2021.12.15
何でも「レンチン調理」への痛烈な違和感、5大欠点|作ってみて驚いた「本当においしいですか?」
「食のプロ」が感じた「何でもレンチン調理」のレシピが蔓延る風潮への違和感と、「おいしくない」と感じる5つの欠点とは?(写真:セーラム/PIXTA)
食品添加物の現状や食生活の危機を訴え、新聞、雑誌、テレビにも取り上げられるなど大きな反響を呼んだ『食品の裏側』を2005年に上梓した安部司氏。70万部を突破する大ベストセラーとなり、中国、台湾、韓国でも翻訳出版され、いまもなおロングセラーになっている。
その安部氏が、『食品の裏側』を発売後、全国の読者から受けた「何を食べればいいのか?」という質問に対する答えとして、この度『世界一美味しい「プロの手抜き和食」安部ごはん ベスト102レシピ』を上梓した。15年のあいだに書きためた膨大なレシピノートの中から、たった5つの「魔法の調味料」さえ作れば、簡単に時短に作れるレシピを厳選した1冊だ。同書は発売後、たちまち6刷5万部のベストセラーとなり、各メディアで取り上げられるなど、話題となっている。
「『ABEMA Prime』チャンネルAbema/news」(9月8日放送)にも出演した安部氏が「『何でもレンチン』レシピへの違和感と5つの欠点」について語る。
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「安部ごはん」にはない「2つのレシピ」
私たちが日々食べる食品に「どれだけの食品添加物が使われているか」、そして「それがいかに日本の食文化を侵食しているか」について訴えた『食品の裏側』が70万部のベストセラーになってから15年。
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全国各地で講演会をするたびに何百回、何千回と聞かれた、「では、何を食べればいいのですか」という質問にお答えする形で生まれたのが、「安部ごはん」です。
おかげさまで発売後早くも6刷5万部を突破、各メディアでも取り上げられるなど好評価をいただき、心からありがたく思っています。
「安部ごはん」がほかのレシピ本と大きく違う点が2つあります。
1つは「めんつゆ」「だしの素」「コンソメの素」を使わないこと。これについては「『めんつゆばかり使うレシピ』に潜む3大深刻問題」や「『日本人の舌を壊す』黄金トリオのヤバい正体」に書いたとおりです。
もう1つは「電子レンジを使わない」、つまり「レンチン調理のレシピ」がないという点です。
昨今の人気料理家が、本やSNSで掲載しているレシピは「レンチン」が花盛りです。「材料と調味料を入れてレンチン10分で煮物が出来上がり」「先に焦げ目をつけて後はレンジにお任せでハンバーグが完成」などなど、見るからに手軽そうです。
しかし「安部ごはん」が電子レンジを調理に使わないのはなぜか。それは「レンチン調理」をすると、おいしくないものが大半だから。これに尽きます。
「『めんつゆばかり使うレシピ』に潜む3大深刻問題」や「『日本人の舌を壊す』黄金トリオのヤバい正体」 ※外部サイトに遷移します
今回、この記事を作成するために、いくつかの人気料理家のレンチンレシピを試してみましたが、少なくとも私には「おいしい!」と思えるものはできませんでした。
なぜ「レンチン調理」がおいしくないのか。長年食品業界に携わり、自らも300を超える加工食品を開発し、「食品のプロ」を自認する1人として、私見ではありますが、「レンチンレシピ」には、5つの欠点があると感じてします。
「オーバークッキング」になりやすい
【レンチン調理の欠点1】熱ムラができてしまう
レンチン調理の欠点の1つめは、どうしても「熱ムラ」ができてしまうこと。
たとえば「肉じゃが」。作り方は「じゃがいも、にんじん、たまねぎ、しらたき、牛こま肉をカットし、しょうゆや砂糖、だしの素などで作った合わせ調味液を回しかけてレンチンする」というもの。
しかし、当然ながら、食材によって「熱の伝わり方」は異なります。違う素材をいっぺんにレンチンしたら、あるものは火が通らず、あるものは加熱しすぎになってしまう。下手すると、周りは焦げているのに中はまだ冷たいというものができたりします。
加熱しすぎのことを業界用語で「オーバークッキング」と言いますが、この「オーバークッキング」になってしまうと、料理はいっぺんにまずくなってしまいます。
実際、私が作った「レンチン肉じゃが」は、じゃがいもに芯が残ってしまいました。だからといって、火が通りやすいように小さくカットしすぎたら、じゃがいものごろっとした「肉じゃが」らしさが台無しです。
