2021.11.04
カフェイン発見に貢献した「ある文豪」の正体|人類を虜にする成分はいつ発見されたのか?
人類を虜にした「カフェイン」はいつ発見されたのか?(写真:taa22/iStock)
忙しくなってきた。最近エナジードリンクをよく飲む。よく効く反面、効きすぎることもある。カフェインが入っているというのだが、カフェインとはコーヒーに入っているものではなかったか? いつ頃成分として使えるようになったのだろうか。
カフェインが社会に浸透した歴史背景を、サイエンスライターのかきもち氏による新刊『これってどうなの?日常と科学の間にあるモヤモヤを解消する本』より一部抜粋・再構成してお届けします。
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エナジードリンクの主成分は糖分とカフェインです。糖分は脳にエネルギーを供給し、カフェインは覚醒作用によって眠気を和らげ、目の覚めた状態を作り出します。仕事や勉強のお供として飲まれています。
カフェインは、今ではこうして単体で食品に利用されていますが、元々はその名前にあるようにコーヒーに隠れていました。ドイツの科学者、ルンゲが発見し、のちに単離精製することが可能になりました。覚醒状態を作ってくれるカフェインですが、中には苦手な人もいます。
現在ではカフェインを取り除く技術もでき、カフェインレスコーヒーが市販されています。人によって相棒でもあり敵でもあるカフェイン。ここではその歴史を振り返りながら、カフェインと私たちの関係について考えてみましょう。
きっかけはゲーテの一言だった
カフェインはコーヒーやお茶、ココアなどに含まれている成分です。覚醒作用のほかに、集中力や作業能力を向上させる効果があります。科学的には、1,3,7-トリメチルキサンチンという名前で、窒素を含むアルカロイドという有機化合物の仲間です。
カフェインの名前の由来は、ドイツ語でコーヒーを意味するカッフェ(Kaffe)。1819年にドイツ北部、ハンブルクの化学者、フリードリープ・フェルディナント・ルンゲがコーヒーから発見し、単離精製しました。
この発見のきっかけとなったのは同じくドイツの詩人、ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテでした。ゲーテは戯曲『ファウスト』などの作品で知られています。政治家、自然科学者でもあり、若いときには錬金術の研究を行っていたこともありました。
コーヒー好きが過ぎて貧しくなった国も(出典:『これってどうなの?日常と科学の間にあるモヤモヤを解消する本』(翔泳社))
ゲーテは当時の多くのドイツ人と同様、コーヒーファンでした。ただコーヒーを飲むだけでなく、コーヒー豆の成分や化学的な構造を分析するように、化学者のルンゲに依頼しました。そこでルンゲが発見したのが、カフェインでした。
ルンゲ以降、カフェインを扱う技術が発展します。1899年にはドイツの化学者、エミール・フィッシャーがカフェインを人工的に合成することに成功し、1902年にこの成果を含む功績でノーベル化学賞を受賞しました。1906年には、コーヒーからカフェインを取り除く技術も開発されます。
カフェインを合成したり除去したりする技術が発達したことで、カフェインは広く利用されるようになりました。カフェインの覚醒作用は仕事や勉強と相性がよく、エナジードリンクや栄養ドリンクなどの成分として使用されるようになりました。
1987年には、今も広く飲まれているエナジードリンク、レッドブルが発売されています。また、血管を収縮させる作用が評価され、慢性の心臓疾患や狭心症の治療にも用いられました。
一方でカフェインの覚醒作用は、どこでも歓迎されたわけではありません。アスリートの世界では、運動能力を向上させる効果があるとして、2004年までの一時期、オリンピックで禁止薬物となりました。また、人によっては興奮作用によって体調が悪くなってしまったり、眠れなくなったりすることもあり、カフェインを含まないコーヒーも好まれるようになりました。
良いか悪いかは人が意味づけするもの
カフェイン自体は茶葉の中、コーヒー豆の中に昔からあったものです。しかし、ルンゲによって発見されて以来、人間社会で注目を集めることになりました。すると、覚醒作用によって仕事や運動に役立つものとされたり、「体調が悪くなる」と敬遠されたりするようになります。歴史が進むにつれ、人にとって良いものか悪いものかという意味付けがなされました。
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単なるコーヒーの一部だったものが、人と多様な関係を結ぶようになってきたのです。
カフェインのように、人の社会で注目されるようになったことで、良いもの悪いものというイメージがついたものは、他にもあります。
放射線もその一つです。放射線は人類が地球に現れる前から存在していました。しかし、健康や環境に大きな影響を与えてきた歴史から、社会の中で「放射線」という言葉は重い意味をもっています。
自然界に当たり前に存在しているものでも、人の社会の中での意味は、その物質が人に与えてきた影響によって変わってくるのかもしれません。
まとめ
カフェインはゲーテの依頼がきっかけで、19世紀に単一の成分として使えるようになった。覚醒作用などの効果によって、仕事や運動に利用されたり、反対に遠ざけられたり、人と多様な関係をもっている。
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提供元:カフェイン発見に貢献した「ある文豪」の正体|東洋経済オンライン