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2021.05.11

パート妻は厚生年金に入ると夫の死後損する?|「働きすぎると年金が減らされる」は本当か


夫の扶養を外れて厚生年金に入ると、自分の年金額は増えるが……(写真:pearlinheart/PIXTA)

夫の扶養を外れて厚生年金に入ると、自分の年金額は増えるが……(写真:pearlinheart/PIXTA)

夫は会社員、妻は結婚退職以降、扶養の範囲内でパート勤務。年金制度改正により社会保険の適用拡大が進みますが、今まで扶養に入っていた妻で、これから厚生年金に入るかどうか迷っている人も多いでしょう。

夫婦の老齢年金受給期間、そして遺族年金の点から考えた場合では、夫より妻が年上のケースのほうが、より妻の厚生年金加入の意味が大きいと考えられます。具体的に説明しましょう。

扶養から外れて厚生年金に入るメリット

夫婦ともに年金の支給開始年齢が65歳の場合、それぞれ65歳から受給できる年金は、1階部分の老齢基礎年金と2階部分の老齢厚生年金の2階建てとなります。妻が国民年金第3号被保険者として扶養に入ったままの場合は、自身で保険料は負担しませんが、将来の年金については老齢基礎年金のみが増えます。一方、扶養から外れて厚生年金に加入すると、厚生年金保険料を負担するようになりますが、老齢基礎年金だけでなく、老齢厚生年金(報酬比例部分)も増えることになります。

また、病気やケガで障害が残った場合の障害年金については、障害基礎年金が障害等級1級・2級で対象になるのに対し、障害厚生年金は2級より軽い3級の障害でも受給できることになります。障害厚生年金は、厚生年金加入中に初診日(障害の原因となる傷病で初めて医師等の診療を受けた日)があることが受給の条件です。病気やケガがなく過ごせるのがいちばんですが、厚生年金加入で万が一のときに備えることもできます。

厚生年金加入の条件は、1週間の所定労働時間および1カ月の所定労働日数が常時雇用者の4分の3以上の場合です。つまり、フルタイムの4分の3以上の勤務であれば、アルバイト・パート勤務でも厚生年金の対象になります。ただし、4分の3未満でも、(1)1週間の所定労働時間が20時間以上あること、(2)月額賃金が8万8000円以上あること、(3)雇用期間が1年以上見込まれること、(4)学生でないこと、(5)被保険者となる従業員数が501人以上であること、このすべての要件を満たしている場合も加入対象になります。

今後、社会保険の適用が拡大され、(5)の従業員数については、2022年10月から101人以上、2024年10月からは51人以上に改正され、(3)についても、2022年10月以降、2カ月を超えて雇用されると見込まれる場合に変わります。なお、厚生年金と同時に健康保険の被保険者にもなって、その保険料の負担もありますが、傷病手当金などを受けられますので、保障も厚くなるでしょう。

このように厚生年金加入によって、老齢厚生年金を増やすことができれば、将来の年金の額も多くなりますが、ここで気になるのが遺族年金との関係です。

厚生年金保険制度の遺族厚生年金は「夫が死亡した場合の妻」が受給する場合が圧倒的に多い年金ですが、厚生年金加入期間のある会社員あるいは会社員だった夫が先に亡くなると、生計を維持されていた妻に遺族厚生年金が支給されます。遺族厚生年金は、原則、夫の老齢厚生年金(報酬比例部分)の4分の3に相当する額ですが、夫を亡くした65歳以上の妻は、妻自身の老齢基礎年金、老齢厚生年金と夫死亡による遺族厚生年金を併せて受給できることになっています。

ただし、ここで注意しておく点は、実際に受給できる遺族厚生年金は、本来の遺族厚生年金の額から妻の老齢厚生年金相当額を差し引いた額(差額分)になります。

老齢厚生年金が増えると遺族厚生年金が減らされる

もし、本来の遺族厚生年金(夫の報酬比例部分の4分の3)が120万円で計算され、妻の老齢厚生年金が20万円であれば、実際は120万円から20万円を差し引いた残りの100万円が遺族厚生年金として支給されることになります。妻が扶養から外れて厚生年金に加入して妻自身の老齢厚生年金が増えると、差額支給となる遺族厚生年金がその分減る、という扱いとなりますので、妻の老齢厚生年金が20万円から30万円に増えると、遺族厚生年金は100万円ではなく、120万円から30万円を差し引いた90万円になります(図表(1)参照)。

