2022.02.08
平気で「鍋の素」を買う人が知らない超残念な真実|「鍋=ヘルシー」と思い込む人の深刻盲点は?
手軽に安く購入できる鍋の素。安い理由はなぜなのでしょうか?(写真:shige hattori/PIXTA)
食品添加物の現状や食生活の危機を訴え、新聞、雑誌、テレビにも取り上げられるなど大きな反響を呼んだ『食品の裏側』を2005年に上梓した安部司氏。70万部を突破する大ベストセラーとなり、中国、台湾、韓国でも翻訳出版され、いまもなおロングセラーになっている。
その安部氏が、『食品の裏側』を発売後、全国の読者から受けた「何を食べればいいのか?」という質問に対する答えとして、このたび『世界一美味しい「プロの手抜き和食」安部ごはん ベスト102レシピ』を上梓した。15年の間に書きためた膨大なレシピノートの中から、たった5つの「魔法の調味料」さえ作れば、簡単に時短に作れるレシピを厳選した1冊だ。
発売後、たちまち6刷5万部を突破し、各メディアで取り上げられるなど、大きな話題を呼んでいる安部氏が「平気で『鍋の素』を買う人が知らない超残念な真実」について語る。
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「鍋はヘルシー」と思い込んでいませんか?
寒い日が続きます。各地で大雪や吹雪が吹き荒れ、私の住む北九州市にも寒波襲来で雪が降りました。
こんなときにうれしいのが鍋料理。熱々の鍋は、体も心も温まるものです。鍋は野菜もたんぱく質もたっぷり摂れて栄養バランス満点。調理に油を使わないし、非常にヘルシーです。
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ところが、いつの頃からか、家庭における鍋は「鍋の素」を使うのが当たり前という風潮になっているようです。
「おいしくて便利な〇〇鍋の素」などとテレビでしきりに宣伝されるようになり、スーパーではキムチ鍋、ごま担々鍋、豆乳鍋、トマト鍋など、あらゆる種類の「鍋の素シリーズ」がズラリと並びます。
「レトルトタイプ」「濃縮ボトルタイプ」「1人前のポーションタイプ」「キューブタイプ」など、形状もいろいろで、一大市場となっていることがうかがえます。
しかし私はこの「鍋の素」について疑問を呈したいのです。
なぜなら長年食品開発に関わり、添加物を知り尽くした私が見れば、多くの鍋の素が「添加物やエキス類」を駆使して「コスト優先」で作られているとしか思えないからです。
では実際の「鍋の素」の原材料をもとに、どのようなコスト感覚でつくられているかを検証していきましょう。
下記は、とある「キムチ鍋の素」の原材料です。
「キムチ鍋の素」の正体は?
★キムチ鍋の素
アミノ酸液、果糖ぶどう糖液糖、みそ、食塩、醸造酢、魚醤(魚介類)、にんにく、唐辛子、ごま油、トウバンジャン、たんぱく加水分解物、野菜エキス、酸味料、ポークエキス、チキンエキス、煮干し粉末、酵母エキス、調味料(アミノ酸等)、パプリカ色素、増粘剤(キサンタンガム)*メーカーによって違いがあります
ここで注目すべきは「アミノ酸液」です。これは簡単に言えば「たんぱく加水分解物」の液体のもの。「たんぱく加水分解物」とは、たんぱく質を塩酸分解して作るうま味の素です。
「アミノ酸液」は脱脂大豆を塩酸で分解して作る調味液で、しょうゆの置き換えとして使われます。
なぜしょうゆを使わずに「アミノ酸液」を使うのか、それはひとえに「コスト」の問題です。アミノ酸液はだいたい1リットル100~200円程度ですから、しょうゆを使うよりはるかにコスト安になります。
この「アミノ酸液」、味はどうかというと、たしかにしょうゆのような味ですが、「独特の味」とにおいがあります。私の表現では「もわっとして、とげとげしい味」。しょうゆが持つまろやかさには、とても及びません。でも他の調味料と混ぜればごまかすことができます。
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『食品の裏側』で詳しく紹介し、「日本人の舌を壊す『黄金トリオ』の超ヤバい正体」でも述べたことですが、「(1)食塩(精製塩)」「(2)調味料(化学調味料)」「(3)たんぱく加水分解物」という、うま味のベース(黄金トリオ)がそろえば、味がしっかり決まり、簡単に「おいしい」と思える味を人工的に作り出せるのです。
それから「醸造酢」にも注目してください。これは小麦やトウモロコシを使った穀物酢で、『安部ごはん』で「魔法の調味料」を作る時に推奨している「米酢」より、はるかにコストが安い。つまり「米酢の置き換え」で使われるのです。
「日本人の舌を壊す『黄金トリオ』の超ヤバい正体」 ※外部サイトに遷移します
そしてなんといってもこの「キムチ鍋の素」には、「キムチ」が使われていません。
「黄金トリオ」と「ポークエキス」「チキンエキス」「トウバンジャン」「酸味料」で「キムチ鍋風の味」を出しているだけ。「パプリカ色素」が使われているのは、キムチっぽい色を出すためでしょう。
保存の問題があるし、「液状」にしないといけないから、「鍋の素」に本物のキムチは使えないのです。
しかし、このキムチ鍋、目隠しの状態で口に入れられたら、「キムチ鍋」とわからない人が多いのではないでしょうか。動物性のだしの入ったスンドゥブみたいなものに間違えるような気がします。
キムチのおいしさは「乳酸発酵」にあります。「乳酸のさっぱりした酸味」がおいしさのカギですが、このキムチ鍋にはそれがない。私の考えるキムチ鍋とは別モノです。
「野菜たっぷりの寄せ鍋の素」は?
