2021.12.07
通販「冷凍チーズケーキ」が超売れているワケ|3分で700箱、1週間で3カ月先までの予約分完売
スイーツのヒットメーカー、長沼氏が手がけるCHEESE WONDER(左)とヌクメル。前者は“最高の素材”にこだわったチーズケーキ。後者は“ネット通販+冷凍”という手法を活用し、焼き上がったばかりのおいしさを追求した。温め時間を調整することで、食感に違いが出る(撮影:今井康一)
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このところのスイーツのトレンドとして挙げられるのが、「冷凍」である。
消費期限の長さや、保存料などが少なくて済むこと、フレッシュさなど、冷凍食品のメリットに消費者が注目し、すでにブームの兆しがあったところ、世の中がコロナ禍に突入。さまざまな理由で家庭用の冷凍食品市場が大きく伸長した。
そうした社会状況を背景に、冷凍に通販を組み合わせたスイーツブランドが群雄割拠している。また、①冷凍のまま、②半解凍で、③手を加えてといった、食べ方の違いで味わいのバリエーションを増やすという、冷凍食品の特徴を活かした商品展開を行っているのも興味深い。
買い置きしておきいつでも好きなときに、手間をかけずに食べられるという、消費者にとっての利便性も魅力だ。ローソンやセブンイレブンが販売して話題となった、「カッサータ」人気の理由でもあるだろう。
そんな中、この冷凍+通販のカテゴリで新たなスイーツが誕生した。
電子レンジで温めることで完成させるチーズケーキ
2021年10月4日から販売開始された「Nukmel(ヌクメル)」だ。これは、自ら電子レンジで温めることで完成させるチーズケーキ。焼き上がったばかりのチーズケーキの味わいを求めて開発されたものだという。
本商品の注目ポイントは、ブランドの仕掛け人、長沼真太郎氏である。同氏はチーズタルトの「BAKE」創業者であり、2021年2月にスタートした、なかなか予約できないスイーツ「CHEESE WONDER」などを手掛けてきた、スイーツのヒットメーカーだ。
同氏は2020年に、放牧事業と洋菓子の企画・生産を行う農業生産法人、ユートピアアグリカルチャーを立ち上げ。「放牧による乳卵製品・お菓子の製造販売を通じ、人・動物・地球環境に負荷の少ない持続可能なビジネスを実現する」ことを目的に、北海道大学と提携しながら実証実験を進めている。
実はCHEESE WONDERも、解凍の度合いによって味の変化が楽しめるスイーツ。冷凍庫から出したばかりならアイスケーキ感覚で食べられ、時間を置くほどにムースがとろけてやわらかくなる。チーズの芳醇な香りに、かためで香ばしいクッキーがアクセントを添える。6個入り2980円(撮影:今井康一)
CHEESE WONDERは同社の手がけるスイーツ第1号として発売されたもの。「どこよりもフレッシュなお菓子、どこよりも手間をかける、どこよりも良い原材料を使う」という、長沼氏が提唱する“お菓子の三原則”に基づいて作られているのだが、とくに原材料に関して、乳牛の放牧、鶏の平飼いといったところからこだわった、最高のチーズケーキだという。手作業で製造しているため数量が限られ、毎週金・土曜日の午後8時に販売開始されるが、約700箱が3分ほどで売り切れてしまうほどの人気商品だ。
2021年9月から予約販売を開始するも、1週間ほどで3カ月先まで予約分が完売。現在でも半年先まで予約購入分が完売している。
一方、今回紹介する新商品のヌクメルは長沼氏の企画によるものだが、また別の新会社、「ヌクメル」より発売されるスイーツ。同氏がこれまで行ってきたスイーツのビジネスに新たな展開をもたらすものでもあるという。
開発の背景や狙いについて、長沼氏と、ヌクメル社長の佐野和哉氏に聞いた。
“バディ戦略“というブランド開発手法
まず、これまで手がけてきたスイーツとの大きな違いが、他の人物とタッグを組む、名付けて“バディ戦略“というブランド開発手法である。これについて長沼氏は次のように説明する。
「26歳でBAKEを起業して以来、自分の感覚でさまざまなスイーツを企画してきました。ただこの頃痛感しているのが、市場の細分化や流行の変わりやすさ。1つの企業の限られた人材で商品を生み出し続けるのは限界があります。別の業界から新しい感覚を取り入れることで、新たな価値を生み出していけるのではと考えました」
バディ戦略での重要なポイントは、長沼氏のみならずブランド開発者も出資し、ブランドへの関与を高めることだという。また、開発初期には、長沼氏の所有する製造設備や流通経路、ブランド開発ノウハウなどを提供することで、製菓ビジネスへの新しい人材の参入を活発にする狙いがある。
今回のヌクメルにおいてバディを務める佐野氏は大手広告会社の営業マンを始めとして、事業やブランドの企画開発、制作・運用、リサーチやコンサルティングなどと幅広い経験を積んできた人物。
