2021.04.21
「年金のもらい方」は65歳でも決めなくてもいい|「70歳以上でガッツリもらう」と決めるのも一手
2022年4月以降、年金は75歳まで「繰り下げ」が可能になる。何歳から受給すると得なのか、じっくり考えたい(写真:pearlinheart/PIXTA)
学校を卒業して以来、長く勤め続け、気がつけばもうすぐ60歳。若い頃は60歳で定年を迎え、60歳で退職と考えていたところ、今や65歳まで継続勤務する時代になっています。65歳になれば、年金の受給も可能ですが、2021年4月から、70歳までの就業機会の確保が努力義務化されることになり、今後は65歳以降勤務する可能性も高まります。
一方、「ねんきん定期便」にも説明が載るようになった年金の繰り下げ受給は、2022年4月より75歳まで可能になります。このように、雇用と年金両方の制度が変わりつつある中で、65歳以降も働きながら、どのように年金受給を考えればよいのでしょうか。
75歳まで繰り下げると、受給額は84%増額
男性は1961年4月2日以降生まれの場合、女性は1966年4月2日以降生まれの場合、60歳代前半での年金(特別支給の老齢厚生年金)は受給できません。会社員として勤務した期間があれば、65歳になって、老齢基礎年金と老齢厚生年金が2階建てで受給できるようになります。
この2種類の年金を65歳から受け取らず、繰り下げ受給する方法があります。65歳から繰り下げ受給開始前まで(繰り下げ待機期間)は年金がゼロになる代わりに、繰り下げ受給を開始してからは増額された年金で受給できる制度です。現行制度上、66歳0カ月~70歳まで1カ月単位で繰り下げによる増額が可能ですが、2022年4月からは70歳後75歳までも繰り下げが可能になります。1カ月繰り下げにつき0.7%増額になりますので、70歳まで繰り下げると42%、75歳まで繰り下げると84%増額が可能ということになります。
老齢基礎年金と老齢厚生年金、同時に受給を始める必要はなく、それぞれで受給開始時期を選択することができますので、75歳まで拡大されるとなると受給の選択肢は非常に多くなります。
繰り下げ受給を希望する場合は、繰り下げ受給開始まで待機し、繰り下げ受給を開始したい時期になってから手続きを行うことになります。例えば、68歳から繰り下げ受給(0.7%×36カ月=25.2%増額)する場合であれば、68歳0カ月になったときに繰り下げ受給の手続きをすることになるでしょう。
ここでポイントとなるのは、65歳ですでに「65歳受給開始(繰り下げなし)」として手続きをした場合、「65歳開始で受給方法が確定する」ということです。増額なしの年金の受給が始まるため、後になって取り消しや繰り下げ受給へ変更はできません。一方、65歳からずっと繰り下げ待機している場合は、66歳以降、繰り下げ受給を選択することも、65歳にさかのぼって65歳受給開始(繰り下げなし)として受給することもできます。
「待機」後、過去の年金を一括受給することも可能
68歳0カ月時点まで繰り下げ待機していた人であれば、68歳0カ月繰り下げ受給と65歳受給開始、いずれかを選ぶことができます。
繰り下げる場合は、65歳から68歳まで年金がゼロの代わりに68歳からの年金が25.2%(0.7%×36カ月)増額で受けられることになりますが、65歳受給開始としてさかのぼる場合は、65歳から68歳までの過去3年分、繰り下げ増額なしの年金を一括で受け取り、68歳以降の将来も増額なしで受けることになります(下の図表参照)。
68歳カ月で何も手続きせず翌月を迎えれば、今度は68歳1カ月で繰り下げ受給(0.7%×37カ月=25.9%増額)するか、65歳にさかのぼるか、の選択になります。繰り下げ受給の場合は月ごとに繰り下げ月数が変わることになりますが、65歳以降に繰り下げを検討していて待機していても、途中で繰り下げをせずに65歳受給開始の方法も選択できることになります。
当初、繰り下げ予定だったものの、「繰り下げはやっぱりやめたい」とか「急な支出があるので、今まとまったお金がほしい」ということもあるでしょう。そういった場合には、さかのぼっての増額なし・一括受給が選べますが、そのときの状況に応じて選択ができることになります。
