2021.05.20

「満たされるほど不自由になる」と老子が説く真意|論語と老子に学ぶ「欲」との正しい向き合い方


次から次へと出てくる「欲」にはどう向き合えばいいでしょうか(写真:sindlera/iStock)

次から次へと出てくる「欲」にはどう向き合えばいいでしょうか(写真:sindlera/iStock)

「お金持ちになりたい」「モテたい」「SNSのフォロワーを増やしたい」。多くの人が少なくとも1つくらいは欲を持っているでしょう。一方で、日本では欲をむき出しにしたり、欲のままに生きることは恥ずかしいともされます。本稿では、東洋思想を基盤とする独自の考えを構築・実践し、数多くの企業経営者と政治家を育て上げてきた田口佳史氏の新著、『論語と老子の言葉 「うまくいかない」を抜け出す2つの思考法』から、論語や老子が考える「欲」との付き合い方について紹介します。

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論語は「欲」をどう説いているか

お金持ちになりたい。
人に認められたい。
あの人は人気があって羨ましい。
もっと優雅な生活がしたい。
さらに高いポジションにつきたい。
みんなが憧れるような華やかな仕事をしたい。

人それぞれ、じつにさまざまな欲があります。単純に「欲」と言うと、真っ先にネガティブなイメージを持つ人も多いでしょう。「できれば持ちたくないもの」「なくしたいもの」と捉える人もいますが、「欲」とは必ずしも悪いものではありません。たとえば「意欲」。これも立派な欲ですが、「なくなった方がいいもの」ではありません。

近代経済の父と称される渋沢栄一も論語を座右の書としていました。『論語と算盤』という著書を残すほどですから、相当な「論語読み」です。そんな渋沢も強調していたのが「論語は利を否定していない」という部分。利益を得ることが悪いのではなく、「どうやって利を得るのか」が大事だと繰り返し主張しています。

論語の言葉を取り上げてみましょう。

富と貴きとは、これ人の欲するところなり。その道をもってこれを得ざれば、処らざるなり。

(大金も、人が羨むポジションも、道に反して得たものであれば、いずれはなくなってしまう)

まさに「富や身分を得たプロセス」こそが大事だと説いているのです。結果や利益を求めるのは大いにけっこう。欲望はまったく否定しない。しかし、そこに至るプロセスこそが大事なのだ。そう論語は教えています。

プロセスを大事にするのは「茶の精神」にも通じるものです。そもそも、お茶なんてものは「ぐいっ」と飲んでしまえば、一瞬で終わってしまいます。茶道では、たったそれだけのことに半日もの時間をかけたりします。場をつくり、所作を正し、精神を清めて、お茶を飲む。それが「茶」というものです。プロセスの美学と言ってもいいでしょう。

近代三大茶人と呼ばれる「鈍翁」「三渓」「耳庵」という人たちがいます。これらは茶人としての号(通称・別名)であり、鈍翁は三井財閥を支えた実業家でもある益田孝。三渓は、絹の貿易などで富を築いた原富太郎。耳庵は、電力業界で活躍し、東京電力の取締役も務めた松永安左エ門です。

「茶とビジネス」の共通点

何よりおもしろいのは、この茶人たちすべてが実業界の実力者という点です。これは決して偶然ではありません。

茶とビジネス。この2つに共通しているものこそ「プロセスこそが大事」という精神です。論語の言葉にあるように、ただ欲望に任せて、利益を得ればいいというものではありません。茶の湯も同じで、ただおいしいお茶を飲めればそれでいいというものではありません。

大事なのはそのプロセスにある。そんなことを論語は教えていますし、渋沢栄一を始め三大茶人と呼ばれる実業家たちも、その本質に気づいていました。

一方で、老子は欲望について何を言っているのか。

聖人は腹のためにして、目のためにせず。

(賢者は、目に見えるものではなく、腹の中にあるもののために行動する)

「お金が欲しい」「立派なポジションを得たい」「贅沢な暮らしがしたい」といった目に見えるものを求めるのではなく、もっと「心の内の満足」を求める。そう老子は説いているわけですが、これは現代的な感覚とも合致する部分が多いように感じます。

