2021.02.04
新型コロナ「ワクチン」本当はどの程度怖いのか|アナフィラキシー発生頻度は「100万接種に5例」
アメリカ・ニューヨーク州でモデルナ製ワクチンを投与する様子(写真:ブルームバーグ)
接種開始時期を巡ってゴタゴタが続く新型コロナワクチンの接種。スケジュール通り順調に進むかはわからないが、いざ自分の順番が回ってきた場合に誰もが気になるのが、副反応だろう。
今のところその筆頭は、接種直後の重いアレルギー反応である「アナフィラキシー」だ。昨年12月に英国やアメリカからいち早く報告された。あまり聞き慣れないカタカナ語は、未知のものへの不安をいっそう駆り立てることと思う。
だが、いかなるワクチンでも有害事象・副反応はそれなりに起きる。ワクチンは異物を体に入れる行為である以上、何らかの反応は想定しておかねばならない。その大前提を踏まえたうえで、新型コロナワクチンを特に「怖がる」べきか、判断する必要がある。
私なりの結論から言えば、「新型コロナワクチンでは、従来のワクチンよりもアナフィラキシーが起きやすい」ようだ。しかし、「リスクを意識してワクチン接種を躊躇うようなレベルではない」と考える。むしろむやみに恐怖心をあおることのほうが、弊害は大きいだろう。
100万接種あたり「5例」は多い?少ない?
アメリカ疾病予防管理センター(CDC)下に設置された「予防接種の実施に関する諮問委員会」(ACIP)は1月27日、新型コロナワクチンによるアナフィラキシーの最新データを報告した。
それによると、2020年12月14日~2021年1月18日にファイザー製ワクチンの初回接種を受けた994万3247人中、アナフィラキシーを起こしたのは50例だった。100万接種に5.0例(0.0005%)の割合だ。CDCの1月6日の報告では、2020年12月23日までに行われた同社ワクチン189万3360接種後に21例のアナフィラキシーが発生、100万回あたり11.1例(0.0011%)の割合だった。
分母が増えてみたら頻度は半減していた、というわけだ。
他方、モデルナ製の最新データでは、2020年12月21日~2021年1月18日までの758万1429接種後に21例、100万接種に2.8例(0.00028%)の割合でアナフィラキシーが発生していた。12月21日から1月10日までのデータを集計したMMWRの報告では、1月10日までに接種を受けた404万1396人中の10例、100万回あたり2.5例(0.00025%)の割合だった。
こちらは分母が増えてみたら、頻度がごくわずかに増えた。
日本でいち早く、2月下旬に医療従事者から接種開始が予定されているのは、ファイザー製ワクチンだ。政府がワクチン供給契約を結んだ3社の計3億1400万回分のうち、半数近い1億4400万回分を占める。その「100万接種に5例」というアナフィラキシー発生頻度をどう考えるべきか。
例えば、医療関係者に続く優先接種となる高齢者(65歳以上)で考えた場合、仮に接種率80%だったとすると、ちょうど東京都・神奈川県・茨城県の3都県で1人発生するレベルだ。発生しないに越したことはないが、それほど多くもない印象ではないだろうか。
他のワクチンならどうか。CDCによると、インフルエンザワクチンによるアナフィラキシーは、接種100万回あたり1.3例(0.00013%)だ。その他、従来の各感染症ワクチンでは、アナフィラキシーは100万回に1例程度との研究もある。それに比べると、たしかに新型コロナワクチンは2.8~5倍アナフィラキシーを引き起こしやすいと言える。
だが、アナフィラキシー自体は、ハチ刺されや食物アレルギーなどによって、国内でももっと頻発している。
「アナフィラキシーガイドライン」(日本アレルギー学会)によれば、ハチ毒過敏症状は、日本のある地方圏では人口の約300人に1人、林野部で仕事に従事する人の約10~40%に上る。また、東京都の報告(2015年東京都健康安全研究センター「アレルギー疾患に関する施設調査」による)では、全保育施設(保育園・幼稚園等)の約4%で、1年間に食物アレルギーによるアナフィラキシーが発生している。いずれも、どんなワクチンよりもはるかに高頻度だ。
副反応の原因がワクチンとは限らない
また、ワクチンの安全性の判断は、アナフィラキシーだけでなく副反応の全体像に基づいたうえで、有害事象(ワクチン以外の原因も含む接種後のすべての体調不良)とは明確に区別して考える必要がある。一見重い副反応に見えても、実際にはワクチンによらない場合もあるのだ。
