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2021.10.14

「たかが片頭痛」と軽視する日本人に伝えたい事実|富士通など対策に動き出す企業も登場


多くの人が悩んでいる片頭痛。徐々にですが、社会全体で取り組むべき疾患という認識が出てきているようです(写真:miSaPhotographer / PIXTA)

多くの人が悩んでいる片頭痛。徐々にですが、社会全体で取り組むべき疾患という認識が出てきているようです(写真:miSaPhotographer / PIXTA)

多くの人が悩んでいるにもかかわらず、「たかが頭痛」などとすまされてしまうことも多いのが片頭痛。確かに命に関わる病気ではないが、痛みのために日常生活に支障が出たり、集中力が低下して仕事の効率が下がったりするなど、さまざまな面で問題が大きい。

どれくらい支障度が高いのか、病気や障害などにより失われた健康的な生活の程度を表した「障害調整生命年(DALY)」をみると、脳の病気ではなんと2位が片頭痛(13.1%)で、1位の脳卒中(47.3%)ほどではなかったにしろ、3位のアルツハイマー病(9.5%)より順位が上だった(「世界疾病負担調査(the Global Burden of Disease Study)2015」)。

また、近年、心身の不調によるパフォーマンスの低下を示す「プレゼンティーイズム」が注目されているが、日本と韓国の片頭痛患者について調べた研究(2021)では、片頭痛のプレゼンティーイズムによる経済的損失は、年間1人当たり24万円(日本のケース)と算出された。

この研究を実施した頭痛治療の第一人者、埼玉国際頭痛センターの坂井文彦さん(センター長)は、「片頭痛は長年、“病院に行くほどでもない些細な病気”と言われ続けていましたが、実は、患者さんのQOL(生活の質)を大きく下げるだけでなく、社会にとっても大きな損失をもたらす病気であることが明らかになってきた」とし、「徐々にですが、社会全体で取り組むべき疾患という認識が出てきています」と話す。

片頭痛に対する治療法

ここで改めて片頭痛についておさらいしておこう。

片頭痛とはその名のとおり、頭の片側がズキズキと痛む慢性頭痛の一種(両側の場合もある)。患者数は840万人とされ、有病率は8.4%。30~40代の女性に多い。月に数回、発作を繰り返し、その都度、痛みは4~72時間ほど継続する。動くと頭痛がひどくなり、吐き気やおう吐、光や音で痛みが増すこともある。

さらに、緊張性頭痛を併発しているケースや、鎮痛薬(非ステロイド系抗炎症薬)を過剰に服用してしまって薬物乱用頭痛をもたらしたりするケースもみられる。

坂井文彦先生の頭痛相談(写真提供:富士通)

坂井文彦先生の頭痛相談(写真提供:富士通)

片頭痛に対する治療といえば、これまでは鎮痛薬か急性期治療薬のトリプタン製剤を使うしかなかった。いずれも一定程度の効果はあるものの「痛くなってから使う薬」であるうえ、鎮痛薬は飲みすぎによる問題が、トリプタン製剤は効いている時間が2~5時間程度と短いという問題が、それぞれにあった。

そんななか、片頭痛患者に朗報となったのが新しい予防薬「抗CGRP抗体」の登場だ。4月に日本イーライリリーのエムガルティ(ガルカネズマブ)が、8月に大塚製薬のアジョビ(フレマネズマブ)、アムジェンのアイモビーグ(エレヌマブ)が発売された。

「抗CGRP抗体の登場には、なぜ片頭痛が起こるのか、そのメカニズムが明らかになってきたことが大きい」と坂井さんは解説する。そのメカニズムとは、“セロトニン-三叉神経-脳血管”説だ。

脳内では、セロトニンという脳内神経伝達物質が自律神経の働きを調整したり、不安などの感情を抑制したりしている。このセロトニンが関わっている神経の1つが、顔の表面の感覚などを脳に伝える三叉神経だ。

「三叉神経は、顔や頭の血管を拡張させたり、収縮させたりといった働きも担っているため、何らかの理由でセロトニンが減少すると三叉神経の調整がきかなくなってしまう。その結果、血管が拡張してさまざまな炎症物質が漏れ出し、片頭痛が起こるというのです」

この一連のメカニズムを川に例えると、上流にあたるのがセロトニンの低下で、この部分をターゲットにしているのが、片頭痛に関係するセロトニンをピンポイントで活性化するトリプタン製剤だ。

「片頭痛の原因の主役」が最近になってわかった

そして、下流にあたる血管拡張と周囲の炎症をターゲットにしたのが、今回登場した抗CGRP抗体薬になる。

CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)は、三叉神経など末梢神経に存在するタンパクで、脳の血流の自動調節に関係している。最近になって、“CGRPこそ片頭痛の原因の主役”であり、これをブロックすれば片頭痛が予防できることがわかってきたという。

「CGRPは脳血管にある受容体にくっつくことで作用しますが、新薬はCRPGが受容体にくっつくのを阻止することで血管拡張や炎症を抑え、片頭痛を予防します」

と坂井さん。抗CGRP抗体はいずれも注射薬で、4週間に1回の投与で痛みの発症を抑える(アジョビは12週間に1回のものもある)。

薬代は3割負担で1万2000円~1万3000円台と決して安いとは言えないが、埼玉国際頭痛センターでは、すでに100人以上の片頭痛患者が抗CGRP抗体を使っている。7割ぐらいの患者で痛みの程度が半分ぐらいになったそうだ。

「痛みが半分というと、大したことはないと思うかもしれません。しかし、痛みが半分になれば、寝込むほどの痛みからは解放されます。そうすると頭痛体操やエクササイズなど、動くことによって頭痛を軽くするセルフケアもできるようになります。患者さんにとっては大きな意味があると感じました」(坂井さん)

