2022.12.05
「死亡者の7割」高齢者の住宅火事を防ぐ4つの対策|「住宅用火災警報器」の更新時期、点検・見直しも
火事の多い季節。どうしたら高齢者の火災を防げるでしょうか(写真:artswai/PIXTA)
今から半月ほど前、元プロ野球投手の村田兆治さん(享年72)が火災で亡くなった。空気が乾燥しているこれからの時期は、暖房器具のつけっぱなしなど火の元の不始末から火災になるケースが増える。
とりわけ高齢者の住宅火災は逃げ遅れに時間を要するとされ、最悪の事態につながりかねない。どうしたら高齢者の火災を防げるのだろうか。高齢者の住宅火災の背景と、子・孫世代が知っておきたい予防策を紹介する。
11月11日の午前3時ごろ、東京都世田谷区成城にある村田兆治さんの自宅で火の手が上がった。2階部分が激しく燃えており、近所の住民が119番通報。村田さんは2階リビングの隣室の床に座った状態で発見され、搬送先の病院で死亡が確認された。警視庁によると、死因は煙を吸ったことによる一酸化炭素中毒とみられる。
火災が最も多いのは2月
空気が乾燥し火災が増える冬。総務省消防庁のまとめによれば、全国の昨年の火災の月別出火件数は、12月が2983件、1月が3675件。2月は最も多い4170件で、3月は3455件、4月は3901件となっている。ちなみに最も少ない9月は2031件どまりだ。
村田さんのケースでもわかるように、住宅火災によって亡くなるリスクが高いのが高齢者であり、それを裏付けるデータもある。総務省消防庁がまとめた「平成30年版 消防白書」によると、過去5年間で毎年約1200人の命が火災によって失われているが、その約70%が65歳以上である。
関澤愛 東京理科大学教授作成
高齢者が亡くなるケースがなぜ多いのかについては後述するとして、まずは近年の住宅火災の傾向について紹介したい。
住宅火災の出火原因にはいくつかあるが、放火を除くと、「コンロ火災」「たばこ火災」「ストーブ火災」が上位を占める。
コンロ火災は住宅火災の出火原因の1位で、大半はガスコンロによるものだ。2008 年にガス事業法などの改正により、家庭用のガスコンロのすべてのバーナーに「調理油過熱防止装置」の搭載が義務づけられた。加えて、ガス業界の自主基準として「コンロ・グリル消し忘れ消火機能」などが設けられた。これらの対策の成果で、出火原因の1位ではあるもののコンロ火災の件数そのものは減少し続けている。
たばこによる火災は、住宅火災の出火原因で2位。これも喫煙人口の減少に伴って減少傾向にあるといえる。
誤った使い方で火事に
ストーブ火災は住宅火災の出火原因の3 位。こちらは増えたり減ったりを繰り返している状態だ。ストーブなど暖房器具は1950 年代まで石炭などの固形燃料が使われていたが、1960年代に石油ストーブが代表的な暖房器具となり、その後はガスストーブ、電気ストーブに移っていった。電気ストーブや電気こたつでは、誤った使い方が火災につながっていることがわかっている。
実際、消費者庁に寄せられた事故事例を見ると、「電源を切ってから電気ストーブの上にバスマットをかけていたところ、発煙発火し周辺を焼損した」や、「電気こたつ布団を卓(テーブル)の中に入れてスイッチを入れておいた。10分ほどしてから中に入ろうとしたら熱くなっており、こたつ布団が焦げていた」、「10年ほど使用したこたつから、使用中に焦げた臭いがしたのでこたつの中をのぞいてみたところ、ヒーターユニットの下のこたつ敷きが3センチほど焦げていた」など、重大な火災につながる事例が挙げられている。
では、主な出火原因が減少(傾向)にあるなかで、火災に遭った高齢者が命を落とすケースが多いのはなぜなのだろうか。火災・防災が専門の東京理科大学の関澤愛教授は4つの要因を挙げ、「これらの理由から、高齢者が火災に遭うと逃げ遅れて命を落とすことにつながりやすい」と話す。
■被害が大きくなる高齢者特有の火災要因
出火危険:使っている器具が使い慣れた古い器具が多く、安全性の低いものも多い
延焼危険:生活がおっくうになり、周囲に多くの物品を置いて密な生活を送っている
避難危険:火災に気づくのが遅れ、また気づいてもとっさの危機回避行動が遅い
介助条件:高齢者のみ世帯、あるいは一人暮らしが多く、手助けする人がいない
まず、出火危険についてだが、関澤教授は、高齢者になると慣れ親しんだもののほうが使いやすいため、経年劣化などにより故障のおそれのある安全性が低い暖房器具を使い続けているケースが多いと説明する。
