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2022.04.12

ミドルシニアの「セカンドライフ問題」どう解く?|個人の自助努力では難しい現実を誰が変えるか


ミドルシニアのセカンドライフとは(写真:8x10/PIXTA)

ミドルシニアのセカンドライフとは(写真:8x10/PIXTA)

日本人のライフ・シフトには、個人のライフ・シフトと足並みを揃えたソーシャル・シフトが必要だ――アメリカ留学後、絶対の安定企業とされたNTTを飛び出し、スターバックスコーヒージャパンを立ち上げ、現在は大学でライフストーリー論、サードプレイス論などを教える立教大学の梅本龍夫氏はそう指摘する。ソーシャル・シフトが必要だというその理由を、14万部突破のベストセラー『ライフ・シフト2』を紐解きながら、2回に分けてお届けする。

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個人の力だけでライフ・シフトするのは難しい

前作『ライフ・シフト』が発売されて8年、ライフ・シフトは社会現象となり、言葉としても定着しましたよね。

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一方で、そこで主張されていた、「教育」「仕事」「引退」という伝統的な3ステージの人生という生き方はいまだ日本では根強く残っていて、企業の現場でも対処に困っているという実態があるように思います。

中でも大きな課題のひとつは、ミドルシニアのセカンドライフでしょう。言葉を選ばず言えば、「次のステージへ行ってはいかがでしょうか」という方が企業内に滞留している。

その背景に何があるかと考えると、ワークとライフが分断されていて、ワークの部分だけを個人の力で変えていくことが難しいからではないかと思います。

『ライフ・シフト』で言われるように、「技術革新と長寿化の時代に人生が変わっていきます」となった時に、ワークとライフは二項対立的でなく、ワークはライフに包摂され、ライフという包括的なものの中にワークをどう位置づけるかが大事になるでしょう。

これが、『ワーク・シフト』以来、グラットン先生が伝えたいことではないかと私は考えました。

人生100年時代には、人生を前向きに楽しみ、変身資産を積み上げ、エクスプローラーになったりポートフォリオワーカーとして生きる。そうした生き方のシナリオに、私自身、すごく勇気づけられましたし、実際にそれができる人は、すでにそうしているでしょう。

しかし、個人の力だけで、そうした生き方を実践できる人はどれほどいるでしょうか。

2016年に刊行された『ライフ・シフト』のメッセージは、個人として生き方を変えていこう、ということだったと思います。しかし、個人の自助努力だけでは難しい。そこで、個人の人生戦略の具体策を描きつつ、政府や企業、あるいは教育機関がサポートする必要があると述べたのが『ライフ・シフト2』ではないかと思うのです。

私が『ライフ・シフト3』が必要だと思う理由

私はさらに、そこから社会がどう変化していくのか、どう変化していくべきかを描いた『ライフ・シフト3』、あるいは『ワーク・シフト』からの流れで言えば、「ワーク・シフト」「ライフ・シフト」に続く「ソーシャル・シフト」というテーマに踏み込むことが必要だと感じています。

人は1人では生きられませんから、個人のライフ・ストーリーが変わっていく時には 、周囲の人や環境との関係性が変わっていきます。

家族や職場などの小さな単位から社会に至るまで、その関係性には強固なストーリーが存在しています。

ライフストーリー研究や制度論の文脈ではモデル・ストーリーとかマスター・ナラティブと言われますが、例えば家族として、職場の一員として、あるいは社会の一員として、あなたはこうあるべきだという、社会的なストーリーです。

個人のライフ・ストーリーが変わっていくには、それらのストーリーも変わっていかなくてはいけない。モデル・ストーリーが変わらないのに、個人のストーリーだけが変わることは困難です。

それが、多くの人にとって、ワーク・シフトやライフ・シフトを難しくしている理由だと思います。そこで、ソーシャル・シフトのような新しい動きが必要な段階に来ているのだと感じているのです。

従来の3ステージの人生というのは画一的でしたが、マルチ・ステージの人生を各個人が歩むようになると、多様化が進むでしょう。モデル・ストーリーも、多様化の方向に進み、それと個人のライフ・シフトが重なりあっていくと思います。

