2022.11.22
孤立が平気な人こそ実は「メンタルに注意」なワケ|慢性的な疲労や寝つきの悪さはありませんか?
日々のストレスがメンタル不調にまで発展するには、2つの要素が関わっているといいます。『マンガでわかる 休職サバイバル術』©加藤高裕・ミヨシ/主婦の友インフォス
2020年の厚生労働省 『患者調査』 によると、精神障害の患者数は600万人を超え、 約10年前と比べてもほぼ倍増しています。2021年の同省 『労働安全衛生調査(実態調査) 』 では、労働者の2人に1人以上が、仕事で 「強い不安やストレスとなっていると感じる事柄がある」と回答しています。
心身の休養が必要な人でも、「休職をしたら、キャリアが損なわれる」「家族に心配をかける」「同僚に色眼鏡で見られるかもしれない」「収入がなくなったら、生活できない」などの不安から、休まずに働き続けているという方も実際にいらっしゃると思います。
日本で5%しかいない“精神科”産業医で、精神科医として自身のクリニックで患者に寄り添う傍ら、大手企業をはじめ産業医として復職成功率9割の実績を持つ加藤高裕氏は、「会社には、万が一のときのセーフティネットがあり、セカンドチャンスもある」と言います。同氏の新著『マンガでわかる 休職サバイバル術』より一部抜粋し再構成のうえ、本稿ではメンタル不調を招く要因について解説します。
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メンタル不調を招く「つまずき」と「こじらせ」
日々のストレスがメンタル不調にまで発展するには、2つの要素が関わっているようです。私はこれをよく「つまずき」と「こじらせ」と表現しています。
繊細で気がつきやすい人ほど、つまずきやすい。
「つまずき」とは、ひと言でいえば不安に対する耐久力です。繊細でいろいろなことに気がつきやすい人は、多くの人が無視できるほころびを実際以上に大きく感じてしまったり、小さなトゲに引っかかって痛みを感じたりしやすい傾向があります。
例えば、ある朝、同僚に挨拶をしたのに返事がなかった。彼はイヤホンをしていて挨拶に気がつかなかったのかもしれない、このあとのアポイントのことで頭がいっぱいであなたのことが見えていなかったのかもしれない。あるいは、恋人とケンカ中で虫の居所が悪かっただけかも。
でも、ここで「避けられている」「嫌われているのかも」という不安が持ち上がると、朝の出来事はその日一日中、どんよりと心に暗い影を落とすでしょう。
つまずきやすさは、心の免疫力とも言い換えられるかもしれません。多少の失敗、ゴタゴタ、トラブルがあっても、心の免疫力が高ければ「どうにかなるでしょ!」と受け止めて、前に進むことができます。落ち込むことがあっても、軽い風邪程度。一晩寝れば気分も持ち直して、引きずることはありません。
『マンガでわかる 休職サバイバル術』©加藤高裕・ミヨシ/主婦の友インフォス
一方、免疫力が低いと、感染力の弱いウイルスにももれなくかかって、しょっちゅう熱を出してしまう。
例えば、同僚や取引先の仕草や言葉尻を敏感にとらえて「面倒なやつと思われている気がする」と心配したり、プロジェクトの軌道修正が必要になると「シミュレーションが足りなかったせいだ」と自分を責めてしまったり……。こんなふうにあちこちで気持ちをアップダウンさせていたら、心が疲弊してしまうのも当然です。
強すぎる自己愛が「こじらせ」の原因に
風邪をひいたら、まずは暖かくして消化のいい食事をとり、ゆっくり眠るのがいちばんです。ところが、風邪気味なのに遅くまで残業して、週末はサーフィンを敢行! 熱が出ても、「たいしたことない」と、いつも通りの生活を続けていたらどうなるでしょう。
メンタル不調に陥る「こじらせ」は、風邪に対するこんな対応にも似ています。適切なケアをしないばかりか、さらに無理を重ねて、軽い風邪を肺炎にまで進行させてしまう。
ストレスフルな状況にあっても、休息したり、ストレスを避けたりすることをよしとしなかった結果、心身の限界を超えてしまった状態が「こじらせ」です。こじらせによる傷は深く重くなりがちで、治療にも時間がかかるケースが少なくありません。
