2022.10.04
「どうしようもない不安」を科学的になくす超対策|紙に書き出すことで頭の中が整理されスッキリ
不安や心配事を客観視するためにするといいこととは何でしょうか。人気教授の著書から紐解きます(写真:Fast&Slow/PIXTA)
仕事や人生がうまくいっている人に共通するのは、「すぐやる」ということです。一方で、やるべきことをいつまでも後回しにして、後悔ばかりしている人もいます。その差は、一体何でしょうか。
「世界一受けたい授業」(日本テレビ)に出演した明治大学の人気教授、堀田秀吾さんが、「どうすればすぐに行動できるのか?」を考察しながら、科学的に行動力を上げる方法を集めた書籍『世界最先端の研究が導き出した、「すぐやる」超習慣』を出版しました。
ここでは、本書から一部抜粋し再構成のうえ、誰でもできる「すぐやる」コツを3回にわたって紹介します(今回は3回目になります)。
『世界最先端の研究が導き出した、「すぐやる」超習慣』 クリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします
1回目:研究で判明「移動中や旅先で仕事がはかどる」理由 ※外部サイトに遷移します
2回目:「やる気エンジンを動かすにはほめる」が納得の訳 ※外部サイトに遷移します
何か新しく行動しようとするときに、「うまくいかなかったらどうしよう」と不安で動けないケースは少なくありません。「不安や心配事と上手に付き合う」とは、よく言われますが、トラウマレベルになってしまっていることで、動き出せない人もいるかもしれません。
その場合は、不安や心配事を客観視するために紙に書き出してみると効果的です。
書き出す=脳によい効果をもたらす
なんてことのないように思えるかもしれませんが、書き出すというアクションは、私たちが思っている以上に、脳によい効果をもたらします。
シカゴ大学のラミレスとベイロックは、大学生を被験者としてテストをしてもらうという実験を行っています。その際、学生たちが不安やプレッシャーを感じるような仕掛けをほどこしました。
その内容とは、「テスト内容が難しいこと」「試験のスコアによってお金がもらえること」「テストを受けているときの様子をビデオで撮影し、その映像をあとで教員と学生とで観る」というルールを設けたのです。このような条件が付けられれば、イヤでもプレッシャーを感じてしまいます。
そのうえで、被験者の学生たちを3つのグループに分け、テスト前の10分間それぞれ別々の行動をしてもらったそうです。
(1)何もせず静かに座って時間を過ごすグループ
(2)テストについての自分の感情、考えを書き出すグループ
(3)今の気持ちなどとは全く関係ないことを書き出すグループ
そして、各グループの正答率を比べるという具合です。
気になる結果は、(1)「何もせず座っていたグループ」と(3)「気持ちとは関係ないことを書き出したグループ」の正答率は7%下がり、一方で、(2)「感情や考えを書き出したグループ」の正答率は4%上がったというから驚きでしょう。
受験や資格試験などでは、1問2問の差で合否が変わってくることもありますので、この正答率の差はなかなか無視することはできません。
今感じている不安や心配事をノートなどに書き出すというアクションは、言うなれば不安の整理&断捨離ということ。
仕事でやらなければいけないことがあるのに、なかなか動き出せないままでいるなら、
・過去にどうして失敗したのか
・一番ネックに感じていることは何か
・いつまでに、やらなければいけないのか
といったことを書き出してみる。そして、作業するデスクにメモとして貼っておくなどすれば、先の実験のようにメンタル部分の改善とともに、集中して物事に取り組みやすくなります。できれば日記のように、毎日のルーティンにしたほうがいいでしょう。
クラインとボールズの研究結果
それを示すのが、ノースカロライナ州立大学のクラインと北テキサス大学のボールズらの調査です。その内容は、
(1) A「大学に入った感想や心情」を書くいてもらう
(2) B「大学とは関係のない普通のトピック」を書いてもらう
これらを毎日20分間、2週間にわたって続けるというものでした。
Aのグループの新入生の中からは、当然、授業についていけるか心配、交友関係がうまく築けるか不安といった声も挙がっていました。
書き終えてから、7週間後、AグループはBグループに比べ、ワーキングメモリとメンタル部分の改善が見られたというのです。
