2022.10.14
リモートワークの高ストレス抑える絶妙な仕掛け|「1日4件」以上の会議がいかに人を疲れさせるか
「1日4件」以上の会議と「フルリモート」でストレスは激増します(写真:MAPS/PIXTA)
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NTTグループが「原則テレワーク勤務」を発表するなど、大企業でもテレワークを推奨する企業が増えてきました。
そんな中で、「1日4件」以上の会議と「フルリモート」では生産性が下がることが明らかになっています。
一方で、そうしたリスクを承知のうえで、リモートワークを続ける企業も存在します。
その判断の裏には、どのような秘策が隠されているのでしょうか? その秘策を、産業医の観点から解説します。
2022年はテレワーク推進の流れが加速する年となりました。4月にはヤフージャパンが、交通費を月額15万円まで支給し、飛行機通勤も認める制度を開始。7月にはNTTグループが「原則テレワーク勤務」となり、出社は出張扱いにするという運用を始めました。
一方で、スマホアプリ開発のDUMSCO(本社・東京都港区)が展開する、自律神経を測定することで、無自覚のストレスも可視化するアプリ「ANBAI」を用いた調査では、1日4件以上の会議を境に、休職するリスクの高いビジネスパーソンが急増、38%に達することが明らかになっています。
また、東京医科大学の調査では、フルリモートワークでは生産性が下がることが明らかになっています。
テレワーク独自のストレスの正体
2020年から、オンライン会議での違和感に起因する疲労を指す用語として「zoom fatigue(zoom疲れ)」という⾔葉が注⽬されています。人間の顔というのはそもそも非常に認知負荷が高いため、ギャラリービューなどで多くの人の表情という情報にさらされ続けることでの疲労感を感じやすいのです。
Zoom疲労の研究で知られるヨーテボリ大学のフォヴィルらの研究によれば、⼥性は男性に⽐べて約15%も強くzoom疲労を感じているそうで、その最も大きな要因は「⾃分の顔が映り続けることのストレス」であったことが判明しました。
また、東京医科大学の発表では、リモートワークの頻度が増え、特にフルリモートになると、 体内時計が乱れることで、夜型化しやすいことが明らかになっています。睡眠のリズムが崩れることで、自律神経の調整機能に支障をきたすと、身体的・精神的にも大きく影響が出てきます。
「リモートワークは楽」とは一概に言えるものではなく、通常業務とは違ったストレス要因があり、独自の対策が必要であると思います。
こうした新しい時代のストレスに対処するために、さまざまな企業がユニークな対策を講じています。
たとえば、「夜型化」の問題に、「食」の観点で取り組んでいるのが、置き型社食「オフィスおかん」などを提供するOKANです。
体内時計に影響を与える要素の1つが、食事の時間です。
「腹時計」とは言ったもので、毎日同じ時間に日光を浴びたりご飯を食べたりすることで、体内時計を整える役割がありますが、リモートワークでは、つい「キリがいいところまで」と不規則になってしまうことがあります。
そこで、OKANでは、リモートワークでのランチタイムの安定化も兼ねて「オンラインランチ」を定期開催しています。
OKANの中村氏によると、鍵は「13時の会議」が予定されている日とのことです。
「13時に会議が予定されていると、その準備を優先し、食の重要性を理解している私たちも、ついランチをスキップしたり、簡単に済ませたりしがちです。そこで、その予防も兼ねて、スケジュールにお昼の時間を確保しておいてもらったほか、特にコロナ初期ではオンラインランチを開催するようにしてきました」
メンタルヘルスのために、おかずを届ける理由
さらにOKANでは、⾷べきりサイズの惣菜を、リモートワーク中の社員に届ける自社サービス「おかん仕送り便」のオンラインランチでの活用を提案しています。
リモートワークで簡単に食事を済ませようとして、ごはんやパン、インスタント麺など、つい主食(糖質)過多、おかず(タンパク質など)不足の食生活に陥っていないでしょうか。
継続的な不眠に悩んでいる人は、タンパク質や野菜、果物の摂取量が少なく、甘い飲み物やデザート、超加工食品などから糖分を多くとっていることが知られています。慢性的な疲労状態の人は食事内容が糖質に偏る傾向にあります。糖質は精神を安定させるセロトニンというホルモンの分泌量を一時的に高めますが、セロトニンそのものをつくる材料にはなりえません。
セロトニンを体内で生成するにはトリプトファンという必須アミノ酸を含んだタンパク質の摂取や、日光を浴びることが必要になります。リモートワークに限らず、疲労がたまってくると、より糖質摂取へ偏り、疲労が慢性化する、という負のサイクルが回りやすいのですね。
こうした、リモートワークでの社員のおかず不足を、簡易的に補う仕組みになりうる可能性が高いのが「おかん仕送り便」です。
OKAN・管理栄養士の大浦梢さんは「昔から一汁三菜と言われ、コロンビア大学の研究などでも、食事全体の質に注意したほうがよいと言われてきました。一方で、食事全体の質を上げようと、一汁三菜を毎回用意するのはなかなか難しい。特に『13時の会議』が控えているような日は難しく、どうしてもおざなりになってしまいがちです。従業員が働き続けられる環境を提供する企業の役割として、その部分を、企業側が補う仕組みが求められているのではないか」とアドバイスしています。
