2022.06.01
GAFAが"医療"に参入したら「こんなこと」もできる|「喉の腫れ・肺の音・虫刺され」すべて自宅で診療
テクノロジーの進化で、医療・ヘルスケアのあり方が劇的に変化するといいます(画像:metamorworks/PIXTA)
GAFAの強さの秘密を明かし、その危険性を警告した書籍『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』は日本だけで15万部のベストセラーになり、日本に「GAFA」という言葉を定着させた。
その著者スコット・ギャロウェイ教授の最新作『GAFA next stage 四騎士+Xの次なる支配戦略』も6万部のベストセラーになっている。本書では、コロナ禍でますます肥大化したGAFAと、この4社に匹敵する権威を持つようになる「+X」の巨大テック企業が再び、世界をどのように創り変えていくかを予言している。
筆者のギャロウェイ氏はGAFA+Xの「最大の獲物」の1つに「医療・ヘルスケア」を挙げている。そこで本稿では、6000以上の自治体や企業で導入されているAI健康アプリ「カロママ プラス」を開発・提供するリンクアンドコミュニケーションCMOであり、医師でもある三木竜介氏に、「医療・ヘルスケア」業界におけるディスラプションの可能性を聞いた。
『GAFA next stage 四騎士+Xの次なる支配戦略』 クリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします
インフラに入り込むアマゾンの強み
本書では、アマゾンが医療・ヘルスケア業界に「ディスラプション」を起こす未来が予言されています。私も、その見方には賛成します。
『GAFA next stage 四騎士+Xの次なる支配戦略』は、6万部のベストセラーになっている
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アマゾンには、ほかの企業にはない強みがあります。それは生活のインフラのなかに入り込み、その一部になっている企業だということです。特に、リアルなモノやサービスに直接アクセスして、消費行動が起こせるところが強いですね。
本書では、アマゾンのオンライン診療について、次のようなことが予言されていました。
「息子に発疹が出たら、アレクサに呼びかけて皮膚科医につないでもらう。すると医師は、インテリジェント・カメラに向かって息子の腕を上げて見せるよう指示する。
その皮膚科医はおそらくアマゾンの従業員ではないだろう。(中略)
ただし医師は収入の一部を”プライム・ヘルス”(私はアマゾンが地上で最も活気があって便利なリモート・ヘルスケア・プラットフォームをこう呼ぶだろうと思っている)の支払いに充当するはずだ。(中略)プライム・ヘルスでは、体の3Dスキャンや、2020年8月に発表したフィットネス用ウェアラブルHaloを通してバイタルサインを読み取れるようになるだろう。
処方箋がアマゾン傘下の薬局ピルパックに送られ、そこからアマゾンの物流拠点にステロイド軟膏の発送が指示される。大都市圏では1時間以内に配達されるだろう」
こういったことは、現在のアップルやグーグルではできません。アマゾンは、驚くほどさまざまなリアルなモノ、リアルなサービスにひも付いており、検索して、注文して、手元に届くという一連の流れができている。非常に勉強になりましたし、面白く読みました。
アマゾンにかぎらず、ビッグテックは医療・ヘルスケアに注目しています。なぜなら、まだ手を出していないその領域は、困っている人がたくさんいる一方で、参入障壁が高い大きな市場だからです。つまり、ディスラプションを起こしやすいのです。
ビックテックのいちばんの強みは、やはり、生活インフラとしてすでに浸透しているという点でしょう。顧客とのチャネルをつくるのは、かなり大変なことですが、いまどきグーグルマップを使っていない人はいませんし、より便利に使いたい人はログインをしています。これは強みです。
そして、GAFAはデータを豊富に持っています。どういう単語で検索したか、どういうヘルスケア商品を購買したかというデータも大量に持っているわけです。事前にマーケティングする必要がありません。
さらにアマゾンは、「Halo」というウェアラブルとアプリを連動させていますし、グーグルも、ウェアラブルデバイスのフィットビットを買収しました。近々、スマートウォッチが発売されるという話です。
ウェアラブルのシェアでトップを誇っているのはアップルです。「アップルウォッチ」によって、自分たちが欲しいヘルスデータを、狙い撃ちして取得しているとも言えるでしょう。
これらのIoTやウェアラブル開発の動きから、各社はPCやスマホから収集された断片的なデータから、より生活の実態に近いデータを取りに行こうとしていることがわかります。
日本でプライム・ヘルスが実現しない理由
本書では、アマゾンの未来のヘルスケアサービスを「プライム・ヘルス」と呼んで解説していますが、これはアメリカなら実現するだろうと思います。
アメリカは、自分で保険を選んで加入する制度です。毎月高額な保険料を払っている人なら、すぐに大きな病院で診てもらえるけれど、お金がなくて安い保険に加入していると、たとえ病院の前で倒れても、「ここはあなたの保険では利用できませんよ」と言われるということが起こります。
制度がよくないために、困っている人がたくさんいる。となると、やらない理由がありません。アマゾンとしてもビジネスチャンスということになるでしょう。
一方、日本の場合は難しいですね。国民皆保険で、公的な医療サービスの価格とアクセスがよく、医療制度が高いレベルで維持されています。困っている人もそんなに多くないでしょう。
