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2021.07.30

たった一晩の睡眠不足を甘く見てはいけない理由|ぐっすり眠れていないと体と心に影響を及ぼす


睡眠の質を改善するためには?(写真:kouta/PIXTA)

睡眠の質を改善するためには?(写真:kouta/PIXTA)

いまでは人間の脳の働きについて、かつてないほど多くのことがわかっている。にもかかわらず、不安や疲労を感じながら、絶望の淵で静かに苦しんでいる人の数も少なくない。

どう考えてもおかしな話だが、『GENIUS LIFE ジーニアス・ライフ:万全の体調で生き抜く力』(江口泰子 訳、東洋経済新報社)の著者、マックス・ルガヴェア氏によれば、本書はそんな状況を変えるための本なのだそうだ。

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つまり、気だるさや不安、抑うつを追い払い、活動的で記憶力の確かな毎日を送るための“パワフルな戦略”が紹介されているのである。

食品に関する知識、体内時計を正しく整える方法、エクササイズの方法など話題は多岐にわたっているが、いずれにしてもここに書かれていることを実践すれば、アルツハイマー病やがん、心臓疾患などの病気にかかるリスクも減らせるのだという。

そして注目すべきは、「からだと環境との関係」にルガヴェア氏が焦点を当てていることである。その考え方を、少なくとも私は理にかなったものだと感じた。

つまり、こういうことだ。

現代は私たちのからだに大きな負担を与えている

現代は、私たちの祖先が暮らしていた世界とは大きく変わってしまった。私たちのからだと脳は、祖先が暮らしていたかつての世界で繁栄するために設計されたものだ。21世紀の生活とその象徴──超加工食品やデジタルな娯楽、有害な化学物質など──はどれも、私たちのからだに大きな負担を与え、その防御システムを圧倒して不調や不快感をもたらし、時には寿命までも縮めてしまう。
からだと脳、からだと環境の関係を修復すること。それこそが「ジーニアス・ライフ」を送るカギだ。
(「序章 現代生活が私たちの脳とからだにもたらすもの」より)

脳の問題は脳の中だけで完結できるものではなく、からだのすべての器官と関係しているということなのだろう。当たり前ではあるが、日常生活においては意識する機会が少ないことでもあるかもしれない。

だからこそルガヴェア氏は、「本書を読めば、健康になるためには何が必要かを深く理解できるだろう」と記しているのだ。たとえばその必要なことの1つが、毎日の習慣をほんのちょっと変えてみること。

そうするだけで明るい気持ちになり、将来の健康を大きく改善できることがわかるというのだ。これは、健康的な日常生活を送ることの大切さを説いてきた、過去のさまざまな論文や主張とも重なる考え方ではないだろうか?

どこか1カ所に手を加えればすべてが改善するというような問題ではなく、バランスが大切だということ。だから本書の守備範囲も広いのだろうが、今回はその中から、「睡眠」に関する考え方に焦点を当ててみたい。

睡眠が私たちのからだに与えるパワフルな効果

「ジーニアス・ライフ」にとって、からだにいい食生活を送り、太陽の光を浴びることと同じくらい重要なのは、質の高い眠りだ。睡眠は血圧と血糖値を下げ、ホルモンを調節し、代謝を促し、からだを強くしてくれる。究極のアンチエイジングであり、とりわけ脳を若々しく保ってくれる。(247ページより)

睡眠の効果についてはよく知られたところだが、それは、睡眠不足になると逆のことが起きてしまうということでもあるだろう。ルガヴェア氏もここで、睡眠時間が慢性的に4時間未満の人は、認知能力の脳年齢が一気に8歳も進んでしまうという話を引き合いに出している。

どうあれ慢性的な睡眠不足が、からだのあらゆるシステムに影響を及ぼすであろうことは想像にかたくないのだ。そして、その一部は代謝機能の低下が原因で起きるのだという。

動物実験でも人間の臨床試験でも、睡眠時間が減ると、インスリン感受性が低下し、グルコース代謝に異常が現れるそうだ。からだがより多くのインスリンを生成し、血糖値が高いままの状態が続いてしまうということだ。