リスクを軽減する「会議間インターバル」
そして、もう1つのテレワークのリスクが、「1日4件以上」以上の会議です。
冒頭でもご紹介したように、1日4件以上の会議を境に高ストレス者が増加するという調査が結果あります。パフォーマンスが高い社員ほど、多くの会議から声がかかるというのは想像に難くありません。
その一方で多くの会議に参加しながらも、ストレスを抱えこまずに、テレワークのメリットを十分に生かしている人々も存在します。
会議が連続する場合の5分休憩「会議間インターバル」を取り入れることで、メンタルヘルスリスクを低減していることが今回の調査で明らかになりました。
こうした「インターバル」が有効な理由に、自律神経が大きく関わっています。
少し説明させていただくと、自律神経には以下の2つの「モード」があって、環境の変化によって自動で切り替えてくれます。
交感神経:身体を興奮させ、動きを活発にする「バトルモード」
副交感神経:身体をリラックスさせ、休んで元気を貯める「休息モード」
交感神経は人が活発に活動するための、車のアクセルに相当する役割で、副交感神経は安静時や睡眠時などに体を回復させる、車で言うブレーキに相当する役割です。
これら2つのモードを、環境の変化に合わせて自律的に調整してくれるから「自律神経」です。
人が活発に活動するためには、交感神経が働く必要がありますが、環境負荷が強すぎると交感神経過剰の状態が続き、心身ともに疲労してしまうため、身体を休ませるモードである、副交感神経とのバランスが重要になります。
際限なく会議に参加すると、恒常的に「臨戦態勢」が継続し、交感神経過剰状態になりやすいことが予想されますが、適度に会議間にインターバルを挟むことによって、適度なバランスが維持されていることが考えられます。
この会議間インターバルを「仕組み化」している企業の1つが、2006年の創業以来テレワークを導入している、ワーク・ライフバランス社の「45分会議」です。
上述の調査において、会議間インターバルを「意識はしているが、実践できない」方が27%存在することが明らかになっていますが、その要因の1つは会議時間が基本「30分」「60分」単位で設定され、インターバルが保ちにくいことにもあると思います。
ワーク・ライフバランス社では、45分会議を基本フォーマットにすることで「そうしたインターバルの“いつの間にか”消失を予防しています。リモートワークによって失われた、移動時間という名の休憩時間を、リモートワークでも確保する仕組みの構築は、企業側の責務」です(ワーク・ライフバランス・大塚氏)
高ストレス者の57%は自覚できず、重症化のリスク
今回の調査において、テレワークの会議過多が原因と思われる高ストレス者の57%は、アンケート式のストレスチェックでは高ストレス者と判定されていませんでした。自覚することなく気がついたら重症化しているパターンが多く、病気の発症や休職や退職のリスクが高まってしまうのです。
ストレスを自覚しづらい構造に加えて、高ストレスを自覚していない隠れテレワ負債者は、過剰適応傾向で、自らが限界であることを表明することが難しい。多少の無理難題にも『大丈夫です』と応えてくれる人物に、仕事を任せたくなるのが組織の性。その結果、特定の人物に仕事が集中する状態を招いているのです。
実際、上司や人事が体調について直接聴いたとしても、「大丈夫です」と言われてしまったら、その先の打ち手が少ないというのが現状です
ハイパフォーマーほど、ストレスを自覚できない理由
そもそもストレスを人が自覚するのは難しいのです。
ストレスがかかるとアドレナリンやコルチゾールといった「抗ストレスホルモン」が分泌されて、血圧や血糖値を上げ良好な稼働状態を維持しようとします。
その期間は「抵抗期」と呼ばれ、パフォーマンスがホルモンの底上げによって「ドーピング」されているような状態のため、それがストレス状態だと実感することは難しく、むしろ「調子がいい」とすら感じるケースも少なくありません。
しかし、その「抵抗期」が維持されるのはおおむね3カ月程度と言われており、副腎に貯蔵されている抗ストレスホルモンが枯渇すると、一気に出力は低下し、胃潰瘍やうつなど、いわゆる「病名」がつくような状態に陥ってしまい、すぐには回復しません。
また、この「隠れテレワ負債者」の実に76%が年収800万円を超える、いわゆるハイパフォーマーであったという結果が出ています。リモートワーク環境は、相手の稼働やメンタル状態を周囲が把握しづらく、かつ、家でも永遠に仕事ができてしまうため、「できる人に無尽蔵に仕事が降ってくる」状況が助長されやすいのですね。実際のところ、エース級の働きをされている社員さんは「1日4件」どころではまったく済んでいないでしょう。
そのため、パフォーマンスが低下に至って長期化してしまう前に、自らのストレスに自覚的になる機会を得ることが重要になります。
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提供元:リモートワークの高ストレス抑える絶妙な仕掛け|東洋経済オンライン