2022.12.09
統合失調症×うつの夫婦が漫画で描く人生の希望|生きづらさを抱えた2人がどう出会い、結婚したか
(漫画:『夫婦でビョーキですが、幸せになってもいいですか?』(ビジネス社))
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冬樹コギ丸さんは今年の11月に『夫婦でビョーキですが、幸せになってもいいですか?』(ビジネス社)という本を上梓した女性漫画家だ。
内容は、タイトルのとおり、たくさんの病気を抱えるコギ丸さんと夫である暁了さんの夫婦生活を描いている。ちなみに、お二人の精神科の主治医である、窪田幸久さんが医療監修をしている。
妻、コギ丸さんが抱える病気は、統合失調症、発達障害、喘息。
夫。暁さんが抱える病気は、うつ病、発達障害。
“生きづらい病気”を抱える2人だが、2人で協力しあって病気を乗り越えていく漫画だ。基本的にはほのぼのしたタッチで描かれているが、コギ丸さんが抱える統合失調症の幻覚や幻聴を表現したパートは息を飲むほどの迫力だった。
統合失調症を描いた漫画に大反響
コギ丸さんがツイッターに投稿したところ、かなりの反響があった。
「統合失調症はこんな症状があるんだ」
と初めて知る人ももちろんいたし、
「自分も統合失調症で同じ症状があって苦しんでいる」
という同調する意見も多かった。
今回は、コギ丸さん、暁さん、夫婦に電話でインタビューした。
コギ丸さんは母親が作ったゴミ屋敷で育った。父親は月に一度帰ってくるかどうかだったという。
「母親も統合失調症だったと思います。病院を嫌がる人で、私もなかなか通院させてもらえませんでした。
部屋はゴミ屋敷で、風呂も入らせてもらえませんでした。頭にシラミがわき、学校でいじめられました。自宅では、兄に暴力を振るわれましたが、母親は守ってくれませんでした」
コギ丸さんは小学生から不登校になった。
その頃から、統合失調症の症状である、幻覚、幻聴は現れていた。母親や母方の祖母にも似た症状があり、遺伝だった可能性が高い。
赤く丸い集合体が延々と形を変え立体を描いていくビジョンや、いわゆる“おばけ”のようなものが現れる幻覚を見た。
「目の前にグロテスクな“人だったであろうもの”が現れたら、ビビりますよね? しかも隙間から出てきたり、現実と少し辻褄が合う形で登場するんですよ」
(漫画:『夫婦でビョーキですが、幸せになってもいいですか?』(ビジネス社))
現在は薬で良くなっているが、それでも完全に治ったわけではないという。
暁さんいわく、
「2人で夕方散歩していたら、妻が突然車道に飛び出してびっくりしたこともあります。聞くと『人がいたから避けようとした』と言われました。そういうときは、2人でいたほうが物理的に安全だなと思います」
クマのヌイグルミをしたイマジナリーフレンドも現れた。イマジナリーフレンドとは、空想で作り上げた実在感がある友達だ。
漫画内では“それ”と呼ばれている。
「“それ”は『大好きだよ』とか、基本的にポジティブなことを言ってくれるんですけど、たまに悪意が混ざってくるんですよ。
『そこのマンホールに入るといいよ』
とか、
『あそこの角をいきなり曲がるといいよ』
とか。車に轢かれたら、どうするの? って……」
母親が病院嫌いなことから、コギ丸さんはあまり治療をしてもらえなかった。精神状態は良くならず、寝込む日々が続いた。寝込む部屋もゴミ屋敷だから、精神的にも喘息的にも良くない。
学校に通わないまま中学校を卒業した。
(漫画:『夫婦でビョーキですが、幸せになってもいいですか?』(ビジネス社))
母はコギ丸さんの「絵を描く才能」だけは伸ばそうとした
母親からは学校へ行かないことについては責められたが、将来の話はいっさいしなかった。ただ「絵を描く才能」だけは伸ばそうとしてくれた。子供の頃から絵だけは描いてきた。
コギ丸さんは、学校に行かないまま中学校を卒業し、3DCGを学べる専門学校に通うことにした。しかし小学校から不登校で、いきなりの専門学校はハードルが高く断念した。
「18~19歳の頃、ある日デッサン会で知り合った漫画家さんから、
『ちょっとアシスタントやってみない?』
と誘われました。アシスタントに入ってみたものの、右も左もわからず、手取り足取り教えていただいて技術を学びました」
最初は苦労をしたものの、技術を習得してからは順調に収入を得ることができるようになった。
「『私は学歴がないから漫画家になるのは無理だ』と諦めていたのですが、一度賞に応募したところ受賞することができました。それで自信がついて、漫画家になるよう努力を始めました」
仕事面では順調に進展していたが、相変わらず母親の作ったゴミ屋敷の中で生活していた。精神的には良くなってはいなかった。
「もう生きているのもつらくて、身辺整理をしていました。終活(人生の終わりに向けての活動)のような気持ちでした」
そんな頃に、コギ丸さんは暁さんに出会った。出会いの場は知り合いのホームパーティーだった。
「最初はお互いに好きという感情はなかったです。ミクシーやスカイプで普通に交流していたんですが、とても親身になって話を聞いてくれました。それからお付き合いするようになりました。
その時は、かなりギリギリの精神状態だったので、夫と出会っていなかったら危なかったと思います。今でも希死念慮(死にたくなる気持ち)はありますけど、なんとか生きるほうに気持ちを持っていけています」
(漫画:『夫婦でビョーキですが、幸せになってもいいですか?』(ビジネス社))
朝起きたら会社への行き方がわからなくなった
