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2021.08.10

「お金で時間を買う」発想が社員を幸せにする理由|「タイム・リッチ、環境リッチ」が生産性を上げる


「働く場所を選べる」ことで生産性が上がる。効率性一辺倒ではない異色の時間術を紹介します(写真:kohei_hara/iStock)

「働く場所を選べる」ことで生産性が上がる。効率性一辺倒ではない異色の時間術を紹介します(写真:kohei_hara/iStock)

ハーバード・ビジネススクールのアシスタントプロフェッサーにして、心理学者のアシュリー・ウィランズが書いた『TIME SMART(タイム・スマート)』。効率性一辺倒ではない、異色の時間術の本だ。「お金より時間が大事」「生産性向上はタイム・リッチ(時間的に裕福な状態)から」「まず、健康で幸福な生活を送る、その後、生産性・創造性が上がる」と説く。もちろん、心理学者だから、科学的な調査、統計データでその主張を裏付ける。

累計導入社数1万社以上の人材紹介会社と求人企業をつなぐ採用プラットフォームや、ITエンジニアのキャリア支援サービスを提供している成長企業グルーヴスの代表、池見幸浩氏が同書を読み解く。

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「働く場所を選べる」と、生産性は上がる

ひと言で言うなら、僕は『タイム・スマート』で書かれている内容に非常に共感するし、また著者のアシュリー・ウィランズ氏ととても近い感覚を持っています。お金よりも時間を大切にする、それがひいては幸せで豊かな生活をもたらすという考え方。この考え方を本書はさまざまなデータをもとにして明らかにしています。

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日本でも、お金を取るか時間を取るかというような議論は昔からありました。たとえば、歩かずにタクシーを利用するなどがあると思いますが、最終選択は自分が何に投資すべきか、何を重視するかによってくるでしょう。お金で時間を買うという発想を持つ経営者は多いと思います。だから僕自身、著者の時間に対する考え方をすんなり受け入れることができましたし、経営者のみならず、企業で働く人に対して「時間を賢く使えるようになろう」つまり「タイム・スマートになろう」と提唱することには大いに賛同します。

特に印象的だったのは、働く場所について提言しているくだりです。「どこでも好きな場所で仕事をしてもいい従業者は、オフィスの近くに住むことを求められる従業者より、生産性が4.4%高い」という調査結果が紹介されていますよね。実際、グルーヴスでも働きやすい環境を整えたことで驚くほど優秀な人が来てくれるようになりました。リモートワークができるかどうかで会社を選ぶ人も増えたのだと感じています。働く場所と生産性の関係性は、経営者として実感をもって読みました。

というのも、僕らの会社は北海道から沖縄まで、その地域の優良企業に高度なスキルをもった人材を紹介するというオンラインサービスを展開しています。働く場所を自由にしようという発想がその根幹にあるのです。

「東京一極」のライフスタイルはもう古い

そもそも、東京に住んで東京で働くライフスタイルが本当に幸せだろうか、もう限界に来ているのではないか。だからこそ僕は、創業当初に住んでいた渋谷区という都心から神奈川県の湘南に引っ越し、さらには海外拠点を築く意図もあってマレーシアに移住しました。

これは僕だけの特異な例ではなく、多くの人に当てはまると思います。生まれ育った地元に帰ったり、自分が魅力を感じる地域に移住したりして、給料は下がっても可処分所得は増えるような働き方があるのではないか。

たとえば、地方でもともと神童と呼ばれるほど優秀な人が、東京の一流大学を出て東京の一流企業に入り、課長職になったが競争が激しいから、その先の部長にはなれない、という例は少なくありません。

このまま一生を過ごすと決めるのもいいと思いますが、地方の優良企業に行って、規模は小さくなるけどそこで役員になって、今まで発揮するチャンスがなかった自分のスキルを使って会社を上場させたり、さまざまな事業にチャレンジしたりする道もあります。

そういうケースがじつは非常に増えていて、僕らの会社はおかげさまで多くの地方企業に応援してもらっているし、事業も成長させることができているんです。

●信頼関係と「想い」があれば、オンラインでも仕事はできる

もう一つ、リモートワークが一気に浸透したことで、「地方に移住=給料が下がる」という前提が崩れつつあることは注目すべきです。

本書でも、「給料は下がるけど可処分所得は上がる」という書き方をしていますが、今はそうとは限りません。コロナ禍でリモートワークが浸透し、転職は必然ではなくなり、今の仕事を続けたまま地方に移住することが可能になっているのです。