今後65歳以降も勤務することになると、引き続き給与収入が得られることにもなり、その自身の給与収入(あるいは、それに加えて配偶者の給与収入など)で家計に必要な支出を賄うことができるならば、逆に「年金はまだ必要ない」とか「もっと繰り下げたい」ということもあるでしょう。
65歳開始か、繰り下げ受給か、65歳時点で決めなければいけないものではありません。繰り下げ待機しているほうが選択肢は増え、老齢基礎年金、老齢厚生年金、両方繰り下げ待機していた場合であれば、65歳以降働きながら、それぞれの年金の受給方法(65歳開始か繰り下げか)についてじっくり考えて決めることもできます。
70歳を超えてから受給方法を選択する場合は要注意
中には70歳以降も勤務して引き続き給与収入のある人もいることでしょう。75歳まで年金の繰り下げ受給が可能になっても、実際に75歳まで繰り下げる人は少ないかもしれませんが、75歳までの繰り下げ拡大に合わせて、70歳後になってからさかのぼる場合のルールも改正されます。70歳を超えてからさかのぼる場合は、その受給手続きをするときの5年前時点での繰り下げで受給、という扱いになります(2023年4月より)。ここは注意が必要です。
例えば、73歳0カ月まで8年繰り下げ待機していて、73歳0カ月のときにさかのぼって受給する場合は、73歳0カ月の5年前である68歳0カ月に繰り下げ受給を開始したものとして取り扱われます。68歳0カ月での増額率は25.2%(0.7%×36カ月)になりますので、その結果、25.2%の増額された年金について過去5年分(68歳から73歳まで)をまず一括で受け取り、73歳以降将来の年金も25.2%増額された額で受け取ることになります(下の図表を参照)。
このように年金制度の改正によって受給の選択肢も増えることになりますが、老齢厚生年金についても繰り下げ受給の注意点がありますので確認しておきたいところです。
老齢厚生年金の場合、65歳以降の在職期間中(厚生年金被保険者期間中)に給与が高く、在職老齢年金制度により年金がカットされる場合は繰り下げの増額分が少なくなります。
月額で老齢厚生年金(報酬比例部分)と給与、賞与(直近1年分の12分の1の額)が47万円を超える場合に、超えた分の2分の1の老齢厚生年金(報酬比例部分)がカット(支給停止)される在職老齢年金制度ですが、仮に65歳から70歳まで5年間在職し、65歳受給開始の場合(繰り下げ増額なし)の老齢厚生年金が年間100万円で、そのうちの30万円がカットされる計算となる場合、70歳で繰り下げたとしても、残りの70万円分にしか42%(0.7%×60カ月)の増額がされない計算となります。
つまり、65歳受給開始の額・100万円に対して29万4000円(70万円×42%)の増額となりますので、この場合、1カ月0.7%分までは増えないことになります(老齢基礎年金は在職老齢年金制度の対象外ですので、このような調整はありません)。
厚生年金の繰り下げは「加給年金」も考慮すべき
また、老齢厚生年金の繰り下げをするにあたっては加給年金も考慮する必要があります。加給年金は65歳で老齢厚生年金を受けられる人(厚生年金加入期間20年以上が条件)に、生計を維持する65歳未満の配偶者がいる場合に年間39万0900円(2020年度)が加算されるものとなっています。年下の配偶者がいる場合に、自身が65歳になってから配偶者が65歳になるまで加算がされるもので、歳の差があるほど長く加算される計算になります。
しかし、老齢厚生年金を繰り下げしている場合は、老齢厚生年金の繰り下げで受給を開始したときからでないと加給年金は加算されず、加給年金については繰り下げによる1カ月0.7%の増額もありません。65歳から老齢厚生年金を受給すれば65歳から加算されるところ、繰り下げ受給し、その繰り下げ受給開始時点で配偶者がすでに65歳になっている場合には加算されないことになりますし、繰り下げ受給開始時に配偶者が65歳未満でも、65歳受給開始の場合と比べ、加算期間が短くなるでしょう。
以上のように、60歳が近づくと年金のことが気になり始めると考えられますが、65歳以降も働く場合は、年金制度の改正、在職中の給与の額、家族構成、家計の状況などをみながら判断すれば、よりよい選択方法で受給できることでしょう。
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提供元:「年金のもらい方」は65歳でも決めなくてもいい|東洋経済オンライン