2020.12.10
年金は定年後の65歳以降も働くとどうなるのか|2022年からの年金制度変更を知っていますか
定年後も「老後のお金が心配だから」と再雇用で会社勤めを続ける人は多い。60歳以降も厚生年金に加入して働くと、どれくらい年金が増えるのか(写真:jessie/PIXTA)
50代後半を迎えると、60代以降の年金の受給を意識することになります。一方で60代になっても引き続き勤務する人も当たり前になってきました。
では、その場合、受給できる年金の額はどうなるのでしょうか。負担してきた保険料の額によっても異なりますが、勤務をしながら厚生年金保険制度の被保険者(加入者)として保険料を掛け続けると、その保険料は、受給する年金に対してどのように扱われるのでしょうか。
すでに厚生年金保険料の払い込みは70歳まで可能
年金の支給開始年齢は、60歳から65歳へと段階的に引き上げられつつありますが、65歳支給開始(男性:1961年4月2日以降生まれ、女性:66年4月2日以降生まれ。会社員等の場合)の人は、もちろん65歳になると老齢基礎年金と老齢厚生年金を受給できるようになります。
一方では、65歳までの継続勤務時代から、いわば「70歳定年時代」も到来しつつあります。現行制度上、会社員等で在職しているのであれば、厚生年金には70歳になるまで加入し続けるのです。この場合、70歳到達日(70歳の誕生日の前日)の前月分までは、保険料の負担が発生することになります。給与からの保険料は「標準報酬月額×18.3%」、賞与からの保険料は「標準賞与額×18.3%」で計算され、労使折半のため、被保険者はその半分(9.15%分)を負担します。
厚生年金保険料を負担し続けると、受給する年金額に反映されますが、20歳以上60歳未満の厚生年金加入期間と20歳前・60歳以降の厚生年金加入期間とでその内訳が異なります。
日本の公的年金制度は「2階建て」となっています。20歳以上60歳未満の厚生年金加入では、2階部分・老齢厚生年金(報酬比例部分)と1階部分・国民年金の老齢基礎年金が増えます。
大事なことですが、厚生年金保険料という1種類の保険料を負担することで、2つの年金が増えることになります。報酬比例部分は報酬の額、そして厚生年金加入期間によって増える額が異なり、老齢基礎年金は20歳から60歳までの40年(480月)の保険料負担で満額の78万1700円(2020年度の年額)となるため、加入月数によって増える額が異なります。
一方、20歳前・60歳以降の厚生年金加入期間があると、報酬比例部分が増えますが、老齢基礎年金が増えなくなり、その代わりに老齢厚生年金の経過的加算額として増えることになります。老齢基礎年金に相当する部分を老齢厚生年金として計算・支給されることになります。
60歳前の人で「ねんきん定期便」で、この経過的加算額(ねんきん定期便上は「経過的加算部分」と表記)が少なく書かれている人も、60歳以降勤務すると、この経過的加算額が増えます(ただし、厚生年金加入が合計480月に達するまでです)。
60歳になる前に、現在と60歳以降で増える年金の内訳が変わることを確認してみましょう。
2022年からは年金額が毎年「再計算」されることに
厚生年金保険料の負担と受給する年金の関係は、以上の表のようになりますが、65歳支給開始の人が65歳以降も在職していると、「年金保険料を払う被保険者」と「年金を受給する受給者」の2つの立場に立つことになります。
老齢基礎年金、老齢厚生年金を受けられるようになる65歳で引き続き在職していると、厚生年金保険料が発生しますが、年金を受けられるようになってから保険料を掛けた場合、その分も老齢厚生年金の受給額に反映されることになるのです。つまり、年金を受けられる年齢(この場合65歳)になって以降の保険料は、掛け捨てにはなりません。しかし、毎月毎月再計算されて掛けた分が、すぐに受け取る年金に反映される、というわけではありません。
年金が再計算されるには一定のタイミングがあります。支給開始年齢が65歳の場合、現行制度上は、①退職時、②70歳のときになります。①②それぞれのタイミングで、その前月までの厚生年金加入記録をもとに年金が再計算されることになります。65歳から70歳まで継続して勤務する場合では、70歳到達時になって5年(60月)分の被保険者期間・保険料分を含めて再計算が行われることになります。
しかし、2022年からは法改正により、65歳以降勤務している場合は、退職や70歳を待つことなく、在職中に毎年再計算が行われることになります。この在職期間中の毎年の再計算は「在職定時改定」と呼ばれる制度で、毎年9月1日が基準日となって、その前月(8月)までの厚生年金加入記録をもとに再計算されることになり、基準日の翌月分(10月分)から再計算後の額となります。