新型コロナワクチンでも、HPVワクチンで問題になった「血管迷走神経反射」(注射の痛みによって自律神経の働きが変わり、血圧が低下し、まれに失神などの症状を招くもの)や、「不安神経症」により体調を崩した例が出ている。有害事象の典型だ。
「アメリカにおける新型コロナワクチン接種後の有害事象」種類と症例数(図版:CDCの資料を元に筆者作成)
ほかにもさまざまな有害事象が報告されている。深刻でない有害事象は100万接種あたり372例(0.0372%)となっている。生活に支障が出る場合もあるが、数日しか続かないようなものは、深刻とは見なされない。一方、深刻な有害事象も100万接種当たり45例(0.0045%)の割合だ。
さて、そうした有害事象全体から見れば、アナフィラキシーの占める割合は、ファイザー製で21/7307=約0.287%、モデルナ製では10/1786=約0.560%にすぎない。接種後のアナフィラキシーが相次いで報告された後でも、アメリカ食品医薬品局(FDA)がファイザー製ワクチンを正式に承認したのも理解できる。アナフィラキシーは取り立てて警戒するほどの頻度ではない、ということだ。
むしろ心配なのは、血管迷走神経反射のほうかもしれない。というのも、今回の新型コロナワクチンは、筋肉注射となる見込みだからだ。
腕の皮をちょっとつまんで斜めに浅く針を刺す皮下注射とは違い、筋肉注射では、より長い針を使って腕に垂直に、文字通り「突き刺す」格好だ。
日本人は筋肉注射の経験のない人が圧倒的に多く、視覚的にも刺激が強い。筋線維を押し分けて液体を注入することで、極小の肉離れのような状態になる。また、筋肉の中には神経のセンサーも多く、近くに注入された薬液の刺激が痛みを起こすこともある。いずれにしても痛みは主観的なものであり、人によって感じ方が大きく異なる。
ワクチンの副反応の報道が広まったことで、漠然とした不安を抱えて接種に臨む人もいるだろう。そこに慣れない筋肉注射から来る恐怖心や痛みで、HPVワクチン同様、血管迷走神経反射による失神等が発生しかねない。接種会場でその状況を目の当たりにすれば、不安が不安を呼ぶ。
筋肉注射と皮下注射の違いは?
実は、筋肉注射と皮下注射の使い分けには明確な規定等があるわけではない。それどころか、世界のスタンダードは筋肉注射だ。海外の複数の研究で、筋肉注射によるワクチン接種は皮下注射に比べて、
(1) 局所反応(赤み、腫れ、痛み)が少ない
(2) 抗体のつきやすさは優る
と報告されている。私は、自分へのインフルエンザワクチンは皮下注射でなく、筋肉注射でおこなっている。筋肉注射のほうが不快症状の少ないことを、身をもって知っているからだ。
そもそも日本で筋肉注射が行われなくなった理由は、1973~1975年に、風邪に対する太ももへの筋肉注射治療(当時よく行われていたが、そもそも風邪治療効果は認められない)で、副反応が問題化したことだ。
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筋肉が拘縮し(動かしにくくなった状態)歩けなくなった子どもたちが、全国で3700人近く確認された。日本小児科学会も調査を行い、注射の濫用が原因であるとした後、改めて「筋肉注射に関する提言」(1976年)とその解説(1978年)を発表した。ただ、抗生剤などが組織を障害した可能性は指摘されたものの、筋肉注射そのものが拘縮につながるとの証明はなかった。
それでも「筋肉注射は避けるべき」という結論だけが、医師の間で広く共有された。風邪での解熱剤や抗生剤の投与はほとんどが飲み薬へ、注射という注射がいっせいに皮下注射へと置き換えられた。
以上を踏まえてはっきり言えば、筋肉注射に関しては、まったく心配いらない。むしろ局所的な副反応は小さく済むと期待できる。さらに言えば、海外の臨床試験で筋肉注射によって出されたのと同じ効果を期待するなら、日本でも筋肉注射とするのが望ましい。
恐怖心が有害事象を生むこともある。ちょっとした痛みを覚悟したうえで、安心して接種を受けていただきたい。
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提供元:新型コロナ「ワクチン」本当はどの程度怖いのか|東洋経済オンライン