(出典)筆者作成

(出典)筆者作成

60歳以降の厚生年金加入の場合、老齢厚生年金の報酬比例部分に合わせて増える年金は、老齢基礎年金ではなくなり、代わりに老齢厚生年金の経過的加算額となります。経過的加算額は老齢基礎年金に相当する部分とされているとはいえ、あくまでも老齢厚生年金として支給される年金ですので、妻自身の老齢厚生年金(報酬比例部分・経過的加算額)が増えても、その分の遺族厚生年金が減ることになり、そうなると、厚生年金保険料の掛け捨てのようにさえ思われます。

遺族厚生年金の差額支給のルールを知ると、パートの妻は今後厚生年金に加入することを躊躇するかもしれません。遺族厚生年金は、夫が先に亡くなり、その後遺された妻が1人で過ごす期間での受給になりますが、妻が1人で過ごす期間が長いほど、遺族厚生年金が支給される期間、すなわち前述の妻の老齢厚生年金相当額が調整される期間が長くなるといえます。

日本人の平均寿命は男性81.41年、女性87.45年です(厚生労働省「令和元年簡易生命表の概況」より0歳時点での平均寿命)。女性が男性より長生きしやすいことは知られていることですが、そうなると、妻が年下であるほうが妻1人で過ごす期間が長くなり、妻が年上であるほうが夫婦2人で過ごす期間が長くなる可能性が高いといえます。

「年下の妻」のほうが調整期間は長くなる

例えば、夫も妻も平均寿命くらいまで生きると考え、夫が82歳、妻が88歳まで生きたとします。もし妻が5歳年下の場合は、妻が年金を受給する65歳以降の期間について、夫婦で過ごす期間は妻が77歳のときまで(夫が82歳で亡くなるまで。遺族厚生年金が支給・調整されない期間)で、妻は77歳から88歳まで11年間は1人となり、差額支給の遺族厚生年金を受ける期間(遺族厚生年金が支給・調整される期間)になります(図表2参照)。

(出典)筆者作成

(出典)筆者作成

一方、もし夫より妻が5歳年上であれば、妻が年金を受給する65歳以降の期間について、夫婦で過ごす期間(遺族厚生年金が支給・調整されない期間)は妻の65歳から87歳の22年、妻が1人で過ごす期間(遺族厚生年金が支給・調整される期間)は87歳から88歳までの1年間です。調整されるのは1年のみです(図表3参照)。

(出典)筆者作成

(出典)筆者作成

このように、年下妻のほうが遺族厚生年金を受け、老齢厚生年金分の遺族厚生年金が調整される期間が長くなり、妻が年上のほうが夫婦で過ごす期間、夫婦で年金を受給する期間が長くなる傾向にあります。

妻自身が扶養を外れ、少しでも高い給与で勤務できるのであれば、給与収入が多くなるだけでなく、妻の厚生年金加入によって妻の年金が厚くなります。年上の妻の厚生年金加入により、夫婦2人での年金の受給期間中もより安心できることにもなるでしょう。もし65歳までに年上の妻の厚生年金加入が20年以上に達し、65歳当時年下の夫が生計を維持(原則、夫の年収850万円未満)されていれば、妻が65歳になってから夫が65歳になるまで加給年金も加算されることにもなるでしょう。

国民年金第3号被保険者は60歳まで、国民年金第1号被保険者と同じく国民年金保険料を納められる任意加入被保険者は最大65歳までなれるのに対し、厚生年金は最大で70歳まで加入できます。厚生年金加入のほうが年金を増額できる機会が長いということにもなっています。

年金は不確実な老後の暮らしに備えるもの

もちろん、個々人が実際何歳まで生きるかはわかりません。妻が年下であっても、夫がかなり長生きし、妻が先に他界することも当然あります。また、妻が遺族厚生年金受給後に再婚をすると、遺族厚生年金は受給できなくなりますので、再婚後は少なくとも再婚相手が健在の間、老齢基礎年金と老齢厚生年金のみを受給することになります。夫が亡くなる前に夫婦が離婚している場合も遺族厚生年金は支給されませんので、この場合もやはり、妻自身の老齢厚生年金が老後の収入として重要な位置づけになります。

今回、遺族年金という視点から取り上げましたが、パートの妻が今後の厚生年金への加入を決めるに当たっての1つの考え方となります。人生は何が起きるかわかりませんが、年金制度は不確実なことへ備える保険となっています。扶養に入っている場合と異なり、厚生年金加入で保険料が掛かることが気になるかもしれませんが、日本人の平均寿命や夫婦の年齢を参考にしつつ、これまで述べてきた将来の不確実なことに備えたいのであれば、厚生年金への加入も意味があるのではないでしょうか。

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提供元:パート妻は厚生年金に入ると夫の死後損する?|東洋経済オンライン

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