2022.02.23
なぜ運動を頑張ってもなかなか痩せないのか|ダイエットと運動の関係を科学的に徹底解説
運動はダイエットにどれくらい有効なのでしょうか(写真:Glampixel/PIXTA)
痩せるために運動してもなかなか結果が出ない、という方も多いのではないだろうか。
実は、運動しても消費カロリーはあまり増えないうえ、基礎代謝が落ちる可能性があるという。
10万部のベストセラー『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』につづいて、『HEALTH RULES 病気のリスクを劇的に下げる健康習慣』を刊行したUCLA准教授の津川友介氏が、その理由を科学的に解説する。
『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』 クリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします
『HEALTH RULES 病気のリスクを劇的に下げる健康習慣』 クリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします
運動だけで瘦せることは難しい
運動はダイエットにどれくらい有効なのだろうか。
『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』 クリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします
読者の中には、食事をあまりがまんしたくないので、食事はそのままにして運動量を増やすことで瘦せようとしている人もいるだろう。しかし、結論から言うと食事制限をせずに運動のみで体重を減らすことは難しいことが研究からわかっているのだ。
80の研究を統合して評価した研究(*1)によると、食事制限および食事制限と運動の併用は体重減少に効果的であったものの、残念ながら(食事制限を伴わない)運動のみではほとんど体重減少が認められなかった。
なぜ運動はダイエットにそれほど寄与しないのだろうか。
医学の世界でも昔から、体重が増えるか減るかは摂取カロリーと消費カロリーの差で決まると信じられてきた。脂肪1kgが9000kcalで、脂肪細胞の8割が脂質で、残りの2割は水分やその他の物質なので、脂肪kgを減らすには、7200kcal消費する必要があると言われてきた。
しかし、実際には人間のカロリー消費の多くは基礎代謝(生命活動を維持するために、何もせずにじっとしていても消費するカロリー)や食事に関係する代謝(食事の咀嚼、消化、吸収によって消費されるカロリー)であり、運動によって消費されるのは全体の10〜30%にすぎないのである。
人間が摂取するカロリーは全て口から入るものであるため、それは100%自分でコントロールできるが、消費するカロリーは全体のわずか10~30%しか私たちにはコントロールできないことを意味する。
私たちの多くは日中の多くの時間を座って過ごしているため消費カロリーが少なく、もっと身体を動かすことができれば消費カロリーは増えると思っているが、その考えは間違っている可能性が指摘されている。
タンザニア中北部の先住民族であるハヅァ族の代謝を調査した研究(*2)がある。ハヅァ族は狩猟採集民族であり、日常的にかなり身体活動量が多いため、消費カロリーも多いというのが研究の仮説であった。しかし実際に測定してみると、ハヅァ族と欧米人の消費カロリーは変わらなかった。消費カロリーの大部分は基礎代謝であるため、身体活動量を増やしても消費カロリーはあまり増えないことが示唆されたのだ。
運動をすると基礎代謝が落ちる
消費カロリーが運動で増えた時に、摂取カロリーが変化しなければ理論上は瘦せるのだが、実際にはこの2つは無関係ではない。一般的に運動をするようになるとお腹が空くようになり、食事の量が増え、摂取カロリーが増える傾向(*3)がある。さらには、運動をするようになると、身体を休めるために横になって休む時間が増えるなど、日常生活の身体活動量が減る可能性(*4・5)も示唆されている。
さらには、運動をすることで、基礎代謝が落ちてそれ以上エネルギーがマイナスの状態にならないようにストップするメカニズムが働くことがわかってきた(*6)。原始人は飢餓によって命を落とす危険性が高かったように、人類の歴史上ずっと摂取カロリーが足りない状態が続いていた。飽食の時代になって摂取カロリーのほうが消費カロリーよりも多くなったのはつい最近のことである。なので、カロリーバランスがマイナスの状態が長く続くと、生命の危険があるため、人間の身体は自然と基礎代謝を落とすことでカロリーバランスを保とうとすると考えられている。
食事制限をせずに運動のみで瘦せるのは不可能なのだろうか? 必ずしもそうでないものの、運動のみで瘦せるにはかなりの運動量が必要になるのだ。例えば、52名の肥満男性を対象とした実験(*7)の結果によると、運動のみのグループの体重減少は、食事(カロリー)制限したグループと同等に有効であった。しかし、この研究における運動のみのグループでは1日あたり60分(700kcal)の運動が行われ、これは一般的に推奨されているの運動量(週150分間)よりかなり多かった。
似たような研究結果は複数存在しており、これらの結果を受けて、米国スポーツ医学会と米国糖尿病学会は「運動のみで体重減少を達成しようとするのならば1日60分以上の運動が必要である可能性がある」という共同声明(*8)を発表している。
ダイエットに成功したとしても、一度減った体重を維持するためには、かなりの運動が必要であると複数の研究結果(*9)からわかっている。具体的には体重1kgあたり11~12kcal/日の運動量が必要(*10)になる。
筋トレより有酸素運動
運動の種類によって体重への影響も異なる。有酸素運動と筋力トレーニングを比較した実験の結果(*11)によると、有酸素運動をしたグループのほうが8カ月後の体重減少が大きかった。
