2022.11.04
「がんを告知された人」の苦痛を取り除く緩和ケア|「医療用麻薬」は“末期"に限らず使用できる
緩和ケアのあり方も、時代に応じて変化してきていることはご存じですか(写真:Ushico/PIXTA)
医学の進歩によって悪性腫瘍(がん)や難病と闘うための治療の選択肢は日々増えつつあり、同時に疾患と付き合っていく年数が長くなる傾向にあります。その中で、緩和ケアという言葉が広く認知されるようになってきています。
緩和ケアは時代に応じて変化してる
「緩和ケア」と聞くと「がんの終末期に行われるもの」というイメージを持たれる方が多いですが、緩和ケアのあり方は時代に応じて変化してきており、現在はあくまで心身の苦痛を和らげることを目標に、病気の進行具合や重症度にかかわらず、患者本人と家族のケアのために行われる医療のことを指します。特に、がんについては「包括的がん医療モデル」という、がんの診断時から治療と緩和ケアを並行して医療提供をすることがすすめられています。近年は心不全等にも緩和ケアをすすめる動きが出てきていますが、今回はがんにフォーカスしてお伝えしたいと思います。
がんにかかった人が苦しい、つらいと感じるとき、その苦痛は人それぞれです。身体の痛みそのものが苦しいと感じる方もいれば、死への恐怖から心のつらさを感じる方もいます。治療が長引けば社会復帰への不安や、金銭面の心配を訴える方もいます。このように、さまざまな要因が組み合わされたヒトの苦痛はトータルペイン(全人的苦痛)と呼ばれ、大きく以下の4つに分けられます。
身体的苦痛:痛み、だるさ、息苦しい、日常生活動作の支障
社会的苦痛:仕事上の問題、家庭内の問題、経済的な問題
精神的苦痛:不安、恐怖、怒り、孤独感、うつ状態
スピリチュアルペイン:人生の意味、自責の念、死生観に関する悩み
これらの苦痛は相互に関連しており、つらさを軽減するためにはひとつの側面だけでなく多面的なケアが必要といえます。
これらすべてのつらさを同時に軽減することは難しいですが、がん患者の7割以上は身体の痛みを経験しており、まずは身体的苦痛を和らげることが効果的であるといわれています。がんの疼痛はゼロにすることは難しいものの、軽減が可能です。確かに、症状のひどい方は鎮痛薬を飲んでもすぐに痛みがぶり返します。薬を飲む間隔が何時間おきと決まっているため次の薬まで痛みを我慢せざるをえず、長期間つらい思いをしている方もいらっしゃいます。
がんだから痛みは仕方ない?
しかし、このような方々はがんにかかっているのだから痛みは仕方ないと医師側とのコミュニケーションを諦めて痛みを相談していないケースもあり、医療用麻薬という選択肢が残っている場合があります。医療用麻薬は他の鎮痛剤よりも効果が高く、痛みの強いときにいわゆる頓服で使用すること(レスキュー)が可能です。
ただ、いくら医療用と説明されても、やはり麻薬と聞くと抵抗感を覚える方は少なくありません。副作用の強さや依存性への心配に加え、麻薬を使用することで寿命が短くなる印象を持つ方もいらっしゃいますし、麻薬を使うほど自分は末期なのだと思われる方もいます。しかしこれらのイメージはすべて誤解です。まず副作用はどの薬にも存在し、医療用麻薬にも悪心・嘔吐、便秘、眠気といった副作用が確かにありますが、これらの症状を対策できる薬も一緒に処方されるほか、症状も数日〜数週間で消失することが多いとされています。
また、医療用麻薬の使用によって予後(疾患による残りの寿命)に違いはなく、がんの進行度ではなくその人自身の痛みに応じて使っていくものです。
がんによる痛み以外の身体的苦痛は呼吸困難や吐き気が代表的であり、これらは少しの工夫で和らげることができます。例えば呼吸の苦しさは室温を下げること、窓を開けたり扇風機をつけたりして空気の流れを良くすることで軽減できます。吐き気に対しては衣服をゆるめ、またこまめな口腔ケアを行うほか、少量の冷水や氷によって口腔内の潤いを保つことも効果的です。ストレスも吐き気につながる場合があるため、自分の好きな音楽や香りによるリラックス方法もあります。香りについては柔軟剤や香水、生花の強い匂いはかえって吐き気を強めるため、本人の感覚を大切にし、家族や同室する方は普段以上に気をつけましょう。
精神的ケアも緩和ケアの一環
精神的なつらさは長い闘病生活によるものもありますが、実はがんの診断直後に自殺リスクが高いという統計があります。人間は悪い知らせを受けた時、否認や怒り、うつ状態を経て徐々にそのショックを受容する(キューブラー=ロスの死の受容プロセス)ようになっていますが、受容に至る前に行動を起こしてしまうことが原因とされています。
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とくに独り暮らしの方、もともと神経質や抑うつ傾向の方、また若い世代の方は悪い知らせに対するショックが大きいとされています。どのような形でもよいため自分の気持ちを吐き出せる場を作りましょう。
がんに対する不安から不眠や倦怠感(だるさ)を訴える方はとても多くいらっしゃいます。抗精神病薬で一時的に気持ちを落ち着かせることはまったく特別なことではなく、自分だけがつらいと抱え込まず、精神科に早めに相談することも大切です。
がんは手術で切除できなかった場合、薬物療法や放射線療法で長い期間向き合わなければならない疾患です。しかしだからこそ、緩和ケアによって少しでも日々の苦痛が取り除かれ、よりよい予後となればと願っています。
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提供元:「がんを告知された人」の苦痛を取り除く緩和ケア|東洋経済オンライン