さらに、切った材料をタッパーなどに入れて合わせ調味液を回しがけてレンチンするというのですが、これでは「調味液に浸かっていない部分」が乾燥してしまいます。現に私の作った「肉じゃが」は、にんじんが乾燥して干からびたようにバサバサになってしまいました。
【レンチン調理の欠点2】味がしみ込まない
レンチン調理欠点の2つめは、「味のしみ込みが悪い」ということです。
たとえば煮物などは鍋でグツグツ煮込むうちに、外側の組織が少し壊されるわけです。そこから少しずつ味がしみ込んでいく。
ところが電子レンジはマイクロ波を照射することで、素材の中の水分を振動させてその摩擦熱で加熱するという方法です。素材は全体がいっきに加熱されてしまいがちです。
これだと外側から徐々に味がしみ込むどころか、味がしみ込む前にできあがってしまうのです。
今回試作した「煮豚」も「ブリ大根」も味がしみ込まないから、結局、漬け汁につけながら食べる格好になってしまいました。味がないから一口かじっては漬け汁に漬けるといった具合です。
味をしみ込ませるために「調理が終わったらそのまま10分置いて、余熱で火を通す」というレシピもあったのですが、これならもう鍋でやったほうがはるかにラクで早いと私は思いました。
それから「ブリ大根」は、ブリから出た「うま味」が大根にしみ込んだのがなんともいえぬおいしさなのですが、「レンチン調理」ではそれがまったく感じられませんでした。
それからレンチン調理では往々にして、食材の「くさみ」が抜けません。
【レンチン調理の欠点3】くさみが抜けない
「ブリ大根」もそのほかの煮魚もそうですが、鍋で煮るときは、外側から徐々に熱が伝わって、調味料がしみ込むのと同時に、魚のくさみがゆっくり抜けていくのです。
ところがレンチン調理では、あっという間に加熱させるため、くさみの抜ける時間がないのです。
「食品のくさみ」というのは、意外と大きな問題です。私が昔、加工食品の開発をしていたとき、真空パックの調理済み食品を作ろうとしたことがあります。
魚や煮物などを真空パックにして、その状態で加熱すると、調理と加熱殺菌がいっぺんにできるのです。これだと常温で2カ月ぐらいもちます。食べるときはレンジで温めるのです。
35年も前の話で、当時は真空パック調理など誰もやっていませんでした。これは一大ヒットとなるだろうと有頂天になったのですが、フタを開けてみたら大コケ。まったく売れなかったのです。
理由はシンプルにおいしくないから。この方法でやると、どうしてもパック内に「嫌らしい味」がこもってしまうのです。真空パックにすると不思議なことに、魚の嫌なくさみ、野菜の苦みが気になったのです。
今回、レンチンで「ブリ大根」を作ってみて、あのときの「くさみ」を思い出しました。
【レンチン調理の欠点4】調理の過程が見えない(修正ができない)
当然ながら、レンチン調理というのは、材料と調味料を入れて、10分なら10分、15分なら15分間、電子レンジにおまかせです。
慣れの問題もあるかもしれませんが、私にとってこれはなかなかに不安でした。「ブラックボックス」ではありませんが、「調理の過程」がまるで見えないのです。
鍋で煮た場合、煮え方を目で確認したり、味見をしたりできます。そこで「煮崩れしそうだから火を弱めよう」とか「味がちょっと薄いからしょうゆを足そう」というように修正もできるわけです。レンチン調理はそれができません。出来上がるまで様子がわからないのです。
そして初めてわかったのですが、調理の過程が見えないというのは「楽しくない」のです。
鍋でグツグツ煮こんで、フタをちょっと開けてみると、おいしそうな香りが立って「おっ、もう少しかな」「そろそろできたかな」という、あのワクワクした感じが、「レンチン調理」にはまったくないのです。もちろん、料理にそんな楽しさなど求めないというなら問題はないでしょうが……。
じつは今回、レンチン調理で、いちばん驚いたのはこれでした。
【レンチン調理の欠点5】意外と面倒で時間がかかる
耐熱容器に材料と調味料を入れてふんわりとラップをかけて、時間をセットして、途中で止めて上下を返したり、調味料を追加で足したり……。その都度ドアを開けたり閉めたりして、結構面倒に感じました。
そして、ものによっては、「全体の時間」で計算すると、意外と時間がかかる。「レンチンレシピ」の最大のウリは「時短」だと思うのですが、今回試した中には、全部で40分もかかるレンチンレシピもありました。
これも慣れの問題かもしれませんが、少なくとも私が試作したすべてのレシピにおいては「普通に鍋で作ったほうがラクだ……」とつくづく思ってしまいました。
手前みそになってしまいますが、「魔法の調味料」を5つ作っておいて、それを駆使して作る「安部ごはん」のほうが、はるかに時短でラクです。
なぜ「外食にレンチン調理が少ない」と思いますか?
