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2022.10.18

がん患者でも仕事を続けたほうがいい絶対的理由|治療費の問題だけじゃない、働くことの意味


仕事を続けながらがん治療ができる時代、「仕事」と「医療費」、気になる「先進診療」について専門医が解説します(写真:freeangle/PIXTA)

仕事を続けながらがん治療ができる時代、「仕事」と「医療費」、気になる「先進診療」について専門医が解説します(写真:freeangle/PIXTA)

この病院でいいのか、この治療法でいいのか、受けている治療がうまくいっていない気がするが、誰に相談すればいいのか……。そんな不安がつねにつきまとうのががんという病気です。

たとえ同じ治療をしていても「効果が上がりやすい患者さんには多くの共通点がある」と、抗がん剤治療の名医である井岡達也氏は分析します。それはいったい何でしょうか?

治療法の選択、主治医を味方にする話し方からお金の使い道など……。後悔のない治療をし、効果を最大限にするために患者側でできることを親身かつ具体的にアドバイスする同氏の新刊『がん治療 うまくいく人、いかない人』より、抜粋してお届けします(2回目)。

1回目:もしもがんに…「治療効果を上げる」告知の受け方

『がん治療 うまくいく人、いかない人』 クリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします

もしもがんに…「治療効果を上げる」告知の受け方 ※外部サイトに遷移します

がん治療はお金がかかるが…

多くの医師や看護師は、あなたの手術や抗がん剤治療にどのくらいの費用が必要なのか、ほとんど知りません。

医療者はコスト意識が低いといわれれば弁解できませんが、医療者が患者さんの治療費負担について細かい配慮をしなくても、国民皆保険制度と高額療養費制度の2つの制度のおかげで、わが国では経済的理由で治療をあきらめる患者さんが少ないのも事実です。

保険診療として認可された治療であれば、自己負担は1割から3割で、全額を支払う必要がありません。また、高額療養費制度は、自分の年齢や世帯所得に応じて、一定金額を超えた自己負担分が払い戻されるという制度です。事前に届けておけば、最初から限度額を超えた分を支払う必要がありません。

ひと昔前と比較して、がんでも長期入院することが少なくなりましたが、抗がん剤治療は長期間に及ぶこともあります。抗がん剤は決して安くないので、高額療養費制度の限度額にはつねに達する可能性があります。働きながら治療を継続できるならよいのですが、体調不良で仕事を辞めなければならないとなると、やはり少なくない医療費の負担が患者さんの上にのしかかってきます。

もしがんになった場合を想定するならば、個人で加入する保険の見直しや、一定額の貯金をしておく必要はあると思います。会社員や公務員は休職しても、ほとんどの方が一定額の給料を保証されるでしょう。しかし、自営業やアルバイトでは、そうはいかないからです。

がんと診断されると、治療に専念しようと決心して、勤務している会社に退職願を提出してから、私の病院を受診する患者さんが少なからずいます。そういう患者さんに対して、私は「ちょっと待って! 撤回できるなら撤回して」とお願いします。

理由は、多くの治療が週1回より頻回に受診する必要がなく、自宅で寝込むほどの副作用もないので、とくに壮年の男性は退職してしまうと、突然暇になってしまい、一日中、がんのことしか考えなくなってしまうからです。

一方、仕事の都合で治療のスケジュールを大きく変更することも避けてほしいと思います。そこまで治療を後回しにして仕事を優先しなくても、働きながらがんの治療を続けることはできます。多くの患者さんが、仕事と抗がん剤治療を両立できていますし、それが可能でなければよい治療とはいえません。

治療の様子を見る休職にする

治療にはお金が必要ですし、いったん退職すると、がんの治療中では、再就職はなかなか難しいでしょう。まずは、休職して様子を見ることが肝要です。医師が発行する診断書があれば、休職を許可しない上司や雇用者はいません。医師の発行する診断書は、こういうときには絶大な力を発揮します。

検査入院なのか、あるいは続けて外科手術を予定しているのかなどによって、休職を必要とする期間はまちまちですので、入院を指示された際に、予想される大体の期間を必ず主治医に確認してから上司に伝えましょう。電子カルテを採用している病院では、診断書の発行も以前に比べて非常に簡単になっています。遠慮せず、主治医に依頼しましょう。

