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2021.07.13

「災害後の突然の不調」に悩む人へ伝えたい対処法|被災者だけでなくニュースを見て体調崩す人も


静岡県熱海市で発生した豪雨による土砂災害は大きな被害をもたらした(写真:UPI/アフロ)

静岡県熱海市で発生した豪雨による土砂災害は大きな被害をもたらした(写真:UPI/アフロ)

豪雨、洪水、地震など自然災害が起こりやすい日本。そして「災害が起こるたびにさまざまな不調を訴える患者が増える」と指摘するのが、医師である工藤孝文氏です。直接の被災者だけでなく、テレビや新聞、ネットなどでの大量の情報を見て不調を訴える人もいるといいます。そうした「災害不調」にどう対処すればいいのか。新著『災害不調 医師が見つけた最速の改善策』を上梓した工藤氏が解説します。

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災害で受けるストレスの種類は一様ではない

人は災害を経験することで、強いストレスを受けます。災害そのものによるのはもちろんのこと、以後の社会生活や人間関係の変化、持病の悪化など、ストレスの種類も一様ではありません。

災害時に生じる独特な音や揺れは人に衝撃を与えますし、温度の変化や息苦しさを感じた、なども大きなストレスとなります。言うまでもなく、災害時に火災や爆発、津波の様子、倒壊する建物、けがを負った人や遺体などを目撃することも、衝撃的な体験となります。自分自身が負傷したり、身近な人が死傷したりすれば、心身の両方に大きな打撃を与えます。

災害そのものによるストレスが比較的軽かった人でも、災害後に避難所生活を送ったり、転居したり、生活スタイルを変えざるをえなくなったりすれば、それ自体が負担になります。ささいなことであってもそれまでの当たり前を変えなくてはいけませんし、別の人間関係を築く必要があるかもしれません。「被災者」として注目されてしまうことも重荷になります。

直接被災しなかった人であっても傍観者ではいられません。大きな災害となれば、テレビも新聞もネットも、そのニュース一色となります。押し寄せる情報にさらされると、自分が災害を受けたわけではないにもかかわらず、不調を訴えて来院する人が増えます。

今回の新型コロナウイルスの流行でも、連日メディアが感染者数を伝え、医療現場の苦境をはじめとするさまざまなニュースを取り上げています。自宅にいることが推奨されていることもあり、テレビやSNSの接触時間が増えたというのもあるかもしれません。

1回目の緊急事態宣言が終わった2020年5月以降、私の病院には、さまざまな症状を訴える患者さんが来院しました。

ストレス反応自体は生物として自然ですが、これらは精神面だけでなく身体面にも影響を与えるため、結果的にさまざまな不調を引き起こします。

たとえば、動悸(どうき)、過呼吸、発汗、フラッシュバック、幻覚、耳鳴り、抑うつ、不安焦燥感、不眠、悪夢、イライラ、集中力の低下、めまい、疲れやすさ、食欲低下、肥満、下痢・便秘、頭痛、全身倦怠感、冷え、肩凝り、アレルギー症状の悪化、エコノミークラス症候群などです。

中には、災害時のストレスが一種のトラウマとなり、長期間にわたり苦痛を及ぼすケースも見られます。フラッシュバック(PTSD)、適応障害、うつ病、アルコール関連障害(依存症、肝疾患)、喫煙関連(依存症、COPD、肺がん)などです。

災害後にこうした症状が起こったとき、明らかな診断名が付く場合は、治療方法も見つかります。重症・軽症の違いはありますが、治療法がわかることで、患者さんは次の一歩を踏み出しやすくなります。一方で、検査結果には異常が見られないのに、本人にとっては明らかに不調・不快であるケースもあります。医学的に説明できない諸症状のことです。

典型的なのは、近所のクリニックに行って苦痛を訴えても、「原因がはっきりしないので大きな病院に行ってください」と紹介状を渡されるようなケースです。実際に大学病院などに行ってさまざまな検査を受けるのですが、「異常はありません」と言われてしまいます。結果的に、不調を抱えたままドクターショッピング(診察に納得がいかず医療機関を次々に変えること)を続けざるをえない患者さんが生まれます。