また、クラインとボールズの別の実験では、
(1) ネガティブな体験を書いてもらったグループ
(2) ポジティブな体験を書いてもらったグループ
(3) 普通のトピックを書いてもらったグループ
を比較したところ、ネガティブな体験を書いてもらったグループが、もっとも余計なことを考えなくなるという結果になりました。
しかも、これらの実験では、メンタル部分の改善に加え、ワーキングメモリの大幅な改善も見られたそうです。作業や動作に必要な情報を一時的に記憶したり処理したりする脳の機能・能力のことをワーキングメモリと呼び、会話や読み書き、計算といった日常のあらゆる行動や判断に関わるといわれています。
ワーキングメモリは、大脳辺縁系の本能的な感情をコントロールする(理性をつかさどる)前頭葉などを含む大脳新皮質と大きく関わっています。
人類が進化させてきた「思考する脳」であり、冷静で合理的に考える力の強弱は、ワーキングメモリと密接につながっています。つまり、ワーキングメモリに余裕がないと、感情をコントロールしづらくなるため、本能がむき出しになり、イライラしやすかったり、不安が増長しやすくなったりしてしまいます。
ワーキングメモリの改善が見られると、作業や動作のパフォーマンスが上がります。ルーティンに日記を取り入れれば、気持ちも脳もスッキリした生活を送れるでしょう。
ネガティブな感情を具体的に因数分解して書き出すのもおすすめです。
「期日までに資料を作成しないといけない」というタスクがあったとしましょう。こういったタスクに対しては、次のような不安要因が挙げられるでしょう。
・締め切りまでに作成しなければいけない
・クオリティが心配
・内容について上司に怒られないか心配
あるいは、親の老後について考えるなら、
・お金が足りるか心配
・時間的余裕があるか心配
・親との距離感に不安がある
・自分がきちんと、対応できるのか不安
といった不安が付きまとうかもしれません。
先のように書き出してみれば、整理がつきやすく、どう対処していけばいいのかワンクッションをおくことができます。いうなれば、二の足を踏んでいるタスクや、頭を悩ませている事柄に対して、自分がどんな不安や心配を持っているのか因数分解してみましょうというわけです。
しかし、こうした整理整頓を怠ると、不安が複雑怪奇な大きな集合体のように思え、ますます頭を悩ませ、難しく考えてしまうようになります。
感情を魔物化させないために
古来、日本には、鵺(ぬえ)という伝説の生き物がいたといいます。サルの顔、タヌキの胴体、トラの手足、ヘビの尾を持つ魔物といわれ、『平家物語』に登場します。たしかに、目の前に鵺が現れれば、誰もが恐れおののくことでしょう。
しかし、顔、胴体、手足、尾を切り離し、1つひとつを見ていけばサル、タヌキ、トラ、ヘビというように見慣れた動物にすぎません。
不安も同様です。1つひとつを切り離して考えれば対処法がある。ところが、全体をぼんやり、漠然と不安に思うから魔物に見えてしまうのです。魔物化しないためにも、考えすぎはよくありません。因数分解し、冷静に見てみることが大事です。
パソコンのデスクトップにさまざまなファイルを置いていると、画面がごちゃごちゃして見づらく、効率的ではありませんよね? ですから、私たちは必要のないものをゴミ箱へ移動し、デスクトップを見やすくします。
不安なことを書き出すのは、脳のデスクトップ上にある余計なファイルをゴミ箱に移すようなアクションです。
『世界最先端の研究が導き出した、「すぐやる」超習慣』 クリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします
また、不安を書き出すというのは、考えて分析する作業です。分析するとき、脳は大脳新皮質の中でも特に前頭葉がよく働くのですが、「不安を書き出す=前頭葉を働かせること」で不安を抑えるということにも一役買っていると考えられています。
不安という本能的な脳の稼働を、分析を担う新しい脳を稼働させることで抑え込むわけです。いろいろなものが煩雑で、頭の中を占拠していれば、合理的かつ効率的な判断ができなくなる。ということは、おのずと「やる気」も育ちづらくなります。
ですから、書き出すことで、ワーキングメモリが整理され、スマートな判断がしやすくなるというわけです。
【あわせて読みたい】※外部サイトに遷移します
提供元:「どうしようもない不安」を科学的になくす超対策|東洋経済オンライン