「実際、若い世代がほぼ使わないであろう電気ストーブや石油ストーブを高齢者は使っていることが多く、可燃物が触れたときに火事になりやすいのです」
延焼危険は、燃え広がるリスクのこと。万が一、出火しても周りに燃え広がるものがなければ大きな火災を免れることはできるが、「歳をとると動くのがおっくうになり、周囲にものを置いて密な生活を送っていることから、火が燃え広がりやすい状況になっている」(関澤教授)という。
「例えば、こたつの周りに電気ストーブを置き、衣類も周辺に雑多に置いているのが、1人暮らしの男性に多くみられるパターンといえるでしょう」
そして、避難危険。近年の高齢者は昔に比べて元気で、体力的もある。だが、やはり歳をとるほど心身の機能が衰えてくる。
「身機能が衰えがちな高齢者は、危険に対するとっさの反応が鈍くなり、結果的に逃げ遅れて煙を吸って命を落としてしまうのです」(関澤教授)
こうした3つのリスクを防ぐのが、家族や地域など周囲との支援になるが、独居が増え、さらに孤立化した社会ではリスクを回避するためのサポートが行き届きにくい。とくに認知症やマヒなどがある高齢者では、手助けをする人がいなければ逃げ遅れにつながる。
「1つ付け加えておきたいのは、割合から見ると高齢者の比率は高いですが、高齢者の火災による死亡率はこの30年で半減しているのも事実です。石油ストーブからエアコン、ガスコンロがIHに変わるなど、器具の安全化が進んでいるからでもあり、また高齢者が昔よりも元気で、火災に遭っても逃げられる体力が残っていることも一因です」(関澤教授)
住宅火災を防ぐポイント
火災の件数が減少傾向にあるとはいえ、一度住宅火災が起これば、近隣の住宅まで延焼する恐れがある。家族として、また地域としてどうすれば高齢者が起こす住宅火災を防げるのだろうか。関澤教授は4つのポイントを挙げる。
(1) 事後対策から事前対策へ
(2) 防火・防災に特効薬なし 王道なし
(3) お年寄りを大事にする 家族・社会のサポートを
(4)防火・防災の観点だけでなく体力・健康・福祉・住環境向上との組み合わせを
「何より大事なのは事前対策。『どうしたら出火させないか』という観点で、火災を防ぐための備えを万全にすることが大切です。そのためには、高齢者にやさしい(使い勝手のよい)暖房器具や、住宅用火災警報器(火災により発生する煙を感知し、音や音声により警報を発して火災の発生を知らせてくれる機器)などの防災機器を普及させることが課題です。また、離れて暮らす親の火災リスクを減らすための定期的な声がけや、安全性の高い暖房器具を買ってあげることも有効策の1つだと考えられます」
と関澤教授。そういう意味では子どもや孫の役割も大きい。
実家への帰省や祖父母の家に行ったときは、火事のリスクになりそうな問題点はないかをチェックしたい。そのうえで、いまだに安全性の低い暖房器具を使っているようなら、エアコンやIHのコンロなど、安全性の高い暖房器具をプレゼントするというのも良いアイデアではないだろうか。
さらに、これはなかなか難しいケースもあるが、認知症やマヒなどの病気で火災リスクが危惧される場合は、親との同居や介護施設への入居など、住環境そのものを変えることも考えたほうがいいという。
「地域では、近隣のコミュニティーが重要な役目を果たします。1人暮らしの高齢者への訪問での呼びかけなど啓発を怠らないことが大事です。地道で多様な努力の合わせ技で、火災のリスクを減らすことができます。なにより、体力に自信のあっても高齢者は過信せず、もしもの火災に備え、避難のシミュレーションをしっかりとしておくようにしましょう」
住宅用火災警報器の更新時期
最後に、火災の予防対策でいえば、2008年から既存住宅にも住警器の設置が義務付けられており、これも火災の減少に一役買っている。ただこの住警器の設置に関していえば、見逃せない重要な問題点がある。
「住警器設置義務化から14年が経過しており、住宅用火災警報器の更新時期に来ています。電池だけでなく機器自体の更新は10年が一応の目安ですので、購入時期をチェックして10年以上経過している場合には機器そのものを新しいものと交換することをおすすめします」(関澤教授)
住宅用火災警報器(写真:kker/PIXTA)※写真はイメージです
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提供元:「死亡者の7割」高齢者の住宅火事を防ぐ4つの対策|東洋経済オンライン