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2022.03.22

50歳から未経験分野へ転身し出版までできた訳|「非認知能力」がかなえる、大人のライフシフト


ギャラリー経営でキャリアを築いたボーク重子氏は、なぜ50歳を節目に、まったく新しい「コーチング」の世界に飛び込んだのでしょうか(【IWJ】Image Works Japan/PIXTA)

ギャラリー経営でキャリアを築いたボーク重子氏は、なぜ50歳を節目に、まったく新しい「コーチング」の世界に飛び込んだのでしょうか(【IWJ】Image Works Japan/PIXTA)

全米・日本各地で「子育て・キャリア構築」また「ワーク・ライフ・バランス」について、コーチングと講演会を開催し、「全米最優秀女子高生」を育てた母としても著名なボーク重子氏。

現代アートのギャラリーを経営し、各国の要人を顧客に持つほどのキャリアを築いたボーク氏は、なぜ50歳を節目としてまったく新しい「コーチング」の世界に飛び込んだのか。
14万部突破のベストセラー『LIFE SHIFT2(ライフ・シフト2):100年時代の行動戦略』のキーワードに触れながら、人生を楽しく生きる秘訣を語った。

『LIFE SHIFT2(ライフ・シフト2):100年時代の行動戦略』 クリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします

大人の非認知能力を育む本

私は、「認知能力」と「非認知能力」が、これからの時代の生きる力になると考えています。

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『LIFE SHIFT2(ライフ・シフト2):100年時代の行動戦略』 クリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします

これまでの時代に重要だったのは、必要な情報は何で、どこでそれを得るのかということでした。「何」が大事で、正解を探していい点数をとり、いい大学に入り、いい会社に就職できればよかった。

いわば「何」の答えを見つけて、同じような「成功」の生き方をしていたなら、「誰」でもよかったわけです。

しかし今、「何」の選択肢はたくさんあって、その中から選択し、自分らしい物語を作って生きていくことが大事になった。ロールモデルなき現代はいわば「何でもあり」の、誰もが等身大で実験台になれる人生の舞台があるという、すばらしい時代だと思います。「何」よりも、「誰」を重視して育む必要があるのです。

『ライフ・シフト2』を一言で表現するなら、「大人のための非認知能力を育む本」ですね。「非認知能力」とは、数値では測れない能力のことです。

テストの点数や偏差値など思考のベースになるものを「認知能力」と呼びますが、数値化できない「非認知能力」についても育む必要があります。「非認知能力」とは「生きる力」。生きるうえでの主体性や自己肯定感を育むものです。

「非認知能力」は、さらに「対自分」と「対他者・対社会」とに分けることができます。

「対自分」とは、自分が最も心地よいと感じられる生き方を探索し、作っていけるかどうかということです。本書では、「物語」「探索」として書かれています。

「対社会」とは、自分だけでなく、他者の幸せも考えるということです。相手の立場に立って、社会性を育み、問題を見つけて、良好な人間関係やよりよい社会を作っていく。

このことを、『ライフ・シフト2』では、「関係」「社会的開拓者」「社会的発明」という概念を使って書かれています。

「対社会」の視点で、複数の「物語」をつくり、自分の幸せも人類の幸せも推進しようと責任ある意思決定を行っていく「社会的発明」をする人が「社会的開拓者」なんだと思います。

物語の探索には「ワクワク」が必要

私の暮らすアメリカでは、先生が幼稚園児に「将来は何になりたい?」だけではなく、「みんなは、周りの人に何ができると思う?」と質問します。娘の幼稚園でそれを聞いたときは衝撃でした。自分は何が好きで何をしてきたかという利己的な視点だけでなく、コミュニティーのために何ができるかという利他的な視点がセットで認識されているのです。

そして、子どもが生きる力を学ぶためには、まず、親がそれを見せなければなりません。目に見えない能力をどう体現していくのか。まさしく、それを書いているのが『ライフ・シフト2』だと思います。

人生を探索し、物語を作っていくには、「これって何?」という好奇心と、そこから生まれるパッションが必要です。でも、パッションは、自然に降ってきたりはしません。『ライフ・シフト2』には、その探し方も書かれていますね。