そして、規制もあります。たとえば、オンラインでの初診はダメというルールがありました。現代の医学教育は、対面での診療を基本に教育していますから、対面でないときにどうすれば医療の質を維持できるのかという考察がなされていないので、簡単に導入するわけにはいかないのです。
コロナ禍で少し緩和されて、条件つきなら初診からオンライン診療できるようにはなりましたが、まだまだ未成熟ですし、受け入れられにくい状況です。
この点はヘルスケアでも同様です。弊社は健康アプリを手がけていますが、健康づくりや健康管理のためのサービスは、やり方によっては、医療機器の認証をとらなければならなくなったり、医師のみに限られる医療行為に当たったり、規制によるグレーゾーンが存在します。踏み込みすぎると、医療行為とみなされて、サービスそのものがNGになってしまう可能性もあります。
規制産業だからこそディスラプションは起きやすいのですが、その規制が、テクノロジーの進歩に追いついていない。
グレーゾーンであっても、GAFAなどのグローバル企業が海外の事例を持ち込んで突破するか、もしくは、規制のせいでリスクがあるから踏み出さないという二択になりますが、日本の企業は後者だと思います。規制にひっかかるからサービスを停止しなさいと言われたら、困りますからね。
オンライン診療が普及するには、IoTやIoMT(Internet of Medical Things)が普及していく必要もあります。
先ほども紹介しましたが、「ハチに刺されました」となったら、インターネットにつながったカメラで患部を写して、見てもらう。医師も、映像がしっかり見られれば、「この腫れ方なら大丈夫だ。塗り薬はこれがいいだろう」という判断ができます。
現在、のどの奥を見るデバイス、デジタル聴診器などのデバイスはあります。すでにネットを介して、のどの奥の様子を見たり、心臓や肺の音を聞くことができるわけです。
これをもっと発展させて、たとえば、スマホのカメラに装着すれば、いつでもどこでもまったく同じ条件で皮膚を写せるガジェットとAIを組み合わせて、遠隔であっても自動で診断することが可能になります。電子処方箋とお薬の配送サービスを組み合わせれば、顧客体験も一変します。
また、たとえば喘息は特徴的な音が聞こえますが、たくさんの聴診データを集めてクラウド上に置いておけば、喘息をお持ちのお子さんの親が家庭でスマホに接続したデバイスを子どもの胸に当てて、AIに喘息発作が起きていないかを教えてもらうことも可能でしょう。
これらはもちろん現在の規制下ではできませんが、技術的には十分可能なレベルまで到達しています。そして、それらを可能にするデバイスの原始的なものが、現在のウェアラブルなのだと思っています。
日本の医療のベンダーロックイン
しかし、ここにプライバシーの問題があります。
アメリカは、個人情報保護に関してゆるく、本人がいいなら、いいという文化です。ヨーロッパは、本人がよくても、守らなければならないものは守れということで、国家がGDPR(EU一般データ保護規則)などによって、より防御を固めています。
日本はというと、そもそも本人が「いい」と言いません。「なんとなく怖い」という感覚がありますよね。
たとえば、大きい病院と、クリニック、介護施設、老人ホームなどのデータをつないで、みんなが閲覧できるようにすれば、患者本人の受けられるケアの質は上がります。
かかりつけの先生が、老人ホームの情報を見て、「食事が減っているな。数年前に胃がんの摘出手術をしているのか」など、情報を共有しながら診療できれば、間違いなくケアの質が上がります。
しかし、共有されません。病院は、「もし個人情報がどこかに漏れたらどうするんだ。責任を問われるのはうちだ」と考えてしまう。仮に患者さんがいいと言っても、ダメなのです。
それに、使える状態でデータが出てこないという問題もあります。共通のフォーマットや言語がないため、血圧のデータを提供されたとしても、ファイル形式が違えば使えません。
これが「ベンダーロックイン」と言われるものです。現在、マイナポータルを使って、共通の規格でデータを閲覧できるようにするという試みがはじまってはいます。
データ形式を標準化して、相互運用性を担保したうえで情報を持っておく。たとえば、家庭用血圧計のデータなども、標準化されれば、それを健康アプリの事業者が取得して、アルゴリズムを回し、「あなたは血圧が高いので、このような減塩食品がおすすめですよ」というふうに使えるわけです。
日本のヘルスケアは「セルフケア」が主流に
私は、今後、「セルフケア」の時代に入ると考えています。身に着けたウェアラブルデバイスやスマホなどから、生活習慣に関わるライフログを取得して、行動変容を起こしていくという未来が予想されるのです。
たとえば、たくさん歩けばポイントがもらえるとか、買い物中にお得な健康食品の通知が届くとか……普段の生活の領域に、気づかれないようにそっと介入していくタイプのサービスが浸透してほしいなと思っています。
集めたデータを、どう脳にセンシングさせるのかという技術も考えられます。いま面白いのは、ARの技術です。
ARの見えるコンタクトレンズが開発されて、スーパーで食品を見た瞬間に、自分にとって必要な商品はこれだというのが見えたり、鏡の前で身支度していると、「将来あなたのルックスはこうなる」というものが見えたり……「いまのままの生活を続けると、10年後にはこんなに太りますよ」とか(笑)。
そうなったら面白いですし、効果的だと思います。脳に対する入力は、今後のテーマになっていくでしょう。
ウェアラブルといっても、いまはまだ、健康データは、意識して自分で見なければならないものです。このひと手間をなくせば、さらに楽しいものに仕上がっていく。それが未来のヘルスケアになるのではないでしょうか。
(構成:泉美木蘭)
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提供元:GAFAが"医療"に参入したら「こんなこと」もできる|東洋経済オンライン