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2022.12.03

2年の休職と転職への恐怖、私の心が壊れてから|25歳公務員女性、ハラスメントでうつ休職の後


市役所に勤める地方公務員の恵梨香さん(25歳・仮名)。休職中である現在の心身の状況、またどのようにして回復までの道のりを辿っているのか、そして転職への恐怖心…などを伺いました(写真:Oscar Wong/getty)

市役所に勤める地方公務員の恵梨香さん(25歳・仮名)。休職中である現在の心身の状況、またどのようにして回復までの道のりを辿っているのか、そして転職への恐怖心…などを伺いました(写真:Oscar Wong/getty)

「パワハラが原因でうつ病になった」「職場で受けた仕打ちのせいで人と接するのが怖くなった」「就労が困難になり困窮した」……ブラック企業という言葉が定着して久しい日本社会では、こういった体験を見聞きすることは決して珍しくないだろう。

本連載ではそうしたハラスメントそのものについてだけでなく、まだ十分に語られてきていない「ハラスメントを受けた人のその後の人生」について焦点を当てる。加害者から離れた後の当事者の言葉に耳を傾けることで、被害者ケアのあり方について考えられると思うからだ。

今回インタビューに応じてくださったのは、市役所に勤める地方公務員の恵梨香さん(25歳・仮名)。休職までの経緯を伺った前編に続き、休職中である現在の心身の状況、またどのようにして回復までの道のりを辿っているのかを伺った。

前編 ※外部サイトに遷移します

休職して2年が経過

《前編の振り返り》

恵梨香さん(25歳)は、勤務先の市役所でパワハラおよびセクハラの被害に遭った女性。40代の女性の先輩から衆目の中での叱責、無視、陰口、書類を回さない等の被害を受けるも、事なかれ主義の上司らは対応してくれず。また、部署自体もセクハラのノリが染みついており、業務中、飲み会、会社のLINEグループに至るまで、ずっと下ネタで盛り上がっているような部署だった。さまざまな事が重なった結果、恵梨香さんは重度のうつ病と診断。休職して約2年が経過した。

――職場を離れてから、キャリアの考え方や人生観にはどんな影響があったでしょうか。

今私は休職に入って2年になります。最初の頃は劣等感でつらかったですが、今ではもう、「生きてさえいればなんでもいいや」と思うようになりました。もともとポジティブだったというわけではまったくなくて、いろんなことを諦めて、そう考えるようにせざるをえなかったというのが実状です。

大学の同期と比べるとやっぱり自分の現状に悲しくなりますが、学生時代から公務員になるのが夢で、なりたくてなったのにこんな目に遭ったんだから、どうしようもなかったよなって。

がんばって入った大学にがんばって通って、がんばって就活して受かったところでがんばって働いても、結局こうなっちゃうんだって。本当に何もかもが嫌になりました。以前は計画的にキャリアを積んでいくつもりだったんですけど、一度心が折られてからは生きるので精一杯で、それどころではなくなってしまった。うつが回復してきてからも、がんばってまた働こうという気は起きなくなってしまいました。

――身近な人は力になってくれましたか?

家族とは相談ごとをするような間柄ではなくて、友達や大学の先輩に話を聞いてもらっていました。 みんなの反応は「そんなセクハラありえない」「早く辞めな。もったいないよ」といった感じです。

戻ったらまた同じことの繰り返しになる

――同僚たちが今どのような状況かは把握していらっしゃるでしょうか。

わからないですが、加害してきた先輩は水を得た魚状態なんじゃないかなと思います。私のことを言いたい放題言って回ってるんじゃないでしょうか。それもあって、復職は考えていません。職場に戻ったらまた同じことの繰り返しになるのは目に見えていますし、人事部がまともに対応してくれないこともよくわかっています。

それに、特定の先輩からのパワハラについては形だけ、口頭の注意のみですが一応“対応”がされたいっぽう、部署全体のセクハラ体質については何ら是正がされていないと思います。

パワハラの件を人事部に訴えたときにまとめて部署のセクハラのことを相談したのですが、「まずはどちらの件にしますか?」と聞かれ、なぜか1つずつしか対応してくれなくて。結果的にパワハラの件についての対応だけ見届けて休職に入ってしまったので、セクハラについては人事部から誰にも何も、口頭の注意すらしていないでしょうし、改善はまったく期待できません。

でも、心残りなこともあって。自分がこんな目に遭ったので、私が受けたのと同じような加害をする人が市役所内の別部署にのさばっているのはゆうに想像できるし、問題が起こったときの人事部の対応のひどさを知っているので、きっと同じような被害に遭って追い詰められている後輩がいるんだと思うんです。因果関係を断言することはできませんが、うちの市役所は若い職員がどんどん辞めていっています。

だから、人事部に訴え出た最初の頃は、「後輩たちのためにもこの職場に留まって内側から変えていきたい」という思いがありました。こういうことを経験した自分だからこそ変えられることがあるんじゃないかって。