パッションを見つけるには、まずは、自分がワクワクすることが大事です。ワクワクが見つかったら、次は、そのことで自分をどうやって社会につなげるかを考えます。

ワクワクは、自分が最高に楽しいと感じるならば、例えばゲームでもいい。ゲームにハマることは悪くも言われますが、利他的視点があれば、介護施設などで認知症予防にゲームを教えてあげることはできないかなどと、社会とつなげて考えることができるでしょう。

私自身も人生でシフトを経験してきました。以前は、中国現代アートを中心に現代アートのギャラリーを経営し、各国の要人を顧客に持っていました。しかし、50歳から、ライフコーチを始めると決めたのです。

周囲からは「そこまで成功しているのに、なぜ今さらライフコーチなんて?」と言われました。でも私は、もともと50歳になったらアートとは違った形で社会貢献をしたいと考えていたのです。それに、1から新しいことを始めることに、心からワクワクを感じました。

経済的安定を保ちながらのライフシフト

アートの世界では、名刺など不要でした。しかし、勉強して、ライフコーチとして来日し、名刺を差し出したとき、「あなた、誰?」と言われました。

それなりの経験を積んできた大人として、そんなことを言われたら、かっこ悪いと思ってすぐやめるという選択もあるでしょう。でも私にはそれはすごく新鮮なことで、「これだよこれ! ギャラリーを始めたときも最初はこうだった!」と思えたのです。

ライフシフトするには、経済的安定が必要だと思っています。生活の基盤が安定していることは、生きるうえで重要なことです。ですから、安定を保ちながら移行するには、どうすればいいかを考えました。

私の場合は、移行に5年間かけました。以前から、本を出版したくて、企画を持ち込むなどしていたのですが、「あなたの本を読む読者はいるかなあ……」などと言われ、うまくいきませんでした。

でも、ある方から「本の出版は難しいかもしれないけど、ブログだったら自由に書けるんだから、書いてみたら?」と助言をいただき、開設してみたところ、人生相談のような質問がたくさん寄せられるようになったのです。

もしかすると、コーチングで社会貢献できるかもしれないと考え、45歳からアートの仕事の時間を少し減らして、1日15分程度、コーチングの勉強を始めました。2年間は、勉強しながらブログで相談に応じ続けました。

それから、リアルのコーチングをボランティアで100時間以上行い、ワークショップを始めました。

もちろん、50歳になってすぐにコーチング1本に移行できたわけではありません。52歳まではパラレルワークで、アートの仕事をギリギリまで減らしつつコーチングを続けた結果、ようやく食べられるまでになり、出版の仕事もいただきました。

昨年から非認知能力育児コーチの養成を始め、現在、私のもとには、80人以上のコーチ(コーチ課程も含む)がいます。

私の場合は、たまたまワクワクすることが仕事になりました。ただ、それだけが人生の物語ではないとも思います。

例えば、1人で読書さえしていればワクワクする、という人もいるでしょう。それ自体を仕事にするのは難しいかもしれません。

それなら、読書できるという環境を守れる仕事を探してみてはいかがでしょうか。仕事を、「自分の好きなことを可能にしてくれる手段」として位置づけてみるのです。必ずしも、稼がなくてもいいのです。ワクワクを、自分のライフデザインの中心にすることが大切。「小さなバージョン」でもいいので、育てていくことが重要です。

今は、たくさんの方の人生に関わり、関わったみなさんが私をよりよいコーチにしてくれていると実感しています。感謝の気持ちしかありません。

『ライフ・シフト2』には、コミュニティーの重要性が書かれています。人間は、1人では弱いものです。悩みを交換し合ってキャッチボールをやっていく、同じ目線で話せるコミュニティーがあるといいと思いますね。

「何のために」が強いコミュニティーを作る

人間をつなげて強いコミュニティーを作るものは、「何のために」というミッションです。弊社のコーチたちは、年齢、職業、地域、既婚、未婚もばらばらです。でも、「新しい女性の生き方、子どもの非認知能力を高めよう」というミッションのもとで集まっています。

各地に支部がありますが、それぞれの支部のコーチたちは、自発的に勉強会をやっています。これは、協働力です。和を乱さず、空気を読むというようなものではなく、交響楽団のような力ですね。バイオリン、ピアノ、シンバルなどいろんな個性の人がいて、そのなかで最大最良の結果を作っていく。