大学病院や救急医療などをおこなう大きな病院は、緊急処置を要する病気、または重要・重大な病気への治療が最優先されます。具体的には事故によるけがや、心筋梗塞、脳血管疾患、がんなどいわゆる「大病」と言われる病気です。そのため、検査で異常が認められない患者さんが大病院で診てもらえないのは、現在の医療システム上、致し方ない面もあります。

災害不調と関わりが大きい「自律神経失調症」

緊急や重要ではないかもしれませんが、本人にとっては深刻です。私のもとには、そのような患者さんが、まさにわらをにもすがる思いでやってきます。めまいや耳鳴り、体の痛み……原因もわからないまま、しょっちゅうそれらの症状が出ていたらどうでしょうか。健康的な日常生活を送ることはできませんし、それが長引けば不安が募って精神疾患を発症することもあります。実際、患者さんはとても苦しんでいます。

「災害不調」の「不調」とは、このような不調を指します。ひと言で言うなら、「災害後に起こる、診断がつかない不調」といえます。「災害不調」とは耳慣れない言葉かもしれませんが、それもそのはずで、最近、多くの患者さんを見る中で、私が考えた言葉です。

「災害不調」と関わりが大きいのが、いわゆる「自律神経失調症」です。不安、不眠、頭痛などの診断のつかない症状があり、大病院に行っても原因がわからず、心療内科に行って薬を何種類も処方されて服用しても改善しない……。このような状態が「自律神経失調症」です。私自身、自律神経失調症で苦しむ患者さんと接する機会はとても多いです。

災害は、自律神経失調症による不調・苦痛が表面化する大きなきっかけになります。「自律神経失調症」と言ってぴんとこなくても、災害を体験したことがあれば「災害後に味わった、ああいういろいろな不調のことか……」と気づく方も多いかもしれません。

実際に経験していなくても、災害の様子をニュースなどで見聞きすることで症状が表れる方もいます。新型コロナウイルスの流行では、ご自身が感染していなくても、不調を訴える患者さんが多く来院されました。

自律神経失調症に特化した薬はありません。一般的にはそれぞれの症状を抑えたり緩和する薬が処方されます。めまいを抑える薬や、抗不安薬、睡眠導入剤などです。

現代の医学はEBM(Evidence Based Medicine)という考え方があり、私ももちろんその考え方を基本にしています。EBMに基づき、諸症状の緩和効果があると実証されている薬、というわけです。とはいえ私は、一般的な薬では自律神経失調症の症状が改善しない方を多く見てきました。

試行錯誤の末、私が今とっているのは食事療法、生活スタイルへの指導です。食べ物から派生した生薬・漢方などを処方することもあります。漢方薬はエビデンスが認められていないことも多く、大学でも漢方薬の授業はほとんどありませんでした。ただ私は多くの患者さんを診る中で、一般の薬を処方しても患者さんの改善が見られず、なんとかできないものかと思い、独学で学んできました。

実際の臨床の場では、こういったことをきちんと説明したうえで、納得された患者さんに処方しています。とはいえ、拒否感を示す方もいますので、無理強いすることは決してありません。

原因不明の体調不良を訴えてクリニックを訪れる患者さんに対し、私はできるだけ平易な言葉で今の状況を伝えるように心がけています。自律神経失調症という状態であることを伝え、交感神経と副交感神経の説明をし、気を付けることやすべきこと、してはいけないことを話します。

とはいえ、たいていの方は医師が言ったことをそれほど覚えていないのではないでしょうか。

「原始人の生活」が自律神経失調症には効く

自律神経失調症には、なにより「規則正しい生活」が効くのですが、「規則正しい生活」といっても、子どものころからそれこそ耳にタコができるほど聞いてきているので、右から左に流されてしまいます。

そこで私はこのごろ「原始人の生活をしてください」と伝えています。朝が来たら起きて、日の光を浴び、昼間は体を動かして、夕暮れには活動を終えて、暗くなったら早めに寝る生活をしましょう、ということです。

忙しい社会に生きている現代人にとっては、原始人の生活は容易ではありません。私自身、重々承知しています。ただその中でも、ちょっとした心がけでできることがあります。あれもやらなくては、これもやらなくては、と思う必要はありません。試してみようかな、という気楽な気持ちで始めてみてください。

