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2021.09.16

フィンランド「医療においても日本の先行く」理由|1960年から個人ID導入する国のスゴい医療事情


幸福度ランキング1位・フィンランドの医療事情とは?(写真:Smitt/iStock)

幸福度ランキング1位・フィンランドの医療事情とは?(写真:Smitt/iStock)

国連の世界幸福度ランキング1位のフィンランドと56位の日本。実は医療においても、差を離されています。フィンランドの医療事情、日本の医療が抱える問題点を国立がん研究センター検診研究部部長の中山富雄氏による新書『知らないと怖いがん検診の真実』より一部抜粋・再構成してお届けします。

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日本のがん検診の受診率は、OECD加盟国のなかで控えめに言って非常に低いレベルにあります。はっきり言うと「最低レベル」です。

日本の状況と対照的なのが北欧のフィンランド。乳がん検診の受診率は82.6パーセント。特筆すべきは精密検査の受診率で、ほぼ100パーセント! 検診を推奨している私から見ると、すばらしい数値です。

フィンランドでは1963年に子宮頸がん、1987年に乳がん検診を導入。その後、子宮頸がん・乳がんの死亡率が減少したことから、検診の成果が確実に上がっていることがわかります。

そんなフィンランドですが、大腸がん検診を始めるのは2020年から。日本は1992年には老人保健事業として大腸がん検診が始まっていますから、開始時期については大きくリードしています。

フィンランドが「がん検診先進国」になれた理由

しかし、これにも「なるほど」とうなるフィンランドの理由がありました。フィンランド政府も、さまざまな論文や検証データから大腸がん検診の有効性を20年前には把握していたのですが、いかんせん大腸内視鏡のスペシャリストが絶対的に足りません。

国中で同レベルの検診を確実に提供できる状態にするため、大腸内視鏡のスペシャリストの育成にまず20年かけ、満を持してのスタートだというのです。

北欧といえば高福祉・高負担で知られています。フィンランドの場合、日本の消費税に当たる付加価値税の基本税率は24パーセント。これだけの高負担だと居住地によって検診の不利益が少しでもあってはいけないのでしょう。

日本は検診の導入に関してフットワークが軽いと言えばそうなのですが、後先考えずに「ホイッ」と始めてしまったのかもしれません。

「便潜血が陽性で再検査になったが大腸内視鏡は3カ月待ち」という状況がザラにあるのです。3カ月もの間「がんかもしれない」と不安で過ごすか、「面倒くさい!」と再検査をやめてしまうか。いずれにしても望ましい状況とは言えません。

新型コロナウイルスは日本の弱点をいろいろあぶり出してくれました。例えば、陽性者の集計。医師が手書きした陽性者発生届をファックスで保健所に送り、保健所はファックスの情報を手作業で入力していたと聞いてひっくり返った方は多いでしょう。

あれで日本の行政のIT化がまったく進んでいないことがバレてしまいました。いつ終わるともしれない混乱のなか、そうした作業を毎日強いられる現場の方々の負担たるや、察するに余りあります。がん検診も同じで、手書きの書類で管理されていて、せっかく病院で手術までおこなわれていても、その結果が自治体には届いていないのです。

翻ってフィンランドです。彼我の差は凄まじい。そもそも論として住民登録システムが稼働しています。日本のマイナンバーに当たる個人IDは1960年から導入され、給与や社会保障などと紐づけされています。病院での治療や処方箋などの情報もすべてデータ化されているので全国で共有が可能です。

日本にはない「先進的な医療インフラ」

がん検診においても、整備された情報インフラの利点がいかんなく発揮されています。検診関連データは自治体によって一元管理され、検診を受ける人の選定、検診の通知から実施、そして再検査から治療に至るまで、各段階での報告が医療機関の電子カルテから自動的にリアルタイムで反映されます。

検診結果に応じて、本人に「異常なし」または「再検査のお知らせ」が届きますが、単に「再検査ですよ」と伝えるだけのものではありません。「○○病院で○月○日○時に再検査を受けてください」と、再検査の場所から日時からすべてお膳立てしたうえでの案内だというのです。

フィンランドでは、こうした対応に「窮屈だ」「面倒だ」と反発する人は少なく、「高い税金を払っているだけはある」「段取りをしてもらって助かる」とほとんどの方が肯定的に受け止めているということです。

フィンランドのがん検診のあり方を、日本で即導入とはなかなかいきません。仮にシステムをそっくり導入できたとしても、日本人ががん検診を受けない「理由」を解決しなくては、検診の受診率の上昇は望めないでしょう。

日本人ががん検診に足が向かない理由は、意外に単純ではありません。

受診率が低い理由1:国民皆保険制度の存在

日本の国民皆保険制度は「健康の到達度と均一性、費用負担の公正さ」などが高く評価され、WHO(世界保健機関)から世界一のお墨付きをもらったこともあります。フィリピンやベトナムなどは日本を自国の制度設計の参考にしているほどです。