アメリカ内分泌学会が発表したある研究によれば、睡眠時間がたった一晩、8.5時間から4時間に減っただけで“一夜にして”代謝性肥満が生じるのだという。それは、体重が9~14キロ増えたときの影響に相当する。肝臓で糖と脂肪の産生が増え、血糖の効率的なコントロールができなくなっていたことが原因であるようだ。高血糖は血管を傷つけ、脳を含む全身の器官に酸素を運ぶ血管の働きを阻害するので、影響は決して小さくなさそうではある。

だが、そうした影響は避けられるものでもあり、元に戻すことも可能。つまり、睡眠の質を向上させればいいわけである。

睡眠はまた、脳を毎晩、脳脊髄液に浸すことで冴えた頭脳を維持する。この脳の洗浄プロセスは睡眠中に必ず起きる。脳内には、グリンパティック系(グリア細胞+リンパ系の造語)と呼ばれる配管システムがある。この脳内リンパ系のおかげで、睡眠中に脳脊髄液が脳内に滲み出して、有毒な老廃物を押し流してくれるのだ。睡眠の裏をかくことはできない。眠っているあいだにグリア細胞が60%も収縮して大きな隙間をつくり出し、脳脊髄液が流れ込みやすくなるからだ。(248ページより)

メンタルヘルスの面から睡眠を考える

ルガヴェア氏は、年齢に関係なく、睡眠の重要性をメンタルヘルスの面から考えてほしいと訴えている。

現代では心の問題に苦しんでいる人は少なくないが、成人の6人にひとりは薬で対処しようとし、しかも多くの人が長期にわたって服用する。問題は、睡眠障害がほぼすべての精神疾患に影響を及ぼすということだ。長引くうつ病の原因は睡眠障害にある、と結論づける研究結果も増えてきたという。

睡眠とうつ病との関係は、つまるところ、脳の奥深くに位置する扁桃体に行き着くのかもしれない。このアーモンド型の部位は負の情動に深く関わり、“恐怖センター”と呼ばれることも多い。不確実な出来事が起きた時の脳の反応を調整する。不確実性は常にリスクを伴うからだ。(249ページより)

睡眠が足りているときには、前頭前皮質の“理性の声”が扁桃体の働きを抑制する。前頭前皮質がその抑制効果を解除するのは、本当に危機が訪れたときのみ。ところが睡眠不足になると、その仕組みが機能しなくなるのだそうだ。

過敏な扁桃体は、ささいな出来事でも大きなストレス要因と捉える。驚くべきは、たった一晩睡眠不足だっただけで、扁桃体が約60%も反応しやすくなるというルガヴェア氏の指摘だ。たとえば睡眠不足のときにイライラするのも、それが理由であるようだ。

もちろん、最善の解決策は、ただよく眠ること。

睡眠が足りていると、幸せを感じ、ストレスに強くなる。なんとなく理解できる話だが、そればかりでなく、十分な睡眠は人間的な魅力をも高めてくれるようだ。逆にいえば、睡眠不足はコミュニケーションにも影響を与えるということだ。

カリフォルニア大学の神経科学及び心理学部教授のマシュー・ウォーカーは、睡眠負債(毎日の睡眠不足の積み重なり)が社交生活に及ぼす影響について研究している。
ウォーカーによれば、睡眠不足が蓄積すると人づきあいを避けるようになるという。それだけではない。引きこもりのような効果を生み、人づきあいを避けたがっているというシグナルを周囲の人間に送ってしまい、周囲があなたとのつきあいを躊躇してしまうのだ。(251ページより)

社交生活を円滑にするため、アルコールの力を借りる人も多いが、まずは基本的な事柄、すなわち睡眠の質を改善することこそが大切なのだ。

ぐっすり眠るための秘訣とは

だとすれば気になるのは、どれくらいの睡眠時間が必要なのかということである。

この点についてルガヴェア氏は「一般的に、成人の場合は7~8時間、10代であれば9~10時間が望ましい」と記しているが、いずれにしても睡眠の長さは重要。

なぜなら私たちは、入眠後の時間帯によって2つの異なる睡眠状態を体験するからだ。これはよく知られた話だが、まず入眠直後には深いノンレム睡眠が訪れ、大脳が休息する。そして、その後に訪れるレム睡眠では、記憶を定着させ、思考を整理するのだ。