2019年に開催された日本頭痛学会では、治験に参加した患者の報告として、「頭痛が半減し、人生が戻ってきた」「頭痛のためにこれまで家庭生活や、社会生活をいかに犠牲にしてきたかわかった」といった声が紹介された。

「もう1つ、この予防薬で大きいのは、患者さんの不安を取り除ける可能性があるということです。多くの片頭痛の患者さんが困ってるのは、痛みもさることながら、『いつ痛みが来るかわからない不安』です。抗CGRP抗体で予防が可能になったことで、こうした不安もずいぶん取り去ることができているようです」(坂井さん)

「頭痛ダイアリー」で痛みの傾向をつかむ

新薬の登場で片頭痛を取り巻く環境は大きく変わりそうだが、もちろん、セルフケアによる片頭痛対策も欠かせない。特に坂井さんが勧めているのは、「頭痛ダイアリー」をつけて、どんな状況だと痛みが起こるのか、自身の痛みの傾向をつかむことだ。

「片頭痛は脳が過敏に反応してしまうことで起こりますが、その刺激となる原因は人によってさまざまで、体質なども影響します。一般的に片頭痛や季節の移り変わりや気圧の変化、ストレス、睡眠不足、食事(チョコレート、ワイン、チーズなど)といったリスクファクターがきっかけになるといわれています。頭痛ダイアリーをつけることで、自分にとって問題となる要因を探し出せれば、その要因を避けることができ、片頭痛を起こりにくくすることも可能です。薬とセルフケアはセットで考えていくことが大事です」(坂井さん)

さらに、片頭痛患者に対する家族や社会の理解や支援も必要で、実際、従業員の頭痛対策に取り組み始めた企業も現れている。

「ずっと頭痛で困っていたんですけど、治していくという知識がなかった。今回、会社の『頭痛相談』を受けて、初めて自分の頭痛が片頭痛だってわかりました」

こう話すのは、富士通(東京都港区)に勤める女性。長年の頭痛持ちで、自宅にはもちろん、通勤用のバッグにも必ず2回分の頭痛薬を用意。ひどいときは週に2回は頭痛薬を飲んでいた。今回、会社が頭痛相談を開いていることを知り、申し込んだという。

頭痛相談は専門の医師が対応し、オンラインで20分間行われる。相談者が事前につけておいた頭痛ダイアリーを参考に、生活改善のポイントや頭痛体操のやり方などを指導したり、必要に応じて病院への受診を勧めたりする。

「頭痛は、眼科や歯科のように通って治していくものという知識がなかった。今回、頭痛相談でお医者さんから、『そのつらさがなくなるかもしれないから、通院してはどうか』という提案をいただき、それで病院に通うことにしました。このきっかけがなければ、病院に行くことはなかったと思います」(先の女性)

富士通では従業員の健康支援の一環として、2020年度から「頭痛プロジェクト」を始動させている。その内容は、eラーニングによる頭痛に対する知識の習得、テーマにそってより詳しい頭痛の特徴を知るビデオセミナー、頭痛に悩む希望者が専門医に相談できる頭痛相談、職場環境作りなどからなる。

富士通の頭痛プロジェクト(画像:富士通提供)

富士通の頭痛プロジェクト(画像:富士通提供)

プロジェクトを始めるきっかけは、2018年に行った国際頭痛学会との共同調査だった。

調査対象の2500人のうち、85%が頭痛を自覚し、そのうちの84%は治療を受けた経験がないことがわかった。頭痛で休みを取得することによる、あるいは出勤しているが頭痛によりパフォーマンスが低下することによる経済的損失は、頭痛のある人1人当たり年間10万円、会社全体では年間26億円で、従業員全体の給与支給額の1%程度に相当すると推定された。

「経済的損失もさることながら、これほど有病率が高く、かつ治療を受けたことのない人が多かったことは、大きなインパクトでした」(健康事業推進統括部統括部長の東泰弘さん)

2020年12月時点で同社の従業員の9割がeラーニングの受講を終え、今はグループ会社の従業員が受講を始めている。受講修了者への調査では、72.8%が「頭痛に対する考え方・印象に変化があった」、75.8%が「頭痛のある同僚への接し方が変わりそう」と答えた。

また、受講を終えた人からは、「頭痛持ちの人の苦労や対処法が理解できた」「頭痛のつらさは周囲に理解しがたいので、ありがたい」といった声があったという。

「安心して話せる環境作りが大切」

頭痛相談では、頭痛に悩む当事者だけでなく、頭痛持ちの部下とどう接すればいいかと上司が相談に来たり、頭痛持ちの家族がいる従業員が相談に来たりと、広がりを見せている。

頭痛対策担当の加藤博久さんは、「頭痛の人が会社を休んだり、病院に行ったりすることを、安心して話せる環境作りが大切。そのための土台として、すべての従業員に正しい頭痛の知識を持ってもらうというのが、プロジェクトのねらいでした」と、一定の成果が見られたと話す。さらに、この富士通の頭痛プロジェクトに関心を寄せる企業も出てきているという。

取材当日、午前中だけで35人の頭痛患者を診療にあたったという坂井さん。以前に比べて受診者が増えていることを実感するが、それでも「まだ十分ではない」と言う。

「いくら新薬が登場しても、適切なセルフケアもあっても、その情報が当事者に伝わらなければ何の意味もなしません。頭痛ほど誤解されている病気はない。正しい知識を多くの人にもってもらいたい」

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提供元:「たかが片頭痛」と軽視する日本人に伝えたい事実|東洋経済オンライン

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