『HEALTH RULES 病気のリスクを劇的に下げる健康習慣』(集英社) クリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします
さらに有酸素運動と筋力トレーニングをセットでやったグループの体重変化は、有酸素運動のみをしたグループと変わらなかった。この研究でも体重は少ししか減らず、運動だけで瘦せることの難しさをあらわしている。
しかし、体重を減らせなくても、運動をすることで筋肉量が増えるなどで腹囲が減って見た目がスリムになるという効果は期待できる。さらには、運動することで糖尿病、高血圧、認知症などのリスクが下がり(*12)、健康で長生きできるようになることがわかっている。
このように運動には様々なメリットがあるのでぜひ積極的に日々の生活に取り入れてほしいのだが、体重を減らすという意味では効果は限定的である。逆に言うと、運動を始めてもなかなか体重が減らないからといって意味がないと諦めないでほしい。さまざまな健康上のメリットがあり、それはあなたの人生をより良いものにしてくれるのだから。
(*1)Franz MJ et al. Weight-loss outcomes: a systematic review and meta-analysis of weight-loss clinical trials with a minimum 1-year follow-up. J Am Diet Assoc. 2007;107(10):1755-1767.
(*2)Pontzer H et al. Hunter-gatherer energetics and human obesity. PLoS One. 2012;7(7): e40503.
(*3)Melanson EL et al. Resistance to exercise-induced weight loss: compensatory behavioral adaptations. Med Sci Sports Exerc. 2013;45(8):1600-1609.
(*4)Paravidino VB et al. Effect of Exercise Intensity on Spontaneous Physical Activity Energy Expenditure in Overweight Boys: A Crossover Study. PLoS One.2016;11(1): e0147141.
(*5)Thivel D et al. Is there spontaneous energy expenditure compensation in response to intensive exercise in obese youth? Pediatr Obes. 2014;9(2):147-154.
(*6)Dhurandhar EJ et al. Predicting adult weight change in the real world: a systematic review and meta-analysis accounting for compensatory changes in energy intake or expenditure. Int J Obes (Lond). 2015;39(8):1181-1187.
(*7)Ross R et al. Reduction in obesity and related comorbid conditions after diet-induced weight loss or exercise-induced weight loss in men. A randomized, controlled trial. Ann Intern Med. 2000;133(2):92-103.
(*8)Colberg SR et al. Exercise and type 2 diabetes: the American College of Sports Medicine and the American Diabetes Association: joint position statement. Diabetes Care. 2010;33(12):e147-e167.
(*9)Fogelholm M & Kukkonen-Harjula K. Does physical activity prevent weight gain--a systematic review. Obes Rev. 2000;1(2):95-111.
(*10)Schoeller DA et al. How much physical activity is needed to minimize weight gain in previously obese women? Am J Clin Nutr. 1997;66(3):551-556.
(*11)Willis LH et al. Effects of aerobic and/or resistance training on body mass and fat mass in overweight or obese adults. J Appl Physiol(1985). 2012;113(12):1831–1837.
(*12)Reiner M et al. Long-term health benefits of physical activity--a systematic review of longitudinal studies. BMC Public Health. 2013;13:813.
【あわせて読みたい】※外部サイトに遷移します
提供元:なぜ運動を頑張ってもなかなか痩せないのか|東洋経済オンライン