もちろんオンラインのみで、オフラインと同じような仕事ができるかどうかは見極めが難しいところです。しかしオンラインでも信頼関係を築き、互いに気持ちよく働いていくことはできます。

僕がそう思うようになったのは、3年ほど前、ある優秀な社員の家庭の事情が関係しています。彼の実家は関西なのですが、家族が末期のガンで余命いくばくもない。残された時間を一緒に過ごしたいけれど、仕事も頑張りたい。「それなら実家で仕事をしてもいいよ」と言いました。これが、当社のリモートワークの第一号。家族が亡くなるまでの半年間でしたが、彼は家族との時間も、仕事も、どちらも犠牲にすることはなかったし、僕としても優秀な社員を辞めさせずに済みました。

これは「働く場所を自由にしよう」という発想があり、そしていろいろなチャレンジをし失敗しながら、フルリモートで仕事ができる環境を整えたからです。彼は今、取締役として社員を引っ張っていってくれています。そして、信頼関係があって、同じ想いを共有できてさえいれば、毎日顔を合わせなくてもオンラインで仕事ができると実感しました。

もちろんほかにもインターネット企業として、業務をオンラインで行っていくための投資はしていますが、とりわけ僕が重視しているのは「HRT」です。Googleのギーグたちがどのようにしてチームをまとめていくかを書いた書籍に紹介されていた言葉で、「謙虚(Humility)」「尊敬(Respect)」「信頼(Trust)」を表します。

謙虚さがなければ、オンラインでのやりとりはうまくいかないし、リスペクトがないオンライン会議はすぐに破綻します。またお互いの信頼関係を棄損してしまうような言動は、オフラインのとき以上に猜疑心が生じやすい。だから僕は、これを従業員にもかなりうるさく言っています。

「タイム・リッチ」から「環境リッチ」へ

本書では言及されていませんが、僕が重要だと思うのは、時間に投資する「タイム・リッチ」、時間的な余裕をもてるようになった人が、手にした時間をどう使うのかということです。

もちろん自分の好きなことに使って豊かな生活を送るためなんですが、僕は「環境リッチ」を求めることに使ってもいいんじゃないかと思っています。

実際、僕はコロナの感染拡大でフルロックダウンだったマレーシアから帰国したのですが、今住んでいるのは本社がある東京ではなく、北海道の旭川空港から車で10分の場所に位置する東川町(北海道上川郡)です。出社するのは週に1回、飛行機で通勤しています(緊急事態宣言下の現在は県外移動を自粛中)。

緊急事態宣言が解除となった休日に、東川町の住まいから5分で行ける忠別川(ちゅうべつがわ)でキャンプを楽しむ池見氏一家(写真:著者提供)

緊急事態宣言が解除となった休日に、東川町の住まいから5分で行ける忠別川(ちゅうべつがわ)でキャンプを楽しむ池見氏一家(写真:著者提供)

この町を選択した理由は、建築家の隈研吾氏と連携して、空間や地域全体をデザインするプロジェクトを展開するなど、地方創生の最先端の取り組みを行っているところに魅力を感じたからです。もともとバックカントリースキーが好きで旭岳によく行っていたので、東川町のことは知っていました。実際住んでみると、大雪山国立公園の麓に位置していて、雪解け水を使うから上水道がなく、食べ物もなんでもおいしい。僕は釣りもするのですが、車で1時間も走れば幻のイトウをダブルスペイキャストでチャレンジできるフライフィッシングの聖地である天塩川に行くことができます。気球の免許ももうすぐ取れる(笑)。また、東川町が取り組む地方創生や自然に魅力を感じただけでなく、日本で育ったことがない子供たちを受け入れる子供の教育環境も考えてもこの町を選択した大きな理由です。

もちろん社長だから好き勝手にやっているわけではありません。いつの間にか北海道に移住した従業員が4名。従業員の2/3にあたる80名にアンケートを取ったら、週に1回以上出社している人は半分にすぎませんでした。それでも仕事は回っていて、事業も拡大しています。さらに当社には、オーストリアで働いている人もいれば、宮古島で働いている人もいます。