最近の若い人は、ギラギラとした金銭欲や出世欲がなくなってきている、という話はよく耳にします。その一方で、働く上でのやりがい、ワクワク感、自分が社会に貢献できている感覚を重視する傾向が強まっています。お金や地位など「目に見えるもの」よりも、「やりがい」や「ワクワク感」といった「腹の中にあるもの」への価値が高まっているのです。そういう意味では、「時代の空気」は老子的な思想を求めているのかもしれません。

仏教の世界では禁欲がよしとされ、論語では決して「利」を否定することはなく、しかしそのプロセスを非常に重んじる。強いて言えば、老子はその中間的な位置づけとでも言うのでしょうか、「ほどほど」の価値についても論じています。

たとえば、老子にはこんな言葉もあります。

持してこれをみたすは、そのやむるに如かず。揣してこれを鋭くするは、長く保つべからず。金玉の堂に満つるは、これをよく守るなし。

(満ち足りた状態を保ち続けようとするのはやめた方がいい。刃物を鍛えて、鋭くしようとし続けたら、切れ味は保てない。金銀財宝が部屋にいっぱいあったとしたら、それを守り続けることなどできない)

老子はそう語っています。これもまた「欲望」に関する、大事な1つの視点ではないでしょうか。

「満たされる」ほどに不自由になっていく

たとえば、コップに水をいっぱいまで満たしたとします。「その状態で100メートル走ってくれ」と言われたら、どうでしょう。まともに走ることができるでしょうか。たかだかコップ一杯の水で、人間はこんなにも不自由になってしまうのです。

あるいは、現金や金塊、宝石などをいっぱい自宅に隠し持っている人は、安心して旅行に行くことができるでしょうか。おそらくは気になって、おちおち旅行を楽しんでなどいられないでしょう。欲望を満たすのもいいけれど、それをいっぱいまで満たしてしまったら、結局、不自由になってしまう。そんな真理を老子は説いています。

揣してこれを鋭くするは、長く保つべからず。

という部分は「ほどほど」(最適)の見極めについて語っています。実際に刀鍛冶たちに話を聞いてみると、ハンマーで何度も叩いて刃物を鋭くしていくのですが、「ここが限界」というところを見極めるのが一番難しいと言います。「もう少し打てば、さらに鋭くなるのではないか」と思い、つい次を打ってしまうのですが、結果として刃物がぐにゃりと曲がってしまう。そんなこともよくあるそうです。

もう一打を打てば、もっと鋭くなるかもしれない。しかし、ここでやめておくーー。そこに職人の極意があるわけです。

株や為替などの投資は、まさにこの状況にぴったり当てはまります。値が上がっている株を持っているときは「もっと待てば、さらに上がるかもしれない」と期待するでしょうし、値が下がっている場合は「もう少ししたら、上がってくるかもしれない」という思いから逃れられない。

欲望とは際限がないもので、つい「もっと、もっと」と満たそうとしてしまいます。しかし、そんなふうにいっぱいまで満たそうとすると、かえって不自由になってしまう。

東洋思想の根本には「陰極まれば陽となる、陽極まれば陰となる」という思想があって、万物は行き過ぎれば、またもとに戻ってしまう。そんな宇宙の原則を伝えています。欲望が満たされれば満たされるほど、不自由になる。そんな真理を老子は突いているのです。

「ほどほどの精神」はサステナブルにつながっている

物質主義的な資本主義が拡大している現代社会についても、同じようなことが言えそうです。これまで経済は「拡大」や「成長」ばかりを目指してきて、企業も事業が大きくなり、利益が増えることを目指してきました。しかし、それではいずれ行き詰まってしまう。

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そんなことに世界が気づき始め、サステナブルというキーワードが広がっています。時代は成長、拡大から、持続可能へと目指す姿が変わりつつあります。言い換えるなら、これは「ほどほどの精神」でもあります。

「欲望」というテーマについて考えるだけでも、じつにさまざまな視点や受け止め方があります。何が正しく、何が間違っているということはありません。今「自分の欲望」と向き合うときに、どんな思想、哲学がよりマッチするのか。それを考えてみることも、おもしろいのではないでしょうか。

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提供元:「満たされるほど不自由になる」と老子が説く真意|東洋経済オンライン

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