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2022.06.04

30~40代から兆候も!「腎臓病」の知られざる怖さ|心臓病や脳卒中で死亡するリスクが高まる


腎臓は、全身の致死的な病気と深い関係があるといわれています(写真:YOU/PIXTA)

腎臓は、全身の致死的な病気と深い関係があるといわれています(写真:YOU/PIXTA)

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ソラマメのような形をした、地味な臓器――。腎臓をそんな存在と思っていた人も多いのではないか。しかし昨今、腎臓は全身の致死的な病気と深い関係があることがわかり、にわかに注目されている。

心臓病や脳卒中で死亡するリスクが高まる

まずはこのデータをみてほしい。腎機能が低下すると、心臓病や脳卒中で死亡するリスクが高まるということが、研究で明らかになった(図)。

腎機能が低下すると心臓病、脳卒中のリスクが上がる(出所:Lancet Volume 382,  2013, Pages 339-352)

腎機能が低下すると心臓病、脳卒中のリスクが上がる(出所:Lancet Volume 382, 2013, Pages 339-352)

なぜ、腎臓の機能低下が心臓や脳の病気と関連しているのか。その理由には、腎臓の「糸球体」と呼ばれる毛細血管の構造が関係する。

日本腎臓病協会理事長で、川崎医科大学(岡山県倉敷市)腎臓・高血圧内科学教授の柏原直樹さんは、「糸球体は、脳の血管と構造が似ています。糸球体に問題が起こっているということは、すなわち、脳内の血管も同じように問題が生じている可能性が高い」と言う。

全身は血管でつながっている。1カ所で起きていることは、ほかの場所でも起きていておかしくないということだ。心臓に関しても同様に構造が似ており、腎機能が落ちている人ほど狭心症や心筋梗塞、心不全に陥りやすい。

つまり、腎臓は”脳や心臓の状態を表す鏡”のような臓器といえるのだ。

腎臓の病気にはいくつか種類があり、代表的なものとしては、慢性糸球体腎炎(IgA腎症)や糖尿病性腎症などが挙げられる。近年では、「タンパク尿が出ているか、腎機能が少し悪い状態」を表す慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease:CKD)という概念が登場し、注目されている。

健康診断で行われる尿検査で「タンパク尿が出ている」、もしくは血液検査で「糸球体濾過値(GFR)が低い」という状態が3カ月以上続く場合、この病気が疑われる。

CKDは他人事ではない

このCKDという病気、決して他人事ではない。というのも、国内のCKD患者数は推計1300万人。成人の約8人に1人がかかっている身近な病気なのだ。しかも、働き盛りの30代〜40代からその兆候が出始めていることもわかっている。

「たかが腎臓ではなく、腎臓病のリスクを知って、負荷をかけない生活を送るよう心がけることが重要」と柏原さんは言う。

腎臓に負担をかけない生活のためにすべきことについて触れる前に、まず腎臓はどのような役割を持つ臓器であるかを知っておく必要があるだろう。

腎臓は背中側、左右に1つずつある臓器だ。水分やミネラルの量を調整して体液の濃度を一定に保つ、血液中の老廃物を尿として排出する、血圧のコントロールを行う、などの働きがある。また、血液を作るために必要なエリスロポエチンというホルモンの大部分は腎臓で作られている。

腎臓で重要な役割を担うのは、糸球体と呼ばれる毛細血管だ。血液から老廃物を濾過(ろか)する機能を持ち、腎臓1つにつき100万個ほどある(イラスト)。CKDは、この糸球体にダメージが生じて腎臓が正常に機能しなくなった状態を指す。

腎臓の仕組み(イラスト:柏原さん作成)

腎臓の仕組み(イラスト:柏原さん作成)

糸球体から血液やタンパクが漏れ出れば、血尿やタンパク尿となり、水分の調整能力が落ちれば、不要な水分が溜まって浮腫(むくみ)が起こる。本来は尿中に出ていかなければならない老廃物が溜まれば、尿毒症という状態をもたらしてしまう恐れもある。また、血圧の調節も腎臓が行っているので、高血圧になりやすく、エリスロポエチンの産生が減れば貧血になる。

何より怖いのは、腎臓病が進行していくことで生じる、腎不全という状態だ。

「腎不全になると、透析あるいは腎移植という選択肢を迫られます。日本では移植に必要な腎臓のドナーの数が圧倒的に少ないため、多くの腎不全患者は透析を行っています」と柏原さん。

透析には血液透析と腹膜透析という2種類がある。血液透析とは、体外に取り出した血液を専門の装置で濾過して体内に戻すという方法。腎機能の一部を機械が代行する。透析が受けられる専門の医療機関に週3日の通院が必要で、1回の治療に4〜5時間ほどかかる。

