の原材料を避ける主義で、これは食事法というよりも生き方の問題ともいえる。
では、プラントベース食はというと、ベジタリアンやビーガンのように肉や魚を一切とらないのとは違い、植物性食品の割合が多くなるようにするものだ。植物性食品には野菜や果物だけではなくナッツ類、シード類、オイル、全粒穀物、豆類も含まれる。
ビーガニズムが必ずしも健康を保つのにいい方法だとはかぎらないのに対し、計画的なプラントベース食については健康な暮らしの支えになる。
プラントベース食では、厳格なルールを決めるのではなく、さまざまな食生活を組み合わせることになる。希望に合わせて動物由来食品を含めるかどうかを決めるが、植物性食品を主に摂取することが必須といえる。
私たち人間の営みが地球環境に与える負荷の大きさは、ますます問題になっている。サステナブルな食生活を送りたいと考える人も増えてきていて、そのための現実的なステップとして、プラントベース食がある。
農畜産業は、生物多様性に影響を与える温室効果ガスの大きな排出源だ。農畜産物の生産から製品製造、流通や配達、さらに廃棄物処理まで、サプライチェーンとその先のあらゆる段階で化石燃料が使われる。
また、地球上にある居住可能な土地の半分は農畜産業で使われていて、その77%は家畜の飼育向けだ。ところが、肉と乳製品は世界全体のエネルギー摂取量の17%、タンパク質摂取量の33%を占めるにとどまっている。こうした資源集約的なアプローチでの食料生産は、栄養摂取の面でもサステナビリティの面でも先行きが暗い。
こうした肉や乳製品の環境負荷を計算に入れると、プラントベース食が未来への方法であるのは議論の余地がない。
私たちはみな、食生活を変えることで問題解決に貢献する力を持っている。その変化は大きくても小さくてもいい。肉を食べる習慣があるなら、それを完全にやめる必要はない。赤身肉を食べる量を1週間に1ポーションに減らすといいだろう。
健康効果は科学のお墨付き
環境への影響を減らす、費用を抑えるなど多くの利点があるプラントベース食。栄養不足にさえ気をつければ、大きな健康効果も得られる。
プラントベース食が寿命を延ばし、一部の病気のリスクを低くするという主張には、多くの研究による裏付けがある。食物繊維が多く飽和脂肪酸の少ない、バランスのとれたプラントベース食は、健康的な体重を維持し、2型糖尿病や循環器系疾患、さらに一部のがんのリスクを低くするのに役立つ可能性がある。食事から動物性食品を取り除くと血圧が下がるという方向の証拠もたくさんある。
動物性食品をまったく食べないとしても、必要な栄養素の大部分は植物性食品から摂取できる。ただ方法によっては、タンパク質やビタミン、ミネラルといった栄養素が不足するおそれもある。こうしたリスクは、適切な食品を選び、必要があればサプリメントを摂取することで解消できる。たとえばタンパク質不足にならないためには、完全タンパク質を含む大豆製品やキヌアを食事に取り入れよう。ナッツ類を間食にするのもいい。
とくに気をつけて補いたいのは微量栄養素だ。以下に重要なものを挙げておく。
【カルシウム】乳製品が主な摂取源で、植物性食品で含むものはごくわずか。ドライフルーツ、ナッツなどに含まれる。
【ヨウ素】不足すると胎児の脳の発達に悪影響を与える可能性がある。甲状腺ホルモンの濃度にも影響する。リスクが高い人はサプリメントの摂取を検討したい。
【オメガ3脂肪酸】α-リノレン酸(ALA)はクルミ、アマニ、菜種油などの植物性食品に含まれるが、エイコサペンタエン酸(EPA)とドコサヘキサエン酸(DHA)は植物性食品からは効果的に摂取できない。
【ビタミンB12】これを含む植物性食品は体内で処理できない。サプリメントの摂取が有効。
その他に【ビタミンD】【鉄】【亜鉛】【セレン】など。
また、塩分や飽和脂肪酸を多く含むようなビーガン向け加工食品もたくさん市販されているので、植物性であれば必ず健康的というわけではないという点も注意が必要だ。
腸活にもプラスの効果
さまざまな種類の腸内細菌が存在しているほど、腸が健康的だという考え方は広く認められているところだ。腸内には数兆個の微生物が生息し、これらはまとめて「腸マイクロバイオーム」と呼ばれている。私たちが食べるものは、こうした細菌の組成に影響を与えている。
腸内細菌の“多様性”が健康状態の良さと関連があることは、研究でも明らかになっている。1万人以上の便サンプルを分析した研究では、週に30種類以上の植物性食品を食べる人は、10種類未満しか食べない人よりも腸内細菌の多様性が高いことがわかった。
バランスのとれたプラントベース食は、腸マイクロバイオームの多様性を高めるのに役立つ。野菜と果物はいろいろな種類を食べるようにし、いつもは使わない豆類、全粒穀物やナッツ類、シード類も取り入れたい。
さらにプラントベース食のレパートリーを増やすには、代替食品を探すことも大切だ。タンパク質や脂肪、炭水化物を摂取できる植物性食品の種類に詳しくなろう。
肉の代わりに豆腐やレンズ豆、チーズの代わりに豆乳ヨーグルト、精白パンではなくライ麦パンやサワー種のパンを選ぶ、といったふうに。それに加えて、栄養価の高い旬の生鮮食品や、発酵食品を取り入れることも腸マイクロバイオームに有効だ。食事全体で多様な種類の植物性食品をとるよう心がける。毎日同じものばかり食べるのは控えたい。
子どもにも可能なのか?
子どもがいる家庭の場合、プラントベース食で子どもに必要な栄養を十分に与えることができるのかが気になるのではないだろうか。簡単に言えば、答えは「可能」ということになるが、慎重に考える必要もある。動物性食品を一切とらない場合は、サプリメントを与える必要があるかもしれない。
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健康な発育のためには、カロリーと健康的な脂肪、タンパク質を十分に摂取する必要がある。植物性食品のみの食事はかさが多くて食物繊維が多いので、子どものお腹がいっぱいになってもカロリーは足りていないことがある。これを防ぐために、アボカドや植物油、シード類、ナッツバター、豆腐、豆類など、エネルギーと栄養素が豊富な食品を取り入れよう。
毎回の食事でタンパク質を含む多様な食品を食べていれば、タンパク質の摂取必要量は簡単に満たせる。誰もが摂取すべき必須アミノ酸と、子どもの体では十分な量を作り出せないために“条件付きで”必須とされるアミノ酸があるが、この両方を問題なく摂取できるはずだ。先に挙げたような微量栄養素のビタミンやミネラルについては、かかりつけ医や有資格の栄養士に勧められた場合、子ども用サプリメントを与えることを検討しよう。
プラントベース食で話題とされるのはたいてい、個人の嗜好や環境面、倫理面のことで、栄養科学の面は後回しにされがちだ。だが、植物性食品をより多く食べることによる栄養面の効果は、たしかに裏付けられている。栄養不足のリスクに注意さえすれば、サステナブルかつ健康的な食生活をすぐにでも始められるのだ。
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提供元:「プラントベース食」肉と乳製品減らす人々の利点|東洋経済オンライン