2021.04.30
高くても売れる軽キャンピングカー人気の理由|駐車場の確保や利便性から積極的に軽を選ぶ
M・Y・Sミスティック「レジストロ」と、バンショップミカミ「テントむし」。ともに軽自動車がベースで、価格は500万円前後と軽キャンピングカーでは高価格帯になるモデルだ(筆者撮影)
キャンピングカーの中でも、比較的手頃な価格で新車が購入できるのが軽自動車ベースの「軽キャンピングカー」だ。軽ワンボックス車や軽トラックなどの商用車を改造したモデルが多いが、ベース車両の価格が本格的なキャンピングカーに使われるハイエースなどと比べると格段に安いこともあり、200万円台で購入できる機種も多い。
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ところが最近、400万円台や500万円台の軽キャンピングカーに人気が集まっているという。もちろん、価格が高いぶん、リビングやベッド、電子レンジやエアコンなど、本格仕様と遜色がない充実した装備を持つモデルも多い。従来からある安価なモデルでは、車中泊が可能なベッドマットを備えるだけなど簡素な仕様も多かったが、それらと比べると装備面も段違いだといえる。
だが、なぜ車格が小さな軽キャンピングカーをあえて選ぶのだろうか。価格帯でいえば、5ナンバーのミニバンや4ナンバーの商用車をベースとしたキャンピングカーとあまり変わらず、車内の広さによる快適性などは、当然ながら軽自動車ベースでは限界もあるからだ。そこで、多数の最新モデルが展示されたジャパンキャンピングカーショー2021(4月2~4日・幕張メッセ)を取材し、出展メーカーに軽キャンピングカーの需要傾向やトレンド、ユーザー層などを聞いてみた。
M・Y・Sミスティック「レジストロ」
トヨタの軽トラック「ピクシス トラック」をベースに、M・Y・Sミスティックが製造・販売する軽キャンピングカー「レジストロ」(筆者撮影)
トヨタの軽トラック「ピクシス トラック(ダイハツ・ハイゼットトラックのOEM車)」をベースにした「レジストロ」を展示していたのは、山梨県を拠点にキャンピングカーの製造・販売を手掛けるM・Y・Sミスティックだ。運転席上にまでおよぶオリジナルの大型キャビンを荷台部分に架装したこのモデルは、キャブコン(キャブコンバージョンの略)とよばれる本格的タイプで、価格(税込)は展示車の仕様で506万2750円という豪華なモデルだ。
レジストロのインテリア(筆者撮影)
価格に応じ、当然ながら装備は充実しており、跳ね上げ式ダイネットテーブルやシンク、ポータブル冷蔵庫、遮光カーテンなどにより、快適なキャンプや車中泊が楽しめる。壁や天井にウッドパネルを用いた室内は、まるで丸太小屋の中にいるような雰囲気だ。
レジストロのバンクベッド(筆者撮影)
乗車定員は4名。就寝人数はダイネットのソファをベッドに変換すれば大人2名、加えて、バンクベッドと呼ばれる室内前方上部のスペースに子供2名だ。幅1650mmのバンクベッドは、長さが変更できるスライド式で、長さを通常時1600mmから就寝時1800mmへ延長することが可能だ。さらに105Ahのサブバッテリーを搭載することで、エンジンをかけなくても家電製品を使える配慮もなされている。
レジストロの細部(筆者撮影)
M・Y・Sミスティックの担当者によると、このモデルのユーザーで最も多いのが「40歳代の自営業者」だという。特に東京など都市部に住み、小さい子供がいる3~4人家族が多い。そういった層は、500万円台のキャンピングカーを購入できる収入もあるが、大型車両ではマンションの駐車場などに停めるスペースがないこともあり、車体が比較的小柄な軽自動車ベースのこのモデルを購入するという。また、外装をあまり架装しない従来多かった軽キャンピングカーでは、就寝人数が大人2名ぎりぎりである車両が多い。その点、このモデルは、前述のとおり、大人2名に加え小さい子供2名も就寝が可能なため、ファミリー層が十分に車中泊を楽しめることも人気の理由だ。
さらに最近は、若い女性ユーザーも増えているという。ポップな外観に加え、全長3850mm×全幅1770mm×全高2480mmというボディサイズが、女性にも運転しやすいためだ。加えて、ここ数年は1人でキャンプをする「ソロキャンプ」が注目を浴びており、若い世代からの需要も伸びているという。
なお、このモデルは8ナンバー登録になる。毎年支払う軽自動車税が5000円/年と安く(乗用軽自動車は1万800円/年)、車検期間も新車購入後は2年(乗用軽自動車は3年)だが、その後は2年毎と乗用軽自動車と同じだ。前出の担当者によれば、「維持費が安い点もユーザーが購入する動機のひとつ」だという。
バンショップミカミ「テントむし」
バンショップミカミ「テントむし」のスタイリング(筆者撮影)