念のため、声を大にして言っておきますが、私は電子レンジの使用そのものを全否定しているのでは当然ありません。わが家でも「調理」にこそ使わないけれど、もちろん「解凍」や「温め」には使います。
急いでいるときに短時間で解凍できたり、ちょっとふにゃふにゃ感は出てしまうけれど、野菜の下茹でや飴色玉ねぎなどを作るなど、上手に活用すれば電子レンジは確かに便利だと思います。いまや電子レンジが現代生活に欠かせない存在であることもわかっています。
ただ、「何でもかんでも『調理』にレンチンをすすめる」という風潮にはやはり異を唱えたいのです。
一般の消費者が「便利だから」と「調理」に使うのは理解できますが、「プロ」を自認しているような料理家の中に、熱ムラがあったり、くさみが残る「レンチンレシピ」ばかりすすめる料理家がいることに、私は強烈な違和感を覚えてしまいます。
そして、そういう料理研究家に、ぜひ私は聞いてみたいのです。
「仮にでも『料理のプロ』を自認しているならば、その1人として、本当に『おいしい』と思って、お金を払って本を買ってくれる読者1人ひとりに『レンチン調理』を推薦しているのですか?」
「レンチン調理」をすすめる料理家のみなさんは、「鍋で調理するのとまったく遜色がない」「それ以上においしい」というかもしれませんが、そういう人には、ぜひ聞いてみたいのです。
「もし『レンチン調理』が本当にそんなにおいしいなら、外食産業はもっと『レンチン調理』をしているのではないですか? なぜ、店内調理に、外食産業はあそこまでこだわっているのですか?」
本来なら、とくに大手チェーンなら、1分でも30秒でも時間を短縮すべく、調理のオペレーションを工夫しているわけです。もし本当に「おいしい」なら、味が均一化する「レンチン調理」を、もっと取り入れているのではないでしょうか。
もちろん「温め」には使っているけれど、レンチンで「調理」をしている外食店は、いったい、どれほどあるでしょうか? 「お客さんに出すほどおいしいものはなかなかできない」から、レンチン調理を導入していないのではないでしょうか?
レンチン調理に異を唱える私ですが、ある女性からこんなことを言われました。
「私は料理の時間がもったいないと思う。料理の時間を1時間節約できれば、その時間をクリエイティブな仕事にあてられる。だから私はレンチンはもちろん、外食も出来合いのものも、便利なものはフルに活用します」
もちろん、それは個人の価値観ですから、私がとやかくいう筋合いのものではありません。
しかし「便利さ」を求めるということは、その「裏側」にあるものも引き受けることになるのです。それは食品添加物に支えられた加工食品を支持することでもあり、中国をはじめとした海外からの輸入調理済み冷凍食品を支持することにもなるわけです。
わざわざエネルギーを使ってCО2をまきちらして、遠く海外から運んできて、挙句の果て大量の食品廃棄を出しているのが、日本のいまの姿です。
出来合いの弁当ならば、プラスチックゴミも出ます。CO2にしろ、エネルギー問題にしろ、プラスチックゴミにしろ、次世代に負の遺産として残してしまうわけです。
その話をすると彼女は最後に「これからは作ります」といってくれました。
レンチンしなくても「手抜き✕極うま」は可能
時代の流れは一直線に「便利・効率」に向かっています。「レンチンレシピ」はその代表といえるでしょう。
もちろん忙しいときにレンチンを使うのも仕方ないとは思います。ただ、私がもう1つ声を大にして言いたいのは、「別にレンチン調理にこだわらなくても、手抜きでおいしいごはんは、いくらでも簡単に作れる」ということです。
たとえば、私が開発した「魔法の調味料」の「かえし」と「みりん酒」さえ用意しておけば、15分で簡単に肉じゃがが、しかも無添加で作れます。強火でいっきに煮て、余熱で味をしみ込ませるので、驚きの速さで完成です。
安部氏が開発した「かえし」と「みりん酒」さえ用意すれば、15分で簡単に作れる「爆速肉じゃが」(撮影:佳川奈央)
鍋でコトコト煮るおいしさを忘れてほしくない、そしてそれを子どもたちに伝えていってほしい、心からそう願っています。
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提供元:何でも「レンチン調理」への痛烈な違和感、5大欠点|東洋経済オンライン