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2021.06.01

汚染されると心身に大害「超危険な家カビ」の正体|知らぬ間に増殖、対策はとにかく換気と乾燥


家の中にカビが発生しないように普段から対策しておくのが賢明です(写真:makasana/iStock)

家の中にカビが発生しないように普段から対策しておくのが賢明です(写真:makasana/iStock)

少しでも水分のたまったところがあれば出現するカビ。家の中でもさまざまなところで増殖し、ときには健康被害をもたらすこともあります。今回は家のカビの生態とカビ対策について解説します。

※本稿は浜田氏の近著『カビの取扱説明書』を一部抜粋・再構成したものです。

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アメリカで恐れられている「ブラックモールド」

アメリカでは、カビの健康被害がしばしばニュースとして取り上げられる。英名「ブラックモールド(黒いカビの意)」というカビが、アメリカでは有名である。

このカビは住宅の壁などに生えるスタキボトリス・カルタルムのことで、住宅に生える最も危険なカビと恐れられている。

私は10年余り前に、建材に生えたカビについての同定を依頼された時に、「検出されたカビはスタキボトリスである」と報告したところ、さっそく、依頼者から問い合わせが来た。

「ネットでこのカビを検索したところ、膨大な数の英語の記事がヒットするのですが、なぜでしょうか?」

1999年12月にアメリカで「カビ:健康への警戒警報」という週刊誌の記事が話題になった。マイホームで防護服とフェイスマスクを着けている夫妻の写真と、そのいきさつが掲載された。

その家の住民は「家が苦しんでいるのを終わりにしてあげたい」と訴えた。カビ汚染した住宅で暮らすことの危険性を、アメリカの住民に象徴的に示したのである。その後も、「カビの幽霊が出没する家」として、テレビなどでしばしば取り上げられた。

この住宅では、配管の水漏れで床の建材が水浸しになって反り返り、黒いカビが内壁などに大発生した。すると住んでいた家族が頭痛、倦怠感、呼吸障害などの重い病気にかかり、家から避難する事態になった。

家族は、この住宅を維持・管理する保険会社が、水漏れの修理を怠ったためにカビによる健康被害が起きたと、1999年にテキサス州の裁判所に訴えたのである。

このカビをさらに有名にしたのは、2001年に出された判決の賠償額が日本円で約32億円と巨額だったことだ。「セレブなカビ」だとの記事も見られた。そして、2002年末に、保険会社の巻き返しの結果、4億円で決着がついた。賠償額の高騰は、保険の掛け金の上昇につながると反論したのである。

裁判所に訴えた1999年には、この保険会社へのこのような賠償請求が12件であったのに対して、2002年には賠償請求は1万2000件に達した。また、1999年から2002年までに、カビ被害による損害請求額は3000億円超に達した。

「スタキボトリスが健康被害の原因である」と問題になったのは、テキサス州の事例が初めてではない。それ以前の1994年に、アメリカ中西部のオハイオ州で、特発性肺胞出血(IPH)の小児患者が多く発生し、36人の患者のうち9人が亡くなった。

患者宅について調べると、多くの住宅が水害のために湿ったことがあり、著しいカビ汚染に見舞われたことがわかった。とりわけスタキボトリスというカビが多く見つかり、動物への暴露実験などから、このカビの胞子を吸い込んだことがIPH発症の原因だとされた。

タワーマンションの壁紙の裏に真っ黒いカビ

黒いカビが壁一面に生えて、健康被害にあったという相談を、私も受けたことがある。2009年のことだ。話は関西のテレビ番組から持ち込まれ、突撃取材に協力することになった。

大阪市内のJR環状線の駅前の、30階余りのタワーマンションの上層階だった。書斎や寝室の壁の一角が濡れていて、浮き上がった壁紙の裏に真っ黒いカビが一面に生えていた。室内にはカビ臭が漂っていた。住人によれば、ひどい時は咳こんで、息ができないくらいの発作が続くという。

壁紙をはがして調べたところ、カビの種類はなんとスタキボトリスだった。原因は、壁の中の水道管からの水漏れだった。その後、カビによる健康被害があったと、訴訟を起こした。なお、このカビは、日本でも壁紙などにしばしば見られる。

このカビは、2005年にニューオリンズを襲ったハリケーン・カトリーナによる洪水でも問題になった。水害を被った家屋に猛烈にカビがはびこった写真が世界に発信された。被害を受けた家屋の内部では、通常の5000倍に当たる空気1㎥当たり100万個のカビ胞子が検出されたこともあった。

2011年の東日本大震災によって発生した津波では、多くの家屋が壊れ海水に浸った。濡れた柱や建材の表面に、ほかのカビに混じってスタキボトリスが発生した。

2018年の夏、広島県などでも大規模な水害があり、多くの家屋が泥水に浸った。その後も、大きな台風の到来で、しばしば水害が起きている。私は、被害に遭った家屋や家具のカビ被害が気になる。スタキボトリスの汚染による健康被害が2次的に起きる可能性はつねにある。

