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2021.07.12

日本人は豪雨災害がなぜ起こるかをわかってない|大地の固有の凸凹「流域」を知らないと命が危ない


2021年7月3日熱海市で起きた大規模な土砂災害は多数の家屋をなぎ倒し、多数の犠牲者・行方不明者を出し、日本中を震撼させています(写真:Abaca/アフロ)

2021年7月3日熱海市で起きた大規模な土砂災害は多数の家屋をなぎ倒し、多数の犠牲者・行方不明者を出し、日本中を震撼させています(写真:Abaca/アフロ)

線状降水帯による局所的な集中豪雨により、静岡県熱海市で大規模な土砂災害が起こりました。小流域に多くの雨が降り、流下する雨の水が、流域にひろがる生活圏を保護できるよう適切に集水されていなかったことが基本要因と「流域思考」を提唱する慶応義塾大学名誉教授の岸由二氏は語る。流域アプローチによる都市再生に注力し、鶴見川流域、多摩三浦丘陵などで実践活動を推進している岸氏による新書『生きのびるための流域思考』より一部抜粋・再構成してお届けする。

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今までの常識では対応できない豪雨が増えている

ここ数年、豪雨の災害が続いています。小さな川(中小河川)の氾濫だけではなく、鬼怒川、球磨川、最上川など、大きな一級河川が氾濫し、多大な被害が広がっています。丘陵・山地では、斜面を駆け下る土石流によって、多くの人命が失われました。

この傾向は、おそらく一過性の現象ではありません。地球規模の気候変動によってこれからも続く、あるいは、さらに厳しくなると考えられています。

わたしは、都市河川の下流域で何度も大きな水害を体験してきました。同時に、地域の治水安全・実践的な防災活動に長く関わってきた市民の一人です。また、都市の自然環境の保全や水土砂災害の防災(または減災)に強い関心をもつ生態学者としての日常もあります。治水や自然保護に関する国や自治体の審議会委員なども長く経験した研究者の一人として、この課題に向き合ってきました。

近年、水土砂災害が急増した第一の理由は、強い雨が増えていることです。これからの50年、100年、200年にも及ぶ深刻な地球温暖化の表れだという意見も有力です。現状は、数十年間隔の気象変動のレベルという解釈も完全に否定されているわけではありませんが、いずれにしても、ここ10年の動きを見ていると、今までの常識では対応できない豪雨が増えていることは事実です。

この傾向はこれからも続くと考えておくべきでしょう。わたしたちは、すでに温暖化豪雨時代の入り口にいるのかもしれない。そう判断し、対応していくほかないと、思われます。

ところが、現状はその緊急事態とも言える状況に、社会が長きにわたり、適切に対応できずにきたのです。一般社会のレベルだけでなく、報道や自治体のレベルでも同じことが言えるのです。

まずは、地図が問題です。豪雨を引き起こす水土砂災害は、大小のスケールにかかわらず、「流域」という地形や生態系が引き起こす現象です。「流域」とは、雨の水を河川・水系の流れに変換する大地の地形のことです。「流域」の構造を知ることで、水土砂災害に備える考え方や行動ができるのですが、実際には、私たちが利用する通常の地図にはほとんど反映されていないのです。

流域の構造。A川流域とB川流域は隣りあっている。さらに流域はそれぞれがジグソーパズルのように入れ子状になっている(イラスト:たむらかずみ、出所:『生きのびるための流域思考<筑摩書房>)

流域の構造。A川流域とB川流域は隣りあっている。さらに流域はそれぞれがジグソーパズルのように入れ子状になっている(イラスト:たむらかずみ、出所:『生きのびるための流域思考<筑摩書房>)

氾濫を起こすのは川ではなく「流域」

2021年の今日まで、私たちは、学校でも、市民社会でも流域については学ぶことなく過ごして来ました。

それは、行政も市民も同じです。水土砂災害は都道府県・市町村の行政単位で発生すると考えている行政職員や市民は少なくありません。防災・被災の情報が、いつも行政地図を元に報道されてきたことに、わたしたちは慣れきってしまっていたのかもしれません。

それだけではなく、気象庁も国土交通省も、「水土砂災害は河川が引き起こす」と、ついつい、強調してきました。氾濫を引き起こす構造として、確かに河川は水土砂災害の直接的な原因のように見えます。

しかし、その河川に大量の雨水を集める大地の広がりは「流域」であり、雨水や降水による氾濫やさらにそれらを水土砂災害を引き起こす川の流れに変換するのは、「流域」という地形であり生態系です。つまり、氾濫を起こすのは、川ではなく「流域」なのです。これが、水土砂災害を考えるうえで、わたしたちがいま確認すべき、最も重要なポイントです。

2021年の現在に至るまで、日本の義務教育は、どの学年でも流域という地形について学ぶことはありませんでした。わたしたちが流域についての明快なイメージを持っていないおそらく最大の理由はここにあるように思います。雨や川については学ぶのですが流域の地形・生態系は義務教育のテーマになっていないのです。これでは、行政も、国民も、報道も、水土砂災害の基本を理解できるはずがありません。

「流域」って何?

流域とは、雨の水を川に変換する大地の構造です。

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大地の凸凹構造、地形そのものという面でみれば、流域は「大小高低にかかわらず尾根という大地の盛り上がりに囲まれた窪地」と定義できます。窪地であれば、すべてが流域かというと実はそう簡単ではありません。南極の氷の大地にも、サハラ砂漠にも、大地の隆起陥没や風の力で形成される凸凹がありますが、それらについては、ここでは流域と呼ばないことにしておきましょう。流域は「雨の降る大地における固有の凸凹」です。

雨の降る大地で尾根に囲まれた窪地は、雨の水を集めてその一部(場合によってはほとんど)を流水にして、川・水系に変換して海や湖に注ぎ込みます。流域は、雨の水を水系に集める尾根に囲まれた大地の窪地です。雨の降る陸域において、雨の水を水系に変換する地表における水循環の単位地形なのです。

頭上の雨だけを見ていても水土砂災害はわかりません。雨は流域で集められ、災害を引き起こすからです。まずは、自分がどこの流域のどの位置に属しているのかを知ることが第一歩です。

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【あわせて読みたい】※外部サイトに遷移します

4月に猛烈台風が生まれた今年、警戒すべきこと

東京の「大水害」いつ起きてもおかしくない実状

埼玉「芝川」氾濫も大半の住宅が難を逃れた背景

提供元:日本人は豪雨災害がなぜ起こるかをわかってない|東洋経済オンライン

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