ただ、熱意を持って取り組んでいたんですが、次第に市役所の目の前のビルから飛び降りることばかり考えるようになって。それで、自分のことをまず第一にしようと考えを改めざるをえませんでした。いくら自分は悪くないとわかっていても、メンタルはダメージを負うんですよね。

――差し支えのない範囲で、休職中の経済状況を伺ってもよいでしょうか。

最初のうちは給与の満額の8割くらい、今では3分の2ほどが支給されていて、なんとか生活はできているといった状況です。でも“なんとか”です。働き始めたばかりでまだもともとの給料が低かったのもあって、かなり苦しいです。公務員である限り副業ができないですし、貯金を崩しつつ、それでも足りないときは持ち物をメルカリで売って足しにしたりしながら“なんとか”生活しています。もしこの2年間ちゃんと働けていたらもっと稼げていたはずだし、キャリアももっと上がっていたはずだと思うと……悔しいです。

転職先でまたハラスメントを受けたら…

――今後の就労についてはどのように考えていらっしゃるでしょうか。

最近ようやくもう一度働こうという意欲が出てきたところなんです。民間企業への転職も選択肢に入れています。というか、すでにいくつか試しに受けてみて、内定を2つもらったんです。どちらも仕事内容に魅力を感じましたし、待遇も今の状況を思えば悪くなかったと思います。でも、直前で怖くなってしまって、結局両方とも辞退してしまいました。

また働きたいと思えるようになりはじめたばかりなので、やっぱりまだ心の準備ができていなくて。そのとき改めて、「働くことがこんなに怖くなるほど自分はひどい目に遭っていたんだ」と再認識しました。

公務員から民間企業への転職って難しいと聞きますし、転職先でまたハラスメントを受けたらいよいよ取り返しのつかないことになるんじゃないかと考えてしまって、転職のことを考えるたび怯えていました。

実際働いているときに上司から「公務員から民間に行ったってやっていけない」と言い聞かされていたのもあって。その係長も下ネタばかり言っている人で、自分の股間の画像を部署のLINEグループに投稿したりしてきたんですが……。仕事上頼りがいを感じるような言葉はまったく出てこず、下品な単語ばかり口走っているのに、部下を萎縮させるようなことは言うんです。

――もし自分と似たような環境にいる人から相談されたとしたら、どんな言葉をかけますか?

もし同じ職場の人から相談を受けたら「こんなところ早く辞めな」って言うと思います。そういう言い方だと余計にかたくなになってしまう人もいるとは思うんですが……。

それに加えて、相手がもし民間企業の方なら、労基に相談するように伝えると思います。経験上、職場の人事部などの相談窓口は、管理職次第でまったく機能していないところも多いんじゃないかと思っていて、それよりは労基のほうが頼りになるんじゃないかと。自分が職場の相談窓口から散々な対応をされたのでそう思っているところはあるんですが。

ただ、何かと理由をつけて動かないでいようとするような対応を繰り返されると、じわじわと追い詰められ、いつか心が折られてしまいます。そうやって不誠実な応答を続けることで相談者が黙るように仕向けているんじゃないかと、不信感が募っていく。なので、相談相手はよく調べて、慎重に選んでほしいです。

末端の人間が声を上げても揉み消されるだけ

あと、これは似たような境遇にいる人に向けた言葉ではないですが、こういった職場環境の問題に関しては、偉い人が動いてさえくれればどうとでもよくなるだろうと常々思っています。私の職場も、きっと市長から何か言われたらすぐに変わると思うんですよ。

でも、私のような末端の人間が声を上げても揉み消されるだけ。なので、それなりの地位にいる人たちには、あなたが動けば大きく変わるかもしれないんだということを胸に留めておいてほしいです。

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――最後に、ハラスメントを取り巻く制度については何か思うことがあるでしょうか。

法的にハラスメントと認められるための条件の見直しはされるべきだと思います。

例えば「安全配慮義務違反」であると認められれば裁判で職場にハラスメントがあったと立証できますが、個人的にはその基準に納得がいかないですし、その他の判断基準ももっと用意されて然るべきだと思います。

そして使用者側について言えば、「安全配慮義務」の詳細な決まりごとを守っていない職場は数え切れないほどあると思うので、それぞれの職場に、もっと法令を順守することに危機感を持ってほしいです。

そうやって社会全体に労働問題に関する知見を根付かせていかないと、すぐ下の世代はもちろん、今の子供たちが将来働く年齢になる頃には、もっとひどい状況になっていると思います。私に加害してきた先輩は2児の母なんです。子供に顔向けできないような問題を社会に残していってはいけないと思います。

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「ブラック職場で夫失踪」救った妻の見事な対応

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提供元:2年の休職と転職への恐怖、私の心が壊れてから|東洋経済オンライン

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