ライフ・シフトというのはいい言葉ですよね。ライフ(人生)って、もちろん自分ごとでもあるし、かといって、自分だけのものでもない。関係の中にある。

ライフ・シフトは、私たちにそういう気づきを与えてくれるものだったと思います。当人も周囲も問題を言語化できない状況では、変化は起こりえませんから。

ソーシャル・シフトに向けての行政の変化

例えばLGBTQなどの性的少数者に関して、レインボーという言葉が象徴になって、みんながそういう格好して歩いたり、アピールすることで、変化が目に見えるものになって促進されるという面がありますよね。

ライフ・シフトという言葉も、従来の人生とは異なる人生を歩もう、変わっていこうという流れに対して、すごいパワーをくれました。

対話を通じて問題が言語化されることで、それが社会の変容、すなわち『ライフ・シフト3』に向かっていくといいと思います。

私が関与しているNPOでは、静岡市と一緒になって、就職氷河期に就職できずに不安定な雇用で働いている方の再チャレンジ支援を始めています。言わば、高校や大学を卒業した時に非正規雇用の道に入ってしまい、抜け出せなくなった人たちです。

彼らは、従来のマスター・ナラティブの中では取り残されて、その問題を社会が看過してきました。静岡市の田辺信宏市長は「まちづくりはひとづくり」というお考えの方で、私たちが提案した「人生は何度でもデザインしなおせる!」という考え方に共感いただき、市長直轄のライフデザイン・プロジェクトを推進できるようになりました。

これは就職氷河期世代の支援にとどまらないもので、静岡市の多様な人々が新しい関係性を編み出していく社会活動になってきています。

また、LGBTQなどの性的少数者も、急速に認知されるようになってきて、渋谷区などでは、同性のカップルにパートナー証明書を発行するようになりました。こうした動きに呼応して、同性カップル向けの保険が登場したりしています。

こうした行政の動きを見ていると、希望も込めて、ソーシャル・シフトに向けて社会は変わってきているし、そうした変化を促進し支援する手段もあるように思います。

ただし、たとえば就職氷河期世代やLGBTQのことを、「かわいそうな人たちだからなんとかしよう」と包摂するのではなく、「彼らがいるから私たちも変わる」という、お互いに平等な立場でインクルージョンが生じて、マスター・ナラティブが拡大するのが理想的です。

静岡市の例は、そうした「社会的な関係性の編みなおし」が今後日本の各地で進むさきがけの事例になりうると実感しています。

『ライフ・シフト2』は神話の構造と似ている

『ライフ・シフト2』を読んだ時、ジョーゼフ・キャンベルが指摘する神話の構造に似ているな、と感じました。

今回グラットン先生は、「物語」(自分のストーリーを紡ぐ)ことで、「探索」(学習と移行に取り組む)ことが可能となり、それが「関係」(深い結びつきをつくり出す)ことにつながる、と提言しています。

これはキャンベルの神話論でいう「出立」(新しい冒険の旅が始まる)、「イニシエーション」(旅先で試練に遭遇し宝物を獲得する)、「帰還」(宝物を共同体に持ち帰る)と重ねてみると、より味わい深く感じられてきます。

「物語」という一見フワッとした概念から話を始めることで、ロジカルな、あるいはエビデンスを用いた議論から分離され、私たちは新しい可能性に開かれ、新しい冒険の旅が始められます。

私の人生の「物語」とは何なのを自覚すると、新しい主体的な「探索」が進み、何かしら宝物の原石のようなものを発見する。そしてそれを持ち帰り、磨き込んでいった結果、新しい「関係」がもたらされる。この一連の流れは、世界中の神話や通過儀礼に特徴的なものです。

キャンベルの『千の顔を持つ英雄』という本は、映画の『スター・ウォーズ』のストーリーにも大きな影響を与えたということで有名です。困難な状況の中から、英雄が1人旅立ち、新しい世界でもがき、戦って、その成果を共同体に持ち帰る。英雄物語の基本的なストラクチャーともされるものです。

『ライフ・シフト2』の2人の著者がどこまでそれを意識していたのか、定かではありませんが、社会的開拓者として、あるいはそのフォロワーとして生きるということは、こうしたジャーニーを経るということなのかもしれません。

人生のジャーニーの構造について、そうした知識を持つことは、ライフ・シフトの旅路をより容易なものにし、ソーシャル・シフトの助けになるのではないかと思っています。

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提供元:ミドルシニアの「セカンドライフ問題」どう解く?|東洋経済オンライン

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