カビは成長に伴ってさまざまな化学物質を分泌する。分泌物が液状の黄色や赤色のものも多いが、微生物由来揮発性有機化合物(MVOC)と呼ばれるにおいのする気体もある。アメリカで有名なスタキボトリスの健康被害の原因物質は、サトラトキシンという物質だと考えられている。

このカビ毒は、食品を介してではなく、環境中からヒトの呼吸を介して体内に取り込まれるのが特徴だ。胞子中に含まれるカビ毒の量は、胞子が小さいために、ピコ(10のマイナス12乗)グラム単位と非常に少ない。健康被害を及ぼすには、カビ毒の量が少なすぎるという批判があるほどだ。そのため、スタキボトリスが、そのカビ毒によって健康被害を引き起こすことがあるかどうかの論争には、アメリカでもまだ決着はついていない。

なお、環境中に浮遊するこのカビが、アレルギー性疾患の原因である可能性も否定できない。アメリカ環境保護庁は、スタキボトリスから発生するMVOCがアレルギーの原因物質であると指摘している。

カビによる健康被害には、精神的なダメージも大きい。ブラックモールドの被害が2000年ごろにアメリカで社会現象になったのは、カビの毒性という科学的な裏付けは不十分でも、その不気味さが大きく影響していた。不気味さは嫌いなものから恐ろしいものに変化したと言える。

カビの生えた家は壊すしかない?

カビがいったん生えると、その家は壊すしかないのだろうか。住宅にとって、カビは取り返しのつかない厄介者なのか。私は大きな誤解が蔓延していると思う。

私は、ある裁判で鑑定人を務めたことがある。築数カ月の新築住宅の水道管からの水漏れで、床下がプールのようになった。床の裏側はもちろん、床や壁の一部がカビだらけになった。

漏水を発見した直後に、住環境のカビを測定したところ、一般住宅の100倍以上の胞子が室内に浮遊していた。家族は仮住まいを強いられたとハウスメーカーを相手取って裁判を起こしていた。争点は、水抜きをして半年になるが、その住宅は安全に住める環境になったかどうかだった。

実地調査では、フローリングの床板を外し、プールのように水の溜まった跡の床下を見ながら、私が説明する形になった。外した床板の周りに、多くの関係者が取り囲むようにして、私の話に耳をそばだてメモを取った。

私の説明は次のとおりだった。カビ汚染の原因はすでに取り除かれている。半年くらい注意して換気などに取り組めば、住宅内部はかなり乾燥して、生きているカビも大幅に減少する。住環境のカビ測定を再度行って、通常の値になっていれば住むことが可能だろう。カビ汚染の跡を消しにくい場合もあるが、たとえ残っていても、カビ自体は死んでいることが多い。

また、建材に発生したカビによって、建材の強度が著しく低下する例は非常に少ない。必要と思えば強度を測定したらよい。ほかに問題がないのに新しい建材を放棄するのは、もったいないと言えよう。結果的に両者は和解となったが、その際は、この意見が尊重されることになった。

新築住宅でも壁内部にカビが生えていることが多い

別の事例も紹介したい。マンションが建ってから半年後に、売れ残った部屋のいくつかの壁の壁紙をめくってみたら、壁の中に暗色のカビ汚染が多く見つかった。そこで、マンションの販売会社が、施工会社を訴えた。新築マンションは通常、壁の中もピカピカなはずだと言うのだった。

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『カビの取り扱い説明書』(KADOKAWA) クリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします

残念ながら、新築住宅でも壁の内部はカビの生えていることが多いのである。ただ、壁内部は通常は見えない部分であり、一般にはあまり知られていない。湿っていた建材も乾けば、それに伴っていったん生えたカビは次第に死滅していく。

目で見てカビ汚れはあっても、必ずしもカビが生きているわけではないし、それが新たな汚染源になるわけでもない。建材のカビ調査で、生きたカビがほかの住宅に比べて少なければ問題はない。長年住んでいる間に、住宅のさまざまな部分のカビは、湿ると生えてくるし、乾けば死滅することを繰り返している。

住環境のカビ対策は、一にも二にも換気、乾燥である。例えば、長期出張で3カ月も家を空けていると、浴室に生えているカビも全滅するようだ。たとえ、壁がカビで黒く汚れたままでも、それらはすべてカビの死骸である。死んでいれば、胞子も四散し、その胞子を吸い込んで起きるアレルギー疾患を心配する必要もまずない。

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提供元:汚染されると心身に大害「超危険な家カビ」の正体|東洋経済オンライン

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