ヌクメルについて佐野氏がこだわったのは、ネット販売の利点を生かし、できたてのフレッシュな味を届けることだという。
「長沼さんから、『小さな頃に工場で食べていた、焼き上がったばかりの、まだ温かいチーズケーキの味が最高』と聞いたことがヒントになりました。冷凍の状態でご自宅に届け、自分で温めて再現してもらいます。お菓子の材料や配合だけでなく、容器や温め時間の設定まで、試行錯誤を繰り返して完成させました。温かいスイーツで、温かな時間を過ごしていただければと考えています」(佐野氏)
スイーツに使用した素材は、北海道産にこだわった4種類のチーズと2種類の生クリーム、そして卵。レンジで温めることにより、表面のムースはとろけたような状態になり、内側のスフレはふんわりと、底に敷かれたクッキーはザクザクとした食感に仕上がる。新鮮かつほっとするような温かさとともに、香り、味がより豊かに感じられるのも、温かいスイーツの魅力だろう。
容器に使用したのは陶器のカップ。均一に温められるという特性があるほか、スイーツにこれまでにない特別な価値を持たせられると考えたためだ。「ヌクメル」に込められた「温める」という意味合いに合わせ、容器の色合いも温かみのあるピンクベージュを選んだ。
さらに、“スイーツを食べる時間”の価値を高めるための工夫も凝らしている。
発売されている「デイパック」(2980円)と「ウィークエンドパック(3980円)の2種類はいずれも同じ商品の3個詰め合わせだが、後者は1個1個、シックで高級感のあるデザインの、オリジナルの化粧箱に入れられて届く。週末の自分へのご褒美や、プレゼント用途を意図しているそうだ。
家で過ごす時間を特別なものに演出するスイーツ。ヌクメルではさらなる価値付けのため、包材にも工夫を凝らした。ウィークエンドパック3個入り3980円(撮影:今井康一)
10月4日に発売され、上限の200箱は即完売。その後も毎週日、月曜日の午後9時から予約を受け付けているが、毎回3分前後で売り切れるという。
ヌクメルについて、長沼氏自身は次のように評価している。
「自分の小さな頃の思い出である、温かいチーズケーキのおいしさはいつか挑戦してみたかった。包装にも新たな観点からこだわりました。SNSに写真をアップするお客様もいて、体験を楽しんでいただけているという感触です」(長沼氏)
ただ、発売後衰えることない人気ゆえの課題も見えてきた。質感や素材にこだわり特注生産している陶器が原因で、生産量を一気に増やすことができないのだという。そのため11月末から2022年春までヌクメルの生産を一時停止し、生産体制を整備することとなった。
長沼氏によれば、「必ずよりよい形で再度皆様のお手元にお届けできるよう、尽力していきたい」とのことだ。
秋冬の新作商品とは?
最後に、長沼氏が仕掛ける秋冬の新作商品についても触れておこう。
SNOWS(スノー)というブランドから発売される3つの商品だ。
SNOWSAND(5個入918円)は冬季限定のスイーツ。2021年2月から3月中旬までの期間限定で発売されたが、初日から30分でオンライン販売分が完売。2カ月で約50万個を売り上げた。生チョコレートをラングドシャクッキーで挟んだクッキーサンドだが、味の秘密はユートピアアグリカルチャーで運営する牧場の牛乳を使った、中身の生チョコレートにある。
「牛乳の栄養成分や味わいは季節によって違うんですよ。冬の牛乳は脂肪分が高くて、後味にコクがあります。この味わいが生チョコレートに合う。あえて冬季に限定したのは、冬にしかつくれないスイーツだからなのです」(長沼氏)
11月に発売されたSNOWSブランドの3商品。奥から時計回りに「森ノ幹」2160円、「森ノ木」10個入1080円、SNOWSAND5個入918円(撮影:今井康一)
ほかに枝のような形状が可愛らしいバターミルクチョコレート「森ノ木」(10個入り1080円)や、マカロンバームクーヘン「森ノ幹」(2160円)を合わせた3商品を、11月より通販およびポップアップストア(北海道・東京・大阪で順次開催)で販売した。発売後4週間経過している現在も、オンラインストアの在庫分はほぼ毎日完売、百貨店での売り上げも好調のようだ。
スイーツのみならず飲食全体において、素材を重視する傾向はコロナ以前から始まっており、今、さらに大きな潮流へと成長してきた。そして素材と言えば北海道だ。中でもスイーツの素材である乳製品が豊富に生産されている地である。こうした強みを背景に、ネット通販、冷凍という新たなトレンドでも、北海道発のスイーツがリードしているようだ。
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提供元:通販「冷凍チーズケーキ」が超売れているワケ|東洋経済オンライン