付き合い始めた頃は、暁さんは社会人1年目で健康だった。しかし、病んでしまう。
暁さんは、当時の様子を語る。
「当時は病院で勤務していました。夜勤を任されるようになったり、上司のいさかいに巻き込まれたりなどで、徐々にストレスを溜め込んでいました。ある日、朝起きても会社へ向かえなくなっていました。会社への行き方を忘れてしまっていて、どう行ったらいいのかもわからなくなっていました」
暁さんは自分でもおかしいと思ったため、すぐに心療内科を受診した。うつと診断されて会社を休むことになった。
その後、なんとか復帰できないか粘ったが、そもそものストレス源が職場にあるため難しかった。結局、退職することになった。
「症状が酷いときには丸一日ずっと寝込んでいました。ほとんど体を動かすことすらできなくて、まばたきを1回したらイエス、2回したらノー、で妻に意思を伝えたりしました」
その後、療養しながら別の職場に通うようになったが、なかなか良くならなかった。
同棲4年目を迎えた頃、暁さんのうつは3年になろうとしていた。
暁さんの様子を見守る、コギ丸さんはある決断をする。
「『結婚しよう』と伝えました。当時はあまり結婚願望がありませんでした。自分の親や兄弟から『家族は怖いもの』というイメージがありましたから。
ただ、暁さんはうつで寝込んでいて、自分を責めることが多かったです。自分なら『いつ逃げられるかわからない』という気持ちになるなと思いました。結婚することで、逃げない証になれば良いと思って提案しました」
暁さんは即答できなかった。
後日、久しぶりに2人で遊園地へ行った帰り、結婚することを決めた。
結婚後は東京を離れ、暁さんの祖父母と同居している。4人の相性はよく、平穏な暮らしを送っている。
「働けるほうが、働けばいい」
暁さんは結婚後、うつは良くなっているが、まだフルでの就労は止められている。働いて、再びうつになってしまっては意味がないからだ。
「現在は私が漫画を描いて収入を得ています。月刊の連載で約40ページほど描いていますし、友達の漫画家のアシスタントをしたりもしています。今は完全にデジタルで作業をしているので、自宅で作業ができます。現在は東京を離れて、地方に住んで漫画を描いています。夫にはマンガ制作の手伝いをしてもらっています。私は夫婦は、
『働けるほうが、働ければいい』
と思っています」
「もちろん私(暁)もすぐにフルタイムで働くのは無理だとしても、仕事復帰したいと思っています。医療の免許を持っているので、医療関係の仕事に就きたいと思っています。それが今の夢ですね」
病気を抱える2人が結婚して、どのように幸せになったのだろうか?
「やっぱり気持ちが楽になりました。お互いに励ましあえます。
ただまれに、夫婦ともに希死念慮が重なる時があるんですね。そういう時は、気持ちが同調してしまうので大変です。なんとか理性を保って、頑張って生きるほうにシフトしていく感じになります。
お互い闘病はきついですけど、でもそれだけではなく、楽しく生きていますね」
コギ丸さんは、どのような動機で今回の本を出版しようと思ったのだろうか?
「漫画を描くことで、人を救う活動がしたいと思いました。
統合失調症の本ってイメージが悪い本が多いんです。“統失”という略し方にも悪意を感じます。
病気を犯罪と結びつけたり。読んでも病気が怖くなったりするだけの本が多いです。
そうじゃなくて、
『こんな症状があったけど、治療を受けてやりすごしてます』
などポジティブな情報を伝えて、読者の人が、
『この人がこういう風にがんばっているなら、私でもがんばれるかも?』
と思える本にしたかったんです。
同じ病気でも千差万別の症状が出ます。私の本に載っているのはもちろん一例です。でも症状の話だけではなく、
『闘病はきついけど、でも楽しく生きているよ』
というのが伝えたいと思いました。
『この人が、こんな酷い状況になのにがんばれているなら、私もがんばれるかも?』
と楽天的に考えてもらえたらうれしいです」
(漫画:『夫婦でビョーキですが、幸せになってもいいですか?』(ビジネス社))
自覚して対処法がわかればずっと楽になる
実際に自分が病気ではなくても、家族が病気である場合もある。そして本人も家族も病気だと気づいていない場合もある。
「もちろん私たちの症状は数ある病気の中の一例なんですが、参考になるケースは多いと思います。現に、統合失調症の症状をツイッターに投稿したところ、
『これって統合失調症の症状だったんだ!!』
『昔は見えていたけど、最近は見えなくなったな』
など、さまざまな感想のリプライがつきました。精神病でも発達障害でも、自覚してしまえば対処法がわかります。対処法がわかれば生きていくのがずっと楽になります。もし気になることがあったら、一度病院に行ってみてもらいたいですね」
今後、続編を出す予定はあるのだろうか?
「現在、ネタをいろいろ集めています。
最近、私、糖尿病になってしまったんです。だから痩せなければいけなくて……。
『闘病しながらダイエットする』をテーマに描けないか? なんて考えています。同じ悩みを抱えてる人も多いと思うんですよね」
平均寿命は伸びて100歳時代などと言われているが、最期まで病気にならない人はほんの一握りだ。
「もし病気になっても、絶望せずに楽しく生きていこう」
と思えることが大事なのだと思った。
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提供元:統合失調症×うつの夫婦が漫画で描く人生の希望|東洋経済オンライン