したがって、ぐっすり眠り、朝は自然に目覚めるのがベスト。

睡眠の質について言えば、大切なのは午前中に明るい光を浴びることだ。太陽の光が望ましいが、照度が充分にあれば人工的な照明でも効果がある。明るい光を浴びれば、睡眠ホルモンのメラトニンが1日の早い時間に産生されるだけでなく、夜、眠りにつきやすくなる。(252ページより)

寝室は涼しくして約18℃を保ち、暗くすることが大切。目覚まし時計の表示などの、どんな小さな光でもまぶたを通して入ってくるため、睡眠の質が低下し、翌日の認知機能が妨げられてしまうからだという。

ともあれ最後に、ルガヴェア氏による「ぐっすりと眠るための秘訣」を確認してみることにしよう。

▶︎毎日同じ時間にベッドに入ろう

しっかり眠るためには、毎晩、同じ時間にベッドに入ること、すなわち就寝時間を守ることが大切。眠る時間を遅らせると逆効果になり、からだが警戒態勢のままになり、不眠症につながるかもしれないというのだ。

▶︎エクササイズをしよう

定期的なエクササイズは、睡眠の質を向上させる。エクササイズの習慣がない人も、夜にエクササイズをするだけでぐっすり眠れるようになるかもしれない(ただし、就寝の2時間前までには終わらせたほうがよいようだ)。

▶︎就寝前に入浴するかシャワーを浴びる。

入浴やシャワー後に深部体温が下がると、からだが眠る準備をはじめるのだそうだ。

▶︎グリシンかマグネシウム、あるいはその両方を試す

グリシンやマグネシウムを摂取すると、睡眠の質が自然に高められる。しかも、そのどちらにもパワフルなアンチエイジング効果が。ぐっすり眠るためには、グリシン酸マグネシウムを300~500ミリグラムと、純グリシンを3~4グラムずつ摂取するといいという。

▶︎ベッドは就寝と性行為だけに使おう

目が覚めたらすぐにベッドから出て、夜までベッドに入らないこと。ベッドのなかで食べたり、仕事をするなどももってのほか。

▶︎アルコールを避ける

アルコールを飲めば早く眠りにつけるが、レム睡眠の時間が減ってしまう。そこで、飲んだときには酔いをさましてから寝るのがよいようだ。

▶︎就寝2~3時間前になったら、ブルーライトカット眼鏡をかける

スマートフォンやラップトップ、テレビの画面が発するブルーライトが眠りを妨げるのは有名な話。翌朝を“光の二日酔い”にしてしまうという。

▶︎カフェイン禁止時間を決めよう

午後4時を過ぎたらカフェインの摂取を控えるべき。

▶︎オメガ3系脂肪酸や食物繊維をたっぷりと

炎症は睡眠の質に影響を与えるため、オメガ3系脂肪酸(サーモン、サバ、ニシンなどの冷水性海水魚に含有量が多い)や、食物繊維をたくさん摂取すると、ぐっすり眠れて元気が回復する。

▶︎就寝2~3時間前には食べない

夜遅い時間に食事をした翌朝、ひどい気分になったりするのは、夜食が睡眠の質を妨げてしまうからだとか。

■バランスの保たれた生き方を目指そう

もちろん冒頭で触れたように、大切なのはバランス。睡眠だけを気にしていればすべてが解決するわけではないということだが、とはいえこれらを意識しておいて損はなさそうだ。

そして同じように、からだにまつわるほかの問題にも留意したい。バランスの保たれた日常があってこそ、充実した健康的な生き方を実現できるに違いないのだから。

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提供元:たった一晩の睡眠不足を甘く見てはいけない理由|東洋経済オンライン

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