何をおいても実践してほしいのが、体内時計のリズムを整えることです。体内時計の狂いを正す際に一番の近道となるのは、朝食をとることです。朝食を食べることで体内時計が動き始めるからです。不眠で悩む人には特にオススメします。

体内時計を働かせる時計遺伝子は全身に存在していますが、脳の視床下部にある時計遺伝子が「親時計」の役割を果たし、いつどういう働きをすべきか、各臓器内にある遺伝子(「子時計」)たちに信号を送っています。子時計もそれぞれにリズムを持っていて、動いたり休んだりしています。

時計遺伝子のこうした働きがわかってきたのは実は最近ですが、この遺伝子は私たちの健康全般に大きく関わっています。親時計(脳)と子時計(各臓器)が互いに連携して、正しいリズムを刻むことが健康につながります。ちなみに、2017年のノーベル賞生理学医学賞は、この体内時計に関する研究が受賞しています。

全身の時計遺伝子のリズムは、1日24.5時間に設定されているため(サーカディアンリズム・概日リズムといいます)、毎日30分前後のズレが生じます。このズレを修正してくれるのが、朝食と太陽の光です。定時に朝食を食べることが刺激となって、体内時計がリセットされるのです。

規則正しい食事習慣は健康寿命も延ばすことが、時間栄養学の研究成果によってわかっています。朝は起きたばかりで食欲が湧かない、といって朝食をとらない人がいますが、3食のうちでもっとも決まった時間に食べやすいのが、朝食です。朝食をとることで、朝から胃腸が働く習慣がつき、おのずと空腹を覚えるようになります。簡単なメニューでもいいので、まずは朝ご飯を食べる習慣をつけてみてください。

災害に遭うと、規則正しい生活ができなくなることが多いです。体内時計が狂った場合はとくに、朝食をとることで、時計遺伝子のリズムが戻ってきます。一見、不眠と朝食は関係がないと思うかもしれませんが、体内時計の観点から見ると大いに影響し合っています。もっとも簡単に始められる方法なので、ぜひ実践してみてください。

次に試していただきたいのが、朝10分の散歩です。これは、朝日を浴びることで体内時計がリセットされる(ズレが修正される)効果があります。「幸せホルモン」セロトニンの分泌も促されます。

私は、不調を訴える患者さんによく「朝10分の散歩を1週間してみてください」と提案します。朝10分の散歩は、交感神経と副交感神経の切り替えを促しますし、光を浴びることで体内時計が調整されます。私も毎朝、娘を抱っこして散歩しますが、こうなると人と触れ合うことで接する幸せホルモン、セロトニンまで分泌され、1日のスタートが気持ちよく切れます。

患者さんに伝える際、「10分」と「1週間」を強調します。「それくらいなら続けられる」と思ってもらうことが大切です。みなさんも義務感ではなく、朝の清々しい空気の中を気持ちよく歩いてみてください。

朝の散歩が難しい人は、せめて起床後に部屋のカーテンを開け、意識して窓辺に立つようにしてください。室内で日光を浴びるだけでも、体内時計は調整されます。天気が悪い日なら、朝起きたときに明るいライトなどを見るようにしましょう。

うつ病や肥満、免疫不全の予防にも効果

体内時計のリズムを整えることは、睡眠障害や疲労解消以外にも、うつ病や肥満、免疫不全の予防にも効果があります。

人間の体には、起床後の朝になるとホルモン・コルチゾールの分泌量や血糖値が上がる「暁現象」という働きがあります。そのため、日中は交感神経を活発にし、適度な緊張状態を作る必要があります。そうしないと、夜、副交感神経への切り替えがうまくいかなくなるのです。

交感神経と副交感神経はバランスが大事ですが、極端に言えば原始人のように、昼は狩猟か稲作に勤(いそし)むことで、夜もよく眠れるようになります。睡眠のためにも、日中はやはりきちんと体を動かし、仕事や趣味、家事など、なにかしら活動することが大切です。こうした生活を送ることができると、夜には自然と眠くなります。

仕事自体が不眠やストレスの原因になることもあるでしょうが、そういう面ばかりではないはずです。「仕事が自分の人生を支え、豊かにしているのだ」という面にも目を向けてみてください。それでも不調が続くときは、就寝前に意識的にリラックスタイムをつくってください。睡眠の前にはカフェインが含まれるコーヒーや紅茶を飲むことは控えましょう。夕食の量は満腹でもなく空腹でもなく、ほどほどがお勧めです。