もうひとつ見ていきましょう。「野菜たっぷり寄せ鍋」です。
★野菜たっぷり寄せ鍋の素
たんぱく加水分解物(大豆を含む)、ブドウ糖果糖液糖、しょうゆ、米発酵調味料、かつおぶしエキス、食塩、魚介エキス(えびを含む)、野菜エキス、酵母エキス/調味料(アミノ酸等)、増粘剤(キサンタン) *メーカーによって違いがあります
これも「たんぱく加水分解物」「食塩」「調味料(アミノ酸等)」がそろい踏み。典型的な「黄金トリオ」です。あとは「エキス類」を使って味を補っています。
それから「米発酵調味料」。これは本みりんの代わりに使います。米をアルコール発酵させて、「水あめ」「うま味調味料」「酸味料」などで味を調えたものです。
もち米を焼酎の中で糖化して作る「本みりん」とは、味も風味も異なります。でも本みりんに比べたら、コストはだいたい10分の1程度と、ぐんと安上がりでできるのです。
今回取り上げた2つの例でおわかりいただけたかと思いますが、まずは「コストありき」なのです。
私が食品開発の現役時代は、たとえば「200ccを200円で売る」などと先に決めて、それに合わせて作っていました。コストを念頭に置きながら、上記の要領で材料を「より安いもの」に「置き換えて」いくのです。
コスト優先で「より安いもの」にしたことで味が物足りなくなったり、風味がなくなったりしても構いません、それを補うのが「添加物やエキス類」の力なのです。
もちろん、すべての「鍋の素」がこのようなコスト最優先で作られているとはいいません。それにコストだって大事です。コスト度外視で作ったら、値段が高くなって売れませんから。
しかし「食品開発のプロ」「添加物のプロ」を自認する私が、売り場に並んでいる「鍋の素」の原材料を見れば、「どんなコスト意識で作られたものか」がすぐわかります。
みなさんはコスト最優先の「置き換え」で作られた「鍋の素」を、それでも平気で買うでしょうか?
「鍋の素」がなくても「絶品鍋」は簡単に作れる!
もちろん私は「鍋の素」を買ってはいけないと言っているのではありません。忙しいとか、味のバリエーションを増やしたいとか、それなりの理由があるときは使ってもいいと思います。
ただ、私が言いたいのは「鍋をするときは『鍋の素』を使うのが当たり前」というのは思い込みにすぎないということです。
「鍋の素」を買わなくても、家にある調味料で十分、おいしい鍋ができます。
『安部ごはん』では、私が開発した「魔法の調味料」のひとつ「かえし(しょうゆと砂糖を合わせて寝かせたもの)」と「和だし」、それに酒で具材をサッと煮るだけで作れる「野菜たっぷり節約鍋」を紹介しています。「かえし」と「和だし」だけ用意しておけば、10分で簡単に作れます。
具材はお好みの野菜や豆腐を中心に何でもいいのですが、野菜だけでなく鶏肉を入れると、鶏肉から出るだしで、さらに旨味がアップして、おすすめです。
安部氏が開発した魔法の調味料の「かえし」と「和だし」さえあれば簡単に作れる「野菜たっぷり節約鍋」(撮影:佳川奈央)
キムチ鍋の場合は、「和だし」に、豚肉と鶏肉を両方使ってください。これで中華風・韓国風のだしになります。それと、もちろん本物のキムチを入れてください。キムチ鍋本来の「乳酸発酵のおいしさ」が楽しめるからです。
どうも「鍋の素」を使う人の多くは、お鍋を「素材の旨味」ではなく「つゆ」で食べる傾向にあるように思います。でも本来、鍋料理は「つゆ」だけではなく、「素材の旨味」を楽しみ、食べるもの。
「絶品鍋」は自宅で簡単にできるので、みなさんもぜひ「体も心も温まるおいしい鍋料理」で、この寒さを乗り切ってくださいね。
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提供元:平気で「鍋の素」を買う人が知らない超残念な真実|東洋経済オンライン