こじらせる要因のひとつに、強すぎる自己愛が挙げられます。自分の体力、能力、キャパシティを過信している人は、自分から助けを求められないだけでなく、周囲のフォローや助言を拒絶しやすい傾向があります。
さらに、自己評価と周囲からの評価のギャップに苦しむことも。自分を愛することは大切ですが、過度に自分を甘やかしたり、実際以上に高い評価をするのは危険なのです。
周囲の支援を得られない状況が、こじらせを生む場合もあります。
「孤立傾向の強い立場、職場でのポジション」「裁量の少ない仕事内容」「連続する偶発的な失敗体験」は、メンタルをこじらせやすい要注意ファクターと言われています。
例えば、管理職になったり、子会社に出向したりしたことを契機に、それまで生き生きと働いていた人が急にメンタルダウンするケースは珍しくありません。
裁量が少ない仕事、職種では、キャパシティ以上の仕事を任されて押しつぶされてしまったり、逆に能力が発揮できずに悩むことも。「今は上の言うとおりにやるしかない」と割り切れればいいのですが、スパッと切り替えられる人ばかりではありません。
『マンガでわかる 休職サバイバル術』©加藤高裕・ミヨシ/主婦の友インフォス
「飛び込み営業で全敗した」といった体験も、こじらせにつながりやすいファクター。単なる仕事上の失敗ではなく、自分が全否定されたと感じることのつらさ、怒り、イライラは強大です。「就活うつ」も、このタイプのこじらせの典型例といえるでしょう。
こじらせによるメンタル不調を防ぐには、まず、自身のこじらせやすさを自覚すること。そして、「風邪のひきかけに無理をしない」ようにすることが重要です。
日々のストレスの中で「つまずき」を感じたら 「こじらせ」ないようにしっかり休息をとろう
孤立が苦にならないタイプも「孤独」には要注意!
多様な働き方が浸透してきた今、会社に所属しながらも、在宅ワークやサテライトオフィスでの仕事が中心で、チームメンバーとリアルに顔を合わせる機会がなかなかない、という人も増えています。
以前ならば、仕事の合間を見て気軽に相談できたことも、オンライン中心の働き方では勝手が違います。画面越しやメールでの相談では、なんとなく温度感が伝わらない、と感じている人も少なくないでしょう。「わざわざこの程度のことで、オンラインミーティングの時間をもらうのは申し訳ない」と、遠慮してしまう人もいるようです。
コミュニケーションがとりづらくなって、必要なフォローが不足したり、相談が滞りがちになったことから、不安を募らせてメンタル不調を発症する若手社員も多くいます。
その一方で、むしろ自分のペースで効率的に進められると歓迎する人たちもたくさんいます。「孤立」が苦にならず、自走型で仕事を回せる人たちです。逐一管理されずとも、自己調整しながら、効率よく進めることができるため、かえって生産性が上がったという事例も多いようです。
しかし、そんな「孤立上等」の人たちにとっても怖いのは、「孤独」です。
孤立は物理的・環境的に一人であることを指しますが、孤独は心理的に一人であることを意味します。よく「ぼっち」なんて言葉が使われますが、これもまさに孤独状態を表す表現のひとつ。
業務は一人でサクサク進められたとしても、その成果物を誰にも評価されなかったり、放置されたり、あるいは「期待していたものと違う」と非難されたり……。こうしたことが起こると、物理的な孤立ではなく、心理的な孤独感が強まります。
誰にも理解してもらえない、寄り添ってくれる人がいない、周囲が敵だらけに見える。出勤して顔を合わせていれば、「先日提出したアレ、どうでしたか?」とさりげなく聞けることも、リモートワークではままなりません。孤立によって孤独感はさらに深まり、悪循環に陥るのです。
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自走・自律型の優秀な人であっても、こうしたコミュニケーションロスからメンタル不調を発症することもあるのです。孤立はしても、孤独にはならないようにする。これは、日頃から心がけたいポイントです。
こんな症状があったら要注意!
