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2021.11.11

インフルワクチン打たない人に迫る3つのリスク|流行しなかったことが感染リスクを高める皮肉


インフルエンザワクチンを打つかどうか悩んでいる人は多いのではないでしょうか。写真は新型コロナウイルスワクチンの注射器(写真:ブルームバーグ)

インフルエンザワクチンを打つかどうか悩んでいる人は多いのではないでしょうか。写真は新型コロナウイルスワクチンの注射器(写真:ブルームバーグ)

「感染対策をしっかりしているから、今年もインフルははやらないね」「この夏、南半球でインフルははやらなかったから、日本にも入ってこないよ」――多くの人が期待を込めてそう楽観していることと思う。実際そうなるのかもしれない。

この冬、インフルエンザが国内流行するかは、正直言ってしまえば未知数だ。それでも今、インフルワクチンを打てる人は打っておいたほうがいい。おすすめする理由は3つある。

「殺人インフル」の早すぎる流行

打たなかった場合の不安要素は確実にある。ひとつが、ヨーロッパでのインフルエンザウイルスの不穏な動きだ。

欧州疾病予防管理センター(ECDC)の10月26日発表によれば、クロアチアではすでに例年のこの時期を上回る患者数が報告されている。この時期の流行は「異常に早い」という。

しかも過去1カ月間にヨーロッパで報告されたインフルエンザは、主にA香港型(H3N2)ウイルスだ。インフルの中ではかなり厄介な部類である。

A香港型は「激症型」とされ、これまでにパンデミックや変異を繰り返し、死者も多い。典型例は、1968~1969年に香港から世界に広がった通称「香港かぜ」だ。

アメリカCDC(疾病予防管理センター)によれば、「香港かぜ」は全世界でおよそ100万人の死者を出した。アメリカでも約10万人が死亡し、そのほとんどが65歳以上の高齢者だった。高齢者の場合、やはり肺炎が死亡に直結してしまう。

日本でも、1994~1995年の流行ではA香港型が中心となった。今とは統計の取り方が違うので比較はできないが、国立感染症研究所によれば、このときは定点医療機関(小児科・内科)から報告された患者数が、1987年の集計開始以来、最高に上った。

直近でも、2017年のオーストラリアでのインフル大流行の際、主犯格がA香港型だった。深刻な広がりを見せたビクトリア州では、感染者の42%をA香港型が占めた。この年オーストラリアではインフル死亡者が前年比2.7倍となり(464人→1255人)、A香港型は「殺人インフルエンザ」と呼ばれた。犠牲者の多くが高齢女性で、基礎疾患を抱えていた。

アメリカCDC(疾病予防管理センター)によれば ※外部サイトに遷移します

国立感染症研究所によれば ※外部サイトに遷移します

当然ながら、その他のインフルと同じくA香港型でも発熱、のどの痛み、鼻水、胃腸炎、気管支炎、肺炎、関節・筋肉痛、角膜炎・結膜炎といった症状が一般的だ。だが、1994~1995年はそれに加え、「インフルエンザ脳症」などの中枢神経系疾患や循環器障害が、過去12年間と比べ多く報告されたという。

インフルエンザ脳症は、インフル感染をきっかけに免疫異常が起き、脳の動きに急激に異常が生じ、神経障害や意識障害に至るものだ。10歳未満の子どもたちで発症リスクが高く、乳幼児では亡くなるリスクも高い(国立感染症研究所)。

(国立感染症研究所) ※外部サイトに遷移します

流行しなかったことが感染リスクを高める皮肉

もう一つの不安要素は、昨シーズンにインフルエンザが「流行しなかった」ことだ。

冒頭の楽観論と矛盾するようで理解しがたいかもしれないが、要するにウイルスとの接触がなければ、私たちのインフルに対する免疫力は着々と低下していく。臨戦態勢が解かれて手薄になり、その分、今そこにいる敵に向かって免疫システムが発動されるためだ。

昨シーズン、インフルエンザは1999年に現行方式で記録を取り始めて以来、初めて「流行なし」となった。この数字は、例年の1000分の1だ。

具体的には、国立感染症研究所の「季節性インフルエンザの受診患者数」の推計を過去3シーズン分さかのぼると、2019年秋~2020年夏は約729万人、2018年秋~2019年夏は約1170.4万人、2017年秋~2018年夏は約2209万人であり、単純平均で1シーズン1369.5万人だった。それが一気に1万人台へ減少したのである。