もちろん都会が好きな人、田舎が好きな人、さまざまなので、地方がすべてだとは思いません。ただ、今いる環境に本当に満足しているかどうか、検討してみる価値はあると思います。

環境を整えることは、生産性の向上につながる

「環境リッチ」とは、何も住む場所のことだけではありません。家庭環境も同じように大事です。

僕らの会社では、家族の事情を許容する文化があって、それぞれのスケジュール表には「子供を迎えに行く」「子供と風呂に入る」といった時間がプロットされています。

先日も、久しぶりに出社して会議を終えた後、経営幹部に「食事に行こうか?」と誘ったら、「子供を迎えに行くから」と断られました(笑)。それでいいんです。

子供と一緒にいられる時間が増えれば、家族みんながハッピーですよね。奥さんが体調不良で寝込んでいるときにちゃんと時間を取って看護できれば、感謝もされるし、夫婦仲も円満になるでしょう。

ただ間違えてほしくないのは、これは従業員の福利厚生というより、生産性向上のためにやっているという点です。環境が整えば精神的にも安定するし、やる気も出てきます。従業員に楽しく働いてもらいたいというと、キレイごとのように聞こえるかもしれませんが、実際に効率よく働くためには必要だと考えてのことなのです。

宮古島で働いているエンジニアは、始業前に趣味のSUP(スタンドアップパドル)をやって、「海に出たら亀がいた」とか日報に書いてきます。そのあと仕事をして、8時間きっかりで終えます。でも、彼は非常に優秀。ストレスゼロだから、良いコードが書けますよ。また、うちの海外法人では世界的に有名なエンジニアを招き、日本のエンジニア向けのオンラインイベントを英語で行っているのですが、彼は宮古島から参加し、モデレーターを務めています。経営側がやってほしいことを全部やってくれるわけですから、もう100点満点です。

これがもし、地方に住んでいるがゆえに仕事は中途半端、という状態だったら看過はできませんよね。勤務時間内にきっちり成果を出す、つまり生産性をアップさせるというのが大前提です。だから「タイム・リッチ」&「環境リッチ」になるには、セルフコントロールが不可欠。プロのアスリートだって、試合で成果を出すために日々のトレーニングや栄養管理を欠かさないでしょう。それと同じことです。

「タイム・リッチ」になる必要性はこれから増していく

自分の会社について言えば、現状の働き方の枠組みの中で、リモートワークの生産性を高めるためにすべきことはほとんど取り組んだのではないかと考えています。

今は従業員の労働時間が法律で定められていますが、僕は本来、これも自由でいいんじゃないかなと思うことがあります。僕らの会社には、もっと長い時間働いて成長したいという野心をもった従業員もいます。もちろん今は止めていますけど。

僕はいずれ、「非同期ワーキング」を実現させたいと考えています。インドがアウトソーシングで経済発展したのは、アメリカとの時差があったから。アメリカの企業が終業時に仕事を依頼したら、翌朝出勤するまでにその仕事ができあがっている。アメリカの夜は、インドの昼間。いわば24時間稼働状態になるわけです。

日本の場合は、時間に制約されますよね。夜になったら頭が冴えてくるという夜型人間もいるはずなのに。皆が一堂に会するミーティングなどは別ですが、クリエーターのような仕事なら、自分のペースでやったほうがいい。時間に捉われない働き方も、タイム・リッチと言えると思います。

今はワークライフバランスで働く時間を減らす方向にシフトしています。ただし働く時間を減らすという考えは、100年前からあり、新しい考えではありません。日本人はこの100年で、年間労働時間を3400時間から2000時間にまで減らしています。

これからもこのトレンドは続いていくでしょう。1日の労働時間はたかが知れています。すると、限られた時間でどれだけの仕事の成果を出すか、ますます高い生産性が求められるようになるでしょう。同時に、残りの時間でどのように人生を豊かにしていくかが問われます。年齢や立場に関係なく、タイム・リッチになる必要性は、これからも増していくと僕は思っています。

(構成:笹 幸恵)

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提供元:「お金で時間を買う」発想が社員を幸せにする理由|東洋経済オンライン

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