体の病気と同じく、メンタル不調も早期発見・早期治療が大切です。メンタル不調は必ず治りますが、放置してこじらせてしまえば、それだけ治療期間が長引き、仕事やプライベートにも影響を及ぼします。
慢性的な疲労や寝つきの悪さ、食欲不振、頭痛、会社に行こうとすると腹痛が起こる……。こうした症状は体からのSOS、受診が必要なサインです。いつもと違う自分に気がついたら、早めに上司や家族、友人、保健師、産業医に相談しましょう。
早めに相談すれば、業務量を減らす、しばらく定時退勤で様子を見るなど、働きながらストレスから遠ざかるような対策をとることもできます。
同時に、精神科や心療内科を受診して治療をスタートすることで、休職が必要なほどの不調を予防し、早めに本来のパフォーマンスに戻していくことも期待できます。
〈受診の目安チェックシート〉
□寝つきが悪い、途中で目がさめる、または逆に眠りすぎる
□寝ても疲れがとれない
□あまり食欲がない、または食べすぎる
□適性がないので、仕事をやめたいと思う
□欠勤、遅刻、早退が増えた
□頭痛、腹痛、下痢、肩こりなどの症状に悩まされている
□ミスが増えた。作業能率が落ちている
□新聞や本を読んだり、テレビを見ることなどに集中できない
□他人が気づくくらい動きや話し方が遅くなった。あるいは反対に、そわそわして落ち着かず、普段より動き回るようになった
□悩みや心配事が頭から離れない
□物事に対して興味がない、楽しめない
□気分が落ち込む、憂うつになる、または絶望的な気持ちになることがある
□死んだほうがマシだと思うことがある。あるいは、自分を何らかの方法で傷つけようとしたことがある
2個以上当てはまるときは、精神科や心療内科の受診を検討しよう。
昨今、企業が取り組むべき課題として、「健康経営」という言葉がよく聞かれるようになりました。従業員の健康増進に努めて働きやすい環境をつくり、働きがいを高めていくことが、社員一人一人のウェル・ビーイングな生き方にもつながり、同時に企業の成長・発展にも寄与するという考え方です。
健康経営の推進には、企業のトップがその重要性を認識し、社員に対しても意思表明することが必要です。そして、産業医や保健師、衛生管理者等の産業保健スタッフの確保など、心の健康づくりの体制を整備していくことが求められます。
管理職層の人は「いつもと違わないか」をチェック
現在、労働安全衛生法に基づき、従業員が50人以上規模の事業所では毎年1回、ストレスチェックを行うことが義務づけられています。厚生労働省が提供する「職業性ストレス簡易調査票」などを用いて従業員のストレス度を測り、強いストレスを抱えている人がいれば、産業医や保健師との面談の案内、専門医の紹介を行います。
さらに、社外の電話相談窓口との契約などで、複数のヘルプラインを用意することも、従業員の休職、離職のリスクの低減につながります。
ストレスチェックの活用と併せ、普段から風通しのよい職場環境を整備していくことも大切です。メンタルダウンの原因は職場だけとは限らず、手厚い対策をしていても、不調を抱える社員が出ることもあります。
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そんなときも、早めに不調の芽に気づければ、重症化する前にケアをすることができます。ポイントは「いつもと違わないか」というシンプルな視点です。
いつも時間に余裕を持って行動していた人が、遅刻しがちになった。
メールの返信が早かった人のレスポンスがやたら遅くなった気がする。
以前は絶対にそんなことはしなかったのに、会議で居眠りすることが続いている。
管理職層の人は、部下にこんな変化が見られたら、「最近、疲れているようだけど、変わったことはない?」などと声をかけることを意識しましょう。ポイントは、「対面での接点」と「少人数でのコミュニケーション」です。
短時間でもいいので、定期的に上司と部下の個人面談の機会を設けたり、一緒にランチに行ったりするのもよいでしょう。悩みや不安を話せる空気感を醸成していくことも、健康経営時代のマネジメントの重要な課題です。
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提供元:孤立が平気な人こそ実は「メンタルに注意」なワケ|東洋経済オンライン