やはり新型コロナを機に飛沫感染や接触感染への対策が徹底されたことによるのだろう。緊急事態宣言の解除後も生真面目にマスクを標準装備し続ける日本人ならば、今年もインフルとは無縁で済みそうにも見える。

だが、そこに落とし穴がある、というわけだ。

例えば今夏のRSウイルスの大流行は、その懸念が現実になったものだ。

RSウイルスは、赤ちゃんを中心に風邪の原因となり、2~3割に気管支炎や肺炎、まれに急性脳炎を引き起こす。日本では昨年は前年比9割減となったのに対し、今年は7月末までに2018年・2019年の年間患者数を上回った(しかも欧米や南米でも同じ現象が見られた)。

注目すべきは、2歳以上の患者数が大きく増加したことだ。国立感染症研究所によれば、2018年・2019年の平均と比べて今年の報告数は0歳で0.58倍、1歳は0.95倍と減少したのに対し、2歳は1.83倍、3歳は2.44倍、4歳以上では2.64倍となった。

昨年、乳児で感染を経験せず、免疫を獲得できていなかった子どもたちが、今年になって初感染しているせいに違いない。

新型コロナの患者数が大きく減少した国々では、国内外の往来を正常化させつつある。日本政府も水際対策を緩和し、ビジネス目的の入国者の待機日数を10日から原則3日に短縮する見通しだ(11月2日時点)。

こうした動きは、くすぶり始めたインフルエンザウイルスの往来を自由にするものでもある。免疫力が低下しているところに持ち込まれれば、感染は免れない。

さらに、来シーズンへ向けた免疫の維持のためにも、ワクチン接種は重要だ。

もし今季流行しなくても、来年も流行しない保証はない。2季連続で流行せず、ワクチンも未接種だった場合、免疫力の大幅低下は免れない。想定以上に早く流行が始まれば、ワクチン接種とその後の免疫形成は間に合わないだろう。

コロナ同時感染で重症化も…

さて日本では、もうすぐ新型コロナワクチンの3回目接種が始まる。ただし対象は2回目接種からおおむね8カ月以上経過した人だ。医療従事者は12月からだが、高齢者は来年1月から、その他の人々はそれ以降、順次接種を受けることになる。

ただし高齢者は、予防接種によるコロナ免疫が長続きしないと言われている。国内の調査(福島県相馬市)でも、接種後3カ月を経過すると高齢者では抗体価が大幅に低下していた。1月まで持ちこたえられるかどうか……。

3回目接種が遅きに失すれば、インフルエンザと新型コロナの同時感染も心配しなければならない。

私は新型コロナには季節性があり、冬が本格化してくれば患者は年内に再び増加に転じると考えている。実際、日本よりも緯度が高く冬の訪れの早い英国やフランス、ドイツなどヨーロッパ諸国では、すでに患者が増えてきている。

新型コロナとインフルに同時感染した場合、それぞれの単独感染よりも肺炎の重症化と回復の遅れにつながる可能性がある(長崎大学の最新の研究)。

同時感染させた動物の肺の組織を調べたところ、細胞レベルではウイルス干渉(あるウイルスが感染すると、似た病気のウイルスは感染できない現象)によって同時感染は成立しなかったが、個体レベルや臓器レベルでは同時感染が起きうることも確認された(同上)。

だが、冬の後半に同時流行が現実となったとき、あわててインフルワクチンと新型コロナワクチンを矢継ぎ早に打とうとしても、応じてもらえない医療機関が大半だろう。

現在まで、厚生労働省はそれらの同時接種を認めていない。どちらを先に打っても2週間は間を置かねばならないとしている。

なお、世界的には、アメリカCDCや英国NHSなども認める通り、同時接種がスタンダードだ。私も日常的にさまざまなワクチンの同時接種を行っており、経験からも何ら問題ないと自信を持っている。詳しくは過去記事(新型コロナと他ワクチン「同時接種」が必然なワケ)をご一読いただきたい。

今季、インフルワクチンは昨年よりも流通量が少ない。十分に入手できていない医療機関も多いようだ。もし今、かかりつけなど身近な医療機関で打てるのなら、チャンスを逃さないでいただきたい。「打ちたいと思ったときに打てないリスク」をわざわざ負う必要はないからだ。

新型コロナ第6波はまず間違いなくやってくる。インフル対策は、万が一新型コロナに感染した場合への備えでもある。後悔先に立たず、だ。

(新型コロナと他ワクチン「同時接種」が必然なワケ) ※外部サイトに遷移します

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提供元:インフルワクチン打たない人に迫る3つのリスク|東洋経済オンライン

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