ストレッチ運動もリラックスのためにはいいでしょう。ちなみに筋トレは、脳を興奮させ交感神経のはたらきを高めるので、夜に筋トレしたいという人は、眠る90分前までには終わらせてください。体の疲労が大きい日に無理をする必要はありませんが、夜はぬるめのお湯にゆっくり入浴すると、リラックス効果が得られます。

ストレスや不安によって、自律神経や内分泌機能が悪影響を受けます。そのような影響で狂ってしまうのが、睡眠のリズムです。これは説明するまでもないでしょうが、ストレスや不安が大きいときには、誰しも睡眠障害(入眠困難、中途覚醒、熟眠困難、早朝覚醒、悪夢など)のような症状を呈します。

いわゆる不眠です。災害後に不眠を自覚した場合、なるべく早く対処することで、災害不調を長引かせず、軽減することができます。私は診察室で眠りに関する相談を受けることがよくありますが、「疲れているのに眠れない」と感じるときは、心身が発するSOSだと受け止めてください。

睡眠の質と量が保たれない状態が続くと、短期的な不調のみならず、心臓疾患や高血圧症、糖尿病などのリスクも高まります。また、肥満はさまざまな病気のもとになりますが、睡眠時間が平均7~9時間の人に比べ、4時間以下の人の肥満率は73%も高いという調査結果もあります。すでに「不眠症」や「睡眠時無呼吸症候群」と診断されたことのある人は、心疾患などをより発症しやすくなります。

不眠が原因で、精神的な不調を来しやすいことも報告されています。その代表がうつ病、抑うつです。うつ病の人では、約9割に不眠の症状があるとされます。また寝付くまでの時間が長い人は、抑うつに約2倍なりやすい、睡眠時間が短いほど抑うつが生じやすくなる、という研究結果もあります。反対に言えば、もし健全な睡眠が得られ、それを維持することができれば、精神面・情緒面の問題を予防することにもつながるのです。

睡眠不足は安全にも影響します。夜によく眠れないことで日中に眠気が起こり、注意力が散漫になることでミスや事故を起こしやすくなるからです。睡眠時間が数時間短くなった状態が続くと、気づかぬうちに作業能力が落ちること、一度低下した作業能力は8時間睡眠を1週間続けても完全に回復しないことも最近の研究により報告されています。

よく眠ることで、気に病む事柄を少しでも減らせる

自宅が被災し、体育館などの一時避難所で生活しなければならないような場合には、物音や人の声、冷暖房の不備等により、睡眠に関係する問題がいっそう深刻化します。ですからよけいに、睡眠についての知識を持ち、対処法や自分なりの「安眠術」を身につけておくことはとても大切です。

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人間の体は、眠っているあいだに脳と体を休ませ、成長ホルモンを分泌して体のメンテナンスをおこないます。このあいだに老廃物を除去することで、体は健やかな状態に保たれるのです。

スタンフォード大学睡眠生体リズム研究所の研究によると、眠りはじめの約90分間に訪れる「ノンレム睡眠」という深い眠りが、睡眠の質を決めます。この約90分間に夜間の成長ホルモンの70~80%が分泌されるからです。ところがノンレム睡眠が乱れると、その後何時間眠ってもいい睡眠にならない、という結果が出ています。

さらに眠っているときは脳に記憶の定着をおこなうと同時に、嫌な記憶の削除もおこなっています。よく眠ることで、気に病む事柄を少しでも減らしていけるでしょう。

最後に、睡眠導入剤についてもふれておきたいと思います。睡眠導入剤は依存性もあって体に悪いのではないか、だから飲まないほうがいいのではないか、と思っている人は依然多いようです。

しかし私は、一時的に使用するぶんにはほとんど問題がないと思っています。依存への不安も感じる必要はありません。体内時計のリズムがいったん崩れると、それ以降も崩れ放しになることが多くなります。ですから、まずは薬を服用してでも時計遺伝子のリズムを整えるほうが、不調にはずっと効果があるのです。

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提供元:「災害後の突然の不調」に悩む人へ伝えたい対処法|東洋経済オンライン

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