世界的にもその充実度が称賛されている国民皆保険制度が、なぜがん検診の受診率の足を引っ張っているのか? それは医療サービスへのアクセスが抜群によいことが理由です。

医療制度に関して日本とよく比較されるアメリカの状況を見てみましょう。アメリカは民間保険中心で、公的保険に加入できるのは高齢者、障害者、低所得者とその子どもに限定されています。「自由と自助の精神」を旨とするアメリカ的な制度設計ではありますが、医療費の高騰、無保険者の増加によって「医療を受けられない=医療にアクセスできない」人々の増加が大きな悩みとなっています。

ヨーロッパのホームドクター制度

さて、ヨーロッパではどうでしょうか。ヨーロッパでは多くの国がホームドクター制度を取っています。生まれたときから1人の医師と契約し、緊急事態を除いてその医師に診断を受け、必要があれば専門医へとつないでもらいます。日本のように、「体調不良、即大病院で検査」というわけにはいきません。「ホームドクター」を経由しないといけないのです。

ホームドクター制度の場合、ホームドクターとの付き合いが、それはそれは長いものになります。「どうにも気が合わん」と思っても、ホームドクターを替えるにはややこしい手続きが必要なケースも。

患者さんはホームドクターとはなるべくうまくやっていきたいという気持ちがベースにあるので、がん検診を受けるよう指示があると無下にはできません。イギリスはホームドクター制度にがん検診をうまく組み込み、受け持ちの患者さんががん検診を受けると担当医に一定の金額が入るようにしています。患者の受診率が金額というスコアで示されるのですから積極的に受診をすすめるのです。

日本では、家や会社や旅先で調子が悪くなったとき、それこそ保険証一枚あれば飛び込みでどこの病院でも診てもらえます。「自分が必要としている医療」に簡単にアクセスできるのです。しかも、そこそこ安価で。

医療へのアクセスがスムーズなことはいいことです。しかし、「いつでも病院に行ける」状況が、がん検診へのモチベーションを落としてしまっている面もあると私は感じています。

調子が悪くなったらすぐに病院で診てもらえるので、「わざわざ一日使って検診に行くなんて面倒くさい」「悪くなったらすぐ病院に行けばいいんだから、検診に時間を取るのはもったいない」という発想です。

でも、皆保険制度の恩恵を本当に享受したいなら、やはりがん検診は必要です。早期発見ができれば、安価で良質な治療を即スタートできるのですから。

受診率が低い理由2:職場健診が手厚すぎる

職場では毎年、健診があります。労働安全衛生法に基づいて、会社などは従業員に健康診断をおこなうことになっているからです。

フランスなどは尿検査くらいですが、日本は胸部X線検査、血圧測定、血液検査(貧血、肝機能、コレステロール値、血糖)、尿検査、心電図と基本メニューをきっちり押さえています。そこに「がん検診」「婦人科検診」をオプションで加えることも可能。

会社は従業員に健康診断を受けさせないと罰金を科せられます。それだけの責任を負っているので、「健康診断イヤだ!」と拒否する従業員には懲戒処分を下してもよいことになっています。

職場の健康診断は「受けるように」というプレッシャーが強いので、ほとんどの人が受けているはずです。健康診断を受けずに降格なんてバカバカしい、費用も会社負担、自分の健康を確認できるいいチャンス。受けない理由などありません。

どうせなら、ついでに「がん検診」「婦人科検診」などをオプションで加えようという方も出てきます。オプションの追加も総務から回ってきた書類に記入するだけなので至って気楽です。

がん検診受診者の3〜6割が職場で受けていることからも、職場健診からがん検診へ、自然とスムーズな流れができていることが見て取れます。

職場健診とは、座っているだけで、自分でオーダーもしていない料理が、自動的に目の前に出てくるようなもの。そこに自分でくっつけるデザートが「がん検診」などのオプション。至れり尽くせりです。でも、これだけ世話を焼かれて何十年も社会人生活を過ごしていると、退職後にちょっと戸惑ってしまう方も出てきてしまいます。

退職後の検診が面倒くさくなる人たち

健診や検診の「段取り」はすべて職場に「お任せ」だったわけですから、退職後に自力で手続きをすることを非常に面倒に感じてしまう方は多くいます。

面倒くささに拍車をかけるのは、「自力で手続き=ほったらかしにされている気分になること」にもあるようです。「地域住民」と「社員」では対象人数がそれこそ桁違い。職場のように名前で呼び合える環境と同等の細やかな対応は、マンパワー的に自治体には難しいのですが、「職場はもっと手厚かった、役所は雑や」と減点思考で判断してしまうのです。

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そして、「手厚くない→雑だ→いい加減だ→どうせやってる検診もたいしたことない」という論理展開で「行かなくてよろしい」と結論づけてしまいます。

がんのリスクは年齢とともに上昇します。勤め人時代よりも退職後のほうが、検診が必要なのです。

勝手な思い込みでそうした医療サービスから遠ざかってしまうのは、自ら病気やがんのリスクを上昇させてしまう行為と言えます。

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提供元:フィンランド「医療においても日本の先行く」理由|東洋経済オンライン

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