上司の中には、療養に専念したほうがよい、と退職を暗に勧める方もいるようです。しかし、ここで簡単に退職してはいけません。「主治医や家族と相談してからお返事します」と明言は避け、絶対に即決しないでください。

確かに、短期的には職場の皆さんに迷惑をかけるかもしれません。しかし、迷惑をかけても「お互いさま」と考えれば、少しは気が楽になるはずです。

どんな人でも、急にがんと診断される可能性があるのです。好きでがんになる人はいません。日本はすばらしい国ですから、みんなで助け合う「お互いさま」の精神が残っているはずです。国民の半数がいつかはがんになる時代、元気に職場に復帰して、会社の同僚ががんになったときに、今度はあなたが支えてあげてください。

主治医からの診断書を会社に提出しても、上司から退職を勧められるようなことがあれば、会社の産業医と面談すべきです。会社に産業医が常駐しているような大企業や官公庁の場合、面談の予約は比較的容易ですが、中小企業の場合は産業医資格を持った開業医に委託していることが多いようです。

ただ、産業医の資格を持っていても、通常は普通の外来診療をされている開業医の場合は経験に乏しいことがあり、私も驚くような初歩的な問い合わせを受けた経験があります。

いずれにしろ、主治医と緊密に相談しながら対応すれば、がんになったことを理由に退職させられることはありません。

がん治療について調べていくと、標準治療とは別の治療として、「治験」や「先進医療(注)」という言葉に出合うことになると思います。

治験は厚生労働省の監督のもと、この先の保険適用を目指し、新しい薬や治療法などの効果や安全性を確認するために、患者さんに参加してもらって行う臨床試験のことをいいます。試験なので抗がん剤などについて治療費は発生しません。治験で十分な結果が出て、厚生労働省の承認が得られれば、数年後には日本全国で保険適用になります。

治験には、製薬会社などの企業が主体となって進める試験と、医師が主体となって進める試験がありますが、最近は企業が主体となって行われる場合が多いです。治験に参加する患者さんの経済的負担を軽減するため、採血やCT検査など治験中の医療費の一部も、治験を依頼する企業や医師が負担します。

一方、先進医療も厚生労働省の監督の下に行われるものですが、少数の患者さんで一定の効果が認められた場合、先進医療として認められ、もう少し多くの患者さんで効果や副作用を確認してみようという段階のものです。ただし、データがよかったからといって、そのまま保険適用になるわけではありません。

また、先進医療の場合、治療費は、患者さんがすべて負担することになっています。中には治療費が数百万円かかるというものもあります。

公的保険が適用されず患者さんが治療費を負担する点では、自由診療と似ていますが、自由診療と違うところは、厚生労働省に届け出て実施しているという点です。また自由診療の場合は、本来、保険適用である検査や副作用対策の薬剤などを含め、すべての医療費が患者負担となります。

※注「先進医療に係る費用」は、患者が全額自己負担することになります。「先進医療に係る費用」は、医療の種類や病院によって異なります。
その他の診察料、検査料、投薬料、入院料などには公的医療保険が適用されます。なお、厚生労働省に届け出た医療機関以外で先進医療と同様の治療・手術などを受けても先進医療とは認められません。

先進という言葉の響きで誤解も

先進医療は、保険診療として承認されるのに十分な、効果や副作用についてのデータがまだありません。標準治療より優れているかどうかの検証も済んでいません。

記事画像

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にもかかわらず、「先進」という言葉の響きと、数百万円の費用が必要になることもあるという2点で、多くの人が、先進医療は標準治療よりも優れていると誤解してしまうようです。

最近は民間の医療保険に、少額で先進医療特約を付帯することができるものもあります。この特約があれば、高額の費用を払わずに先進医療を受けることができます。

ただし、どんながんにでも先進医療が適用できるわけではありません。いずれにしても、主治医とよく相談し、ご自分が先進医療を受けることがよさそうな病状か否かを確認する必要があります。

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