では、65歳から70歳まで在職し、厚生年金保険料をかけ続けた場合、改正前と改正後では具体的にはどのように変わるでしょうか。
例えば、1961年5月生まれの男性で、2021年5月に60歳になる場合で、標準報酬月額(給与)が26万円、毎月の厚生年金保険料が2万3790円(26万円×被保険者分の保険料率9.15%)で65歳から70歳まで勤務したとします(賞与はなし)。
65歳時点での年金は65歳の前月までの加入記録をもとに計算されています。65歳到達月以降の厚生年金加入期間について、改正前であれば、70歳になって初めて保険料5年(60月)分の年金が増えます。老齢厚生年金の報酬比例部分を「26万円×0.899(※)×5.769/1000×60月」で計算(従前額保障の計算式で計算)すると8万0907円となり、70歳で8万0907円増える計算となります。
※報酬については再評価率による再評価を行います。2021年度以降の加入期間の再評価率については決まっていないため、便宜上、2020年度の加入期間の再評価率を用います。
毎年、少しずつ年金が増える
しかし、2022年の改正後は退職を待たずに在職定時改定によっても再計算されるため、65歳から70歳までの間に何度も再計算され、その都度年金が増えることになります。(1)2026年9月、(2)2027年9月、(3)2028年9月、(4)2029年9月、(5)2030年9月、(6)2031年5月(70歳になった月)のそれぞれ翌月分より年金額が変わることになります。
その再計算ごとに増える額は、(1)は26万円×0.899×5.769/1000×4月(2026年5月~2026年8月)で5394円、(2)は26万円×0.899×5.769/1000×12月(2026年9月~2027年8月)で1万6181円、(3)は26万円×0.899×5.769/1000×12月(2027年9月~2028年8月)で1万6181円です。
また、(4)は26万円×0.899×5.769/1000×12月(2028年9月~2029年8月)で1万6181円、(5)は26万円×0.899×5.769/1000×12月(2029年9月~2030年8月)で1万6181円、(6)は26万円×0.899×5.769/1000×8月(2030年9月~2031年4月)で1万0788円となります。
これらを足すと、端数の関係から、先述の8万0907円と(1)~(6)の合計とはわずかに一致しませんが、改正後は毎年、少しずつ年金が増えることになります。
なお、60歳以降の厚生年金1月加入ごとに年額1630円(2020年度の場合)増える、先述の経過的加算額も同様のルールで再計算されます。ただし、経過的加算額が増えるのは厚生年金加入月が合計480月になるまでですので、65歳時点ですでに480月の人、つまり40年勤めている人はその後の厚生年金加入では増えません。65歳以降勤務予定の場合は、毎年の再計算・増額があることを想定しておきたいところです。
65歳以降の在職期間分はこのように再計算されることになりますが、在職中(厚生年金加入期間中)は在職老齢年金制度により、受給できる年金がカット(支給停止)されることがあるので、この点も押さえておきたいところです。
具体的には、A:報酬比例部分の年金の月額、B:給与(標準報酬月額)、C:直近1年間の賞与(標準賞与額)の12分の1、の合計が47万円を超えると、超えた分の2分の1の年金(報酬比例部分)が支給停止されることになります。
月ごとに支給停止額を計算しますが、カットの対象となるのはあくまでも、老齢厚生年金の報酬比例部分です。経過的加算額や老齢基礎年金については対象にならず、在職中の報酬が多くても全額受給することができます。
給与が高い人や役員報酬が高い場合などは注意
なお、家族手当のように加算されることがある加給年金は、報酬比例部分が全額停止になる月に、すべてカットされ、報酬比例部分が1円でも支給される月はその全額が支給されます。
Aは報酬比例部分だけで考え、ABCの合計で47万円を超えるかどうかですが、65歳以降も給与が高い人、会社役員で役員報酬が高い場合はカットの対象となります。
在職中、給与などの報酬額に変化がないとして、在職定時改定で報酬比例部分が増えても、そのうち半分がカットされるものとして考える必要があります。在職中の給与等の収入があり、年金は在職中毎年改定されて増える一方、在職老齢年金制度でカットされることがあるため、それらの変動を都度確認しながら65歳以降の家計を考えていくことになるでしょう。
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提供元:年金は定年後の65歳以降も働くとどうなるのか|東洋経済オンライン