2022.11.23
加齢によっても起こる「網膜剥離」のメカニズム|受診をせずに放置すると失明につながることも
網膜剥離は、加齢によっても起こる疾患といいます(写真:kei.channel/PIXTA)
私たちの視覚を支えている眼という器官は、小さいながらさまざまな繊細な組織が組み合わさっており、カメラに例えられることがあります。なかでも網膜はいわゆるフィルムの役割を担っており、視細胞という視力に関係する細胞が並んでいます。しかし、これが何らかの原因で剥がれることがあります。これは網膜剥離と呼ばれ、視力低下や失明につながる重要な疾患です。網膜剥離の日本人の発症頻度は1万人に1人程度と言われており、加齢によっても起こりうる疾患であるため、決して他人事ではないといえます。
網膜剥離とはどういう疾患なのか
通常、網膜は眼球の内側にぴったりと張り付いていますが、何らかの原因で網膜に穴(裂孔)が開き、そこから薄皮が剝がれるように網膜が浮いてしまうことを「裂孔原性網膜剥離(れっこうげんせいもうまくはくり)」とよびます。
裂孔原性網膜剥離の原因、すなわち網膜に穴が開く原因としては、眼の打撲など怪我による刺激のほか、アトピーの症状が強い方も、痒みで目の周りを過剰に掻いたりこすったりすることが刺激となるため要注意です。強い近視の方は眼の前後の長さが長くなってしまう傾向にあり、これに伴って網膜が引っ張られて剥離を起こす場合があります。
また、網膜剥離は加齢によっても起こります。眼の中は本来、硝子体というゼリー様の物質で満たされていて球体を保っていますが、硝子体は50~60歳頃から少しずつ縮みながらサラサラの液体に自然と変化していきます。硝子体が縮むときに、網膜が一緒に剥がれてきてしまい、穴が開くことで網膜剥離が引き起こされるのです。
症状は気づかれないまま進行する
症状は飛蚊症や、光視症という目を閉じてもチラチラと光が見える、暗いところで雷のようなピカッとした光が見える現象が特徴的です。視力低下や視野の障害は進行するまで気づかれないことも多いため、自分では問題なく見えていると思っても、上記のような気になる症状があれば早めに近くの眼科を受診しましょう。
診断は眼底検査という、網膜の写真を撮る検査で比較的容易に診断できます。治療は基本的に手術であり、レーザーで網膜を焼き固める「網膜光凝固術(もうまくひかりぎょうこじゅつ)」または網膜の穴を塞ぐようにガスなどを眼の中に注入し、その圧力で剥がれた網膜を眼の内側に押し付けて固定させる「硝子体手術」がメジャーな方法です。
網膜光凝固術は外来で10分程度で行うことができる比較的簡便な手術ですが、発症初期にしか適応がありません。硝子体手術は眼の局所麻酔による手術であり、入院が必要です。手術自体は1時間程度で終わりますが、ガスは空気より軽いため、網膜を固定するために1週間程度うつ伏せの姿勢を続ける必要があります。これらの手術で基本的には治療が可能ですが、中には複数回手術が必要になったり結果的に失明につながる場合もあり、早期発見・早期治療が大切な疾患といえます。
網膜剥離は穴が開く以外の原因で起こることもあります。1つは牽引性(けんいんせい)網膜剝離とよばれ、糖尿病が主な原因となる疾患です。網膜の血管は本来網膜に酸素を届けていますが、糖尿病の進行によって、網膜の血管が傷ついて詰まってしまいます。すると、そのままでは網膜が酸素不足になってしまうため、これを補おうと網膜に新しい血管(新生血管)が伸びてきます。
これは一見、良いことのように思えますが新生血管は急ごしらえの血管のため破れやすく、また血管が伸びるときに周りの組織を引っ張りながら進むため網膜が剥がれることがあるのです。進行すると失明に至ることもあります。
もう1つは滲出性(しんしゅつせい)網膜剥離と呼ばれ、網膜のすぐ下に水が溜まってしまい、網膜が浮き上がるために剥がれてしまう疾患です。これは主にぶどう膜炎という眼の炎症によって起こります。
網膜剥離の原因は複数ある
このように種々の原因がある網膜剥離ですが、糖尿病によるものやアトピーによるものであればその疾患自体を予防・治療すればよいものの、加齢や近視に伴うものについては有効な予防方法は残念ながら現状ありません。また網膜剥離は遺伝する場合もあります。したがって飛蚊症など気になる症状がある方や、ご家族に網膜剥離を起こした方がいる場合は特に、定期的に眼科で眼の様子をチェックすることが重要です。
眼科疾患は患者さん本人が「どのように見えづらいか」を医師が正確に把握することがとても重要であり、些細なことと思っても遠慮なく伝えましょう。ポイントとしてはいつ頃から症状があるのか、どのように変化したのか(悪くなった、他の症状がでてきたなど)を整理して伝えていただければと思います。
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また、眼底検査など光を当てて写真を撮る際、眩しさのあまり顔を背けたりキョロキョロと眼を動かしてしまったりする方がいらっしゃいますが、少しの動きで写真の角度が大きく変わってしまうため、できるだけ1点を凝視するようにしましょう。遠くをすこし睨むように力を入れて見つめると眼の位置が固定されやすくなります。ただ、つらいときは遠慮せず医師や検査技師に伝えましょう。眩しさを抑える目薬を点眼する、少し休んでから再検査することも可能です。
定期的な眼科健診によって、網膜剥離など治療が必要な疾患をいち早く見つけることで、いくつになってもクリアな視界を保っていただければと思います。
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提供元:加齢によっても起こる「網膜剥離」のメカニズム|東洋経済オンライン