これからの時代に求められるものは、そういった協働力です。

そのほかに、地域の人たちと一緒にワークショップをやったり、月に1度は、私と勉強会を開いたりもします。ディスカッションでは、いろんな意見を持ち寄ってくれますから、私自身の「非認知能力」も鍛えられています。

「非認知能力」は、環境ありきで育まれます。では、その環境を作るのは誰なのか。家庭なら、親です。子どもがやりたいことを持っていたとしても、親が「ダメ。あなたは医者になるの。勉強しなさい!」と押しつけていたのでは、子どもは変われません。

「非認知能力」は、環境が育む

会社もトップによって変わります。最近は、ダイバーシティー担当の部署の方からコーチングの依頼をいただくことが多いですね。多様化です。女性、外国人、年齢などいろいろな多様化がありますが、それぞれの強みをいかに使うかが、これからの成功のカギになっていくでしょう。

組織が存続するには、変わっていかなければなりません。そして、組織の環境は、トップダウンで変わります。

社員1人ひとりに変われと言うだけではダメでしょう。例えば、もっと女性が働きやすくしようと言っても、女性が働きづらい理由は、夫の側にもあります。そして、その夫もつらいわけです。

女性は、「家内」と呼ばれて家に閉じ込められ、自由がありませんでしたが、男性もまた、一家を支える重荷を背負い、「稼がなければ」「出世に影響する」という責任感に縛られて、自由に家に帰れません。

気持ちとしては妻に協力したいという男性はいるのですが、それができない。会社に制度があっても、それを利用する文化がないのです。そうなると、女性の働きづらさの問題は、個々人の問題でなく、会社の問題ということになるでしょう。

トップが、現場を知らなければいけません。そして、一言「これはまずいよね、すぐやろうよ」と言えば、環境は変わります。そのような経営陣を作っていかなければならないでしょう。共感力と柔軟性が問われます。

自分を楽しくするのは、自分だけ

人生100年時代、楽しい人生を選びたいですよね。人生って結局、楽しいかつらいかの、どっちかしかない。だったら、楽しくさせるしかないじゃないですか。でも、誰も自分の人生を楽しくはしてくれません。楽しく生きると決めたのなら、自分で、楽しくするのです。

そのためには、まずは情報に触れて、好奇心を育てることです。知らないことには、想像力も働きません。私は、毎朝2時間ほどかけて、メディア5社ほどのニュースを読んでいます。経済から芸能までいろいろ読み、興味があれば深掘りします。関心を持ったことを書き留めるのもいいですね。

ところが、ここで本当によく聞く悩みがあります。自分の物語を探すはずが、「他人の目が気になる」というのです。

何も考えずにレールに乗っていれば、悠々自適の老後まで連れていってもらえた時代の中で生きてきたために、他人軸で生きることが、その人の「正解」になっていたわけです。誰かに「そんなのダメ」と言われることは、レールを外れることになりますからね。

私は、この現象を「いい子の呪縛」と呼んでいます。いい子に育てられ、疑問を持たずに「こういうものだ」と踏襲して生きている。だから、世間体を気にするようになってしまうのです。

でも、これからは、自分に正直に、「自分の正解」を生きなければ幸せになれません。

例えば、結婚がそうです。日本では、結婚について、「何歳ぐらいで、相手はこういう人がいい」という暗黙の成功基準がありましたよね。でも、私は、22歳年が離れた、国籍も違う人と結婚しました。当時、周りからはいろいろ言われました。

「3つか4つくらい年上で、働かなくても養ってくれる日本人と結婚するのが幸せなんだから、そういう人を探しなさい」と。

でも、そんな「正解」を選んで生きたとして、その人は、私の幸せを保証してくれるのでしょうか。そんなことはありません。

自分の幸せを、自分で作る。その過程を通じて、他者を幸せにするには、自分の力をどう使えばいいのかを考える。これからの時代には、そういった視点が必要です。

『ライフ・シフト2』で、ぜひ大人の「非認知能力」を育んでいただきたいですね。

(構成 泉美木蘭)

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