一方、腹膜透析は腹膜(胃や腸を包む膜状の組織)を腎臓の代わりとして使い、老廃物を排出する治療法だ。お腹の中に細い管を挿入して、透析液を入れたバッグを留置し、老廃物を透析液の中に排出させる。腎不全患者全体の3〜5%ほどが行っている。血液透析のように頻回な通院は不要だが、合併症のリスクが高いなどの理由から、あまり普及していないのが現状だ。

「透析のなかった時代は、腎不全は死に至る病気でした。それが、透析という治療法のおかげで、10年、20年生きられるようになりました。私の患者さんの中にも透析をしながら最長で30年ほど生きておられる方がいます」(柏原さん)

タンパク質の制限、減塩、水分管理が

とはいえ、1回数時間の治療を週に3日受けなければならない透析生活は、かなりたいへんだ。旅行はおろか、日常の仕事や家事などにも支障が出て、家族や周りの人たちの助けも必要となる。

さらに、CKDになると食生活の面でもさまざまな制限が必要になる。具体的には、タンパク質の制限、減塩、水分管理などだ。

タンパク質は体内で分解された際、その一部が老廃物となるため、濾過機能を担う腎臓の負担を増やしてしまう。タンパク質というと肉や魚などを思い浮かべる人が多いだろうが、米や麺類、パンといった主食にも多少含まれるため、それらも考慮して食べるものを選ぶ必要が出てくる。

塩分の摂りすぎも、腎臓が血圧を調整している以上、気をつけなければならず、厳格な水分管理も必要だ。脱水は腎機能を低下させる一方で、摂りすぎると水分の排出が間に合わなくなり、むくみや高血圧をもたらす。

では、自分の腎臓はどんな状態なのか、どうすればわかるのだろうか。それについて、柏原さんは次のように話す。

「腎機能の低下で生じる浮腫や貧血といった症状は、かなり進行しなければ表れません。自覚することが難しい病気なのです。だからこそ、健康診断で行われる検尿が大事になります。タンパク尿を調べる検査で、+が1つならたまたまタンパク尿が漏れ出た可能性がありますが、再検査が必要です。+が2つになると、何らかの腎臓病が疑われます」

さらに、「推算糸球体濾過値(eGFR)」を調べるという方法もある。これは、血液検査でわかる血清クレアチニンの値から求められるが、血清クレアチニンの測定は厚生労働省が定める特定健診の項目には含まれないため、医療機関で検査する必要がある。

eGFRはこの血清クレアチニン値から求めることができる。柏原さんが立ち上げた日本腎臓病協会のHPなどでeGFRの値をチェックすることが可能だ。

日本腎臓病協会のHP ※外部サイトに遷移します

「問題はeGFRが45を下回った場合。生涯の間で透析のリスクが高くなります。一方、30~40代で60を切っていたら要注意です。すでにCKDに罹患している可能性があります」(柏原さん)

CKDに関しては、去年8月に初の治療薬(製品名:フォシーガ)が厚生労働省の承認を受けて、現在は健康保険が適用されている。だが、腎機能は一度低下してしまうと、どんな治療をしても元の状態に戻すことは難しい。そう考えると、腎臓病にかからないことが大事なのは言うまでもない。

老化のほか、肥満やストレスも要因に

腎臓病の最大の原因は老化で、腎機能は加齢とともに低下していく。ほかにも肥満や運動不足、過度な飲酒、喫煙、ストレスも腎機能を低下させるファクターになっている。生き物である以上、老化による腎機能の低下は避けられないが、そのスピードを生活習慣の是正で遅らせることはできる。まずは高血圧や糖尿病、脂質異常症(高脂血症)などの生活習慣病がある人は、しっかりコントロールすることが重要だ。

規則正しい生活や禁煙、食べすぎ・飲みすぎを防ぐ食事は、“やったほうがいい”と誰もが頭ではわかっていることだ。だが、実践するとなると意外と続かないものだろう。

柏原さんは、「特に会社勤めの人は残業で夜遅くに食事をしたり、ストレスのはけ口としてお酒を飲んだりします。そういう毎日を送っていれば、休日は疲れてしまい、運動をする気にもならない。そういう環境を何とかしないとなりません」

と、会社が主体となった従業員の環境改善が必要であると指摘している。

そんななか、スマホのアプリを使った行動変容によって健康を支援しようというプログラムが開発されつつある。近々、医療機器として薬事承認され、保険適用となる可能性が十分にあるそうだ。

2020年の日本人の平均寿命は男性が81.64歳、女性が87.74歳。年々、延伸しているが、一方で健康寿命との差は10年ほどある。何らかの医療や介護の世話になる10年間をいかに縮めて、健康寿命を延ばすことができるか――。そのカギを握る1つの臓器「腎臓」ともっと向き合ってはどうだろうか。

(構成:ライター・佐々木由)

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提供元:30~40代から兆候も!「腎臓病」の知られざる怖さ|東洋経済オンライン

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