2021.07.22
医者が教える「本当に注意すべき病気」の優先順位|ジム通いより年1回の高度がん検診を勧める訳
運動はスポーツクラブに通わなくても自宅でできます(写真:Tomoharu photography/PIXTA)
将来にわたって健康でいるために、「病気には気にすべき順位がある」と牧田善二医師は言います。時間もお金も限られている中で何から取り組むべきなのか。新著『医者が教えるあなたの健康が決まる小さな習慣』を上梓した牧田氏が解説します。
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誤解しがちな健康診断の結果の意味
会社の健康診断の結果が出ると、たいていこんな会話が交わされます。
「どうしよう。要観察が3つもあった」
「いいじゃないか。俺なんか5つだよ」
周囲の人と比べることで、「自分はまだマシ」と安心したい気持ちがあるのかもしれません。しかし、異常を指摘された項目が3つの人が、5つの人より長生きできる可能性が高いということではありません。
問題はその内容です。病気には、歴然とした順位があります。圧倒的なナンバーワンはがん。日本人の2人に1人が罹り、3人に1人が命を落とすという、最強の病気です。しかも若い人たちをも容赦なく襲います。ただし、同じがんでも重要度は違います。膵臓がんと前立腺がんでは、その予後はまったく変わってきます。
2位は心筋梗塞などの心臓病。肥満大国アメリカでは、がんよりも心臓病による死者が多くなっています。いずれにしても、がんと心臓病は不動のトップ2と言っていいでしょう。
ところが、3位以降はちょっと微妙です。かつて、日本人の死因の3位は脳卒中だったのが、今は肺炎や老衰なども増えています。さらに、QOLを考えたらアルツハイマー病も深刻です。こうした重大な病気と比べたら、尿酸値が高いとか、中性脂肪が高いなどというのは騒ぐに値しません。
物事には優先順位があり、健康維持に関してもすべて同様です。さまざまな検査、必要な治療、体力づくりの運動、いい食事、ストレスを解消してくれる趣味……あなたが、QOLの高い100歳人生をまっとうするために、やるべきことはたくさんあります。でも、その全部を行おうとしたらお金も時間も足りません。ここは、効率的な取捨選択が必要です。
例えば、「体のために」とスポーツクラブに通っている人もいると思います。都内の一般的なスポーツクラブだと、月会費は1万2000円くらいが平均のようです。年にすると15万円近くになります。
しかし、運動は自宅でもできますから、この15万円を最新のがん検査に向けるのも1つの方法です。会社や市区町村の健康診断で「異常なし」と言われていたのに、がんで命を落とす人が少なからずいることを考えたら、検討する余地は大いにあるでしょう。1年に1度の高度ながん検診。こんな習慣を新たに追加してはどうでしょう。
非常に重要なのが「腎臓」の状態
これからの日本人がQOL高く100歳人生をまっとうするために、非常に重要なのが「腎臓」の状態です。腎臓は地味な臓器で、しかも、よほどのことがないと悲鳴を上げません。しかし、人間が命をつなぐための解毒作用を担っており、腎臓が働かなくなれば、尿毒症を起こし(つまり全身に毒が回り)即、命を落とします。
腎臓は加齢とともにその働きが落ちていきます。自覚症状はなくても、50代ともなれば、すでに慢性腎臓病になっている可能性もあるのです。でも、みんな気づいていません。気づいていなければ、さらに悪化させてしまい、とても100歳まではもちません。
腎臓の状態を正しく把握するためには「尿アルブミン値」を測定することが必須ですが、これは普通の健康診断ではまず調べません。よく調べられる「血清クレアチニン値」が正常であれば大丈夫、と医者も信じているからです。しかし血清クレアチニン値に異常が出たときはもう遅いのです。
次のグラフを見てください。日本における慢性腎臓病の透析患者数と死亡者数の推移です。一目見て、透析を受けねばならない重症の慢性腎臓病患者数が激増しており、死亡者数も増えていることがわかるでしょう。
医学は大変に進歩しています。そのおかげで、以前だったら諦めるしかなかったがんも治るようになりました。人の手では難しい心臓の手術をロボットが安全に行えるようにもなりました。
そのような状況にあるにもかかわらず、慢性腎臓病による死亡がこれほど増えていることは決して看過できません。
現在、日本には2100万人もの慢性腎臓病患者がおり、成人の5人に1人に相当します。これは一流医学誌に報告された最新の間違いない数字です。しかも、日本人は透析が必要なほどに悪化するケースがとても多く、その率は台湾に続いて2位です。
腎臓は沈黙の臓器であり、がんや心筋梗塞のように、急激に「今すぐどうにかしなければ」という状況にはならないので、医者もあまり関心を持ちません。だから、専門医も少なく、大学病院など大きな医療施設に通っていても、腎臓について指摘される機会はほとんどありません。
となれば、あなたが腎臓に無頓着でいたのも無理からぬことです。統計上の死因としては、腎臓病によるものは7位です。しかし、慢性腎臓病になると、それ自体は比較的軽症であっても、心筋梗塞や脳卒中に罹る率が跳ね上がります。腎臓病自体で亡くなる前に、心筋梗塞や脳卒中で命を落とすことになり、その死亡率は4倍にも上るのです。
慢性腎臓病に罹ることは、すなわち命を縮めること。さらに、透析は著しくQOLを下げます。週に3日、1回4時間ほど拘束されるのですから、仕事も旅行もできません。100歳人生をすばらしいものにするために、腎臓を大切にする習慣を身につけましょう。
私がみなさんにお伝えしたい小さな習慣は、言い尽くされた古めかしいものではありません。新しい時代には新しい知見が必須です。
大事なのは「最新の知見は何か」
今後は医療も多様化し、専門クリニックや自由診療(保険外診療)も増えていくでしょう。自由診療と聞くと、突飛なことをやって高いお金を取る怪しい医療者を想像するかもしれません。たしかに、手遅れのがん患者に根拠もない「治療もどき」を行う不届き者も希にいます。
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しかし、すばらしい医学の進歩をいち早く患者さんに享受してもらうために、自由診療での新しい治療の提供を試みる医療機関も増えています。そうしたことを正しく知り、本当に自分に必要なものを取り入れていく知性が、人生100年時代には必須だと私は考えています。
同時に、医学はほかのどんな分野よりも加速度的に変化するダイナミックな学問であり、ときに、過去の常識は180度覆されます。
私自身、過去に信じていたことをひっくり返し、改定しながら毎日の臨床の現場に立っています。このときに大事なのは、「過去はどうだったか」ではなく「最新の知見はなにか」です。そこに行き着けることが重要なのです。そういう柔軟性をいくつになっても失わずにいてください。
習慣は、繰り返して身につくもの。だから、ずっと変えずに行うことがいいのだと考えているかもしれません。しかし、こと健康に関してそれではいけません。絶えずアップデートしていける頭の柔らかさ、知的好奇心こそ最も求められているのです。
とはいえ、医師として長く患者さんと接してきて、人はなかなか生活様式を変えることができないということもわかっています。だからこそ、小さなことから始めること、知ることから始めることが重要なのです。
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提供元:医者が教える「本当に注意すべき病気」の優先順位|東洋経済オンライン