イエローの外装カラーや、かわいらしいフォルムが注目を浴びた「テントむし」を展示したのは、鹿児島県を拠点とする「バンショップミカミ」だ。ベース車両はダイハツの商用特装車「ハイゼット」で、荷台部分に設けられた純正のパネル部分を改造しキャビンにした仕様だ。
バンショップミカミ「テントむし」をリヤから見たスタイリング(筆者撮影)
名称は、文字どおり、車体上に「テント」が付いていることが由来だ。ポップアップルーフと呼ばれる機構を取り入れることで、ルーフの前部を支点に後部から上方へ上げた状態にすれば、大人2名が就寝できるスペースになる。しかも走行時は、ルーフを閉じるため、全高をさほど高くする必要がない。風の影響を受けにくく走りが安定するし、2m以下など車高制限があるショッピングセンターの屋内駐車場にも停められることで人気が高く、最近さまざまなモデルに採用されている。
テントむしのインテリア(筆者撮影)
なお、このモデルでは、室内に装備したソファ風の横向きセカンドシートも大人2名が橫になれるベッドとなるため、就寝人数は4名。乗車定員も4名だ。価格(税込)は、18Lの冷蔵庫やエアコンなどが付いた展示車の仕様で462万880円となっている。
バンショップミカミによれば、このモデルのユーザーも「20代~30代の若い世代が多い」という。中心は、やはり小さい子供がいる3~4名構成のファミリー層で、都市在住者が中心だ。主な購入動機もM・Y・Sミスティックの車両と同様で、駐車場の広さが挙げられる。金額的には中型クラスのキャンピングカーでもモデルによっては購入できるが、自宅周辺に停められる広さの駐車場がないためだ。その点、このモデルであれば、全長3390mm×全幅1470mm×全高1980mmというコンパクトな車体のため、駐車場の広さを気にする必要がない。また、買い物や子供の送迎など、普段使いができる点も人気の理由だという。
軽キャンピングカーを買う現役世代が急増中
軽キャンピングカーの購入者は、数年前までは65歳以上の高齢者ユーザーが多いという見方も多かった。3000万人以上いるという「団塊の世代」が仕事を引退し、空いた時間で全国各地の名所を長期で巡るなどの目的で、購入者の増加が顕著だったためだ。そういったユーザーの旅行人数は、1名もしくは夫婦2名というのがほとんどのため、車内の就寝人数も2名が寝られれば十分。また、山間のお寺を参拝したり、渓谷などの名所を見物したりといった際に、アクセスする道の幅が狭く、本格的なキャンピングカーでは通行ができないケースもある。それらの理由により、あえて軽キャンピングカーを選ぶといった例も多かったようだ。
テントむしの細部(筆者撮影)
テントむしの細部(筆者撮影)
テントむしの細部(筆者撮影)
だが最近は、先に紹介したように若い世代やファミリー層の需要も増えている。こういった傾向は、業界団体の日本RV協会が2020年7月に発表した「キャンピングカー白書2020」内のアンケート調査結果でも明らかだ。
2020年2月1日~2月末日の期間に、同協会の一般ユーザー会員8873名を対象に実施した調査(有効回答数2821名)では、キャンピングカーユーザーの職業で最も多かったのは「会社員」の35.7%。次いで「定年により退職」26.0%、「会社役員」13.3%、「自営業」12.7%、「公務員」7.8%、「その他」4.2%と続く。
同協会では、これまで退職者の増加で高齢者のユーザーが増加することを予想していたが、調査結果では逆に現役世代の保有率が高まっている。恐らく、これは近年のアウトドアブームにより、キャンピングカー初心者が増えたことが要因であろう。前述のとおり、ファミリー層はもとより、1人旅のソロキャンプを楽しむ若い世代なども増えているからだ。
定年世代も変わらず需要は高い
では、高齢者のユーザーは減少しているのだろうか。前出のバンショップミカミが製作したテントむしの場合、担当者によると「(従来から需要が高い)高齢者のユーザーからも支持を受けている」という。つまり、このモデルに関していえば、ファミリー層から高齢者まで、幅広い年代が購入しているのだ。
軽キャンピングカーといっても仕様はさまざまなため、一概には言えないことも多いだろう。だが、若者や現役世代などのアウトドア初心者が、エントリーモデルとして購入するケースが増加傾向であることは確かなようだ。そう考えれば、少なくとも現在の軽キャンピングカーは、新規ユーザー向けモデルとして、業界におけるポジションを確立しつつあるといえる。需要の伸びが期待できることで、今後もまだまだ新作の市場投入や競合間の競争などが続くことが予想される。
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提供元:高くても売れる軽キャンピングカー人気の理由|東洋経済オンライン